第37話 ピオニ遅刻の真相
「おお、あんた、野呂さんとこのお孫さんかい?」
「祖父をご存知で?」
「あたしゃ、あんたのおじいさんのオシメも変えてやったことがあるよ」
「ああ、それは、どうも。恐縮です」
野呂先輩が、頭をかく。
「野呂さんとこのお孫さんと、バイクのお嬢ちゃんがお友だちだったとはねえ。運命だねえ」
店主のおばーちゃんが、しみじみと語った。
「ピオニったら、照れ屋さんなのです。おっしゃってくれたら、ちゃんと副部長にもわかってくれましたのに」
「ホントだよ。蓮川さんだって、鬼じゃない」
仲間ふたりが、ピオニの肩を持つ。
「いいって。それくらいのことで褒められたくないんだよ。コンビニに寄ったついでで、このばーちゃん見つけただけだし」
「でも勇者ってのは、ダンジョンを攻略したり、強い魔物を討伐するだけじゃない。人助けこそ、立派な勇者の仕事だと思うよ」
「だから、そういうのは報告するもんじゃないんだって。オレに対する評価なんて、どうでもいいんだよ」
ピオニは人助けによる称賛を、特に気にしていない様子だ。ただ人が助かればよい、ってスタンスみたい。
「でもサービスくらいはさせな。ほら」
弾丸となる花火を、あたしはピオニに数発おまけする。
「いいのか、洲桃?」
「どうってことないって。世話になってる店主を、助けてもらったんだ。これくらいはさせろよ。なあ、はるたん?」
あたしが聞くと、はるたんもサムズ・アップした。
「ありがとよ。あんたらのことを、フォローしてやる」
「それは心強いな」
市民役の人は、味方してくれる冒険者からフォローを受けることができる。
あたしたちはこのドロケイ合宿では、警察側のアイテムショップだ。なので、警察の助けも借りられる。
「わたしもです。ラムネを数本くださいな。それと、治療の魔導書を」
ピオニの相棒である睡蓮 ティナは、ラムネを買う。彼女は白衣を着ていて、ドロケイでは「科捜研の魔女」を担当するらしい。どんな仕事をするのか、想像もつかない。
「はい。睡蓮さん」
「ティナで結構ですよー。ピオニも下の名前で呼ぶなら、わたしもみなさんとお友だちです」
「じゃあ、ティナ。どうぞー」
「ありがとうございます」
ラムネを受け取ったティナは、魔導書のある店頭へ。
「そうだ、僕も買い物だった」
野呂 アスカ氏は、攻撃系の魔導書がほしいという。この人もはるたんと一緒で、装備が純魔なんだよな。
男子の買い物は早いと言うが、なんかアスカ氏の場合は焦っている感じ。
「急いでるの?」
「いや。午前中は、ダンジョンの見張りと周辺の警備だけ。本格的に忙しくなるのは午後からだけど」
ダンジョン部合同合宿「ドロケイ」の泥棒側には、【ミッション】がある。「警察の警備をかいくぐって、お宝を盗む」「警察署を襲う」「要人を誘拐する」といったものだ。
「だとしたらモモ、あれだ。ここが女の園になっちゃってるから、照れてるんだよ」
ああー、思春期特有の意識し過ぎ系か。
「ようこそ、野呂先輩。女の園へ」
なるべく色っぽい声を、ジョークで出してみる。
「やめろモモ。朝から吐く」
「だな。朝から気分が悪くなってきた」
えーっ。
「あ、あのー、ちょっといいかい?」
話題を変えたいのか、野呂先輩が店頭の本棚を指差す。
「おっ。意識しちゃったんじゃない? 野呂先輩は」
「するか。で、先輩、どうなさった?」
はるたんが、冷たい。
「陳列が、グチャグチャだね」
「ホントですねー」
ティナも、本棚の有り様に驚愕した。
「すいませんね、ティナ。野呂先輩。本棚は今朝、魔物にぶっ壊されまして」
「おやおや。また【鬼怨組】の仕業かねえ?」
本棚の近くまで出てきて、おばーちゃんが語りだす。
「鬼怨組?」
「かつてこの地を荒らしていた、鬼の一族だねぇ。いわゆる、桃太郎伝説の鬼の子孫だよ」
つまり、ここはいわゆる「鬼ヶ島」なんだそうだ。




