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ファンタズム・ファンタジア  作者: 日差丸
第二章『銀座のキリエ編』

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第27話 新たな依頼

 その後、王牙たちは当然の如く担任の牛丸に呼び出され、こっぴどく説教された。

 まあ反省はしてないが。そもそも喧嘩売りに来たやつの方が百パー悪い。王牙はあくまで自衛しているに過ぎない。それが彼の自論であった。

 ……その割には外道のような挑発をしていたが。

 そしてあっという間に時間が流れて五限が終わり、少しの休み時間が訪れる。王牙は机に足を乗せて椅子を傾かせながら、顔に教科書を被せて寝ていた。この時間は睡魔が特に酷い。さしもの王牙もこれにはかなわない。


「退院おめでとう、王牙君!」


 そんな時に話しかけられ、王牙は夢の彼方に行きそうになった意識を呼び戻す。気だるげに教科書をズラすと、開けた視界には白が目立つソメイヨシノの髪をした幼女が映った。


「……桜か」

「起こしてごめんね。でも先生の呼び出しとかがあってなかなか声かける機会がなかったから」

「別に放課後とかでもいいだろ」

「その……一番におめでとうって言いたくて……えへへ」

「はぁ……まあいいいや」


 彼女は気恥ずかしげに顔を赤らめていた。睡眠を邪魔されたことで多少沸いた不満もそれを見れば霧散してしまう。


「やっぱ二週間も家を空けてたら埃とか溜まっちゃうのかな?」

「あー……たしかに酷い有り様だったな」


 思い返すのはたった二週間でゴミ屋敷と化したあの悪夢のような一日。ゴミが散らかるだけならまだしも、どうやったらシャワーが千切れたりするんだ。あの女に家事を任せるとロクなことにならないと、王牙は学んだのだった。


「じゃ、じゃあさ! 今度私も掃除のお手伝いに行ってもいいかな?」

「あー、すまん。実は業者とかも呼んでもうもろもろ綺麗にしちまった後なんだ。だからもう掃除する必要ないと思うぜ」


 それに、これは言ってないことだが、彼女を家に連れていきたくない理由がもう一つある。言わずもがな、夜美のことだ。あの浮世離れした少女を誰かに見られたら、色々追及されるに決まっている。それは裏の世界に迷い込むきっかけとなってしまうかもしれない。

 しかしそんな事情を知らない彼女は、一瞬泣きそうな顔を浮かべてしまう。


「……や、やっぱり……女の人が……」

「ん? なんか言ったか?」

「その……えっと……王牙君の家って……」


「王牙王牙ぁ!! 見てくれよこれ!」


 ちっ、と王牙は露骨な舌打ちをする。そしてやかましく騒ぐ二人組に目を向けた。


「なんだよ。こっちは今桜と話してんだ。お前のくっせえ口の臭いが移るから帰れ帰れ」

「まーまーいいじゃんいいじゃん。それよりも見ろよこれ!」


 下竹は興奮気味にスマホの画面を突き出してきた。正直面倒くさかったが、無視することもできず、目をそちらに向ける。


「えーと、なになに……『スーパーアイドル桐絵ヒカリ、銀座ドームにて初の大規模ライブ開催決定』? なんだこりゃ?」

「なん……だと……!?」


 いったいこれのどこに驚く要素があるのか首を捻っていると、バカ二人組は信じられないものを見たような顔をしていた。


「な、なんだよ?」

「バカ! ヒカリちゃんって言ったら今じゃ日本全国民が知ってるアイドルだぞ!? ニュースとかでもバンバン出てるじゃねえか! お前普段何見てんだよ!?」

「いや、俺テレビとか見ねえし……」

「やれやれ。これだから現代っ子は。正直君の無知蒙昧さは恥ずべきどころか切腹案件だと思うよ?」

「うぜぇ……つーかお前は二次元以外は興味ないんじゃなかったのかよ」

「あれは富士宮さんと同じニ・五次元の美少女だから」


 ダメだこれは。頭が沸騰し過ぎて脳がイカれてしまっている。別に鉄オタだろうがドルオタだろうが王牙は興味ないが、この二人のような過激派は最も厄介だ。ぶっちゃけ熱を押し付けられるのがキツすぎる。


「はぁ……ほんとついてけねえよな、さく……ブルータス、お前もか」


 救いを求めて首を戻したら、桜までもが珍獣を見たように口をあんぐりと開けていた。

 もしかして俺がおかしいのか? なんて考えが一瞬浮上した。


「にしても意外だな。お前はアイドルとか興味ないと思ってたんだが……」

「私は下竹君たちみたいな熱狂なファンってわけじゃないよ。ただこの子の歌……どこか共感できる部分があって好きなの」


 その後、桜からそのヒカリについての概要を教えてもらった。

 桐絵ヒカリ。年齢17歳。高校一年の時にアイドルとしてデビューし、その奇跡的な歌声と光り輝くような笑顔で全世界を熱狂させ、一躍アイドル業界の一番星となった。決めゼリフは「キラキラにしてあげる!」らしい。


「それでねそれでね! ヒカリちゃんはね……!」

「はいはい、落ち着いてください桜。王牙君が困ってますよ」


 最初は大人しかったのだが、話が進むたびに桜のボルテージは高くなっていった。よっぽどお気に入りのアイドルらしい。

 そんな彼女のテンションについていけなくなりかけていたところ、横から助け舟を出された。


「あ、ご、ごめんなさい……」

「助かった形見……」

「どういたしまして。それと退院おめでとうございます」

「おう」

「しかし退院してすぐ喧嘩なんてバカじゃないですか? あなた、バイク運転中にトラックにはねられたんですよね? ちゃんと怪我人だったって自覚あります?」


 聞き覚えのない話に一瞬話がフリーズしてしまったが、すぐに冷静さを取り戻す。

 ――そういえば、入院の原因は偽装していたんだった。

 そりゃそうだ。化け物と戦ってボロボロになりましたなんて言えるわけがない。嘘をついているようで申し訳ない気持ちもするが、これも彼女たちを危険に巻き込まないためだ。


「い、いや、俺はピンピンしてるぜ。現に今日も無傷だったし」

「そもそも喧嘩自体いけないことなんです! だいたいあなたは……」


 そこからいつも通りの形見の長い説教が始まった。

 勘弁してくれ……もう牛丸にされたばかりなんだ。泣き言を言いたくなったが、そんなことしても状況は変わらないだろう。

 ということで王牙はこの場で最も穏便かつ楽な方法を、つまり真剣そうな顔をして聞き流すことに決めた。顔はいかにも真面目に聞いているように、しかし意識は下竹たちの方に。彼らは説教に巻き込まれたくないのか、王牙の状況をあえて無視するようにして桜とアイドル談義に花を咲かせていた。


「私もライブ行きたいんだけど、お金がね……」

「チケットは抽選だってよ。倍率は……げっ」

「最後尾のF席で100倍!? 無理ゲーだろこんなもん!」

「しょうがない。SNSでガチ系のオタク何人か見つけたし、狩るかい?」

「いやこれ身分証明書必要になるからダメだな。だから転売ヤーも頼れないし……どーすっかね」

「あ、あはは……法律に引っかからない程度に頑張ってね」


 桜は冗談にも聞こえるその言葉に苦笑いしているが、王牙は知っている。彼らはやる時はやることを。法律なんて彼らにとっては超えるための跳び箱に過ぎないのだ。


「やっぱりハッキングで確率操作する方が一番無難だよね……」

「そういえばお前そんなこともできたっけ。バカなのに」

「趣味と試験はやる気が違うのさ」

「この人たち、もうちょっとそのやる気を社会貢献とかに向けてくれたらいいのに……」


「……であってでですね。……ちょっと! 聞いてます!?」

「あーはいはい。聞いてるって」


 そんなこんなであっという間に休み時間が過ぎていく。そしてこのままなんの事件も起こらず、今日一日の学校生活は終わりを迎えたのであった。


 ♦︎


 放課後になっても、今日の王牙に休みは訪れなかった。家に帰ると仮衣(かりぎぬ)の術でいつもの巫女服から外出用の服に着替えた夜美に「今から八百神社に行くわよ」と言われたからだ。そして王牙は荷物を置いただけですぐに外にとんぼ返りするハメになった。


 独立術師は毎日依頼をこなしているわけではない。だいたい一ヶ月に二回ほどが平均ペースだそうだ。一般の独立術師では下級妖怪を相手にするだけでも傷だらけの激戦となるらしく、治療期間がどうしても必要になるのだとか。だから一週間に一回仕事をしている彼女は十分働いていると言えた。

 それでも学校にも行かず、就職もしていないとなれば一週間のうち六日は暇に感じるものらしい。だから彼女はどこかウキウキしているように感じられた。もちろん表情が崩れているわけではないが。


「で、なんだってわざわざ神社に行くんだよ? 依頼受けるだけだったらアプリでやればいいじゃねえか」

「今回は少し特殊な依頼なの。陰陽師時代の私でもやったことないわ。だから直接情報を集めようかと思って……」

「特殊な依頼?」

「護衛依頼よ」


 護衛依頼。前のようにただ妖怪を退治すればいいというだけではないということだ。


「でもそれのどこが特殊なんだ? 独立術師の依頼じゃ護衛なんて珍しいものじゃないんだろ?」

「……私は護衛される側だったもの」

「……あー」


 本人の実力が高すぎるのでつい忘れてしまうが、夜美はいいところのお嬢さんである。当然護衛なんてやったことあるはずがない。むしろ普段は守られる側の人間だったはずだ。それだったら夜美が少し慎重になるのも頷ける。


「それにこの護衛依頼も普通とは少し違うらしいわ」

「違うって、どこが?」

「それを伝えるために呼び出されているんじゃない」


 アナログだなぁ、なんてため息をつきながら歩みを進める。それだけ今回の話に秘密があるということか。

 やがて山の麓までたどり着くと鳥居を抜け、王牙たちは彼女たちが住む異界に足を踏み入れた。


「ようこそいらっしゃ……にぎゃぁぁっ!?」


 相変わらず山は黄金色に輝いている。いつ見ても見飽きないその景色をボーっと眺めていると、腹に急に強烈な衝撃が走った。


「ごぼぉっ!? ……てんめ……二回目だぞ! わざとか? わざとなのか!?」


 その一撃の首謀者のほっぺを掴み上げながら怒鳴り散らかす。

 勢いのついた頭突きをくらわせてきたのはやっぱり火車の夏転だった。おそらく走った拍子にまたつまづいたのだろう。荷車を引いてたし、衝突事故で通報してもいいよな? などと本気で思ってしまった。


「あら、境内にいないなんて珍しいわね」

「ヤオ様が案内しろって。さーさーウチの『メニークルシミマス号』に載ってくださいっス! 快適な旅をお届けするっスよ!」

「嫌な名前だなぁ……」

「あなた並にセンスのない名前ね」

「なんか流れ弾が……」


 いいじゃん『王牙会心撃』。かっこいいじゃん。

 なんてぐちぐち文句を言ってたら睨まれてしまった。相変わらず目だけで人を殺せそうな女である。その有無を言わせぬ圧力に思わず王牙は口を閉じたのであった。


「で、これに乗ればいいのか?」

「車に乗るのはいいけど、前は階段よ。どう登るのかしら?」

「心配いらないっスよ!」

「お、なんか空中に飛んだりする仕掛けがあるのか?」

「ウチ、この程度の階段じゃ息切れしないほど体力あるんで!」

「……ん? 待て待て。それじゃあ走ってるお前はともかく、乗ってる俺らはぁぁっ!?」


 途中まで発した王牙の疑問は、急加速した荷車によってかき消された。

 夏転は階段まで突っ込んでいくと、なんの工夫もせずにそれを駆け上がり始めた。すると後ろの荷車はどうなるか?


「あばばばばばっ!?」

「ゆ、揺れ、揺れるぅ!? うっ……!」

「吐くなよ! 絶対に吐くなよお前! 吐いたら尊厳とか諸々まで吐き出すことになるぞ!?」

「私は出雲の巫女……っ、出雲の姫……っ、イメージを損なうわけには……うっ!」

「かてぇぇぇん!! 止まれ、止まってくれぇぇぇっ!! このままじゃ夜美がぁぁぁぁ!!」


 しかしその願いが届くことはなく、夏転は数分間階段を爆走したのだった。

 そしてようやく到着した時、王牙たちはふらふらになっていた。夜美はどうやら姫君としての体裁をなんとか保てたようだ。今まで見たことないほど青い顔をしながら、グロッキー状態で荷車の底に寝そべっている。


「帰りもウチに任せるっスよ! 特急で帰してあげるっス!」

「……」


 その言葉を聞いた時、スッと幽鬼のように夜美が立ち上がった。


「ん? なんすか? そんなふうに霊力なんてみなぎらせて……」

「――水行順式『御神渡り(おみわたり)』」

「ふぇ? ちょちょちょ、それマジでシャレにならな……!」


 夜美は石畳を思いっきり踏みつけ、ダァン! と音を鳴らした。すると彼女の足元から冷気が立ち上り、夏転がいる場所まで床を氷で侵食していく。そしてそれが彼女の足元にたどり着いた時、氷の床から突如巨大な氷柱が生えてきて、彼女を中に閉じ込めた。

 彼女はまるで博物館に飾られた標本のように白眼を剥いて気絶している。もはや生きているのかどうか判断がつかなかった。


「……ふぅ、スッとしたわ。さあ、行きましょう」

「お、おう……」


 夏転の尊い犠牲のおかげで改めて学んだことがある。

 ――彼女を本気で怒らすのはやめておこう。


 ♦︎


「その……部下がご迷惑をおかけしました。いつもはゆっくり走るんですけど、どうやらテンションが上がってしまったみたいで……」

「とりあえずもう二度とあれの拷問荷車には乗らないから」

「……お気持ち、わかります。私もしょっちゅう乗せられますから。100パーセント善意からくるものなので、拒むこともできず……」


 夜美とヤオは嫌なことを思い出したのか、深いため息をついていた。

 あれに何回も乗せられるとか、可哀想というレベルじゃないぞ。血も涙もなさそうな夜美もその件に関しては珍しく同情を浮かべていた。

 現在王牙たちは八百神社の拝殿にいた。前通された時と同じ部屋だ。そこで座布団の上に座り、互いに向き合っている。

 夏転はあの後、無事に救助されたようだ。だがさすがに体が凍った影響で送りをすることができなくなったらしい。残念がっていたが、王牙たちからすれば万々歳である。もしこれら全てが計算ずくなのだとしたら、大したものだ。


(……やりすぎだと思ったけど、結果オーライってやつね)


 違った。

 しかしそれを王牙に語ることはない。彼女にもプライドというものがあるのだ。


「それで? 依頼の詳細を教えてくれるかしら?」


 夜美はさっそく本題について切り込む。彼女はアイスブレイクを好まないタイプなのだ。氷の姫様だけに。


「今回は依頼主が依頼主でしてね……ある会社で働く妖怪の方の紹介となっています」

「は? 妖怪が会社で働いている?」

「妖怪でも気質が穏やかな者は人間社会に混ざって働いていることも珍しくないです。私たちも妖怪が立ち上げた会社のいくつかに支援や人材を紹介したりしてますし」

「ただの人間には妖怪の擬態を見抜く術はないからバレる心配もない。力の弱い妖怪の中にはそうやって生きている者もいると聞くわ」


 妖怪の中には夏転や春水のように人間に近い容姿をしている者もいる。なんらかの術を使って耳などを隠せば、たしかに普通の人間が見分けるのは難しそうだ。

 色々な妖怪がいるのだと納得していると、今度は夜美が口を開いた。


「……待ちなさい。妖怪の紹介? 依頼主は依頼を書いた妖怪じゃないのかしら?」

「はい。そういうことです。依頼主はその人の勤めている会社がプロデュースしているアイドルです」

「アイドルぅ? いったい誰なんだそりゃ?」


 そこまで言うと、ヤオはその名を口にした。それは王牙や夜美ですら目を見開く人物であった。


「――桐絵ヒカリ。今を輝くスーパーアイドルです」

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