第二話 普通を覆す
たまに思うことがある。普通って何だろうって。そもそも、普通という言葉自体、矛盾していると思う。だって自分にとって普通でも他の誰かにとっては普通じゃないかもしれないから。だから思うのだ。普通って何だろうって。
この世界での普通は、「戦闘機で人を殺す」で違いないだろう。或いはその「訓練をする」っていうことが挙げられる。戦争中のこの世界はまさしく混沌、カオスの再現であった。
「おかしいね。唯一話し合い、共存できる種族に生まれたはずなのに。」
「人っていうのはそういう種族なのさ、仕方がない。」
そう、沙羅が言う通り、人間は本当に愚かである。他の動物には、細かい情報をやり取りできるようなコミュニケーション能力は与えられなかった。対し人間はあらゆる情報を言葉や数字で処理して会話し、交換できる。しかし、絶対に話し合いで解決しようとはしないのだ。彼らは何故そこまでして自分の意見を通さなければならないと信じるのか。俺は疑問に思っていた。誰もが納得することができる事柄なんて存在しないのに、なぜそこまでして自分の私欲を押し付けなければいけないのか。長年の疑問だった。こんな世界では、平和なんて生まれるわけがない。この戦いに勝てば平和になる?嘘をつけ。人を殺しても平和など訪れるわけがない。誰もが戦場で思うはずだ。俺は自分の意思でここまできたと。でも死ぬ直前は違う。死にたくない。そう思うはずだ。人生に後悔するはずだ。死に際を変えたいと思うはずだ。この世界は嘘つきだ。俺はそんな平和なんて認めない。認めたくない。俺は、俺が信じる平和を実現させて見せる。
「沙羅、掠矢、俺は、すべての人が、生きていてよかったと思える世界が平和だと思う。だから俺はこの世界を変え、すべての人にとっての平和を目指す。だから…手伝ってくれ。」
「お前が信じる平和は、犯罪者をどうとらえる?」
「犯罪する経緯と、しなければならない状況でない限り犯罪をしない環境を目指す。」
「犯罪をしない?」
沙羅が問い返した。
「要は、犯罪をする理由がなければ誰も犯罪をしない。それでいいじゃないか。」
「…さすがだ。その発想は無かった。」
掠矢が頭を抱えて言った。…このクラスは俺たちの物となったが、このクラスだけでは無論のこと日本を抑えることはできないだろう。三年生は今、訓練合宿をしていて、一か月は帰ってこない。戦闘訓練だろう。しかし、その日の夜に事態は変化を遂げた。
「少年、天皇がお呼びだ。」
掠矢が俺を呼んだ。
「天皇が?遂に見つかったか?」
「解らん。沙羅、信事、明日の午前九時、皇居の半蔵門前に来るように言われた。」
「伝言か?」
気になった事を問う。
「いや、紙だ。手紙だ。」
「手紙…なんか、嫌な予感がするのは俺だけだろうな。」
「いや、私も。」
「君もかい。残念ながら、俺も感じている。」
三人は顔を見合わせた。全員、息を呑んだ。
翌朝、信じられないほどの快晴、暑い。雲一つない。歓迎してくれる空はいつになく俺たちに意地悪だった。死をも覚悟した。門をくぐり、会議室に案内される。そこで、信じられん言葉が、天皇の口から出た。
「日本を、救ってくれ。」
何でも、俺たちの存在を知った、天皇の側近が、相談してきた天皇に俺たちの存在を語ったらしい。というか、指揮系統は天皇が上だが、今では軍が権力の一人走りをして、軍のほうが権力は上らしい。これで、俺たちは正式な任務となった世界救済を、天皇の許可の元実行することになった。俺たちは、天皇と握手を交わした。そして今度は、掠矢の部の顧問、副顧問の先生に相談をすることを計画した。あの二人は、意地悪と評判だが、実際はとても人間らしい人である。そして、彼らとの連携を図り、協力して、一年生全体にこの話を広めていくことになった。そして、顧問二人との交渉も成立、二人の後ろ盾もあり、たった十人だけの組織を味方につけた。ここの指示はもちろん部長。その指示をだすのが副部長という、おかしな、今の日本のような指揮系統となった。正直、道中爆笑していたのは部長には秘密である。その後、全校朝礼が開かれそこでこの学校と勝負をつけようとした。目指すのは、かつて夢見た平和である。
天皇は俺たちの見方だ。普通ではないことかもしれない。でも、革命とは、普通を覆すことだ。どんなに普通でない世界であっても、それを覆す。後悔はしない。俺は絶対に、後悔はしない。




