第42話 強敵、パニ・キュラータ
ミュージアムの内部では、激しい撃ち合いが起きている。
この一帯の美術品は、ターゲット以外はすべてイミテーションだ。贋作というか、その辺で売っている食器やイラストが「美術品という体で」並んでいる。すべて工場製品で、壊れても構わない。
「できるだけ、器物の破損はしないように」というルールは、一応ある。
とはいえ運営側も、学生にそこまでの配慮は期待していなかった。
「建物自体に穴を開けてはいけない」というルールがないため、ドアも壁も刀傷や風穴だらけになっている。
ただし、ターゲットの絵は絶対に壊してはならない。
「かかってきな! あたしがダンジョン防衛ミッションのなんたるかを、教えてやるぜ!」
あたしは「壊してはならない体の」茶碗を両手に持って、立ちふさがる冒険者たちを挑発した。
『遊んでんじゃないわよ、モモ』
「はーい」
はるたんから叱られて、マジメに冒険者を叩きのめす。
ていうか、やっぱりプロは強い。美術品を盾にしても、構わず襲いかかってくる。しかも、ちゃんと美術品をすり抜けてくる。本物を前にしても、同じ動きをしてきただろう。
ターゲットの置かれている地点に、到着した。
盗賊団のターゲットは、【百鬼夜行】という絵である。
世間では無名だが、陰陽道では名の知れた絵師による絵画らしい。
絵の素晴らしさというより、秘められた魔力に価値があるそうだ。これがあれば、鬼族の魔力を抑えられる代物だとか。
ドワ女のボスである三年生のトロちゃんことトローゼ・フィングスちゃんが、二年のパニ・キュラータさんに肩車してもらって、絵を盗もうとしている。
「来たっすよ、部長!」
「迎撃しろ!」
パニさんが、マシンガンを乱射した。
「おらおらおらおらおら」
あたしはプロテクターのげんこつで、銃弾を「一発一発を正確に」弾き飛ばす。
「なんつー芸当っすか!?」
撃ったパニさんが、おぼつかない手つきでマガジンを交換する。
ぶっちゃけ、あたしが一番ビビっていた。レア素材で作ったとはいえ、このプロテクターすごすぎだろ。反射神経にさえ、影響するのかよと。
「絵さえいただいたら、こっちのものだ! ずらかるぞ!」
絵をゲットして、トロちゃんは勝ちを確信したようだ。
「そうはいくかっての!」
「トロちゃん部長! 先に行くっす! ここはオイラが食い止めるっすよ!」
パニさんが、肩車していたトロちゃんを出口に投げ飛ばす。
「七星 洲桃ちゃん! 一度ちゃんと戦ってみたかったんすよ、あんたとは! よろしくっすよ!」
「こちらこそ、よろしくぅ! パニさんよお!」
あいさつと同時に、パニさんがマシンガンを乱射した。
さすがのプロテクターも、防御の制度が悪い。長い時間使用したせいで、腕を酷使しすぎている。相手の武器もレア装備なため、こちらの耐久値がゴリゴリ減っていく。
とはいえ、急所への直撃は免れた。
「肉弾戦の方が、性に合ってるっす!」
パニさんが、銃を捨てる。
ここからは、肉弾戦になった。互いの拳や蹴りを、ぶつけ合う。
やはりパニさんは、並の冒険者より戦闘能力が高い。プロ相手でも、十分通用するだろう。こちらがドラゴンキラーを使うことすら、許さない。
「ドラゴンキラーは、使わせないっす」
組み技を駆使して、パニさんはこちらの関節を外しにかかる。
見た目は女子プロレスレスラーなのに、技の数々はどれも実戦向きだ。
こちらがいくら打撃を与えても、肉の塊なパニさんは威力を吸収してしまう。
ダメージを蓄積させても、身体強化ですぐに回復していく。
全力で戦っているが、あたしの目的はパニさんを倒すことじゃない。
警察チームの勝利に、貢献すること。
あたしの仕事は、もっともフィジカルが強いパニさんを止める。
『勝者、警察チーム!』
突然、ミッション終了を知らせるブザーが鳴った。
『モモ。よくやった。トロちゃんは、こちらで確保したわ』
はるたんから連絡が入って、あたしもようやく勝利を確信する。
「勝負は、二日目以降にお預けっすね」
「はい。すぐに決着がついたら、面白くないですからね」
あたしは試合を終えて、パニさんと抱き合う。
『……待ってください!』
麝香学園の放送が、慌ただしいものに変わる。
「はるたん、何があった?」
外でトロちゃんを抑えているはるたんに、状況を確認してもらう。
『モモ、大変。ターゲット以外の美術品を乗せたトラックが、鬼怨組に持っていかれた!』
はるたんから、連絡が入った。
一部の鬼族が、ミュージアムの近くに止めてあった美術品保管用トラックを盗んだという。
「マジかよ~」
『今、運営の麝香学園が、空から追跡してる。ウチも乗せてもらってるから、指示できるわよ』
「わかった」
つっても、足がねえじゃん!
デリオン姫が持ってる【ジャケット・ギア】だって、高速移動用の乗り物ではない。
と思っていたら、大型バイクがあたしの前に。
乗っているのは、ピオニである。
「乗れよ、洲桃」
メットを借りようとしたが、ピオニも今は被っていない。
「いや、メットを被らんと」
「いらないよ。【モンジャ】、GO」
バイクが、赤い狼に変化した。狼と言うには、大型バイクよりデカい。二人乗りしても、十分のサイズである。
「ピオニ。お前、【ビーストテイマー】だったんだな?」




