フライングシスター
「フライング!」
「ぐふっ!?」
ある日の休日。自室のベッドに寝転がってゲームをしていたら、突如侵入してきた姉にボディプレスをくらった。
だがいつもの事なので気にしない。今は画面の中の敵の猛攻からカウンターを決めるタイミングを見切る方が重要なのだ。
「あーこいつ強いから私嫌……何今の!? こんなのあるの!? どうやったの!?」
姉さんの言葉を聞き流しつつタイミングよく敵の攻撃を弾きカウンターを決めると、画面の中のキャラクターが華麗な連続攻撃をきめる。
それを見た姉さん俺の上でおおはしゃぎ。重くは無いが膝は痛い膝。
「姉さん何か用?」
「あ、そうそう」
ひとまず戦況が落ち着いたので聞くと、姉さんはパンと手を叩いて言う。
「アユちゃんが来てるよー」
「……は?」
言われてまさかと視線を部屋の入り口に向けたら、そこには生暖かい視線を向けてくる小笠原妹の姿が。
「……」
「……」
「あ、死んだ」
妙な沈黙に包まれた室内に、操作していたキャラクターの断末魔と姉さんの声が響いた。
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もうすぐ兄の誕生日。そんなときにユウコさんから提案されたのは、一緒にケーキを作らないかというものだった。
いくらウザいとはいえ年に一度の誕生日。プレゼントらしいプレゼントも普段はあげてないのだし、今年くらいは“らしい”ことをしてあげようかと了承してユウコさんの家にお邪魔したのだけれど……。
「じゃあ、はりきってケーキ作っちゃおうか」
「……」
可愛らしい花柄エプロンをつけたユウコさん。その隣には青色のエプロンを着けたカズマくん。
……何故参加している?
「カズちゃんは昔から私のお菓子作りの助手なのです!」
エヘンと胸をはるユウコさんの隣で、包丁でリンゴの皮をシャーッと剥いていくカズマくん。
……え、負けてる? 調理技術で男子に負けてる?
「アユちゃんはスポンジケーキ作ったことある」
「無いですね。パウンドケーキならありますけど」
そもそもうちにホール用の円い型はあるのだろうか。子供の頃から誕生日ケーキは買ってもらうものだったし、母も作ったことがあるのか怪しい。
「じゃあせっかくだから作り方覚えようか。最初は卵から……カズちゃんは湯煎の準備してね」
「……」
ユウコさんの指示を聞きてきぱきと動き始めるカズマくん。
こうしてユウコさん主導、助手私とカズマくんによるケーキ作りが始まったのだけれど、女子力で男子に負けるという屈辱をきすることになった。
実はヘタレな性格といい、この男見た目とのギャップが激しすぎる。
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「もう遅いしアユちゃん送ってあげてね」
ケーキ作りが終わり小笠原妹が帰り支度を始めたところで、ご満悦な様子の姉さんにそう命じられた。
まあ確かに最近は日が陰るのも早くなってきたし、仮にも女の子である小笠原妹を一人で歩かせるわけにはいかないだろう。
小笠原妹の方が俺より頼りになりそうだとは思ってても言わない。
言ったら秋だというのに雪女が降臨してしまう。
「貴方は一人でケーキとか作れるの?」
「……」
無言で頷けば微妙な視線をもらった。
……男らしくなくて悪かったな。
山間に近い住宅街に人通りは少なく、街灯も疎らでいかにも田舎な道ばかりだ。
なるほど姉さんが送れと言ったのも頷ける。人が居なさすぎて逆に犯罪とか起きそうにないが、それはそれだろう。
「仲が良くていいわね。うちのも少し自重してくれたら付き合いを考えるんだけど」
まあ確かに小笠原さんの妹への溺愛っぷりは見ててひくレベルだ。しかし小笠原妹も本音ではそんなに嫌っているようには見えないが。
「……」
ツンとした感じの顔をした小笠原妹の横顔を見て思う。
この女単なるツンデレではないのかと。
「今私を不名誉なカテゴリーに仕分けなかった?」
いきなりグルンと振り向いてガンつけながら言ってくる小笠原様。
小笠原家に着くまで俺はただその眼光から視線を反らし続けることしかできなかった。