祝宴
祝勝会の場所は無難なファミレスになった。
大会会場から少し離れただけで、あれほど張り詰めていた空気が嘘のようにほどけていく。
テーブルに並んだドリンクバーのグラスは、どれも安っぽいのに、今はやけに眩しく見えた。
「皆、誠にお疲れ様でござった!」
ジョンの音頭に合わせて、全員がグラスを掲げる。
「お疲れ様ー!!」
氷が触れ合う軽い音がして、乾杯の声が店内に溶けていった。
大会中の緊張感はすでになく、いつもの空気が戻ってきている。
自然と笑顔が浮かんでいることが、何よりの証拠だった。
「やっぱ、ユウはつえーや」
コウスケは背もたれに体を預け、大きく息を吐いた。
「本気で勝つつもりだったんだけどさ。ユウと当たる前に負けちまったよ」
やりきった表情と、肩の力が抜けた安堵が入り混じっている。
「あたしも途中までは勝ったと思ってたよ、正直」
ユリはストローを指でくるくる回しながら笑った。
「ラスト数秒で、仙頭さんにやられた気分。ほんと、あと少しだったのに」
その言い方は、どこかコウスケとよく似ていた。
「いやいや、ユリ殿の詠唱が間に合っていれば、勝機は十分あったでござる」
ジョンが妙に真剣な顔で言い切る。
「あー!それそれ!」
コウスケが思い出したかの様に身を乗り出した。
「あれ何だよ、何とかチェーンって!
俺の小覇龍、明らかにあれで吹っ飛んだんだよ」
「ギブミーチェーンね!」
ユリはニヤリと笑った。
「あたしくらい本気で願えば、技のひとつやふたつ使えて当然でしょ」
大真面目に言い放つその姿に、全員が吹き出した。
「ユウ!こんなのありなのかよー」
「たまたま、偶然が重なっただけだよ」
ユウはいつも通り、淡々と答える。
「しかし、ユリ殿は本当にすごい人気でござったな」
ジョンが感心したように言う。
「ホントだよ。優勝者が誰なのか分からないくらいだった」
コウスケも大きくうなずいた。
「僕は、むしろ助かったけど……」
ユウは少し視線を落として、そう言った。
ユリはグラスを両手で包み、間を置いてから口を開いた。
「ずっと準備して、悩んで、失敗して、それでも形にして。
それが、あの結果になったの」
順番に、皆の顔を見る。
「全部、みんなのおかげよ。本当にありがとう」
少し照れたように笑い、続けた。
「あたしね、ずっとアニメの主役みたいになりたいって思ってた……」
「優勝は出来なかったけど、こんな最高な日はないわ」
「ミニ四駆も、最初はただの遊びだった。
でも、あんたたちに会ってから変わった」
「今日、最高の最終回を迎えられた気がする。
もう思い残すことはないわ。ありがとう」
言葉が終わると、テーブルの上に静けさが落ちた。
その沈黙を破るように、ユウが静かに口を開く。
「……いつ、アメリカに行くの?」
「来年の1月下旬の予定よ」
「寂しくなるでござるな……」
ジョンがぽつりとつぶやく。
「って、まだ先の話よ!」
ユリは慌てて明るい声を出した。
「今日はそんな話なし!
今は楽しい時間を楽しまなきゃ!」
再び、笑い声が戻る。
「ホント、楽しかったなぁ」
誰かが言い、皆が同じ気持ちだと分かった。
ジュースをおかわりし、どうでもいい話で盛り上がり、時間を忘れて笑った。
寂しさは胸の奥にしまって――
またいつか、4人でこんな時間を過ごせたら。
同じ願いを、そっと抱いていた。




