第三話 世界情勢
「そう、私たちがこの日本を、勝戦へと導くのです。君たちこそが、未来ある、名誉ある日本軍に入団し、あらたな希望をこの日本に吹き込んでくれることを祈ってます。」
訓練担当の教師が何の疑いもなく話を進めるのだ。
「き、君たち。ほら、列に戻りなさい。」
訳が分からず少し躊躇う。無理もない。急に、俺たちのクラスのメンバーがぞろぞろと前に出てきたのだから。
「君らはこいつの話に乗りたいか?…死ぬぞ?戦地で。」
そう言って信事は前に出た。
「お、お前!反逆罪だぞ、慎め‼」
「何が?」
変わらず攻撃の姿勢を保ったまま、教師の額にむかって、人差し指を突き出す。あたかも、銃口を向けているように、左手で。
「何が反逆罪なの?自分の命を大切にして何が悪いの?」
本当に疑問に思ったことを投げつける。
「この、日本のために命を投げるのが日本人だろうが⁈」
「そんなの、誰が決めたし。…いいかお前ら、よく聞けよ。本当に命をなげうっていいのか?人生は一度きりなんだぞ?代えはないんだぞ?それでもいいのか?」
「貴様‼」
殴りかかろうとしたのだろう。だが、信事は変わらず額に指を向けたままで、その教師は近づくも、人差し指で止められてしまう。力は入れてない。今なら簡単に捉えれるだろう。だが、その他の教師たちも動く気配はなかった。
「日本の為に人生を捨てろ?冗談じゃない。そんなんで、自分の意志で生きたなんて、胸張って言えないじゃないか。お前らは、日本という国に、政府に、生かされてるのか?政府たちのペットなのか?なぁ。」
彼の言葉は、生徒たちの本心に思っていた事の体現であった。彼が鼓舞した者たちは、信事に襲い掛かったその教師を、逆に捉えてしまうほどの団結力を生んだ。
その後、俺たちはこの学校の指導権の一部を校長と共同で使えるようになった。あの日の全校朝礼は忘れない。ここにいる全員に希望を宿した。その後は、日本に気付かれないように、地方の、なるべく東京から遠い所から攻めていくことになった。
一か月後、ハワイ島の西アジア同盟との戦争から帰還した日本軍は凱旋行進をし、時同じくして俺たちは北海道、及び青森の県庁を抑え、俺たちは改進軍と呼ばれるようになった。そして、改進軍の本部が青森に置かれたのは、八月四日のことだった。…もはや信事が作った改進軍は一つの国家となっていた。
新ソビエト連邦が集結し、彼らと日本は未だ戦争中で、東京を狙って昼夜新ソ軍の爆撃機が空を飛んでいるが、日本空軍の持てる最大守備の防衛線に一機残らず始末され、東京他日本の中枢都市はほぼ無傷のまま真夏に突撃した。それでも血迷ったか、新ソ軍の攻撃は留まることを知らず、無謀な独裁者は壊滅寸前の空軍に特別攻撃を仕掛けようとしていた。そこに、日本はこれ以上戦う必要はないと宣言し、それでも降伏しようとしない新ソの総統に、武力で抑え、降伏させ、日本側はソ連と講和条約を結ぶことを要求した。聞こえの良い条約を要求したような形だが、新ソ連の全政権が日本に渡るという不平等なものだった。そのため、事実上日本の領土は世界一となり、新ソ連は日本の一部となった。日本はアメリカが敵視していた新ソ連を倒したことで、アメリカと同盟、日米同盟なるものを結び、日本はアメリカと良き仲間となっていった。…アメリカは日本の強力な後ろ盾となった。つまり、信事たちはそう簡単に手を出すことができなくなったということになる。
「これは俺たち改進軍にも危険が及ぶことになる。どうする?これはかなりマズイ状況だ。
敵が日本だけならどれだけ良かったことだろうか。」
珍しく掠矢が心配事を投げかけた。
「いや、進もう。もう後戻りはできない。」
正直、俺はロシアのことがとても憎かった。とてもとても憎かった。それは日本の敵だからではない。とんでもないくらいの私情だが、別のことで憎かった。
これでいいと思った。これで戦争は一時的に終わる。そう思った。でも日本は絶対にまた戦争を始めるだろう。今、ヨーロッパの同盟を狙った戦争が繰り広げられている。俺たち改進軍は、新たに、仮戦力として、戦闘部隊の編成をしていた。絶対に人の命を奪うことをしてはいけないことは解っている。だが、俺たちの命は確実に安全というのは当てにならないどころか、不安要素がたんまりとある。少なくとも、護衛はあって損はないだろう。今の日本みたくならないよう、護衛が権力を持たないような工夫はしているが。
裏ルートで様々な武器を手に入れた。平和主義と言いつつ、多くの武器を密輸しているのだ。あくまで、護衛という建前をつけて。信事は、その矛盾に気付いていない。いや、気付いているのかもしれないが、その事実に目を向けようとしていなかった。新たに武器庫を設立して数々の武器を輸入した。信事もカスタムしたSIGP320の一丁を腰に装備していた。使わないことを祈りつつ、軍隊の真似事にならないよう細心の注意を払った。
「ここまでして何事もなかったらどうするのよ?」
掠矢が苦笑気味に疑問を垂らす。
「そのほうがいいじゃない?何事もない方が。」
すかさず沙羅が突っ込む。
「久しぶりに三人で会えたな。…こんな俺で悪いが、指示に従ってくれてありがとな。」
俺はそんな感想をこぼした。
「今日は八月五日か。」
掠矢は考え込みながらつぶやく。
「…言いたいことはわかるが…そんなこと考えているのか?お前らしくないじゃないか。」
「あんまり考えていると早く年食うぞ。」
そんな突っ込み始めて聞いたぞ、沙羅よ。
「俺はあんたらほど早く年なんぞ食わんわ、馬鹿か。」
すかさず突っ込む掠矢。
「どちらかというと、アホです。」
「知らん。」
「沙羅って、アホなのか。」
「知らん。」
「掠矢はどうなのだろう。」
「知らん。」
「猿…?」
「…知らん。」
沙羅に猿なんて言われた掠矢が少しだけ可哀そうだった。
「いやそれは無い。なぁ、掠矢。」
「知らん‼」
「そんなに力んだ「知らん‼」なんてはじめてきいたぞ、私。」
沙羅さん、突っ込むところおかしくない?
「てか、何故そんなに「知らん」ばっかり言っているの?」
「…それこそ知らんわ。」
「あそう。」
これは掠矢のボケなのか?だとしたら、滅多にボケない掠矢だからこそ珍しいのでは?そんな茶番に、俺は連日の疲れを忘れた。俺はある、オレンジ色という珍しい色の弾頭を取り出した。
「何だ、それ。色がおかしくないか?」
「さっすが掠矢。そう、これはただの弾頭じゃない。」
「じゃぁ何?」
沙羅が目を輝かせる。
「こいつはな、爆発弾という。」
「「ば、爆発弾⁈」」
「そう、爆発弾だ。文字通り、こいつを打つと爆発する。打った手元でな。」
一瞬、ほかの二人は硬直した。
「…ようは、こいつを込めて銃ごと投げればこの銃自体が爆弾になるのさ。」
「…脅かすな。」
「うん、使うな。」
この場はそれだけで収集した。本当に使うことにならなければいいが。
これ以上戦争はさせてはいけない。止めたい。止めなければならない。
ここにある爆発弾、これが最初の、俺自身の改進だ。覚悟を決めろ。




