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偽りの王称  作者: 大空界斗
第七部 波乱と万丈
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第四話 進軍制止

 つまりは、見放されたということか。もしくは、華林にいらん心配をさせたくなかったのかもしれない。少しは頼ってくれてもいいのにな。これは、俺たちがこの宿舎で孤立してしまったことに気付いた日のお話。

「華林、何の揺れか解るか⁈」

「敵襲だ。数えられない。」

「迷彩服の種類は⁈」

「解らない。けど二つ以上‼」

「連合軍だ。ソ連と中国の連合だ。応戦しないと。死ぬぞ。俺らもいずれは死ぬぞ‼」

すると、華林が思い出したように目を見開き、ドアに向かって慌てて走っていった。

 もしかしたら、開いているかもしれない。そんな淡い希望のもと、華林は扉にむかった。「開いて!お願い、開けぇ‼」

ガシャガシャと扉を動かすも、開く様子がなかった。

 どうしようもなくただ走り、沙羅はその部屋の扉の前にたどり着いた。

「お願い、目覚めていて‼」

その一心で、沙羅は南京錠を開ける。扉は勢いよく開いた。

 扉が勢いよく開いた反動で、私はその場に転んでしまった。

「…華林⁈無事なんだね⁈紅葉は⁈」

「リビングを右の寝室。」

わけも解らず私は目の前の少女に紅葉の居場所を伝えた。その瞬間、目の前の少女は走り出し、靴も脱がずに部屋の中を駆け抜けた。そうとう焦っているようだ。

「…沙羅⁈どうしてここに⁈」

その少女が彼女であることに気付いたのは、彼女が倒れた私の上を飛び越えた直後だった。

 俺はついに心配になり、叫んだ。

「華林、大丈夫か?何があった⁈」

しかし帰ってきたのは華林ではなかった。別の少女が俺の寝室のドアを開いたのだ。

「さ、沙羅⁈」

「無事?あなたは本当に紅葉なのね⁈」

「ああ、見ての通りだが。何があった、そんなに慌てて。」

すると沙羅は若干涙を流しながら叫んだ。

「信事が、信事が。負傷で動けない!このままだと、皆死んじゃう!」

「信事がか⁈」

「お願い、助けて!紅葉!」

「…悪い、俺は今、動けない状態なんだ。」

「いつ覚醒した?」

「今朝だ。んぬっ⁈」

突如、右肩に激痛が走る。俺は悶え左腕で沙羅の右肩を抑えた。

「てめぇ、何する気だ⁈」

「ごめん、ちょっとだけ我慢して‼」

右肩の激痛の正体が注射器だと気付いたのはその直後だった。注射器は一本だけでなく、二本目のタンクを付け直し、その中身全てが俺の体内に注射された。

「…何をした‼」

「筋肉増強剤。二分の一に薄めたものを二本だから実質一倍。」

「何分で効く⁈」

「三十分。」

「上等だ。華林、冷蔵庫の隣の扉を開けてみろ‼」

俺は華林に叫ぶ。

「ダメ、鍵がかかっている!」

「悪い、沙羅。あそこのチェインラックの一番右。あの鍵を華林に渡してくれ。」

「解った。」

そう言って沙羅は指定した鍵を受け取ると、華林にこう言った。

「投げるよ?受け取って‼」

思いっきり肩を回して鍵を投げる沙羅。それをなんとか受け取る華林。

「左奥の隅に迎え‼」

「この、なんか長い銃がいっぱいある所?」

「そうだ。左側の列の最上段の武器を使え。」

そして、俺は沙羅にこう言った。

「悪い、沙羅。俺をリビングまで連れて行ってくれ。」

コクリと頷く沙羅。俺は沙羅の肩を借りながらリビングに向かった。椅子を引き出し、窓際で座り込む。

「そいつは、SV-98って言うんだ。SRだ。狙えるか?」

「やってみる。重いから沙羅も手伝って!」

「お前のM24E1-ESRはどうした?」

「敵のスナイパーに機関部を打たれて使い物にならなくなった。」

「そうか。俺のM24E1-ESRを使うか?」

「あるの?」

「いちおうな。左奥のラック。どれがそれかはお前の目で判断できるはずだ。」

「マガジンは?」

「一番手前の段ボールの中にサイズと会社、対応武器名が書かれている。」

「どうやってこんなに手に入れたの?」

「俺の友人で、武器屋の奴がいるのさ。」

直後に発砲音。華林が打った音だ。

「当たったか?」

「外した。」

「次撃つ時、弾丸がどんな軌道で進んだかをスコープ内で見ておけ。」

「解った。あれ?」

「どうした?」

「打てない、打てない。」

「ボルトを引け。」

「ボルト?どれ?」

「スコープの下に、右に飛び出た取っ手があるだろ。それを起こして手前に引いて戻せ。」

ガチャ。

「ひゃ。何か出た。…て、空薬莢か。」

恐らく、華林はスナイプが初めてなのだろう。動揺が初心者並みだ。再び響く発砲音。

「当たったか?」

「また外した。」

「ズレた分だけ動かして打て。」

再び響く発砲音。

「当たった‼」

「ようし、その調子だ。どんどん当てろ。そこにマガジンを置いておく。」

その横に沙羅が付き、沙羅もどんどんスナイプキルをしていた。その間に俺は自分の愛銃を調整していて、十五分が経過した。

「…いける。」

俺は立ち上がり、L96A1を取り出し、華林たちとは別のベランダにセットした。何度も何度も打っていき、空マガジンは気が付けば四つになっていた。

「すごい…どうしてそんなに当たるのか疑問に思うくらいだ。」

沙羅までもが称賛を浴びせた。お前の方がすごかろうに。注射を打ってから二十五分経過した。俺は黒のベストを着た。完全に私服である。腰にはHK-USPとCz-75を下げて。

「行ってきます。」

それだけ残して俺はベランダから飛び降りた。

「あ、ちょ‼」

華林は俺の出発を望んでいないようだ。嬉しい事だが、今は要らん気遣いだ。落下防止の柵が見える。おそらく、隣の部屋。その窓のものだろう。俺はその柵に足をかけて体を翻し、その隣にあった階段の踊り場から空中でバク宙を描いて飛び降りる。二階と三階の踊り場なだけあって、十分な高さがあった。俺は地面を見る。敵兵が御満といた。俺は腰から銃を取り出し、敵兵六人のヘッドショットをし、その死体の上に降り立った。

「残念だよ、分かり合えなくて。これが俺の、普通だから。」

その一声の直後、俺は再び銃の引き金を引き続けた。

これが普通ってやつではない。解っている。だが俺にとってはこれが普通となってしまったんだ。いつからか俺の生活という名の歯車が狂い、ただの殺人鬼に成れ下がった。そしてその最終形態があれだ。俺はとうとう、記憶すらもコントロールし、殺戮に必要のない記憶、意識、物、行動を全て消し去ることすらできる様になり、本当の意味で殺戮魔になったんだ。何が約束だよ。あの日誓ったじゃねぇか。信事と。この世界の変わった姿を見せてやるって、信事と誓っただろ。なのに、何だよ。俺がこの世界の平和を脅かしているのか。…これだから俺は、命に嫌われているんだよ‼

 ダメだった。敵弾による引火の影響で、この宿舎は何れ炎に包まれるだろう。俺はマガジンが足りなくなるのも感じた。仕方なく、階段から最上階へ上る。十階建てなんだぜ、ここ。マジで疲れるんだよ。

「お前ら、今すぐここから脱出するぞ!」

「どうして⁈」

「火災だ。敵が攻めてきやがった!」

「あなたと華林で先に行って。私は信事と共に行く。」

「彼は、無事なのか?」

「意識はある。動くこともできる。でも戦えない。…あなたにその時の記憶があれば、彼がどんな状況か解るはず。右腕の痛みは消えてない。…多分、彼も満足に戦えない。」

「解った。俺が正面に敵兵をおびき寄せる。お前らは残りの平和団を連れて裏から出ろ‼」

「解った。」

「華林、お前も沙羅と一緒に行け!」

「…やだ。いやだ。紅葉を一人にさせたくない。」

「華林‼」

その言葉に、思わず叫んだ沙羅。

「お願い、沙羅。」

表情を変えずに沙羅は答えた。

「気を付けて行ってくるんだよ?」

「うん!」

「おい、お前、頭狂ったか⁈」

「心配なの、ひとりだと。かなりマズい戦況なんだよ?それに。」

「それに?」

「華林だけが、あなたの暴走を解ける。あなたにとって、華林はそれだけ特別な存在なんでしょ?」

「…解ったよ。華林、俺が先陣を切る。俺の後ろに出来た狭い道を走れ。」

「了解。」

「それじゃ、また会いましょう。平和な世界で。」

「ああ。」

俺は武器庫からドラグノフSVDを一丁持って、沙羅に右手を上げて部屋を後にした。階段を下りてゆく。そこで、ナイフが三本あるのを確認した。出口にたどり着く。まずは、白煙灯を投げつけ、敵の注意を引く。煙の中から見えた黒い影をドラグノフで相殺して行く。白煙が風に流されるのと同時に、弾が切れた。勿論、予備マガジンは持ってきていない。俺は華林に告げる。

「俺が突撃する。その後を追ってきてくれ。」

刃渡りの長いナイフを二本、口に銜える。持ち手が薄く、扱いやすいタイプのコンバットナイフだ。そしていつもの如く、拳銃二丁をそれぞれの手で握る。そして敵目掛けて突進するのだ。これが俺の基本の戦闘スタイルなのだ。

 敵の間をすり抜けるほどの隙間を作ってくれないのが敵だ。突進する時、目の前の敵はナイフに怯えて横によける。しかし、刃渡りが長いため、俺の速さに間に合わず、首筋を俺に着られるのがオチである。横にいる敵兵は俺がハンドガンを近距離射撃しているため、被弾者は全員死滅し、見事に俺の後ろに道が生まれた。そこを華林が走り抜ける。俺は群がった敵兵の群を抜けると、アサルトライフルを持っていた連中が襲い掛かってきた。俺は銃を真上に高く高く放り投げ、口に銜えたナイフを両手に持つ。ライフルから発射される弾道は大体の予測がつく。一発目の着弾点と、敵兵がまず狙う個所を特定して、初心者か上級者かを見分け、一人一人の敵弾を交わすのは簡単だ。今回はそれを切り裂くだけである。案の定、手先ブレブレのフルオートだった。周りを取り囲む敵兵の弾丸を俺は切り裂き、俺と華林が当たらない最低限の防御をしたあたりで、全ての銃に弾切れが起こる。瞬間俺はナイフを上に投げ、落ちてきた銃を握り、辺りに群がった敵兵を全員射殺した。そして敵兵の四輪駆動を奪った。

「どこに逃げる?」

「…解んない。」

「だろうな。仕方ない、ソウルの空港に行くぞ。逃げるなら、日本しかない。」

俺はアクセルを踏んだ。ついでに、正面入り口の前にいた敵兵を何人かひき殺した。これでいくらか、時間は稼げたはずだ。逃げ切れよ、沙羅。

 何時間かかっただろうか。幾多の障害物をよけ、なんとか空港にたどり着いた。

「帰ろう。いくらか時間を稼げるはずだ。むこうの指示は信事がどうにかしてくれる。」

「うん。これでようやく一息吐けるね。」

「そうだな。ようやくの安泰だ。」

俺はエナジードリンクを取り出した。

「持ってきてたの⁈」

「これが無いと俺、死んじまう。」

「あんた、このあいだの事件、ちゃんとエナジー補給した?」

「時間なかった。」

華林は俺の事を睨みつけていた。大丈夫、そのせいじゃないから。

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