表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファンタズム・ファンタジア  作者: 日差丸
第二章『銀座のキリエ編』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/36

第31話 両手に華のショッピング

投稿が遅くなってすみません。ゴールデンウィークで気が緩みすぎてつい忘れてしまっていました。まだまだストックはあるのでご安心を。

 護衛が始まってからもう一週間が経つ。

 現状は平和だ。襲撃どころか手紙の差出人ことP・Sの痕跡一つすらない。

 今日も王牙たちはヒカリの学校の屋上で護衛を続けていた。しかし暇な時間が続けば警戒も緩むわけで、王牙はあくびを噛み殺しながら彼女に話しかける。


「それにしてもヒカリは偉いよなー。もう十分アイドルとしても成功してるのに、律儀に学校も通ってるんだし」

「授業放り出して屋上で日向ぼっこしているあなたとは大違いね」

「それを言うなよ……」


 登校再開した時の牛丸の顔を想像するだけで震えが止まらなくなるが、依頼の方が重要なので仕方がない。

 そもそも王牙は高校卒業をそれほど重視していなかった。それは彼が普通の人間として生きていくことが難しいことを、心の奥底で彼自身がよくわかっていたからだ。

 前々から夜美は王牙を『社会不適合者』とけなすが、これは事実だろう。想像すれば簡単だ。人外並みに身体能力が高く、暴力に抵抗がなく、沸点が低く、そして少しの嘘も許さない人間。そんな存在が嘘と虚構まみれの人間社会で暮らしていくことができるだろうか? いや、できない。王牙自身、もしまともな会社に就職しても、一週間以内に社長含む上司複数を病院送りにするだろう自信があった。夜美もその性質をよく知っているからこそ、あえてこの言葉を使っているのだ。

 王牙が独立術師としての依頼を学校生活より重視するのには、そういった理由があった。


「ん……? ヒカリからメールが来てるな。どれどれ……」


 護衛中に連絡先を交換したトークアプリを開き、中身を見る。


「……は?」


 そこには『今週の土曜日、デパートに行かない?』という文字だけがあった。


 ♦︎


「それにしても都会だな。東京は人が多くて嫌になるぜ」

「香霊町も一応東京でしょうが」


 学校がない土曜日の日。王牙たちは慣れない電車を乗り継ぎ、銀座にあるデパートに来ていた。

 待ち合わせ場所近くにある椅子に二人は腰掛けている。周囲は本当に人だらけだ。この階のみならず、上の階も下の階も人で埋もれている。まるで祭りでもやっているようである。

 夜美の服装も周囲に合わせて現代風のものに偽装されていた。毎日別のデザインを選ぶあたり、彼女も女子であるようだ。いつもの巫女服姿は最近では家でしか見ていないような気がする。彼女としては私服は着物を着たいようだが、彼女の満足するレベルのものは全て作成に長い時間が必要なオーダーメイド品であり、それならと妥協して仕事着である巫女服を着ているらしい。


「デパートか……。たしかにこれだけ複数の店が一つの巨大な建物の中にあったら便利よね。陰陽師院に戻れたら作ってみようかしら?」

「お前の家ってどんだけ金持ちなんだよ……」


 『デパートを建てる』という言葉を個人からポンと聞くとは思わなかった。本当にできそうなのが怖い。


「待ち合わせ時間までもうそろそろか……あいつもアイドルだし、どんな変装をしてくるんだろうな」

「さあ? 無難にフードでも被ってくるんじゃないかしら? それとも伊達メガネとか?」


 普段の活動圏である学校や事務所は香霊町よりはずっと都会ではあるものの、一通りが少ない場所に建っているため、変装をする必要はなかった。

 しかしここ銀座は東京の中心地の一つだ。今まで通りにはいかないだろう。

 目を凝らして変装したヒカリを探していると、長い栗色の髪をツインテールにまとめている美少女が手を振りながらやってきた。


「おーい! お待たせー!」

「ばっ……!?」


 王牙の顔が驚愕に染まる。

 ヒカリは何も変装をしていなかった。しているのは髪型を変えたことぐらいだ。それ以外はまったくの素顔、おまけに気合の入った服のせいで光り輝いているように見えた。


「ちょっと来い!」

「へっ? あ……手が……」


 すぐさま王牙は彼女を連れてトイレに続く通路に引き込む。ここなら人通りはほとんどない。彼女はなぜか少し顔を赤らめていたが、そんなことは無視して彼女を詰問することにした。

 

「ばばばバカやろう! なんだその変装は!? 隠す気あんのか!?」

「ちゃんと髪型で雰囲気とか変えてるよ?」

「顔が隠れてなくちゃ意味ねえだろうが!」

「で、でも、私今までこれでごまかせてきたんだけれど……」

「あ? そんなわけ……」

「それは事実みたいよ王牙」


 そう断言したのは遅れてやってきた夜美だった。彼女はヒカリに近づくと、その胸元をまさぐる。ヒカリが「ひゃっ」と変な声をあげた。それを無視して夜美はペンダントのようなものをそこから取り出してみせる。


「これは呪具ね。しかもどうやら存在隠蔽の効果があるみたい。その適当な変装で身バレすることがなかったのは、おそらくこれのおかげでしょうね」

「これは……綺麗な十字架だな」


 そのペンダントは銀の十字架だった。よく若い人がつけるような余計な飾りはなく、ただただシンプルで質素な作り。しかしそれゆえに飾らない清楚感が滲み出ている。まるで本職の人間が身につけるようなものに似ていた。


「これをどこで手に入れたのかしら?」

「ええと、それは……うっ!?」


 それに答えようとした途端、突如ヒカリの頭に激痛が走った。体中に力が入らなくなり、耐えきれずにゆらゆらと上半身が揺れる。



『こ……を、き……に……』

『うれ……! あ……が……う……先……!』


 そして一瞬だけ、何かの映像が頭をよぎった。

 顔は見えない。ただ大と小二つの人影がその中にはいた。その映像がなんなのかと問う間もなく、ヒカリは王牙に体を支えられたことで初めて現実に引き戻される。


「おい、大丈夫か!?」

「う……うん……」

「ならいいけどよ。まったく、急にふらつきやがって。過労か?」

「あ……あはは……。支えてくれてありがと、王牙」


 いつのまにか頭に走った激痛も消え去っていた。そのおかげで彼女はすぐにいつもの元気を取り戻し、心配をかけまいと太陽のような笑顔を見せつける。


「それと夜美さん。その……いろいろ振り返ったんだけど、このペンダントをいつ手に入れたのかは私も覚えていないの。中学校に上がる前から持ってたから、相当昔だとは思うんだけど……」

「……そう。一応軽く確認はしてみたけど、それに隠蔽以外の効果はないみたい。そして効果はあなたが望んだ時にしか発動しないみたいよ。だから安心して今まで通りつけていいと思うわ」

「よ、よかった。これずっと使ってきたからか、一番のお気に入りなの」


 そう言って彼女は十字架を抱きしめるように両手で握る。それを見て本当に大事なんだということが王牙たちには伝わった。


「まあ目立たないならいっか。んじゃさっそく遊びに行くとしようぜ!」

「うん! エスコートよろしくね!」


 この一週間付きっきりで護衛したおかげだろう。ヒカリとの距離感はだいぶ縮まっていた。今では普通の友達くらいにはなれた気がする。

 彼女のそんな小っ恥ずかしいセリフに頭をかきながら、王牙は今日ぐらいは彼女を存分に楽しませてやることを決めた。


 ♦︎


「それにしても事務所が休みになるなんてな」

「ライブは今月なのに珍しいよね。P・Sに関することで重大な会議をするって社長は言ってたから、幹部以外の人たちは今日はお休みなんだって。ついでにこの際息抜きも兼ねて私も暇を出されたわけ」


 デパートをうろつきながら、ヒカリは今日が休みになった経緯について話してくれた。

 たしかにP・Sの件のせいか、最近の彼女はどこか疲れ気味だった。体ではなく、心が弱まっていたのだ。そこで一旦遊ばせることでリフレッシュさせようという事務所の方針に王牙もそれがいいと思った。


「なるほどな。だから遊びに誘ってくれたのか」

「だ、だって遊ぶのなんて中学時代以来なんだもん。誘う同年代の人たちもいないし……」


 彼女の言葉は後になるにつれて尻すぼみになっていった。

 彼女は高校生でありながら有名アイドルをやっているのだ。友人を作るのも大変だったのだろう。同年代とはいえ、一週間ほどしか付き合いがない王牙たちを誘うあたり、彼女の人間関係の苦労が伺えた。


「つっても、女子の遊びってなにするんだ? あいにくとこっちの女は読書くらいしか遊びを知らんから役に立たないと思うぞ?」

「誰が女子失格よ。私だって華の女子っぽいことはしているわ。ショッピングとか」

「なぁにがショッピングだ! テメェのはネット通販とかオークションでワンクリックするだけだろうが! それも買うのはやたら高額なものばかり! 300万円のお香をなんの相談もなく買ったのはまだ許してねえからな!?」

「別にいいじゃない。100万や1000万の一つくらい、ちょっと働けばすぐに稼げるわよ。きっと」


 何度も王牙の家計を火の車にしたくせに、彼女の顔に反省の色は微塵もなかった。

 彼女の欠点その二。金銭的感覚が絶望的に庶民とマッチしていないこと。この少女は放っておいたら平気で数百数千万円の買い物をしてしまうのだ。いくら独立術師が稼げる仕事だとしても、この額は普通にキツイ。ましてやこちらはまだなってから一ヶ月も経っていない新人だ。だが彼女は名家生まれでお金に困ったことがないせいか、心のどこかでなんとかなると思っている節がある。

 というわけで、現在の王牙たちは八百神社にいくらか立て替えてもらって、借金を背負っている状態なのであった。


「今回の仕事で500万はもらえるはずだから、借金はそれでギリギリ返せるはず。あとは……」

「と、とりあえずショッピングするってのは正解だよ! ここのデパートにはシーズンに合わせた色々な服が売ってるの! それを見に行こうよ!」


 暗く沈みかけた雰囲気を消し去ってくれたのはヒカリだった。危ないところだった。遊びに来たはずなのに思わずストレスで胃に穴が空きそうになっていた。


「でも私、浮世のファッションなんてわからないのだけれど……」

「えぇ!? もったいない! 夜美さんそんなに綺麗なのに。じゃあ俄然気合が入るね。任せて! 今日であなたをキラッキラにしてあげる!」


 ヒカリは目をキラキラ輝かせると、夜美の手を取ってどこかへ走り去っていってしまった。

 これは長くなりそうだ……。

 もちろん王牙にはショッピングを楽しむ乙女心など皆無なので、ため息をつきながら彼女たちの後を追った。



「これは? こっちも似合いそう!」

「私は黒い服が好みなのだけれど……」

「たしかに夜美さんの明るい髪を目立たせる黒い服は、大人っぽさも際立たせて相性抜群だけど、それだけだと飽きられちゃうよ。ここは普段とは正反対の服を買うのはどうかな? 例えばこの白いワンピースとか」

「こ、こんな肌が露出しているハレンチな服、着れないわよ!」

「えぇ……? 夜美さんの巫女装束の方がよっぽどハレンチな気がするんだけど……」

「あ、あれは私が選んだデザインじゃないのよ!」


「勘弁してくれぇ……もう二時間だぞ……」


 デパートに来てから二時間、王牙はひたすら服を探し続ける少女たちについていくのに必死だった。

 なにが楽しくて女のファッションショーなど見なくてはならないのか。似合いそうな服を見つけるたびに彼女たちはそれを試着し、唯一の観客である王牙に見せつけてくる。

 最初は楽しかったが、それがこうも長引くといい加減疲れてくるのであった。


「もう……私たちのファッションショーを見られるなんてファンの人たちからすれば眉唾物なんだよ?」

「俺お前のファンじゃないし」

「ガーン……!」


 ちょっぴり涙目になっているヒカリを放っておいて、試着室のカーテンを睨み続ける。

 後は夜美だけなのだ。ようやくこの長い時間が終わると思うと、王牙の気も楽になっていた。


「……お待たせ」

「わぁ! いろいろな服を着せたけど、やっぱり夜美さんは白が似合うなぁ!」

「……」


 カーテンの奥から姿を現したのは夜美。彼女が今着ていたのは涼しげなノースリーブの白いワンピースだった。夜美は普段タイツやらなんやらでほとんど肌を露出することはない。なのでその真夏のお嬢様が着ているようなコーデは逆に新鮮に思えた。というか肌露出は増えているはずなのに、こっちの方が清楚っぽい雰囲気を感じられるのはなぜなんだろうか……。

 夜美はそのような服を今まで着たことがなかったのか、顔を少し赤らめて体を縮こませている。そんな彼女が醸し出すいつもとは違う魅力は、否が応でも王牙の視線を吸い寄せるのであった。


「……ど、どうかしら?」

「……いいんじゃねえか? 似合ってると思うぜ」

「……適当ね」

「俺は服には詳しくないからな。でも嘘はつかないぜ?」

「……そう」


 それだけ言うと、彼女はカーテンの奥の中に消えていってしまった。

 あらら、少し不機嫌にさせてしまったか? 王牙は少し自身の態度を反省し、頭をかく。

 しかし彼は知らないことなのだが、試着室の中の夜美は先ほどの彼の言葉を思い出し、誰も見たことがないほど顔を赤く染めていたのであった。


 そうしてショッピングはようやく終わったらしい。試着室から出た夜美は、ヒカリに選んでもらった数十着もの衣服を手に取ると、レジに向かっていった。


「あぁ……これでまた借金が……」

「心配しなくてもいつか返すわよ。いつかね」


 彼女が選んだ服は全てが質のいいブランドものであり、どれもが万越えをしていた。

 被害総額は……約50万。この金額でさえまだマシだと感じているあたり、王牙の金銭感覚もいよいよぶっ壊れてきたような気がした。

 そして衣服が詰まった紙袋をいくつもぶら下げて、三人は店を出る。もちろん荷物持ちは王牙だ。この時ばかりはこうなった要因である自身の筋肉を恨みたくなった。


「もう昼過ぎか。どっかで飯でも食おうぜ」

「そういえば、あっちにハンバーガーショップがあったわよ」

「もう! 二人とも適当すぎるよ! 女子が集まった時はね、おしゃれなカフェに行くのが定番なの!」

「つってもな……俺男だし。まあなんでもいいから連れてってくれ」


 意気揚々とスキップしながら進む彼女に連れられて、王牙たちはそのおしゃれなカフェとやらにやってきた。『スノーフィールド』という看板には見覚えがある。どうやら有名チェーン店であるようだ。しかし内装はどこか高級感が漂っており、値段もお高めである。当然王牙のような無骨な男には縁のない場所であり、少し入ることを躊躇した。

 そうしてようやく入店し、席に着いた王牙に待ち受けていたのは……理解不能な横文字の羅列だった。


「な、なんだこりゃ……? スノーフィールド……リザーブ……オリアート……ゴールデンフォーム……コールドブリュ? これコーヒーだよな?」

「キャラメルアートを一つ」

「ダメね……脳みそがパンクしそう」

「初心者はこのラテがおすすめだよ」

「じゃあそれで」


 理解不能なメニュー表と悪戦苦闘しながら、次に王牙たち初心者組は写真を参考にオムライスを注文する。対してヒカリはさすがというべきか、迷うことなくやたらオシャレで長い名前のパスタをオーダーしていた。


「はぁ……まだ昼なのにドッと疲れたぜ」

「うーん、私としてはまだ回り足りないんだけどなー。そうだ。王牙って服いつも同じのだよね? この際君のも見に行こうよ!」

「じょ、冗談じゃねえ! 俺は絶対お前らの着せ替え人形なんぞになってやらねえからな!」


 王牙の服は素肌白シャツに黒のジャケットと、いつも通りの白黒スタイルである。毎日同じ服を着ているのではなく、同じ種類の服が何着もあるのだ。

 かの有名なスティーブ・ジョブズなどは日々の決断の数を減らすことで脳のエネルギーの節約をしていたと聞く。王牙もそれにならって……いるわけではなく、ただ単に組み合わせを考えるのが面倒くさいから同じものを着ているというだけであった。


 その後、何度かヒカリに服屋に引っ張られそうになるも、なんとか全て回避した。そうやってデパート内で時間を忘れて騒いでいると、いつのまにか夕方になっていたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ