新刊
2学期が始まり、コウスケに呼び出されて、いつもの公園にやって来た。
最近はみつば屋に足を運べていない。
ユウたち目当ての人が集まりすぎて、落ち着いて話ができる場所ではなくなってしまったからだ。
知らない人に話しかけられ……
写真を撮られ……
ユウにとっては居づらくなってしまった。
「おい! ユウ、こっちだ!」
コウスケが手を振る。
その手にはコロコロコミックがあった。
夏の大会特集を一緒に見ようと誘われたのだ。
「おお! 見てみ? 前人未到のFMシャーシ3連覇だってよ!」
紙面を指で叩きながら、コウスケは興奮を隠せない。
「あー! ほらほら! 俺も載ってる!!
今度は背景じゃないぞ! 完全に俺だよ!!
うおー! やったーー!!」
ユウは苦笑いを浮かべながらページをのぞき込む。
確かに写っている。
紙面の中の自分は、うまくキャップで顔を隠せていて安心した。
はしゃぎ倒すコウスケの背後に、ふっと影が差す。
それに気づいた瞬間、コウスケが叫んだ。
「い、いやー! あの、これはですね?!」
振り向いた先に立っていたのは、腕を組んだユリだった。
「何、訳のわかんないこと言ってんのよ」
……焦った。
小学校の時のトラウマイベントの記憶が一瞬よぎる。
だが今回は違った。
コウスケは、ほっと胸を撫で下ろす。
「あたしも買ったわ、コロコロ。
その次のページ、見てみなさいよ」
言われるままページをめくると、そこは一面ユリ特集だった。
ユリのマシン紹介。
ユリのコスプレ写真。
ユリのインタビュー。
去年、俺の後ろに写り込んでいた写真まで使われていて、
見出しには
「美少女レーサー」
「会場を虜にしたセーラー戦士」
と、やたら持ち上げられた言葉が並んでいた。
ユリは鼻高々に、自慢げな笑みを浮かべた。
「…扱い、でかくないか?」
コウスケは、さっきまで誇らしげに自分の写真が載っていたことすら、完全に頭から吹き飛んでいた。
ひと通り大会特集を読み終えると、ユリは声を落とした。
「まあ、特集の話は置いといて……ちょっと面白い話があるんだけど」
「ねぇ、あたしたち……テレビ、出ない?」
「は?」
また何言ってんだこの人は。
と言わんばかりの表情を見せる二人。
「TVチャンピオンよ! ミニ四駆王選手権!
タイトルはまだ仮みたいだけどね。
出ないかって声、掛かったの!」
「大会のときに名刺を渡してくれた人、覚えてる?
テレビ東京の人だったの。
タミヤの人も交えて、正式な出演依頼が来たってわけ」
「無理無理!!!」
ユウは、いつも以上に大きな声で反対した。
「マジ!? 出たい出たい!」
コウスケは真逆の反応だ。
「企画内容はチーム戦なんだって。3人1組。KOFと一緒ね。
あたしとコウスケで、目立つだけ目立つから!
ユウには迷惑かけないわ。ね? コウスケ!」
ユウを参加させようと必死だ。
「そうそう! 俺とユリ先輩で目立ちまくって、お前の存在を完全に消すから頼むよ!」
「えぇ……それフォローになってないから……」
ユウは露骨に嫌そうな顔をする。
「お願い、ユウ。
夏の大会は最終回だったけど、テレビ出演は……言わば劇場版なのよ!
残り少ないあたしの人生……お願いだから一緒に出て!」
「……死ぬの?」
「違うわよ!!」
「「お願い!!」」
ユリとコウスケの真顔が、一気に距離を詰めてくる。
その圧に押され、ユウは観念した。
「……わかったよ。
ただし、顔は極力隠してもいいって条件で。
それが無理なら出ません」
「やったー!」
「わーい!!」
2人は、もうユウの言葉を聞いていなかった。
(……やっぱ、出るのやめようかな)
突然の話に戸惑いながらもユウは思う。
これも、この時代に来た意味なのかもしれない、と。
少なくとも――
NGシグナルは、出ていなかった。




