十話「帰還」
私が目を覚ましたのはリューエータのギルドだった。
禁域の道中で眠るように倒れていた私を、心優しい冒険者が運んでくれたらしい。
「くっついてる」
失った筈の手足と目は治っており、専ら私が動けないのはシンプルに体がズタボロだからだとか。魔王とあんな壮絶な戦いをしたのだから仕方ない。
お金の心配はあったが、ギルドカードを見せると無償になってくれた。使ったこと無かったけど、改めてとんでもない物をギルドマスターから頂いたな。
防具は全損。形だけでも残っているだけ御の字で、アースレイヴは【機能停止】と『鑑定』したら出てきたぐらい。
「みんなありがとう」
動けるようになったのは一ヶ月後。マモンが私に残してくれたであろう白金貨のおかげで王都までのお金は事足るし、食費も大丈夫。
お世話になったギルドに礼を告げ、帰ることに。
「みんなに会いたい。いっぱい話をしたい」
馬車の揺れがやけに懐かしい感じがした。
*
トリトンに着いたら真っ先にギルドへ。顔を出すと受付の人に力一杯ハグされ、時間いっぱい頭を撫でてくれた。預けていた物は全て取り出し、グリフォン便を手配してくれる算段もつけた。やってくるまで二日ほどあるので、この間にリューグとスラザールに会いに行こう。
「ただいまリューグ」
「・・・・本物なのか。いや本物だな、おかえりあんちゃん!」
もう16歳になりそうなのに、相変わらずリューグは私を持ち上げてブンブン回す。それで楽しくなっちゃう私もまだまだ子供だけどね。
「スラザールも心配してたんだぜ。『酒が進まねぇ』とブツブツさ」
「ガレオンマスターに言っちゃおうかな」
「言え言え!それで俺も溜飲が落ちるもんだ」
いつも通りボロボロの小屋の扉をトントン叩くと中から凄い音と共にバンと開かれ、見知った大きい人が出てくる。
「ただいまスラザール」
「あぁ..おかえり」
見たこともない優しい笑顔で迎えてくれた。
「防具は無理だな」
「あの〜これはどうすれば」
「諦めろリューグ。この子はつい最近までまともに寝れてなかったのだろう」
安心した影響で抗えない眠気に襲われたルティアはリューグの尻尾を枕に、寝息を立てながら安眠していた。
「顔に傷付けちまって、女の顔は一生ものなのにな」
「それだけ大変だったんですよ。でも彼女は此処にいるということは」
「魔王は倒された。それだけだ」
「龍神様も同じこと言ってました。まさか本当とは、凄いなあんちゃんは」
「そうだな」
二人は旅を終えた少女が目を覚ますまで、ずっと側に居続けた。
あっという間に二日が過ぎ、人生初めてのグリフォン便に乗る。
「大きい!」
「俺も初めて見たぜ」
「こいつで半日で王都まで行けるんだから凄いぜ全く。」
リューグとスラザールに見送られる形で私は飛び乗る。
「また来るね!今度はとびっきり美味しいお酒持ってくるからーーー」
ブンブンと見えなくなるまで手を振り続ける。
次は王都、皆に顔を出して驚かさなきゃ。
*
「あり、ありがとうございました」
「初めてのお客様は普通はそうなりますから」
王都に着いた頃には船酔いのような酔いで吐いてしまい、冷めるまで立つことも出来なかった。それでも半日で来れるのだから、伊達に金貨50枚する。
「またのご利用を」
飛び去っていくグリフォンを見て、大金持ちに多用されるのも納得だ。
一番先に向かうのギルド、そして工房だ。
久しぶりの王都は記憶以上に緊張が広まっていて、落ちていた新聞を読むと【大予言外れる?空が覆い尽くした闇が現れ消える】と見出し。間違いなく私が原因です。
ギルドの受付でカードを見せると受付が驚き、召集に関して問われる。
魔王討伐に合わせて腕利きを募っているらしいが、私には関係ないので断った。
「オーガンいますか」
「誰だ武器は...ガレオンいるか!あのバカが帰ってきたぞ」
「・・・・ルティアなのか」
「ただいまオーガン、ガレオンマスター」
防具とアースレイヴは直すのに半年はいると言われた。素材が素材で値も張るが、そこは白金貨の残りで解決。合わせて強化もしてくれるので完成したらまた来よう。
「にしてもかなりの出来だったが、何をどうしたらこんなに壊れる」
「凄い強い人と戦っただけ!」
二人のは魔王を倒しに行くとは教えていない。でもまぁ傷から見て腕の立つ武人と戦ったと勘違いするだろう。
「ちなみにこの小手は何処から?」
「あっ.....あーそのー」
「何処から?」
「『白の厄災』から貰いました」
「「はぁ!!!???」」
まぁこうなるよね。
龍のおじいちゃんの鱗から作られた小手はすぐさまギルドの最上位に運ばれ、貴重な資料として一ヶ月は帰ってこないとか。いや確かに理解出来るけど、次おじいちゃんに会ったら「プレゼントはもう要らない」と釘を打とう。悲しむ顔が浮かぶけど。
禁域に向かったことを話せば「諸々の【スキル】が上々してたのはそういうことか」と納得してくれたし、珍しくオーガンが頭を撫でてくれた。
「お前は早く『不死鳥の羽』に顔を出してこい。毎日のようにあそこの賢者様がギルドに顔を出しては手紙が届いてるか聞いてるんだから」
「アージュお姉さんが。早く行かないと」
ドタドタ出ていったルティアを見送りつつ、ガレオンは安堵したように息を吐く。
「よく頑張ったな、合格だ」
行こうとすると何年も離れていたのに体は覚えている。人の流れに逆らうように郊外に向かい、一際大きい豪邸の前に着く。
(懐かしい。あの時はビクビクしながらベル鳴らしたな)
あの時と同じようにベルを鳴らす。
「はいはーい。魔王討伐には行きませ.....嘘」
「嘘じゃないよアージュお姉さん。ちゃんと帰ってきたよ」
私以上にボロボロと涙を流し、何度も私の顔を触れては最後に抱き締める。
「おかえり」
「ただいまアージュお姉さん」
*
「まさか本当に魔王を倒すとは。」
「一ヶ月半ほど前のあの異常現象と、ルティアが戦った時期は一致してます」
「情報収集助かった。それであの子は今何をしてる?」
「ルティアでしたら、アージュがお風呂に入れてます」
そんな会話が団長室で話されてる最中、お風呂ではというと。
「貴方しっかり湯に浸かりなさいとあれほど!」
「そんな暇無くてーー」
「問答無用。今日は貴方を完全に綺麗するまで洗い切るわ」
「助けてアマテラさーん」
一瞬で真っ黒になる湯を何度も魔法で交換しながら、アージュの手で髪から体の隅々まで綺麗されていく。その過程で真新しい傷跡は跡残さず治療し、肌が見える箇所は全て治していく。アージュの手腕ならではだ。
結局二時間ほど付き合わされ、出た頃には見違えるほどに綺麗になった。
「アージュがあんなに満足気の珍しいな」
「久しぶりに姉でいられるからだな」
「アマテラさん....疲れた」
「何、これからまた疲れるぞ。倒れるなよ」
連れて行かれた先は昔アルバイトしていた酒場。私が顔を出すと店主が「おかえり」と嬉しそうに迎えてくれた。その後バイトで使っていた服に着替え、久しぶりの『幸運の女神』として一日復帰することになった。
アマテラさん主催で完全奢りとのことで冒険者が奢り目当てと私目当てで酒場に集い、懐かしさを覚える騒がしさと忙しさを思い出す。
「こっちにお酒もう一杯」
「お前俺達のルティアに色目向けてんじゃねえぞ!」
「なんだとテメエー」
「お前ら情けない。あの子は私の妹だ!」
「アージュさんが言っちゃおしまいだろ」
完全に酔ってるアージュがルティアが如何に凄い弟子なのかを語り、隣でアマテラが苦笑する。他の団員も楽しそうにはしゃぎ、私も店長も心地よい疲れを浴びる。
酒場内に酒で倒れた冒険者の山が出来上がると、アマテラさんが声をかけてきた。
「店主、彼女にも一つ。まだ食べれてないだろ」
「前に食べた鳥のステーキ食べたいです」
「直ぐに持ってくる」
厨房に向かったを見てアマテラが話し出す。
「本当に魔王を倒すとはな」
「頑張った。皆の力が無かったら私は此処にいないよ」
「ならいい。皆お前を心配していた、距離が離れれば離れるほど手紙は遅くなり、値段も跳ね上がる。禁域近くともなれば一年に一回手紙を送って、数年以内に届けば早い方だ」
カランとグラスの中の氷が鳴る。
「お前が旅に出てからアージュは変わった。昔のように我が儘は消え、副団長として引っ張るようになってな。でもそんな姿を見せた後、いつも一人になるとお前の為に祈っていた。感謝している、あの子を変えてくれて。そしておかえり」
「ただいまアマテラさん。そうですよ、私凄く強くなったんです。次の練習では驚きますよ」
「それは無いな。私がお前に負ける未来が見えない」
「言いましたねーー」
「ほらポークステーキ」
丁度良いタイミング料理が届き、美味しそうな匂いにルティアは直ぐに飛びつく。
「よく戻った」
静かにアマテラは見続けた。
王都まで来れば後は故郷の村に帰る。その途中で街に寄ってガーディー達にも会いにいく予定だ。帰ることを話したらアージュが服を見繕ってくれた。旅の道中はそんなもの着なかったので違和感が凄いけど、もう戦う旅では無いので大丈夫か。
魔王討伐に合わせて王都近隣のいたるところに兵士が配置されてるおかげで、以前よりも安全に移動が出来る。何時頃魔王が倒されたことに気づくのかな。
馬車に乗ると他にも家族連れの人がちらほら見えた。
「貴方も避難を?」
老夫婦にそう聞かれるが私は単に里帰り、違うと答えると変な顔をされる。
「女神ソルは何も言わないし、本当に勇者は倒してくれるのかしら」
「安心しろ、今まで大予言が外れたことは一度も無い。今回も大丈夫さ」
そういえばそんなものあった。龍のおじいちゃんが聞けば腹を抱えて笑いそう。
外を見ても心地よい風は吹き、鳥が飛んでいる。世界が闇に包まれるなんてまるで思えない。だってあの優しい王様、絶対に最後まであの王城で待ってるに違いない。
(久々に自分に『鑑定』しようかな。流石に一つぐらいは増えてるでしょ)
ルティア・アーリン
職業・無し
魔法適性・妨害
保有スキル
【王の御業・封印】【宝剣レヴァンス・封心】
見たことのないスキルが二つ増えてる。それ以外は依然として変わらず、龍のおじいちゃんの力を借りないと全ては確認出来ない。
この二つはどう考えてもアルベリウスの物。片方はあの剣光の再現、もう片方は王様が使っていた剣を自分が使える物と推測出来る。
「託されたのかな」
それなら嬉しい。あの剣も技も失われるなんて私も望んでいない。
「私には重すぎるよ王様」
それでもこの気持ちには嘘はつけないのであった。
*
王都から離れた街は記憶と変わらない賑わいを見せる。
「そういえばおじさんの拠点知らないな」
ガーディーはいつもギルドの修練施設で教えてくれて、その後は酒場で復習して解散の流れ。なのでいざ会いに行こうとしても何処にいるのか分からなかった。
「どうせギルドか酒場にいるかな。いつも皆お仕事終わりはジョッキ持ってたし」
珍しくギルドがお休みで、『緊急連絡は裏口で』と張り紙が貼られていた。世間的には大予言が迫ってる、その対策と対応に急かされてるのは私でも分かる。
その大予言をご破産にした人間が言うのもなんだが大人は大変だ。
慣れた足取りで元行きつけの酒場に顔を出す。
「すみませーんガーディーいますかー」
「おや別嬪さんじゃないか!あいつに用とは何かあったのか」
「昔の知り合いです。遠出から帰ってきたので一目会いたいなと」
「あ〜今近隣の村に顔を出しに行ってるな。『愛弟子の約束とか』なんとか」
「そう....ありがとうございました!」
「また顔を出してくれな」
店主にお礼をして故郷に向かう場所に乗る。
ガーディーはきっと私の両親の不安を和らげる為に定期的に顔を出し、手紙も別途で届けていたのだと思う。あの人は天性のお人好しだから。
村に着いた時には日が傾き、空が赤く焼け始めていた。
「帰ってきたんだ」
旅の始まり。あの日アーシュを追いかけて村を出た。
今はあの日と逆。
家は村の奥にある。道すがら住人に声をかけられるが、予想はついていたが初見で私がルティアと見破れる人は誰もいなかった。
(結構心に来るな。いや身長も伸びだし、色んな人から美人とも呼ばれるし)
仕方ないかもしれないけど、私だってこの村の一員なのだから。
歩けば歩くほど心臓の音が高まり、家が見えてくると視界がボヤけてくる。
我が家の前に立つ。コンコンと扉をノックする。
中から忘れるはずもない声が聞こえた。
「はーい」
ゆっくりと開かれ、出てきた人が私を見る。
「ルティア.....ルティアなのね」
「ママ。凄い遅くなってごめんなさい」
「ルティア!あぁ大きくなったな、こんなに美人になって」
「パパ、私凄い頑張ったんだよ。褒めて」
パパとママが私を抱きしめる。堪えていた涙が溢れ、私も抱きしめ返す。
ずっと会いたかった、ずっと話したかった、帰ってこれたんだ。
「お疲れルティア。地図は役に立ったか、あいつらも心配してたぞ」
「おじさん!凄い役に立ったよ。しかも超進化したんだから驚くから」
「なら楽しみだな」
ガーディーが私の頭をクシャクシャになるぐらいに撫で回す。
暖かい。私を支えてくれたゴツゴツな手。
「ただいま」
「「「お帰りなさいルティア」」」
私の旅はこうして一度、終わりを告げた。




