執念
95年のジャパンカップ。
FMシャーシで戦うと決めた瞬間から、今年は今までとは明らかに違う年になると分かっていた。
ジャパンカップ攻略の難易度が一気に跳ね上がる。
努力や工夫だけでは埋められない、根本的な差だった。
7月
超速ギアが発売される。
3.5:1。最高速重視。
全国大会のピットは、きっとこのギアを組んだマシンで溢れる。
対してFMシャーシは旧規格。
超速ギアは使えない。
使える高速系ギアは3.7:1のスーパーカウンターギアだけ。
たったそれだけの数字の差。
しかし当時のジャパンカップコースは、2026年ほど複雑ではなく、フラット主体のコースだった。
直線での伸びは有利な場面が多く、超速ギアの力は圧倒的だった。
高性能なスーパー1シャーシに、超速ギア。
それが正解であることは、誰の目にも明らかだった。
それでも俺は、FMシャーシに拘る。
FMシャーシで強敵を蹴散らすのを何度も夢見てきたのだ。
この差をどう埋めるか。
その答えを探す時間が、いつの間にか俺の毎日になっていた。
これまで貯めたお小遣いをここで消費する。
まず手を付けたのは電源だった。
安定化電源。精度の高いものを選び、吟味して、ようやく手に入れた。
モーターのブレークイン。
その方法は未来になっても意見は割れている。正解は1つじゃない。
だから俺は、95年のトルクチューンにとっての最適解を自分で探すことにした。
接点復活剤はごく微量。
低電圧で正転、休ませて逆回転。
ブラシの片当たりを修正し、また正転に戻す。
電圧は抑える。
モーターピンにオイルを一滴。
その後、実用電圧で通し軽負荷で実走。
ギアの音、回転の伸び、熱の乗り方。
これが正解かどうかはまだわからない。
色々試してようやく「完成」と呼べる状態に持っていく。
バッテリーも同じだった。
アルカリではなくニカドを選んだ。
完全放電はしない。0.9V以下には落とさない。
深放電が性能を殺すことを、何度も失敗で学んだ。
充電は0.1Cから0.2C。
急がない。
結晶を粗大化させない。
充電後は30分から60分放置。
軽負荷で使って、すぐ再充電。
それを2回か3回。
内部抵抗が下がっていく感覚は、直感でわかるようになっていった。
温度は30度程度。
冷やしすぎない。
他にもやれることは全てやった。
完璧にまっすぐなシャフトの選別。
個体差の大きいモーターのアタリ探し。
位置出しの見直し。
ベアリングは脱脂。
オイルも何種類も試した。
基礎的なスピードを底上げして、物理的な速さに挑む。
それが俺の戦い方だった。
そして今年、ネオバーニングサンを辞めた。
スピンアックスに換装する。
クリアボディだ。未来ではもう売っていない。
大径タイヤを履かせる加工がしやすい。
黒いボディに、黄色の稲妻が走る。
理由は理屈だけじゃない。
単純に、俺はスピンアックスが好きだった。
FMシャーシにスピンアックスを載せて爆走する昔からの妄想が、やっと実現する。
速さを詰める作業の中で、最後に残るのは結局そこだ。
自分が好きだと思えるかどうか。
FMシャーシ。
スーパーカウンターギア。
スピンアックス。
不利だと分かっていても、積み上げた全ての選択が、今の俺の夢だった。




