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八話「魔王までの道のり」

「あれ...ここは」

天井、毛布に枕まである豪華なベッドの上でルティアは目を覚ます。

あの戦いの後、誰かが私を此処に連れてきたことになる。体を見れば丁寧に包帯が巻かれ、隅々まで手当てを施した跡がある。

「ようやく目を覚ましたか」

「ルティナ!?まさかまた戦うつもり...嫌だよ」

「しない。あの戦いで私は負けた、敗者が勝者を見殺しにするのも後味が悪い」

ルティナが持ってきた木製の皿から湯気が立ち上り、美味しそうな匂いが鼻を燻る。

するとグーと腹の虫が鳴り、慌ててお腹を押さえたけど聞かれてしまった。

「食べろ。三日も寝ていたのだから、貴方の体は栄養を欲している」

「・・・・頂きます」

付いてきたスプーンで掬い上げて口にする。

アーシュがよく作ってくれたミルクシチューの味にとてもよく似ていた。何度も動かし、その度に口の奥に流し込む。あっという間に無くなってしまい、しょぼんとすると彼女は笑いながらお代わりを持ってきてくれる。

お腹いっぱいになるまで食べ、満足すると途端に眠くなる。

「体がある程度回復するまで休め。安心しろ、私は側にいる」

ルティナの手が私の頭を撫でると、もう何年も会えていないパパとママを思い出し、その優しい温かさに体を預けて目を閉じる。

「もう寝たか。こう見るとただの子供、普通の女の子なのにな」

家に連れ、ベッドで寝かしている間何度も「会いたい.....会いたいよ」と寝言を呟いていた。武具の損傷具合や修繕具合から見てもこの子はかなりの旅を続けている。

「この地に来たのなら目的は一つか」

魔王の討伐。だが『鑑定(スキャン)』を行ったが彼女は【スキル】を持ち合わせず、勇者では無い。ならどうして彼女はこうなるまで走り続けるのか。

「回復したら詳しい話を聞けばいい。」

魔力を手のひらに集め、より高位の魔法を行使する。

「『看破(アナライズ)』」


ル□ィア・□ーリン

職業・無し

魔法適性・□害

保有スキル

【□から□□れた者】

【抗う者】【高め合う者】【女□を□定せ□者】

【剣術】【剣技・□】【死の直感】【思考加速・弱】【□痛・微弱】

【克己】【騎士流剣術】

【□□□・祖龍】


無理矢理【スキル】を開示した影響で所々虫食いのようになっている。これは想定内だが、見たことの無いスキルがちらほら見える。

「この魔法でもこれなら、普段は『鑑定(スキャン)』で調べてもこの子からは何も出ないわけね。初見殺しすぎない....まぁそれ抜きにしても強かったけどね」

すぅすぅ寝ている彼女の頭を優しく撫で、日が落ちるまでルティナは隣に居続けた。

一週間の休暇を得て、ようやく体が動くようになる。

キッチンで一緒に食事を作ることも増え、段々ではあるがお互いの話も増えてきた。

「今までよく生きて来れたと言うほか無い」

「会った人皆に同じこと言われるよ」

彼女からすれば敵なのに、どうしてかとても親切にしてくれる。

「貴方が魔王を倒したいのは明白だし、私はそれを止めるつもりは無い」

「・・・・四魔臣なのにそれはどうなの?」

「魔王を倒されて困るのは私の父、アースぐらい」

そうして魔王について話始める。

魔王と呼ばれた魔物は、どちらかと言えば魔族に近い存在。だが悲しいことに魔族に進化を果たせなかった魔王は必然と魔物にとって回避しようの無い未来が来た。

()()()()()()()()。たとえ知性が高い魔物であっても、最終的には己を作り出した瘴気に意識を奪われ、理性無き獣に成り下がる。

「魔王も例外じゃなかった。私も一度しかお話出来なかったけど、あの人は聡明でお優しい人だったの。でも魔物も魔族も強者には逆らえない。そういう風に本能に刻み込まれてるから」

ルティアのような人と呼ばれる種族でしか魔王を倒せないのはそんな理由。

「でもまだあの人は完全に瘴気に落ちていない。勇者が旅立つまでに倒せば、あの人は人のまま死ねる。だから貴方を止める理由が無いの」

「そうだったんですね」

人として殺して欲しい。それは確かに叶えたい願いなのかもしれない。

話を聞くに四魔臣も魔王を倒せる実力があるかどうかを品定めする為の存在にも思えてきた。そうなるとガーディーも魔王を倒せる素質があることになる。

「頑張る」

「頑張れ」

半月が過ぎてようやく魔王が眠る封絶の間に向かうことに。

道中はルティナが道案内を自分が名乗り出てくれて、私はありがたくお願いした。

この緑溢れる禁域は結界と濃い魔力の影響で、目視で測った距離と実際に歩いた距離が大きくズレ、目的地までは二ヶ月ほどかかる見込みだ。

彼女が魔力は発しているおかげで敵対している魔物とは遭遇せず、自然発生した獣系の魔物を狩っては干し肉にしたりと想像以上に快適に旅が続く。

「野営得意なのね」

「旅をするにあたって必需技術と言われたから」

火を起こすのも、真水を作るのも、虫除けまで全部自分で出来るようにしている。

魔法に頼ると肝心な時に魔力が足りずに負けてしまう。生活で削れるところは削り、魔力だけでも万全にしておくのを欠かさない。

捌いた魚を火を炙り、しっかり中まで通ったことを確認してから齧り付く。

「おいひぃ」

「スープも食べなさい。しっかりバランスよく栄養を取らないと直ぐに体に出るわ」

「分かってる」

なんだかアージュに似てきた。こっちは生活面、あっちは技術面だけど。

そしてどちらからも「下着は着けなさい」と怒られた。

他にもわざわざ温水を作り出して私の髪を洗っては、色々塗ってくる。気づいたらボサボサでボロボロな髪がサラサラになっていた。当人は満足しておらず、寝る前とかにお団子にしたりと髪で遊んでくる。

「貴方も女の子なのだから少しはオシャレを学ぶと良い。君の好きな人を振り向かせられるかもしれないよ」

「ルティナにもそんな人がいるの?」

「いるわ。でもとても遠くにいるから会えないの」

天霊族が住むとされる場所は遥か上空に存在し、飛行魔法を極めなければ辿り着けない。それは彼女でも難しい話なのかもしれない。

「騒がしい旅は久々だな」

『辺境の英雄』と王都に向かった以来。だからなのか、心地が良い。

旅は続く。

奥地に進めば進むほどに自然発生した魔物は減り、必然的に凶悪な魔物との接敵を避けるために隠密移動が普通になっていく。

上位の魔物になると四魔臣の魔力に逆に飛びつき、その座を奪おうと躍起になるのだとか。弱肉強食の世界らしい。

そんな世界に飛び込めば、知らず知らずのうちに戦い方も身に付いてくる。

「魔力を剣の上をなぞらせる感覚だ。元々騎士流剣術(レギンアーツ)を使う上で足りない身体能力を魔法で補っていたのだろう?なら直ぐに掴める。」

「そんな簡単に教えていいものなの、霊天技は」

「伝えなければ技は途絶える。元より私の【霊天技】は我が父の我流と入り交ざって原型を殆ど留めていない。使える者が増えればそれだけ父の足跡を残せる」

「アースのこと大好きなんだね。私もパパのこと大好きだからなんか分かるよ」

「そうだな」

合間合間に霊天技を練習し、並行して祈祷を用いた結界の張り方を学ぶ。

私からは禁域の外の世界を教える。常識から金銭、施設の簡単な説明に至るまで。

互いが欲していた情報を万遍なく教えあい、何度も意見をぶつけ合う。

それは師匠と弟子ではなく、文字通りの好敵手(ライバル)の関係性。

騎士流剣術(レギンアーツ)と霊天技の二つを扱えるようになれば、それだけ戦闘の幅が広がる。

私は遠距離攻撃を持ち合わせていない。魔法も適性が無いので通常の倍の魔力を消費しても威力が低く、妨害系の魔法を攻撃に転換しようとすると暴発しかねない。

霊天技はそれらの問題を一気に解決してくれる。

「疲れた....お腹も空いた〜」

「お疲れ。王城までは後一ヶ月ほどだ」

「本当に距離を誤認させてるんだね。魔王は凄い魔法使いだったのかな?」

「王は魔法を使わない。あの人は剣一筋で、かつて大陸中にその名声は響きわたっていたとも言われている。結界を張っているのは王の唯一の右腕と言われた執事だ」

「もしかしなくても四魔臣!?」

「そうだ。」

まだ見つかっていない残り二人のうちの一人の話を聞く。

悪魔とも呼ばれる魔族で、契約者に絶対の忠誠を誓い、その者が死してなお役割を果たすほどに真摯。そんな存在が四魔臣なのだから、人材が豊富と言えるだろう。

もう一人はルティナですら知らず、元々自由人だから何処かでのたれ死んでいる可能性が高いらしい。その一人のせいで評価が駄々下がりなのだが。

「ルティアが魔王を倒したいのは知っているが、どうして倒す」

食事の最中に聞かれた。

「友達が【勇者】に選ばれた。その子は動物と一緒にいるのが好きでね、パパとママのお仕事を継ぎたいってよく話してたの」

「だが女神によってその未来は失せ、ルティアはその子を勇者にさせない為にこうして戦ってるわけか」

「笑う?」

「どんなに矮小な理由であろうと、それが貴方をここまで導いた。尊敬するよ」

「じゃあさ私の村の話を聞いてよ」

「夜更かしは禁止」

「はーい」

私が話すたびにルティナは静かに頷き、時折は「噓でしょ」と驚く。

魔族と人では文化も違う。魔物に近い魔族は男性がどのようにであれ上に立っている。貴族とか分からないけど、ママや村のお母さんは皆パパとお父さんを尻に敷いていた。でもそれが嬉しそうにだったのも知っている。

「人の世界か、私には程遠い。でもまぁお前が魔王を倒したとき、そしたら此処から飛び出して世界を見て回ろうかな」

「『不死鳥の羽』に手紙を送れば私に届くからさ。見たこと、聞いたこと、感じたこと全部教えて。それで再会したら、友達以上になれると思うんだ」

「・・・・友達か」

「笑ったーーーー」

頬を膨らませるルティアを見て思わず笑みが零れる。

つい最近まで殺し合い、敵同士の関係だった。なのに今では二人で一緒に夜を共にする関係にまで発展した。

(お前は人も魔族の手も取り合える。そんな星の元に生まれたんだろうな)

伸び始めた彼女の髪を掬い上げ、ゆっくりと編んでいく。

「ほら、私と同じ髪型」

「わぁ!ありがとルティナ。そうだよこの編み方教えて、ルティナと別れた後もチャームポイントにするからさ」

「高いわよ」

「お安くして」

私はこの旅が終わって欲しくない。だが終わることで私たちの関係はもう一歩前に進めていける。

「魔王。彼女はきっと、貴方を開放してくれます」

空に輝く星々に、小さく言葉を送った。

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