第38話 鬼怨《おにおん》組
「鬼ヶ島って、桃太郎だよね。香川発祥説の他には、岡山説、岐阜県説ってあるよね? 徳島にもあったなんて……」
「なーにをおっしゃるか、野呂のぼっちゃまよぉ。逆に考えるんよ。『そもそも、鬼ヶ島は一つに限らん』よってに」
おばーちゃんから指摘され、野呂先輩は「ああっ」と口を手で覆う。
「桃太郎の伝承ってのは、特定の市町村だけとは限らんのよぉ」
鬼ヶ島にずっと住んでいるおばーちゃんいわく、桃太郎の伝承はあちこちで確認されているという。
「ここは、【鬼ヶ島】と呼ばれる異界の一部なわけさ」
日本最古のダンジョンのひとつ、それが【鬼ヶ島】だと。
「そうか。一言で鬼ヶ島、つっても、群島の可能性があるのか。あーっ。そういうことか。群島の一つが日本に顕現して、あっちこっちで悪さをしていたと。それも各地で発生して……ふむふむ」
はるたんが、一人で納得している。
ひとことでいうと、鬼ヶ島も世界中にあって、それを退治した桃太郎も世界中にいたってわけだ。
「だからどちらの伝承も正しく、どちらも間違っておる。【邪馬台国】ってのも、そうだねぇ」
昔話で語られる伝説の地域も、別に特定の地域にあるわけではないらしい。なんたって、【異世界】なんだから。神出鬼没であり、正体不明で当然なのである。
「ひとまず、その鬼怨組ってのは、魔物界隈でもマジモンの極道さんって解釈でOK?」
ピオニが尋ねると、おばーちゃんはうなずく。
「遭遇したら、どうすれば?」
「関わらんほうが、ええじゃろ。相手は、人類とずっと敵対しておった組織じゃからのう」
おばーちゃんの言葉には、説得力がある。
「じゃあ、ちょっくら朝の仕入れに行くか。モモ、行くよ」
「デリオン姫、店番を頼む」
あたしは腰を上げて、はるたんと出かけることにした。
ピオニたちの腕も、見ておきたい。
ドロケイ中、午前中はフリー活動をしてもOKだ。本格的な戦いは、午後からになる。
「まずは朝食がてら、愚地三姉妹がいる巫女茶屋を、ひやかしに行こう」
「いいね。行こう、はるたん」
現在時刻は、朝の一〇時だ。朝飯はフェリーで済ませたが、ダンジョンに向かうならまだ食い足りない。軽く腹に、なにか入れたかった。
たしか愚地三姉妹率いる巳柳高校は、巫女茶屋を営んでいるはず。
神社までの長い石段を登ると、空腹がより促進される。
これなら、うまいお茶菓子が楽しめそう。
「いらっしゃいませ。オススメは、くるみ餅ですわ」
巫女服姿の三姉妹が、お出迎えしてくれた。
次女の三澄が、メニューを見せてくれる。
「まさか、青葉まで巫女服を着ているとは」
ボーイッシュな三女は、こういうヒラヒラした服を嫌がるかなと思っていたが。
「ホントは、ヤなんだけどね。姉さんたちが『衣装を合わせろ』っていうからさ。ほんじゃ、さっさと食べてさっさと帰ってね」
「わーい。いただきまーす」
冷やしほうじ茶とくるみ餅を、堪能する。
うまい。ずんだの甘すぎない餡が、ほうじ茶と合う。毒耐性のバフ効果があるのも、ファンタジー世界っぽくていい。
「うめえ。持って帰りてえな」
「夏はおやめなさい」
長女の友希那からそう言われて、ピオニは残念がる。
「愚地さん方、そっちは、うまくやれてる?」
「まだ招集はかかっておりませんわ。ですが、午後は泥棒三姉妹として活躍しちゃいますから、お楽しみに」
マンガの怪盗団のようなセリフを言うんだな。
「ごちそうさま。じゃあ、あたしらは午後の戦闘に備えて、装備品の素材を集めてくるから」
「どんな武器が来ても、我々には通用しませんわ。では、ごきげんよう」
さて、ダンジョン探索だ。
あたしたち市民側にも、ミッションはある。【強い装備を作ろう】という、ミッションだ。
市民側は、【お宝】の争奪戦にはあまり絡めない。そのかわり、「お宝を作る」側に回ることができるのだ。たとえば、レア装備の作成などである。
「強い装備ったって、どういうのだ?」
手持ちの【ドラゴンキラー】では、ダメなのか? 店売りの中では、かなり最強の部類なんだが。
「必要なのは、防具でしょ。なんたって、人類敵対ガチ勢が紛れ込む可能性があるんだ。制服の上に、それを着ろってことでしょ」
ならば必要なのは、鉱石類かな。
「ピオニたちは、ほしい武器・防具類はある? でも、ピオニ以外は魔法使いだよね?」
「そうだね。特に僕は火力担当の魔法使いだから、オフハンドがほしいかな」
オフハンドとは、利き腕ではない方のことである。戦士なら、盾やら道具やらを装備する感じだろうけど。
魔法使いって、何を装備すれば?
ちなみにはるたんは、手を空けている。彼女は火力以外も担当する、何でも屋タイプの魔法使いだ。仕掛け解除など、やることが多い。
勇者連合では、野呂 アスカ先輩が火力を、ティナがヒールやトラップ解除などを担当している。
野呂先輩、わりかし強いな。出力も調整して、バ火力で突っ込んでいくタイプでもない。
しかし、異彩を放っていたのはやはりピオニだ。
重火器だけで、魔物を倒している。
こんなに正確無比な射撃ができる冒険者を、あたしは見たことがない。
そもそも魔物は、銃に対する耐性は強いはず。
魔力を直接流し込める実体剣の方が、爆発力と推進力頼みの銃より威力が強い。
しかしピオニは、弱点を的確に捉えて、確実に相手を仕留めていた。
でも防御面は、たしかに心もとないかも。
よし、帰ったら腕によりをかけてやろう。
その前に、午後の盗賊ミッション妨害だな。
「おい! 急げ! レア素材を集めるんだよ!」
素材もあらかた集まって、もうちょっとで帰ろうとしていたときだった。
あいつら、ひょっとすると、鬼怨組なのでは?




