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七話「禁域へ、そして出会うは好敵手」

パパとママとアーシュへ、私はなんとか生きています。

毎日数百回体の上下が分かれては、気付いたら繋がっている日々を過ごしています。

「我に一度でも切り込めたら合格とする」

そう言う龍、今は「龍のおじいちゃん」と呼んでいる方に鍛えてもらっている。

『白の厄災』の異名に恥じない強さをしていて、今の所勝てるビジョンがまるで浮かばない。『鑑定(スキャン)』を使ったら【見る暇あったら体を動かせ】と書き置きを残せるぐらいに余裕がありあり。一回や二回ぐらいなら避けれるようになったけど、近づくこともまだ出来ていないのが現実である。

「其方にその剣技を教えた者はかなりの強者とお見受けする。そこに其方なりのアレンジが加わって、我流に近い剣術に発展しているのも面白い」

「剣を教えてくれた師匠が大槌使いだったから基礎しか教えてもらなかったよ。だから私なりに魔法とか組み合わせて使ってみてるの」

実戦の後は座学。アージュに似た指導方法だけど、こちらは習った事の更に深く教えてくれる形式。今まで積み重ねてきたものを大事になるので、宿に戻った後も復習を欠かさない。その上で授業の速度になんとか食らいついている最中だ。

「後一年もすれば【直感】が【死の直感】に進化するだろう。我の魔力は未だに馴染まないのが面倒だが」

「おじいちゃんの魔力が強すぎるの!私じゃなくても死んじゃうよ」

【龍心接続・祖龍】。譲渡された龍の魔力を私の体に流し、一定時間爆発的に身体能力を向上させるスキル。私が使うと心臓が100回鼓動する前に強制的に停止してしまうぐらいには反動が重く、【臨界駆動(オーバーロード)】になると10回鼓動すると止まる。その間は時間が引き延ばされたような感覚になって、凄い動ける。

まぁ使うと全身ぐちゃぐちゃになるので、完全治癒薬(エリクサー)完全治癒(レザリクション)が使える人間が近くにいる時限定になってしまった。

「普通の人間ではこうはならないはずだが」

「だからおじいちゃんの魔力が強すぎるの!!!!」

王都と町と村の皆が恋しい。

それとお金の問題はおじいちゃんが解決してくれた。

「国を滅ぼした時に拾ったが、今でも使えるのか?」

「白金貨!?これ一枚で金貨1000枚分の価値があるやつだよ」

女神の代行者とかいう輩を潰す過程で国をいくつか滅ぼしてるらしいおじいちゃんの昔話を聞くのは楽しかった。その過程で『白の厄災』と呼ばれるようになった所以を知れて、絶対にこの龍に逆らわないようにしようと心に決めたのは言わない。

トリトンから王都・町や村に手紙を出すとそれだけで食費一週間分が飛ぶので、ありがたく受け取った。一度だけ断ったのだが、凄い悲しい顔をされた。

「おじいちゃんもしかしなくても、人が大好きだよね」

殺す時は本気だけど、それ以外は優しく丁寧。

「でも全然強くなれた気がしない」

比較対象が対象なので仕方ないかもしれないが。

約束した2年が過ぎた。

14歳になり、女性として体が発達してきた。

「下着はしっかり着けなさい。男性とは異なり其方は女性、防具と肌が擦れて怪我の元になる。胸用の下着も着けろと知り合いに言われなかったのか」

「言われました。でも邪魔で」

「其方が救いたい勇者も着けてると思うぞ」

「じゃあ着けます」

こんな感じでおじいちゃんから小言を言われることも増えてきた。

その間も修行は過酷になったし、その分剣術も魔法を凄い上達した。それでも未だにおじいちゃんは愚か、ガーディーやアマテラ、アージュに勝てるビジョンが見えないのはなぜだろうか。

「接続も一先ず形になった。【死の直感】にも進化を果たしたし、今の我で出来ることはもうない。・・・・強いて言うのであれば『師のプレゼント』をやるぐらいか」

「やっぱりおじいちゃん俗世に染まりすぎだよね。普段外に出てないのに、どうやって外のこと知れてるのよ」

「普通に遠見の魔法を使っている。今の時代では廃れてしまった精霊が用いていた魔法でな、世界の反対側まで見れる」

普通に最上級の魔法のその上を平然と使ってるのに絶句した。

「だがプレゼントとなるとはてさて....我の逆鱗でいいか。昔女神の代行者が躍起になって我の逆鱗を取りに取りに来た事あったし、価値有る物と見受ける」

「多分龍の弱点が逆鱗と言われてるから、そこを狙ったんじゃないかな」

「・・・・逆鱗は弱点では無いぞ。弱点と言えば目から脳を貫かれる方が危険」

「そうなの!?御伽噺とか英雄譚ではいつも逆鱗を貫いて倒してたよ」

「首を貫かれたら誰だって致命傷だろうに」

「それはそう」

当の龍に言われたら納得しちゃう。

そうしてプレゼントされた逆鱗をスラザールに見せたら泡を吹いて倒れた。

素材は利き腕の小手に使うようで、旅立つ一ヶ月後までには間に合わせてくれると言った。話してる最中も腕を動かしてたから本気らしい。倒れないか心配。

ギルドでアルロスカにある禁域間近の最後の町、リューエータの通過許可証の発行をしてもらう。

「この魔道具と私の心臓の鼓動は魔法で繋がっています。これが停止した時はこの住所三つに銀行のお金を配分して欲しいです」

既に必要最低限のお金は抜いてある。禁域に行く時点で命の補償は無い。十中八九四魔臣と戦うし、魔王とも戦う。

「写真、撮れば良かったな」

一枚撮るだけで家計が崩壊するからママがパパの頭にゲンコツを降らせていたのを覚えてる。でもパパは言っていた。

「残しておきたいじゃん!ルティアが何処に行っても、どんなに離れても僕達が側にるよって伝わるから」

そうしていっぱい働いて写真を撮った。私が赤ちゃんの頃だから覚えてないけど。

きっとパパもこんな気持ちを抱いたのかもしれない。

ギルド職員は無言で伝言と願書を受け取ってくれた。最後に私の頭を優しく撫でてくれて、それがほんの少しだけ辛かった。

小手が完成した連絡が届き工房に向かった。

「あの工房で合ってるよね。なんか凄い禍々しい魔力で溢れてるんだけど」

「あんちゃん、残念ながら現実だ。あの人呪いの装備でも作ったのか」

不安になりながらも扉をノックすると勢いよく開かれ、私の顔面にヒットする。

「すまんすまん。完成した装備を持っていきたかったけど、どうにもお前さん以外が持つと呪いの装備になってしまってな。これを渡してくれた『白の厄災』は随分慎重な性格だな」

【呪い耐性】が付与された手袋でその小手を持ってくる。

真っ白なのに反射した光は暖かくて優しい。

私が持つと禍々しい魔力は消え、まるで自分の体の一部のように馴染む。

「身に付けてないのに【スキル】が発動してる。こんなの初めて」

「中身を見れば目玉が飛び出るぞ。これは世界で唯一無二、お前さんだけの装備だ」


《世界を共に歩く白英の小手》

状態・『完備』

【自己修繕・超速】【瘴気耐性】【外部耐性・補完】【属性耐性・補完】

【封印解除・ルティア】【異常治癒・微弱】

【共有・祖龍】


書き上げた内容とリューグを交互に見る。うん、あのおじいちゃんまごうことなき厄災。書かれてるスキル全部意味分からないし、これ王都で制作をお願いしたら国が傾くのではと思うほどに、【スキル】の内容はイカれていた。

【超速】は名の通り、傷を付けた瞬間から再生が始まる。【補完】は一度受けた攻撃を次以降効きにくくする。【封印解除】は恐らく私にだけ使えるように仕向けたもの。【異常治癒】も凄いありがたい。最後のは連絡手段かな?

こんな防具をプレゼントしてくれた、三人目の師匠は凄いな。おじいちゃんだけど。

荷物をまとめて準備を整える。

リューグにもスラザールにもお別れを告げた。「全てが終わったらお酒を飲み合おう」なんて言われたけど、「お酒まだ飲めない」と伝えたら酷く落ち込んでしまった。

「またなあんちゃん。死ぬんじゃないぞ」

「お前さんが何を思って旅をしてるかなんて関係無い。この街はお前の故郷の一つだ、辛くなったら帰ってこい」

「うん!」

別れは辛い、苦しいけど。不思議と心がギューとならない。

また会いに来よう。今度はガレオンも連れて、お酒も持って、沢山話をしよう。

「行ってきます。」

馬車に揺られながら、アージュから貰った魔導書を読み進める。

「これが『反射板(ミラーコート)。私に合ってると言われたけど。」

反射板(ミラーコート)』。これ自体は防御能力は無く、魔力を多く込めれば物理攻撃を反射出来るが燃費が悪い。逆に飛んだりする時に合わせて使えば、反射の威力でより高く飛べたり、より早く動けたりする。

「確かに私にピッタリかも。魔法の種類は妨害だから100%の力を出せる」

「お客さん方、もうすぐ着きます」

禁域から人類を守護する最後の砦、リューエータ。

金から名声、全てが集う。そしてその隣には死が取り憑き続ける場所。

「最後の寄れる街」

トリトンで手に入れた許可証を門番に見せると道を開けてくれる。

私の前で門番に門前払いされている冒険者が多くいた。

理由は明白で、実力が無ければ死ぬからだ。私のように許可証を持ってる人か、ギルドから上位の実力を認められた人だけが入ることを許される。

つまりこの街にいる人達はアマテラやガーディーのような人なのだ。そう考えると私は場違いな気もするけど、此処で金を稼いだりする予定は無い。

それでも街の冒険者から見下されている。横切る多くは鼻で笑い、ワザとぶつかって来る輩もいた。中にはアースレイヴを盗もうする輩もちらほら見受けられたけど、男女問わず触れた瞬間に、馬車に轢かれたり魔法の誤射に巻き込まれたりと散々な目に遭っていた。私の剣何か呪いかかってたりするのかな。

「こんなので挫けたら勝てるものも勝てない」

ギルドで禁域の入場許可を貰いに行く。

入場料も話通りでピッタリ払えた。ギルドカードに結び付け、お礼を言って出ようとした時だった。

「どうやって入れたのか知らないけどよ〜。お嬢ちゃんが来て良い場所じゃねえよ」

「重々承知です。でもやらなきゃいけないことがありますので」

絡まれても無視するに限る。

柄の悪い冒険者の横を抜こうとすると剣で阻まれた。

「この街では力だけが意味を持つ」

「・・・・分かりました」

ため息を吐きつつ、案内される形でギルドの所有する模擬戦用の敷地に移動する。

「死んでも文句は言うなよ。死んだ時点でお前の実力不足なだけだから」

「早く始めよ。」

アースレイヴを抜き、直ぐに動けるように連携姿勢(チェインスタンス)を維持する。

相手は私より一回り大きい体格に大剣。鎧はフルプレート、足と腕にも防具を付けてることを見ても防御力に自信があると見える。カウンターで一撃で倒すタイプかもしれない。アマテラのような速度で翻弄しながら戦うスタイルじゃなくて安心。

「【ゴライオンフォール】」

騎士流剣術(レギンアーツ)最速の一振り(ラピットブレイド)

姿勢を極限まで低くし、振り下ろされるより前に肉薄する。

足や腕に防具を付けた際、可動域を確保する為に関節部位は隙間が生まれる。

おじいちゃんとの修行のおかげで、この程度の動きなら隙間を切り裂くのは容易い。

「あがあああああ」

右足の膝裏を切り、態勢を崩したの確認してそのまま追撃する。

肘と膝の裏全てを切り伏せ、動きを完全に殺す。念には念を押して『パラライズボルト』を首に撃ち込み意識を奪う。

上位の冒険者になれば【再生】に関連したスキルを持つ人の割合が圧倒的で、中には小手のような【超速】に届かんとする者すらいる。そしてそれらは意識がある状態でしか機能しないのを教わっている。故に手は抜かない。

「お金無いのですがどうすれば。」

「ギルドの方で()()しておきますのでご安心を。」

「・・・・こわい」

ギルド職員の反応的に日常茶飯事で、負けた冒険者の未来は想像に容易い。

この町想像以上に血の気に溢れている。

野営用具と汚水を真水に変える魔道具も購入し、食料も買い込んで準備は出来た。

禁域に向かう門の前は人で溢れ、時折血塗れの装備を抱きしめて歩くパーティーも見受けられた。此処はそういう場所、全てを得られて全てを失う場所。

「そして魔王がいる」

魔王復活のタイムリミットが迫りながらも、ガーディー達に教えられた地図の作り方を元に丁寧に慎重に、でも駆け足で進んだ。

戦っちゃいけない魔物の行動範囲は書き込んだり、水などの生活資源が手に入る場所をピックアップしたり、最短で移動且つ安全性が高いルートを開拓する為に毎日足を運んだ。時には一週間以上禁域で野営し、ギルドに久々に顔を出したら驚かれたりもした。辛い日々が続いて笑顔が少なくなった時もあったが、その度に皆の手紙を読み返しては宿の部屋で一人泣いていた。

狩った魔物は魔石以外は防具に取り込み強化に回す。魔石で得たお金は修繕と食費に消えていく。リューエータの物価は高く、娯楽なんて決闘か性行為しか存在しないすら言われる。そんな町でお金が貯まるわけもなく、唯一の楽しみは食事だけ。

「王都に戻ったらいっぱいお菓子食べたいな」

アーシュと駆け回ったあの日を思い出しながら剣を振って魔物を倒す。

禁域は奥に入れば入るほど瘴気が増し、人が立ち入れる時間が減り続ける。私は小手の耐性で異常が体に出たことはないが、大抵は吐き気が強まると聞く。

瘴気が増せば魔物は強くなり、人型も増え賢くなる。

私がいる場所が冒険者が入って来れる境界線であり、これより先の情報は殆ど無い。そしてその先に魔王はいる。

「何これ。本当に同じ場所なの」

境界線を越えて一日歩いた先で私は見た。

瘴気で木々は枯れ、水は黒に染まっていた。それが今までの禁域の姿。なのに今広がっているのは生き生きした大自然そのもの。鳥は歌い、小動物達は鳴いては散っていく。道中には人工物、家のような物もチラホラ確認出来た。

「瘴気も感じないし、結界でこの場所一帯を守っているように感じる」

現にこの場所の魔力が濃く、適性外の魔法を使っても使用に不自由ない。

地図を作りながら合わせて状況をメモに残す。これはギルドが求めていた情報だ。

魔物は相変わらず凶悪な個体ばかりで、中には防具や武器を身につけた個体も確認された。しかもそのような個体は集団で行動し、皆統率が取れていた。

王都の騎士団に近しい感覚を覚え、彼らを隠れながら観察してみれば人間とさして変わらない生活を送っており、街のような場所も見つける。

「中には魔族もいた。女神の予言通りなら魔王は『魔物の王』だけど、これまでを纏めてみるとどう考えても『国の王』の方がしっくり来る」

それだと四魔臣の存在がネックになる。魔王の忠実なる僕であり、暗躍していると言われている。そんな存在が此処にいないとは考えられない。

「アースが人のいる場所に転移して来れたのだから、他の奴らも」

「アースのこと知ってるの?」

後ろから声が聞こえた、しかも私が理解出来る言語。

剣を構え、振り向く時には()()()()()()

衝撃と全身の激痛に見舞われ、吹き飛ばされた事に気づくまでに時間がかかる。

「貴方のその剣から私の父の魔力を感じる。答えて、アースのこと」

彼女は長剣を私に向け、静かに問う。

「白と黒の翼の天霊族....堕天種。」

砕けた天輪と純白を黒のペンキで汚したような翼。身から漏れ出し、その存在を足らしめる圧倒的魔力。

女神ソルに最も近く、最も人から離れた魔族。その中で同胞から追放され、穢れた魂を持つとされた存在。

堕天種。

それが私の前に立っていた。

「すまない私も焦っていた」

バックパックを投げ捨て剣を構えた私に彼女は落ち着いた口調で話す。

「私の父、アースの魔力をその剣から感じる。数年前から家に帰っていない、それならどうして貴方がそんなのを持っている」

「双斧のアースは私の師匠が倒した。そのアースが使っていた斧の素材で剣を作ったと聞いている。」

「父は負けたのか....小心者なのに強者と戦いたがるから」

「そういう貴方は四魔臣の一人?」

「そうだ」

彼女が抜いた剣は剣身は黒く、まるでアースレイヴの生き別れた兄弟にすら思える。

「私の名はルティナ。双斧のアースが父にして四魔臣が一人、魔剣のルティナ」

「ルティア・アーリン」

似た名前、同じ弟子。同じ長剣を使い、こうして会話を行える。

「貴方に決闘を申し込む」

「分かった、その決闘受け取る」

「ありがとう」

復讐だとしてもルティナは礼儀正しく頭を下げる。天霊種としての誇り、そしてその剣で己を鍛え続けた誇りが窺える。

「始めよう」

命を賭けた決闘が始まる。

「真の戦いを讃えよ。外界を阻み、我らだけの舞台に上がれ。『拒絶の檻』」

ルティナの祈祷が唱え終えたと同時に周囲一帯が光の檻に囲われる。外から近づいてきた魔物がそれに触れた途端、一瞬にして塵に帰る。文字通りの外から来る者を阻む結界。これを生み出すほどの神聖な力と魔力、天霊族に恥じない。

「本当に決闘で良いんだよね」

「構わない。勝敗はそちらで取り決めていい。元より父は負け、その仇討ちで決闘を申し込んだのだ」

「どちらかが動けなくなるか、『負け』を認めたらそこで終わり。これでやる」

言い終わると互いが静かに剣を構える。

ルティアの頬を伝う汗が落ち地面で跳ねた瞬間、それは始まった。

質量の伴った魔力の刃、視界を埋め尽くす()に【死の直感】が最大の警告を鳴らす。

吹き荒れる一切り(スピットブレイ)で体を横に吹き飛ばし、連携姿勢(チェインスタンス)で体勢を立て直す。元いた場所は剣撃の雨によって消滅し、ほんの少しの躊躇すら許されないのを肌で理解する。

「【霊天技(れいてんぎ)】、初めて見た」

「貴方の技もかなり異質です。魔力を含めて飛ばす威力を強めましたか。」

アマテラの付与魔法(エンチャント)を参考に、純粋に技を強める観点で練習してきた。それが別の形で活きるとは思わなかったけど。

騎士流剣術(レギンアーツ)最速の一突き(ラピットピアス)

距離が空き続ければ先のようになぶり殺しにされるだけ。肉薄し、近距離戦に持ち込まなければ活路は無い。

「【霊天技・速】」

先の剣撃よりも速い。だが死を感じるほどのものではない。

速度に重きを置き、威力を削いだ技。これなら小手と【捕食】で鍛え上げた防具で全て受け止め切れるはず。

思考した瞬間、防具越しに感じたことの無いレベルの衝撃が連続する。それでも四肢は体から離れず、切り裂かれた肌は【弱再生】で治癒が始まる。

無剣の構え(アサルトノーライズ)!」

「しまっ」

真正面から突破するという不意打ちを持ってルティナと眼前に捉える。

速度を保ったまま鎧の襟首を掴み、そのまま背負い投げで叩き潰す。

叩き付けられた衝撃で僅かに彼女の体が浮き、欠かさず剣を切り込む。

騎士流剣術(レギンアーツ)切り捨てる一振り(パワーブレイド)

全身の力全てを剣に込め、アマテラさんの一撃を再現。アースレイヴが僅かに刃こぼれしたが、それを気にして勝てる相手じゃない。

砂煙を立ち上げ、手の痺れを残したままその場から離れ息を整える。

あの程度で倒れたなど考えない。振り下ろした一瞬、全身を包むほどの魔力を感じた。ルティナは防御魔法か、スキルによる相殺を図った。

(それでも無傷とはいかない。手応えはあった)

煙が晴れ、ポタポタと脇腹から血を流す彼女が立っていた。

「強いね」

「師匠に恵まれたから」

「全てを出し切らなければ勝てる戦いも負ける...か」

ルティナから漏れ出ていた魔力は剣に集い、その剣身はより黒く染まる。

騎士流剣術(レギンアーツ)

「【霊天技】」

二人の息が合い、同時に己の技をぶつけ合う。

最速の一振り(ラピットブレイド)

「【重撃】」

振り上げた剣と振り下ろした剣から火花が散り、互いの剣先が頬を切り裂く。

ルティアとルティナの実力は拮抗し、ルティアはこれまでの学び培ってきた技と知恵を、ルティナは生まれ持ったスキルと魔力と叩き込まれた父の技を出し切る。

頭から垂れた血を動きで払い、口に溜まったものを吐き出す。

一瞬の隙が勝負を決める。故に目の前の敵以外の全ての情報を捨て去り、切り結ぶ。

(強いな....私が辿り着きたい場所は本当に遠いな)

(強い。幼い貴方が何をそこまで走らせる)

切り結ぶ度に互いが互いを理解し、心を通わせていく。

「そこだ!」

「手の力が」

防具越しに胴体に叩き込まれ、肩と脇が鮮血が飛び、痛みで剣が手から落ちる。

先に限界が来たのはルティア。元より此処に来るまで必要最低限の休息しか取れていない彼女の体力は底を尽きかけ、死が見え始める。

だがそれで諦めるルティアではない。

「『パラライズボルト』!!!」

「小細工が」

一瞬の硬直。体を捻り拳を握る。

「おらああああ」

全身全霊の右ストレートをルティナの顔に叩き込み、ミシと鈍い音を鳴らしながら殴り飛ばす。しかしその反動で自分の手の指も砕け。動かす度に激痛がする。

ポーチから取り出したポーションを飲み干し、ボロボロの体を動かす。

「次で終わらせる」

「考えることは同じね」

目の前の天霊は翼を広げ、残った魔力を絞るように体から放出する。

羽の白い部分すら黒に塗りつぶされ、文字通りの『堕天種』に姿を変えていく。

誰が見ても正真正銘最後で最強の一撃を繰り出そうとしていた。

「私が持てる全ては一つに」

元々技の構想は存在していた。でも実戦に活かそうにその機会は来ず、今日に至るまで使うことは無かった。

ガーディー、アージュ、龍のおじいちゃん。

三人の師から託されたもの全てを組み合わせてようやく形になった。

(私だけの技)

ルティナの魔力が剣に全て注ぎ込まれ、御伽噺に出てくるような綺麗な黒き輝きが剣を纏う。準備は出来たようだ。

「『反射板(ミラーコート)』」

背中の位置にテーブル程度の大きさで魔法を展開し、飛んでそれに足を預ける。そして体を縮めて最速の一突き(ラピットピアス)の姿勢に。

(おじいちゃん、使います)

息を吐き、それを唱える。

「【龍心接続・過速(アクセル)】」

心臓の一点から人ならざる魔力が体全体に行き渡り、耐え切れずに肌を裂く。

龍の魔力は人にとって激毒。だがそれ以上に本の束の間、人の理を凌駕する。

「それが貴方の全て。行きますルティア、これが私の全力です。」

「それが貴方の全て。行くよルティナ、これが私の全部。」


「【霊天技奥義・絶界(ぜっかい)】」



合魔騎士流(マナリオレギン)戦技(ブレイヴ)時を置き去(ロスト)りにする一撃(スピア)



(あぁ、私の負けだ)

確信する。私の剣が世界を切り裂く前に彼女の剣が自分を貫く。

それでも振るうのは辞めない。辞めれば逃げたと同義、ルティアとの決闘を汚すことに他ならない。

(二度と剣を握れなくても構わない。後一歩を進む力を!)

それはルティナの意思、覚悟がほんの少しだけ速度を上げる。

「『コネクト・アースレイヴ』」

あれほどの魔力の剣ならばアースレイヴは砕ける。

(一瞬で良い。一瞬でも耐えれば、絶対に貫ける)

だってこの技は三人の師が私に託した全てが詰まっている。

(力を貸して、アージュお姉さん!)

アージュがプレゼントしてくれた腕輪が青く輝き、アースレイヴを包む。

【不壊・瞬間】。ありとあらゆる一瞬の攻撃から守る唯一無二の【スキル】。

「切り抜け!!!」

「貫け!!!」

剣と剣が激突し、魔力の暴風が私を襲う。

体がバラバラになった錯覚に陥るほどの『死』が私を切り刻んでいく。

でも、それでも剣は形を成している。アージュがアースレイヴ(私の半身)を守ってくれる。

最大の壁たり得た最大威力の最初の一瞬を超えた。

ビキビキとルティナの剣に亀裂が生まれ、砕けた。ついに少女は四魔臣を上回り、ルティアの一撃はルティナの片翼すら抉り貫き、【絶界】を打ち破る。

「ラピット...ブレイ...ド」

それでも倒し切れなかった彼女に最後の力を振り絞る。

コツンと軽い音を立て止まる。

限界を超え、龍の魔力で立つことすら出来なくなっていた彼女では叶うはずもない。

肉体は意識を手放し、静かに倒れていく。

「私の負けだルティア」

それを彼女が、好敵手とも呼べるルティナが受け止めた。

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