九話「届きし剣」
魔王は王の最奥、王座の上で待ってるのが英雄譚のあるあるだ。
「大きい」
「此処が魔王が治める城、貴方の旅の終点。あの人は城の中心、封絶の間にいるわ」
「ルティナは来るの?」
「行かない。魔王を私は裏切りたくない、その代わり貴方の敵にもならないわ」
「また会えるよね」
「会いに行くわ。だからルティアも頑張りなさい」
長い旅を終え、辿り着いた。
城は想像していた禍々しい雰囲気は無く、それでも外から見てるだけでも人の気配は一切しない。滅んだ跡地と言われた方がしっくり来る。
武器に防具、魔力も万全。ポーションを筆頭した消耗品も品質はあまり良くないが在庫は用意した。これ以上私に出来ることは無く、後は全てを出し切って戦うだけ。
震える手を抑えながら王城の入り口に立ち、ゆっくりと扉を押し開く。
扉は軽く、身体強化を使えばなんなく開く。予想通り中は暗く、人の気配は無い。
アースレイヴを構え、全てに警戒しながら歩を進める。
(一瞬の油断で殺される。今の私ははっきり言って実力不足、それを騙し騙しで来た。それもこれからの戦いでは不可能、正真正銘の死と戦うことになる)
「貴方がルティア様ですね」
「は」
声が漏れる。少なくとも意識は完全に視界前方を捉えていた。
声の主はそれすら超えて音も気配も無く、私の前に立ち塞がる。
「私は四魔臣の一人、首座のマモンと申します。初めまして、我らの主を救いになさる英雄様」
「英雄....私はそんな凄い人じゃない」
話に聞いていた悪魔、この地に残る最後の四魔臣。
彼はただそこに立っているだけなのに、立ち振る舞いの何処にも隙が存在しない。
ルティナやアースよりも彼の方が明らかに強い。今の私の全てを出し切って、相打ちに持っていければ幸運と思えるほどに。
「お荷物はそのバックパックだけですかな。でしたら主の元まで送らせていただきます。あの方をお救いになれる人を疲れさせるわけにはいけませんから」
「・・・・・はい?」
凄いニコニコでマモンは私の荷物を預かった。私が動く前に。
「いいんですか。私は魔王を殺そうとしてるのに」
「構いません。それが付き従う我らの願い、【勇者】では叶えられぬ願いなのです」
マモンの隣を私は歩く。
先ほどから彼から殺気は感じず、むしろ心地よい暖かさがある。
「【勇者】では叶わないの意味を教えて」
「かの者が来る頃には王は瘴気に完全に堕ちる。その時が来れば世界は未曽有の厄祭に見舞われ、人も魔物も魔族も皆等しく死んでしまう。それを王は許しません」
「優しい人だったんだね」
「剣で民を支え、多くの災害から国を守りくださった。悪魔の身ではありますが、主とは契約もしていません。ただ忠義をあの方に誓い、此処にいます」
契約と取引があらゆる物事の一番上に来るとされる悪魔がそうなのだ。魔王はその役目を瘴気に落ちるその瞬間まで全うしたのは明白。
「【勇者】は女神によって選ばれる。だが主はこう言った。『決められた者では無く、真に選んだ者にその首を授けたい』と」
おじいちゃんも言っていた「女神ソルの脚本から外れた者」と。【理から外れた者】、それによって私はこうして自由意志で動けている。それがこの【スキル】なのだと。
「それなら私は適任かも」
「私も直感ではございますが、そう判断しました」
大きな門の前でマモンが足を止める。
「この先に我らの主が待っております。使わないお荷物はお預かりしますが」
「じゃあお願いしてもいい。中にお世話になった人の住所が入ってるから、出来ればでいいから私が死んだら届けてほしい」
「かしこまりました」
静かに会釈し陰に消えていく。ここからは完全に一人、私だけの戦い。
「行こう」
勇者を救う為に。
扉の向こう、王座の間と呼ぶに相応しく大理石の柱が並ぶその先に彼はいた。
アースに似た獣人、けれど鎧からはみ出た部分は黒毛で覆われ、体から漏れ出した瘴気が空間を蝕み続けていく。口からはよだれを垂らし、目は焦点が合っていない。
人々が恐れた魔王、それが私の前にいる。
剣を抜き、身体強化と微量の龍の魔力を全身に巡らせる。存在感だけで息の根を殺せる恐怖と覇気、それだけで魔王が王だった時の技量が伺える。
「行くよ魔王。貴方を倒して、アーシュを救う!」
獣の咆哮を持って、賽は投げられた。
*
「騎士流剣術...。」
「おソイ...ウがァアアア」
(速すぎる、生きてる世界が違う)
振るわれた腕が引き起こす風だけで大理石に傷が付き、傍にいた私は否応なく肌が切り裂かれていく。本能からか私が技を出す瞬間に肉薄し、防御に全てを割かなければ死が確定する。勝てる未来はほんの一片も見えてこない。
(最速の一振りですら潰される。もっと速く、一瞬でも上回らなければ。)
【龍心接続】を使えば超えれる可能性はある。だが一度使えば許容量を超え、劇毒と化した魔力が肉体の内側から破壊し行動不能。魔法で牽制しようにも、魔法を撃つ動作で突き出した腕を持っていかれる未来しか見えない。八方ふさがりにも程がある。
どうしようもないほどの力の差、それでもルティアに『逃げる』なんて選択肢があろうものか。無いなら無いなりにひねり出せばいい。
「『コネクト』、『パラライズボルト』」
腕輪とアースレイヴを繋ぎ、そのまま剣そのものに魔法を流し込む。
【妨害・補助】と【増幅・雷】、外部からの攻撃に極めて高い耐性を誇る龍の魔力。
これら三つでアースレイヴに付与すればいい。
「騎士流剣術最速の一振り」
「ヌルい!」
魔王は一瞬歩幅縮め距離を誤認させ、剣先が目の前を過ぎる。そして。
魔力の刃が両目を切り裂く。
「アアアアアアガアアアア」
「通った!」
【霊天技】は武器に魔力を纏わせ、魔力を斬撃として飛ばすことで完成する。
今の私では飛ばすまでには至らず、剣先から少しだけ魔力で刃を延長させるのが限界。だが未完成だからこそ、この技は魔王に届く。
「我流魔剣術・見えざる霧の剣」
目を潰し、再生の間に露出した部位を息が続くまで切り込む。
鍛え上げられた肉の鎧はどんなに踏み込んでもビクともせず、徐々再生が追いついていく。自分の力不足が憎いと今一番強く思う。
(ダメ、致命打になり得る攻撃が紡ぎ出せない。だが削らなければ勝ち目も無い。)
先に目の再生を終えた魔王の攻撃は苛烈になっていく。本能による戦い方は時間が経つに連れて対処がしやすくなる一方、体力と魔力の減少が肉体に顕著に出てくる。
短期決戦も不可能、されど長期戦も不可能。八方塞がりの現状。
(何か気を引くものはないの、何か!)
見えた、魔王の腰に悲しく眠っている剣が。
「魔王、貴方の腰についてるそれは飾りか。民の為に捧げた剣はあるのか!」
かの魔物の王は剣と共に生き、そのあり方を示した。そしてルティナもマモン、四魔王臣はそんな魔王に忠誠を誓い、私に「人のまま殺してくれ」と頼んだ。今の魔王は魔物と同じ、このままでは約束を違える。それだけは嫌だ。
「貴方の剣を見せて、魔王!」
「ケン....剣....我が半身」
雰囲気が変わった。漏れ出していた瘴気が収まっていく。
「忘れていた、思い出せなかった。常に側にいたのに」
剣に手を添え、静かにゆっくりと、赤子を抱くように優しく引き抜く。
空を体現したような透き通る水色。その輝きは聖剣にも劣らない。
「宝剣...しかも最上位の」
神々は生み出すのが聖剣ならば、宝剣はこの地に生きる者達が生み出せる果て。
武器一つで世界を変えられるとも呼ばれ、その逸話は幾多にも存在している。
「目が覚めた、礼を言おう優しい少女よ」
その瞳から感じるのは熱、その身から感じ取れるのは王としての風格。
「貴方を殺す人間にお礼なんて、魔王は律儀だね」
「そうだ。幾許か、人として生きる時間を許されたのだ。これも君のおかげだ」
魔王は剣を前に掲げ、その名を告げる。
「剣帝アルベリウス。民の為に己を捧げ、この王座で朽ち果てる人になれぬ魔物。我が剣、勇気ある少女に託そう」
「ルティア・アーリン。魔王を倒し、勇者に選ばれた大切な友達を守る」
「行くぞ。受け取り、そして守って見せろ!」
魔物の王、剣帝アルベリウス。
私は見惚れていた。彼が繰り出す剣に、至しその技に、どれだけ強くなろうと届かないその輝きに。
「騎士流剣術・至し最速の一振り」
繰り出されるは私と同じ剣術、だというのに。
「ぐううううううううう」
防御魔法を前面に展開し、剣を盾にしてようやく壁まで吹き飛ばされるで済む。
私の騎士流剣術のその先。あれが本当の最奥、辿り着いた御業。
「立ち止まるなルティア!我を超えねば勇者は救えぬ、お前が愛した友は守れぬ」
「言われなくても!!!騎士流剣術・最速の一振り」
「騎士流剣術・至し切り捨てる一振り」
「【パワーブレイク】」
鎧で受けられ、カウンターを【スキル】で相殺する。
アースレイヴに組み込まれた起動型の【スキル】は私と相性が悪い。使うだけで腕に多大な負荷を掛け、負担が増える。
(だけどそんなこと言える暇などない)
無意識に肉体を守る為に龍の魔力を強め、合わせて毒に耐え得るように身体強化も強まる。今までの戦いを越える死線を前に、ルティアの体が最適化されいく。
(もっと速く、もっと強く、もっと先に!)
ルティナと戦った時は使わなかった。あれは私達の戦い、それを汚したくなかった。
(ごめんなさい。私の力だけで勝ちたかった、無理だって分かったのに)
思い浮かべろ大切な人を、どうして私が此処にいるのかを。
(アーシュを救う。救って、またあの村で笑う彼女が見たい!)
自由がいる。女神の脚本から外れ、私自身の意志でこの人に勝つために。
「我の知る起動方法と全く異なる」
(おじいちゃんが言っていたことはこういうことだったのか)
認識が違ったのだから無理も無い。でもこれでようやく理解出来た。
「貴方を倒す」
*
王は見た。少女から見えない何かが切れたことを。
王は確信した。ここからが彼女の本当の戦いだということを。
王は構えた。己の全てを託す為に。
「騎士流剣術・至し最速の一振り」
「『パラライズボルト』」
「上!?」
反射板で跳躍、アースレイヴを体の延長線と使い飛距離を伸ばす。
「体が」
瞬きの合間の硬直。だがそれを見逃す彼女では無い。
再度反射板でアルベリウスに肉薄。そのまま口に手を当てる。
「『クリアウォーター』」
放たれたのは基礎の魔法。殺傷力も無く、ただ水を生成する魔法。それを鼻と口の奥に流し循環させる。
即席の窒息、呼吸を大事にする騎士流剣術には致命打は必至。
「ゴポッガプア。」
「『パラライズボルト』」
「□□□□□□!!!!!」
流れやすい水を媒介に一気に全体に魔法を行き渡らせる。攻撃力に乏しい『ボルト』系列であっても、これならば通用する。
「騎士流剣術・最速の一振り」
攻勢を崩せば負ける。この有利を維持し首を落とす。
「無剣の構え」
視界が回る。剣先がブレ、背中から全身に激痛が行き渡って初めて気づく。
己が叩き伏せられたことを。
肺が潰され口から残りカスの空気が吐き出され、呼吸をするごとにヒビ割れズレた骨が体を傷つける。致命傷にならなかったのは一重に【弱再生】のおかげだろう。
「ゴホッゴホ....オエ」
血が入り混じった痰を吐き、立ちあがろうとする。震えた手足がそれを許さず、何度も崩れ落ちてしまう。
「ポーションがあるのなら飲め、そして立て」
「言われ.....なくても」
選んだのはエリクサー。最高位の回復薬であり、一本で肉体の隅々まで即座に修復、治療をする。代わりに鎮痛効果は一番下のポーションよりも弱い。そこは己の【鎮痛】にかまける。
空になった瓶を投げ捨て、アースレイヴを這いずらせるように持ち上げた。
抑え込められていた瘴気が徐々にアルベリウスから出始めている。彼も限界が近い、それなのに私を気にかけている。きっと死ぬまでこの人はこのままだね。
「死ぬつもりで倒す。生きて帰るなんてもう考えない」
「それでいい。覚悟を示してみせよルティア」
息を吐き、繋げる。
「【龍心接続・過速】」
全身が悲鳴を上げ、肌が裂け、激毒とかした魔力が肉体を巡る。時間が引き伸ばされ、世界が変わる。
「騎士流剣術・至し最速の一振り」
「騎士流剣術・舞い踊る一筋の剣」
アルベリウスの剣を小手を流し、龍の魔力で得た爆発的な速度を持って踊る。
肉を裂き、骨すら折り、一手一手が彼を死に追いやっていく。
再生はアースレイヴに乗せた『パラライズボルト』で阻害、関節部位の裏を重点的に攻撃することで動きを妨害、後は弱点である魔石のある心臓部をこじ上げるだけ。
「まだまだ!」
「それでいい。全てを吸収し、この先に現れる障害すら乗り越えて見せろ!」
彼の剣が振るう度に剣が輝いて見える。あれは全ての動作が完璧に行えた時にしか現れない、そんな確信があった。
視覚と痛み、あらゆる形で私はそれを体験し学ぶ。剣がぶつかり合う度に自分の剣が研ぎ澄まされていく。
一瞬、一瞬だけ届く感覚がした。一回出来れば御の字、出来なければ未来は無い。
「騎士流剣術!」
王の剣が来る。あの輝きに超えたい、今だけは全ての繋がりを捨てて構わない。
ガーディーが教えてくれた技、そして共に生き私の血肉となって私の技になった。
ここから、ここからもう一歩だけ進みたい。
アースレイヴを握り締める。自分の未来すら賭けて先取りする。
「騎士流剣術・届きし最速の一閃!!!!」
剣が光を纏い振り切る。王の一撃すら置き去りにし、身に付けていた防具すら打ち砕き、その一撃はついに致命傷に至る。
「ゴフゥ.....届いたか。見えたぞ、未来を紡ぐ光が」
「そういう貴方もまだ戦えるでしょ」
「勿論、だがまぁ空元気だかな」
「私も...ゴフッゴホゴホ」
魔石が露出し再生すら行えず床に血の海を作るアルベリウスと、龍の魔力で立ってることが奇跡に等しいレベルで毒に蝕まれたルティア。
それは似た者同士で、互いにその覚悟を讃えた。
だからこそ理解し合える。次で最後、次の技で全てが終わると。
「その体ならエリクサーは逆に死に至る。ハイポーションにしておけ」
「ならエリクサーあげる。私の一番強い技を出すから、王様も出して」
「こんな醜い魔物を、王様と呼んでくれるか」
「だって王様ぐらいの凄い人初めて見たんだもん」
投げたエリクサーを彼は飲み干す。漏れ出した瘴気が収まるが、傷の殆どは治らない。強いて言えば心臓部の傷が気休め程度に塞がったぐらい。
「じゃあ行きます」
「さぁ来い」
突きの構えを取る。ルティナを倒した時を置き去りにする一撃、その先の技。
頭の中で思い描いていたその技はこの体では実現は不可能、再現しようものなら四肢がグシャグシャになり、文字通り戦闘不能だ。
(普通ならば)
龍の魔力が巡ったことで僅かながら適合し始めた。ならば出来る。
「【龍心接続・臨界駆動】」
音が止まる、世界が停止する。溢れんばかりの魔力が肉体の限界をぶち壊し、求める力をルティアに明け渡す。
「合魔騎士流戦技・仮初の終奏の舞」
アルベリウスは即座に防御。本能が回避、及び迎撃は不可能と叫んだに他ならない。
ルティアは爆ぜた瞬間、彼の体の一部が消滅する。
(速い、いや疾い!?)
己の目ですら追えぬ速度、直線だからこそ致命傷を避けれた。だがこれで終わるのなら直ぐに使っていたはずだ。
彼の目は突き抜けた先を見る。彼女は、ルティアは最初と同じように突きの構えを取っていた。
(なんと馬鹿げた技だ。無茶無茶すぎる、だがそれでいい!)
終奏の舞。時を置き去りにする一撃を狙った対象が死ぬまで連射し続ける、シンプルかつ大胆な荒技。だが龍の魔力によって極限まで引き上げられたその威力は、魔王すら屠る。
(心臓の音が10回鳴ったらそこで終わり。全てを終わらせる)
豪風を撒き散らし貫き続けるが制御が甘く外れることも。そこは数で補えばいい。
徐々に削られていく肉体と死すら生ぬるい痛みの中、アルベリウスは息を整える。
既に魔石は露出し、一度100%の技を出せたら奇跡。選んだのは絶技、奥義。
(後一回、この一撃が限界。穿切る!!!!)
ルティアの剣は心臓を捉え、王は連携姿勢を移行する。
「騎士流剣術」
「時を置き去りにする一撃!」
ルティアの視界に映ったのは十の剣光。
少女が未だ届かず、そしてその名を知る騎士流剣術の終点の一つ。
「至し最速の終剣。」
ルティアの瞬きすら置き去りにし、その剣は彼女に到達する。
両腕が消し飛び、前に踏み出した右足が消失した。右側の視界が血で染まり、胴体から防具が消え去り、体は血の花で染まりきる。
速度を保った体は王に肉薄するが届く牙はもう何処にも無い。
近くてあまりにも遠い。
(この力は、私の物じゃ無い。それでも)
残った足に力を込め、跳躍する。
(目が死んでいない。まだなにか)
アルベリウスはもう動けない。あの絶技を使った時点で体は瘴気に取り込まれ、意識も直ぐに闇に堕ちる。
彼の命を葬る牙は無くとも、少女には剣がある。
「【双斧】!」
顕現した二つ目のアースレイヴ。憎き始まりの戦い、何も出来なかった自分に託してくれた最初の師匠の贈り物。
柄に噛みつき、命は燃やして届かせる。
ドスっと鈍い音が響く。
刺さった箇所からヒビが広がり、ついに魔石が砕けた。
「わた....しの...勝ち」
「あぁ、君の勝ちだ」
*
「マモンいるか」
「此処に」
「彼女の治療を頼む。全身繋げ、街に届けろ」
「主はどうするおつもりで」
「俺は亡霊に過ぎない。溜め込んだ瘴気が命を繋げ、こうして立ってるだけのな」
マモンが飛び散った彼女の一部達を魔法で集め、その場で繋げ合わせて治療する。
「ルティナを頼む。あの子はまだ世界を知らない。ダメか」
「拝命いたしました」
「そんな畏まるな。俺とお前の中だろ」
「ですなアルベリウス。分かっているとも、二人のことは任せたまえ」
灰に変わるように王の体がひび割れて行く。
「そろそろ行く。達者でな」
「貴方の従者になれたこと、未来永劫の名誉として語らせて頂きます」
静かに目を閉じる主を最後に、マモンは結界を解きその場を去る。
「さようなら、我が盟友。貴方の全てはこの娘が受け継ぎましたよ」
この日、魔王を打ち倒された。
勇者では無い語られぬ誰かの手によって。
優しい少女の手によって。




