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ミニ四駆に悔いを残していたら過去に飛ばされたの巻  作者: さかざき


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33/57

消尽

「ファイナルラップだあああーーー!!」


実況の声が割れ、会場の熱をさらに煽る。

観客席から一層大きな声援が飛ぶ。


もう3台に差はない。

誰が勝ってもおかしくない、まさに紙一重の状況だ。


先頭は、わずかにソニックセイバー。

そのすぐ後ろに、スピンアックスとトムゴディスペシャルが食らいつく。


ユリは、歯を食いしばった。


(まだ……まだよ、がんばって)


コーナーに差しかかる。

ここは、これまで何台ものマシンが減速しながら駆け抜けたセクション。


だが、ソニックセイバーは違った。

姿勢を崩さず、綺麗な弧を描いて抜けていく。


「ユリ選手、完璧なコーナーリングだぁ!!」


その瞬間。

コーナーに入ったスピンアックスが、一段ギアを上げたかのように加速する。


(……来た)


積み重ねてきた調整。

FMシャーシの特性。

そして、走らせてきた時間。


すべてが、この一瞬のためにある。


トムゴディスペシャルも並びかける。

3台が、ほとんど同時に最終ストレートへ。


「並んだぁぁ!!

3台、横並び!!

勝つのは誰だーー!!」


歓声が、悲鳴に近い音へと変わる。

ゴールまで、あとわずか。


その時だった。


スピンアックス、そしてトムゴディが並ぶように前へ出る。


「抜いたー!ここにきてトップが入れ替わった!!

最後まで目が離せない展開だー!!」


実況の叫びが、現実を突きつける。


その時、ユリは目を閉じていた。

周囲の喧騒が遠のき、世界が一瞬、静まり返る。


小さく、耳を澄まさなければ聞こえないほどの声で、ユリは呟く。


黄昏よりも――

血の流れより――

――――等しく滅びを与えんことを。


ドラグ――!


叫びかけた、その瞬間。


「ゴーーーール!!

わずかの差で勝者、スピンアックス!!」


無情にも、ゴールのアナウンスが響き渡った。


(あれ……?)


ユリの詠唱は、わずかに間に合わなかった。

勝敗は、すでに決していた。


「あああー!!」


ユリは膝に手をつき、深くうなだれる。


やってしまった。

最後まで自分らしく走り切ったはずなのに、それでも悔しさは残った。

でも、どこか晴れやかな笑顔で。


「……やるじゃない、ユウ」


一方、歓声の中心にはユウがいた。


「Vジャパンカップ’95、チャンピオンはユウ選手だぁぁぁ!!」


会場が、揺れた。

歓声と拍手が、嵐のように巻き起こる。


ユウは3年連続、ジャパンカップ制覇。

FMシャーシで成し遂げた前人未到の偉業だった。


だが当の本人は、周囲の熱狂とは裏腹に、ただ戸惑っていた。


次々と向けられるマイク。

矢継ぎ早の質問。


「えっと……その……」


言葉にならない声が、口の中で迷子になる。


対照的に、ユリは違った。


質問、サイン、記念撮影。

どんなリクエストにも即座に応え、笑顔を崩さない。


負けたはずなのに、いや、負けたからこそ。

ユリは誰よりも輝いていた。


「……さて、いくか」


コウスケが小さく呟き、ジョンに視線を送る。

それは、ユウをこの場から救い出す合図だった。


ジョンは無言で頷き、ゆっくりと人の輪に割って入る。

大会の予熱を感じながら、4人は会場を後にする。


車に乗り込んだ瞬間、ようやく全員が肩の力を抜いた。

車内には、不思議な静けさが流れる。


やり切った。

それだけが、全員の表情に共通していた。


FMシャーシで3連覇を成し遂げたユウ。

3位に甘んじたものの、自分のやりたいことをすべてやり尽くし、最高の最終回を迎えたユリ。

コースアウトという結果に終わりながらも、スピードではユウ以上の速さを見せたコウスケ。

そして、そのすべてを、ずっと前から見届けてきたジョン。


4人は祝勝会の場所を探しながら、車中でいつまでも話し込んだ。


あのレースのこと。

この夏のこと。

そして、これからのこと。


ミニ四駆が繋いだ時間は、更なる未来へと走り出していた。

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