四話「不死鳥の羽」
『不死鳥の羽』。王都でも名高い冒険者団の一つで、そのリーダーを務めているのが王家を守護する三王剣の一家リーゼエンデ家の長女アマテラ・リーゼエンデ。歴代屈指の魔力を持ち、けれど王家の剣ではなく冒険者として剣を振るう異端児。彼女が使う炎魔法は『炎を殺す』と言われるほどの適性を持ち合わせる。
「これから一年間よろしくお願いね」
「ひゃい....」
どうしてそんな凄い人の冒険者団に私が通うことになっているのだろう。
時間を一週間前に遡る。
*
「おじさん顔色悪いよ」
「いや..これからお前に起こることを考えると胃が痛くてな」
「また私何か迷惑かけちゃうの!?」
「今回は相手が悪いからお前は関係な・・・いやバリバリに関係あるわ」
大討伐を終えて街のギルドへ馬車で戻る途中で私はガーディーから話を聞かされた。
『不死鳥の羽』が私に興味を持ち暫くの間借りたい話、私が今なおスキルを発現していない話、それで団全員が心配してる話。全て話してくれた。
少しは隠してもよさそうだけど、この人は隠せない性格なんだと思う。
(だから私も安心できるのかもだけど)
再び王都に赴いた日。『不死鳥の羽』に向かう前にガレオンから呼び出しを貰いギルドに顔を出した。いつもと変わらず賑やかで、ギルド職員が私を見つけると工房に案内してくれる。
「オーガンおはよう」
「今日もうるさいな」
「ヒゲ似合ってる。」
「ふん、ガレオンは奥にいるから早く行け」
普段はギルド職員でも立ち入り禁止の工房に足を入れると、今日は珍しく涼しい。
テーブルには小さなポーチと靴が並べられており、ガレオンが眼鏡をかけて何やら調整していた。
「来ました」
「そこに座れ」
向かいの席に座るとガレオンが一息つき、置いてあった二つを私の方に寄せる。
「製作が間に合わなかった品。これでちゃんとした防具の製作は終わりだ」
「これがですか?」
「ポーチの方は【拡張】が付与されている。ポーションといった直ぐに必要になる道具を仕舞って使え。靴の方は何も付いていないが、洞窟や崖とかで足が疲れないように設計してある」
「ありがとうございます」
言い終わると何も言わずに仕事に戻ってしまった。本当にこれを渡す為だけに呼んだらしく、このまま私は『不死鳥の羽』の拠点に向かうことになった。
『不死鳥の羽』の拠点は王都の端にあり、大貴族が住むような豪邸が立っていた。
ガーディーから教えてもらった場所と見比べ、不安に駆られながらもベルを鳴らす。
「誰かいませんか」
扉の前で待ってると凄いバタバタと扉の奥から音が聞こえ、勢いよく開かれる。
「貴方がルティア・アーリンね!貴方は此処に相応しくないわ」
魔女が被ってそうな大きな唾付き帽子を被った初対面の女性がそう言った。
「うちの者がすまない」
「私は間違ってないわ。なんでこんなチビを暫くうちで預かるのよ」
*
あの後リーダーのアマテラ・リーゼエンデが彼女の頭に拳骨を入れて事なきを得た。
「私はアマテラ・リーゼエンデ、この『不死鳥の羽』の団長をしている。そして隣のバカは副団長のアージュ・ステリオンアルド。最年少で賢者に選ばれた我が団の魔法使いだ。プライドが強いのが玉に瑕なのだがね」
メンバーが合計で五人で、男性は一人でそれ以外全て女性。その人も荷物持ち兼盾持ちと、火力の全てを女性が担っている珍しいパーティーだった。
「レオファイアーウルフをその年齢と冒険者歴で戦った君に興味が湧いてね、こういう形で君を呼んだわけだ。一年間という契約でガーディーとも取り行っている」
「つまり・・・逃げれないと」
「あぁ。逃げても私の名声を使ってね捕まえるけどね」
そういえばこの人の家名どこかで聞いたことがあるような。教会の人が社会の授業で教えてくれた貴族の名前に確かあったような。
「リーゼエンデ・・・三王剣にそんな名前があったような。」
「その通りだ。三王剣の一つ、炎を司る家系の長女。つまり私は王家に最も近い貴族の一人だね」
ニコニコで話すアマテラに思わず私は固まる。
急いで姿勢を正し、口調を改める。冷や汗が全身から溢れているし、不敬罪で捕まってもおかしくない。
「まぁそんなに怖がらないでくれ。これでもガーディーから君を大切に扱って欲しいと懇意された」
いつまでもニコニコなアマテラを見ていた私は思った。
一年後、果たして私は無事にガーディーやパパとママの元に帰れるのだろうかと。
*
『不死鳥の羽』の活動自体はガーディー達の時とあまり変わらず、強いて違いを上げれるのであればギルドからの依頼が多いこと。これは冒険者団が認知され、実力を兼ね備えている証とも言える。
私はメンバーの方々に冒険者としてのアドバイスを貰いつつ、盗めそうな技術をトコトンメモし、依頼をこなしたり依頼について行ったりしていた。
「なんでこんなガキと同室なのよ」
「貴方はいい加減副団長としての責任を負う覚悟を持て。今回彼女を同室させているのも、成長に繋がると信じているからだ」
アマテラとアージュは冒険者団を創設者と聞いたけど、見てる分には仲が悪い。特にアージュに関しては私を毛嫌いしている。ガーディーといた時はそんな感情を向けられたことがなく、現在進行形でどうすればいいか分かっていない。
「アーシュ。名前凄い似てる人に出会ったのに、別人すぎるよ〜」
部屋で毎週のアーシュに送る手紙を書く。頻度は少ないけど、彼女の方からも手紙が届くようになった。どんな勉強したとか魔物を倒したとか、色んなことを伝え合っている。
今回は『不死鳥の羽』にお世話になっている旨を書き、郵便局に出してきた。
手紙自体も安くはないけど、その分も合わせて依頼をこなしているので問題無し。
そんな感じでなんだかんだ慌ただしくも充実した時間を過ごしていると。
「ルティア、朝から何処に行ってたの」
「ランニングと素振り、後魔法の練習です」
「な、本当なのノーマン!?」
「本当だよ。日が登った少し後に起きてきて、僕に挨拶したら外出ちゃった」
「日課を怠ると直ぐに現れるって、おじさんがよく言ってたから」
このことがきっかけで事あるごとにアージュは私に声をかけるようになった。
魔法の練習をしてたら隣に立っては中級の魔法を見せびらかしたり、依頼で数日出かけると時とかは率先して私の前に出たりと、村にいた知り合い兄弟の兄がよくしていた行動に似たことをしている。
ルティア的には魔法の使い方や、魔力の集め方や操作の仕方を聞かずとも話してくれるので大変助かっていて、離れて見ている他のメンバーがニマニマしながら楽しそうにしている。なんだかんだこの人は私の面倒を見てくれてるのだと思う。
「ルティアの魔法適性は妨害、珍しい適性だけど多種多様な使い方が出来るわ」
「なんで珍しいのですか」
今日はアージュの工房で魔法の勉強をすることになった。何故か団のメンバーも全員いて、正直ちょっと狭い。
「普通の人は火や炎といった属性が魔法適性として挙げられる。けど貴方のような妨害といった適性は、属性の相性に殆ど左右されない強みがあるわ。」
火が適性の人がそれ以外の属性の魔法を使うと大抵の場合は威力や効力が半減する。だが私のような場合、雷魔法の妨害を重視した『ボルト』系列の魔法が使える。他にも氷属性の捕縛系や、土属性の地形変動が適性に当てはまるらしい。
そう言われると万能に聞こえるが、逆に攻撃系の魔法が絶望的に使えない。運よく私には騎士流剣術が使えるので間に合っているが、魔法使いは致命的になりかねない。
「賢者な私のような【完全適性】を持っているような人間じゃなければ、基本的には適性の魔法一本に絞って修練するわ。貴方の場合は戦い方的に『ボルト』系を集中的に鍛えた方がいいわね。その上で三つか四つぐらいは簡素でもいい、隠し球を作っておくことには越したことないわ。特に人間相手には効くからね。」
「ありがとうございます」
「ふん、なにせ私は賢者ですから」
「賢者凄いです!!!」
「そ、そーでしょーー」
目をキラキラさせているルティアに満更でもないアージュ。それ見ていたアマテラがカメラでパシャっと撮る。
「アマテラ!?それ一枚取るだけでどれだけのお金が」
「別にいいじゃないか。貴方のそんな顔をいつでも見れると思うと、破格だね」
周りも「そうだそうだ」と頷き、アージュが写真を取ろうと躍起になる。
「あはははは」
ガーディー、私楽しいよ。次会えたらいっぱい話したいな。
そんなある日のこと。
「洞窟の調査ですか」
「ギルドから指名でね。今回の洞窟は元々ダンジョン化しており、オークやソルスパイダーが確認されていた。だがここ一ヶ月個体数が増大してると報告受け、白羽の矢が立った」
「大量発生や大移動の可能性があると」
「アージュは良い先生になれてるようね」
「分かり易くて勉強が楽しいです」
今回の依頼は時間が経てば経つほど王都に危機をもたらす可能性が上がる。少数精鋭の『不死鳥の羽』があてがわれたのも納得。
直ぐに準備を整え、早馬を借りて出発することに。
目的地は馬で一日、徒歩で三日程度かかる距離にある。大移動が発生した場合だと最短で二日で王都に直撃するらしく、今回の依頼がどれだけ重大かが嫌でも理解出来てしまう。
「ルティア安心しなさい。私達は強い、貴方だって『辺境の英雄』に身を置いていたのでしょう。なら気をしっかり持ちなさい」
「『辺境の英雄』ですか?」
「ガーディー・ノバンが団長の冒険者団、うちの団とはライバル関係なの。彼とアマテラの実力は互角、そして他の団員も皆互角。この意味が分かるでしょ」
「はい、はい!」
「その笑顔でいなさい。明るさは時に絶望すら打ち払うからね」
アージュは私より少し背が高いぐらいなのに、とても大きく感じる。
(これがお姉ちゃんなのかな)
頭を彼女の肩に預け、揺れる馬車が目的地に辿り着くまでひたすらに体を休めた。
*
洞窟の前でテントを設営し、撤退の合図などを振り返り調査を開始した。
先頭と最終尾が腰とバックパックにランタンを付け高原を確保する。アージュが風魔法で全員の感覚を強化し、斥候役が【暗視】を用いて身長に進む。
「魔物の気配があまりにも少ない、情報と違う。各自警戒を怠るな」
アマテラの言葉で全員の気が引き締まる。
(話と違って魔物を全然見ない。なんかガーディーが話してた異常事態に似てる)
魔物が発生地域で極端に発見数が減少するのは、それらを捕食する個体が現れた可能性が高いとされている。その手の個体は『特異個体』と呼ばれ、同じ種類でも数倍の強さを誇ると言われ、緊急依頼と扱われることもしばしば。
「アマテラさん」
「全員停止、警戒を維持して。ルティア何か気づいたか」
「おじさんが話していたことを思い出して」
自分の考えを伝えるとアマテラは数秒考えた後、撤退の合図を出した。
「まだ一時間も経ってないですよ。調査も足りていませんし」
「アマテラが危険と判断したのなら私は従うわ」
「地図は書いてますので戻れます」
メンバーもアマテラの行動を変と感じながらリーダーの意思なので従う。
入り口に戻ったのちアマテラの口から私の考えを伝えてくれた。私が言うのと彼女が言うのとでは信用の差がありすぎる。
「確かにその説は裏付けもある。教えてくれた状況も一致し、事前に確認された事象とも確かに今は異なっている。無策で進んだ場合死人が出ていた可能性もあったわ。ルティアよくやったわ」
「私は聞いた話を」
言い終わる前にアージュに頭を撫でられる。なんで会う人皆同じことしてくるのか。
道具の点検や強敵に遭遇した際の対処を話し合い、再度洞窟の奥へ向かう。
奥に進むほど鼻につく気持ち悪い匂いが強くなる。現に匂いが強くなるにつれて壁や床に血の跡が増え、魔物の死骸の一部すら見られるようになってきた。
「うぷ」
「魔を祓い安らぎを与えよ『聖風の守り』。」
アージュの祈祷が唱えると暖かい風が身を包み、吐き気と腐敗臭がしなくなる。
「すみません。足引っ張ってしまって」
「誰だってこんな匂いと光景見せられたらそうなるわ。私達は場数を踏んでるだけ」
「辛い時は早めにおっしゃってください。私の方でも祈祷で対処しますので」
プリーストの方も優しく背中をさすってくれた。
なんとか持ち堪え歩き続けると広場に出る。見渡せば奥に続く通路が幾らか確認出来るが、全員はその中央に意識が向かっていた。
「グチュ、ガプ、ゴクン」
その魔物の周りにはオークやソルスパイダーと思われる死体。個体名は分からないが希少と思わき魔物すら見受けられた。
「オークヴァース」
アマテラが口にする。私以外全員が武器を構え、アマテラは静かに握り拳を肩の高さまで持ち上げる。それは待機の合図、そして準備の合図。
少しずつ魔物に近づき接敵間近まで届きそうになった瞬間、それはこちらを見た。
「ブフェ」
気持ち悪いほどに嬉しそうにそれは口角をあげ、刹那姿を消した。
「【ハイシールド】!!!」
「ノーマンさん」
爆発と聞き間違えるほどの轟音。咄嗟に私の前に飛び出たノーマンの大楯によってオークヴァースの棍棒は私に届かない。だがたったの一撃で彼の大楯がひしゃげる。
「構えろ!」
「『悪しき敵意から我らを守りたまえ。守護の聖域』」
「『フーリアウォール』・『バーバリアロック』」
アマテラの掛け声でアージュとプリーストが即座に祈祷と魔法でその場の全員に強化し、アマテラとノーマンが前衛となってオークヴァースに立ち塞がる。
「冒険者の遺体発見!【捕食】の可能性あり」
「不味い」
アマテラの苦虫を噛んだような声でルティアも事の重大さを気づく。
ルティアの防具に付いてるような【捕食】と魔物が保有している【捕食】は根本から異なる。彼らは食らった魔物や人間、生き物が保有していたスキルを一定確率で吸収する。同じスキルを吸収した場合はそのスキルは強化され、本来なら持ち合わせないスキルを持った場合その脅威度は数段にも跳ね上がる。
「『エンチャント・フェニクストライヴ』」
ここで殺さねば被害は王都にまで届くと判断し、アマテラは最大火力を叩き込む為に付与魔法を使う。合わせてアージュが瞬間最大火力を出す為に準備に入る。
『不死鳥の羽』全体がこの魔物を完全に殺す為に息を合わせる。
「グケ、グケケケケケケ」
オークヴァースは不敵に笑い、逃げ出した。
「「「「えっ」」」」
物凄い速度で通路に消え、一瞬で広場は静寂に包まれる。
(なんで逃げた。でも追うにしても通路の先がどうなってるのか)
ルティアは必死に考える。何も出来ていない自分に出来るのは考えることだけ。
(特異個体は知性が増してると言っていた、なら逃げたのにも理由がある)
足りない脳みそを必死に回し、洞窟に入ってから今に至るまでのことを思い出す。
(広場に来るまで魔物に会わなかった。でも死骸はあったからあの魔物は移動しながら倒していたことになる。なら道を知っているはず)
道を知っている。それが頭を過った瞬間、体が動いた。
アージュの体を抱きしめ、そのまま横にズレる。瞬きの時間の後、自分達が通ってきた通路から棍棒が飛んでくる。
「後ろから!?」
「やっぱり」
こいつはこの洞窟の全てを把握していた。そして冒険者を殺したのなら、この中で誰が一番殺しやすいか理解している。
攻撃の要であり、魔力を練るために移動が出来なくなる魔法使い。オークヴァースは《《狩り》》の知識を持っている。
「私が相手をする。他は彼女を援護」
「『アイスウォール』」
氷の壁で通路を塞ぎ、炎を纏ったアマテラとオークヴァースが対峙する。
魔物も先ほどの狩り方が出来なくなり不満を漏らしながらも、それでもなお口から涎を垂らしながら棍棒を振り下ろす。
「騎士流剣術・切り捨てる一振り」
その棍棒を腕ごと灰に変える。
「凄い。」
「ルティア惚けない。ノーマンはミセラにポーションを、ユノはアマテラには継続して祈祷で補助を」
戦闘に集中させる為にアージュが代わりに指揮を取る。その間にもアマテラが炎を纏った大剣で切り刻んでいく。
だというのに。
(切った瞬間から再生していく。【即時再生】の領域までスキルを強化している。一体何体のオークをこいつは食らったんだ)
血肉を斬り飛ばしてもなお死ぬ気配が無い。首や頭といった即死につながる部位だけを守っているあたり知識もある。尚更タチが悪い。
炎で傷を塞いでも自分でその箇所を引きちぎって再生させ、純粋な力で徐々に後ろのアージュ達へ押されていく。
「魔法を撃つ、数分持たせて」
「任せた!騎士流剣術・最速の一振り」
アージュの掛け声で剣を振る。
「ガフュ・・・グファ」
(なんでこいつはまだ笑っているんだ)
剣が喉元まで届いた途端、ドプンと音と共にオークヴァースが沈む。
「【影歩】!!ノーマン彼女を守って」
斥候役が声を上げた。でも死は既に振られていた。
「何が起きて」
ルティアは視界に映る光景を否定したかった。
アージュを周りに居た人もろともオークヴァースが薙ぎ払い、アマテラがアージュを庇って二人が壁に吹き飛ばされた。
「やら、かしたな」
「アマテラしっかりして」
頭から血を流し、腕があらぬ方向に曲がっている。誰が見たって今の彼女は死亡一歩手前だ。アージュは庇われたおかげで軽傷で済んでいるが、ルティアと自分以外戦える人がいない。
「ウホ、ウホホホホホ」
魔物は作戦が上手くいったのを喜ぶようにその場で手を叩きはしゃいでいる。
「ルティア逃げて。ギルドに早く連絡して」
全滅すればそれこそこいつの思う壺だ。なら今動ける彼女に全てを託すしかない。
(逃げる。逃げないといけない)
ルティアは考えていた。
今逃げて助けを呼んでも皆は絶対に助からない。でもアージュが求めている行動をするのが一番最良の選択なのは分かっている。
(でも死んでほしくない)
少し間とは好きと言える人達だった。それを見殺しにして逃げるなんてしたくない。
(またあの時と同じように何もしないの)
アーシュを見送るしか出来なかった自分と今の自分は同じだ。
(そんなの、そんなの嫌だ)
何のために強くなりたいと願った、何の為に剣を握った。
(守る、アーシュも皆も)
私の手を取ってくれた人を守りたい。ならどうするかなんて決まっている。
自分を縛る鎖を解き放つように言霊を吐く。
「皆を守りたい」
引き金に魂という指をかける。
「アーシュを救う為、お前を倒す」
*
魔物の腕が振り下ろされるのを見た。私の寄りかかりながら死を待つ親友がいた。
これが私の人生の終わりと思うとやるせない気持ちになる。
(冒険者なんてそんなものよね)
賢者なんて持て囃されたけど、結局こんな終わりかたなんだ。
「騎士流剣術・最速の一振り」
風が吹いた。逃げた筈の彼女の声が聞こえた。
腕が斬り飛ばされ、煙を上げながら再生してる間も怒りが溢れんばかりにオークヴァースはルティアにガンを飛ばす。
「何してるの」
「逃げない。あの日私は何も出来なかった、守られてばっかりだった」
私達の前に立つ少女の剣を握る手は震えていた。
「皆を守る。勇者に出来るのなら、私にだって出来る」
剣を振るい、魔物の攻撃を受けて流して切り結ぶ。
一歩も下がれない。下がればアージュとアマテラが死ぬ、それは私が認めない。二人も、それ以外の人達だって皆私よりも何倍も何十倍も凄い人だ。そんな人達に私が出来ることは。
「命に懸けて全員助ける」
体がどんどん軽くなる。どんどん自由になっていく。それでもまだ足りない、あと一手足りない。レオファイアーウルフの時と同じ、自分には何もかも足りない。
でも、こいつを倒す力ならある。
「アージュさん、力を貸してください」
貴方なら絶対に倒してくれる。だから。
「言われなくても」
背中越しで分かる。焼き付くほどの魔力の熱を、覚悟の意思を、『勝つ』という希望が伝わってくる。
「ウガアアアアアアア」
オークヴァースもアージュの魔法が己を殺すものだと判断し攻撃を繰り出すが、それを全てルティアが切り守り抜く。
ガーディーから教えられた技と戦い方を全て出し切り時間を稼ぐ。
(一回一回の傷じゃ一瞬で治っちゃう。だけど連続切った時は遅かった)
なら方法はある。今それを使えば数日は腕が使い物にならなくなる。
だが選ばない選択などはなから捨てている。
連携姿勢と最速の一振り。この二つを連続で行い、最速で十連撃で放つ奥義。だけど今の自分では三連撃が限界。
狙うは首と胴体。
「騎士流剣術・奥義」
全身全てにはち切れんばかりに力を込める。
その全てで叩きこむ。
「仮初の最速の終剣」
「ヴァアアアアアアアアアアア」
一瞬にして切り裂かれ、理解を超えた痛みを初めて体験したオークヴァースは叫ぶ。
傷の同時の再生で治りが遅く、引かない痛みが怒りを生み出し、ルティアに向ける。
だが怒りで単純になった攻撃を少女は大ぶりながらも避け、アージュから距離は離し続ける。
(あの子、あんな動きが出来たの)
アージュは魔力を高めながら見届ける。
アマテラのような洗練さは無い、けどあの年齢で身につけていい強さでもない。
(あれでスキルを一個も持っていないなんてあり得ない)
【継続詠唱】と【同時詠唱】を用いて必殺の一撃を詠唱しつつ『鑑定』を使う。
ルティア・アーリン
職業・無し
魔法適性・妨害
【□から□□れた者】
【抗う者】【女□を□定せ□者】
【剣術】【剣技・速】【直感】【思考加速・弱】【鎮痛・微弱】
思考が真っ白になる感覚がした。
今まで『鑑定』を使ってスキルを調べたことなんて何回もあった。
だが虫食いのようにスキルが確認出来ない物なんて見たことが無い。
(これが貴方の力の源なの、ルティア)
きっとあの子も知らない。これは今は私の胸に隠しておく。
ならば今私がやることは一つ。
「全ての光は集い・七色を持って意味とする・そして行き着く」
【詠唱】を持つ賢者にのみ許される絶対の一撃。
魔法陣が広がり、ポツポツと光の粒が昇っていく。
「魔の最奥は無・されど原初もまた無・行き交う輪廻の中心に立つ」
詠唱が結び付き、輝きは増し続ける。
オークヴァースは私は止めようと躍起になっているけど、ルティアは命を削って時間を稼いでいる。それを無駄になどしない。
「ならば我らが作り上げる魔法が至る場所はそれのみ・故に再現しよう」
言葉を結び終え、手を突き出す。
「ルティア!」
「吹き荒れる一切り!!!」
剣風で体を吹き飛ばし、ルティアが私の視界から外れる。よくやった。
「今までの借り全部返してあげる」
その言葉を吐き出す。
「『オール・ノーゼン』」
消滅の魔法を起動する。
黒と白が入り混ざる光がオークヴァースを包み、完全に一色に完全に混ざり合う。
視界を塗り潰すほどの灰色の輝きが放たれ、それが落ち着いた時にはもう魔物の姿も、それが立っていた場所も消え去っていた。
「賢者の私ならこんぐらい簡単よ」
「アージュさーーーーん」
「うぐっ。貴方アマテラが瀕死なの、早くポーション出して」
「すみません」
胸で静かに息をする彼女を見る。
「貴方が連れてきたあの子、とんでもない逸材よ」
賢者である私が認めるわ。
あの子はきっと、勇者すら超える。
「不条理を抗う力。それが貴方の力なのね」
魔力切れで瞼が重くなり、ルティアに気づかれないように静かに閉じた。




