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ファンタズム・ファンタジア  作者: 日差丸
第二章『銀座のキリエ編』

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第26話 月影

 とある日の朝。

 王牙は制服に身を包み、登校する準備を整えていた。

 バッグに荷物を詰め込んで下に降りると、リビングでは夜美が桃色の串団子を味わっている姿が見える。


「それ……なんだ?」

「近所の老舗の和菓子屋で作られている桃団子よ。ほのかな桃の香りと甘さが癖になるわ。見た目も好みだし、素晴らしい商品だと思わない?」

「お、おう……」


 団子を食べる夜美の目は滅多に見られないほどキラキラと光り輝いていた。どうやらよっぽど気に入っているようだ。その驚愕の光景に思わず王牙は生返事を返すことしかできなかった。


「そういえばお前って俺が学校に行っている間何やってるんだ?」

「基本的には読書ね。ここには法界にはない本が山ほどあるから飽きないわ。特に現代科学なんかの本は好んで読んでるわね」

「ふーん。あ、でもマンガとかゲームもやってるだろ? 俺のやつが持ち出されてたからわかるぜ」

「そ、それは……」


 そのことを指摘したら、夜美はこれまた珍しくしどろもどろになってしまった。両手が忙しくなく動いているし、目もどこか泳いでいる。

 プライドの高い彼女のことだ。未知の遊びに興味があっても、言い出しづらかったのだろう。


「まあ別に俺は気にしてはねえけどよ。どうせゲームとかも法界にはないんだろうし、興味が湧いたとかなんだろ? ただ今度からは事後でもいいから、何か借りる時は一声かけてくれよ」

「それは……ごめんなさい」


 王牙がそう言うと、彼女は潔く頭を下げてきた。その声色から本当に反省しているのがわかる。

 ……なんだか今日は夜美の新鮮な顔がよく見られる日だな。調子狂うぜ。

 そんな風に少し気まずい雰囲気になっていると、突如インターホンの音が鳴った。


「あ? こんな朝っぱらから誰だ? お前、荷物でも頼んだのかよ?」

「いいえ。私は別になにも買ってないわよ。……って、こいつは……」


 怪訝に思いながらモニターを覗くと、二人は驚きで目を見開く。そこには、ここにいるはずのない人間の顔があったからだ。

 王牙たちは急いで玄関に駆け寄ると、ドアを開けた。


「……お久しぶりです巫女姫様。それと妖怪もどきも、迷惑をかけていないだろうな?」

「忠則!? なんでお前がここにいるんだよ!?」


 そう、そこにいたのはついこの間ジェネシス戦で共闘した平忠則だった。

 彼は夜美には敬語を使っているものの、王牙には相変わらず冷たい態度をとってくる。まあそこが彼らしいと言えばらしいのだが。


「本日は妹巫女様から頼まれて、こちらを届けに来ました」


 そう言って忠則は背中に背負っていた巨大な何かを両手で手渡した。それは二メートルを超えるほどの長さの代物であり、純白の美しい布でがんじがらめに封されている。


「そう、逝世(いくよ)が……。まったく、私との接触は危険を伴うだろうに……」

「ええ。妹巫女様の立場では今の巫女姫様と直接会うことはできません。ですから信頼できる手勢として僕に頼んだのでしょう」

「まったく、しょうがないわね。あの子にお礼の言葉を伝えてきてちょうだい」

「御意」


 忠則は跪いて夜美の頼みを引き受けると、すぐさま踵を返した。


「なんだよ。せっかく来たのにもう帰っちまうのか? 少しはゆっくりしていけばいいのに」

「……本来僕は独断専行で巫女姫様を襲った罪で謹慎を言いつけられているんだ。それにお前の家になんて長居するつもりはない」

「あら、一応ここは私の家でもあるのだけど?」

「うっ……み、巫女姫様。お金を貯めたらすぐに別の場所に引っ越すことをおすすめしますよ。こんな野獣みたいな男が側にいたら、いつ夜襲われることになるか……」

「あら、生意気な口をきくようになったものね。あなたが私の心配なんて千年早いわ」

「す、すみませんでした! では失礼します!」


 夜美が威圧感たっぷりの冷たい笑みを向けると、忠則は顔を真っ青にして逃げ帰ってしまった。

 上司と部下の関係だったと言うし、おそらく現役時代もああやってパワハラを受けていたのだろう。そう考えると少し哀れに思えてくる。


「でもあいつの言うことも一理あるぞ? いつまでも男と女が同じ屋根の下で暮らすのはまずいだろ」

「……言ったでしょ。安全上の問題よ。私たちはどちらも襲われる可能性が高いのだから、同じ場所で暮らしていた方が合理的だわ」

「でもよ……」

「あら、それとも私と一緒に暮らすのは嫌かしら?」


 少し意地悪げに夜美は質問する。

 普通の青年だったら、この時気恥ずかしくて誤魔化そうとするだろう。しかしそこは正直者の王牙。彼はまっすぐ夜美の目を見つめながら、ありのままの思いを口にした。


「いや、正直言って俺も嬉しいぜ? 今までずっと一人暮らしだったからな。賑やかになるのは楽しいし」

「……そう」


 その言葉を聞いて、夜美は少しの間固まってしまった。しかし徐々に顔を赤らめると、それを隠そうとするように箱を持って家に引っ込んでしまった。

 何があったのか王牙はわからなかったが、とりあえずもう外に用事はないので王牙も中に戻ったのだった。


「それで? その中身はなんなんだ?」

「だいたい予想がつくけど、開けてみるわね」


 リベンジに戻ると、王牙たちはさっそく布を解いてみることにした。どうやらそれは何かの術がかかっているらしく、無理やり解くことはできないらしい。しかし夜美が封印を術で解除すると、あっさりと布は剥がれて、中が顕になった。


「これは……鎌か?」

「やっぱり。『月影つきかげ』じゃない」


 それは夜美の獲物である大鎌だった。柄は夜を思わせる漆黒。そして最も目につくのが、その三日月を思わせる黄金の刃だ。それはそこら辺の武器とは格が違うと思わせるほどの神聖な輝きを放っている。見ているだけでその美しさに心が奪われてしまいそうだった。


「これはお前の物なのか?」

「ええ。ここ十数年で私に奉納された中で、最も出来のいい業物よ。最高クラスの呪具で、下手な霊器よりも性能は高いわ。だから気に入って私の部屋に飾ってあったのだけれど……それを妹が取ってきてくれたみたいね」

「そっか。いい妹さんなんだな」

「ええ……」


 この贈り物は夜美にとっては大助かりだろう。彼女の武器は大鎌。しかし今までは呪具がなかったので、陰陽術で即席の武器を作るしかなかった。当然それの性能は低く、今後メインウェポンとして扱っていくには物足りなさすぎる。おそらく彼女の妹はそのことも考えたうえで、これを送ってくれたのだろう。


「でも、何がそんなに特別なんだ?」

「単純に基礎性能が高いというのがあるわ。切れ味は落としただけで刃が根元までコンクリートに沈むほど鋭いし、強度も抜群。霊力伝導率が高いから鎌を使用した技や術の発動にも有利だし、あとは特筆すべきなのは、これかしら」


 夜美は空中に置き去りにするように手を離した。すると鎌が光の粒子となって消え去ってしまったのだ。代わりに空中に残されたのは、黄金の勾玉。それを夜美は掴み取り、首飾りとして首にかける。


「これは全ての霊器が持つ具現化能力を再現したものよ。普段霊器は契約者の魂の中に収納されているのだけれど、さすがにそれをそのまま再現するのは無理だったから、こうやって小物に武器を変えれるようにしたの。これでどこでも武器を携帯していくことができるわ」

「あー、なんか見覚えがあると思ったら、そういうことなのか」

「浮世だと武器の携帯が一番の問題点だったから、これは素直に助かるわ」


 夜美はいつも通り無表情だったが、じっとその月影を見つめていた。おそらく妹やその他のことで何か思うものがあったのだろう。それを邪魔するのは悪いと思い、王牙は登校の準備を再開する。


「んじゃ、俺は学校行ってくるから」

「ええ、いってらっしゃい」


 ……いってらっしゃい、か……。

 その言葉を聞いたのはいつぶりだろう。そのことになぜだか嬉しさを感じつつ、王牙はドアを開けて外に出た。

 

 五月の風は暖かだ。桜は散ったものの、青々しい葉をつけた木々が風に揺られてそよいでいる。その心地よい音色は音楽に無教養な王牙の心をも揺り動かす。

 しばらく歩くと、見覚えのある二つの背中を見た。途端に王牙は躊躇いなくその尻を後ろから蹴飛ばす。


「よう。この前ぶりだな」

「ぶべらっ!? なんだ、敵襲か!? どうして僕が『まじかるえんじぇる! アイカ』ちゃんの限定フィギュアを持ってることがバレたんだ!?」

「いや、逆にお前しかそんな美少女フィギュア持ち歩いてないだろ」

「つーかまたそのフィギュアかよ。もう見せんなお腹いっぱいだわ」


 蹴り飛ばされたのは守銭奴ロリコンこと倉伏であった。隣にいた下竹は並び立っていた友が蹴り飛ばされてもなお、慣れているというように平然としている。それどころか倉伏に呆れた目線を送っていた。


「よっ、王牙。病院に引っ込んでなくて残念だよ」

「桜は二日に一回は来てくれたのに、お前らときたら一回行ったきりだもんな。薄情なもんだぜ」


 王牙は少し嫌味ったらしく下竹に絡む。もちろん冗談である。実際はそこまで気にしていない。ただ彼らを詰める口実が欲しかっただけだ。

 しかし下竹たちはそこになんの申し訳なさも見せず、いけしゃあしゃあと口を開く。


「いやだってお前の見舞いとか時間の無駄だろ?」

「むしろ一回でも行ってあげたことに金払ってほしいくらいだよ」

「一瞬でもお前らを友達だと思ってた俺がバカだったぜ。死ね」

「おぇぇぇっ! 俺とお前が友達だなんて、気持ち悪いこと言うなよ! 朝のジャムトーストが逆流したらどうすんだ!」


 とまあこの通り、王牙が入院しても二人はいつも通りだったようだ。いつも通りすぎて殺意が湧いてきそう。

 そうやって互いを貶し合いながら通学路を歩いていくと、道の幅いっぱいにガラの悪そうな連中がまっすぐこちらに向かってきた。

 スキンヘッドにモヒカン、リーゼント。手にはバットやらバールやらを持ち、中にはタバコを吸っている者もいるが、学ランを着ていることから高校生ではあるらしい。ただし襟元の校章はここらでは見かけないものだった。


「うおっ、なんか団体様がゾロゾロやってきたぞ」

「うーん、面倒ごとの機会。引き返そうか」


 二人は小悪党らしく自らに迫る危機を感じ取ると、王牙を置き去りにして来た道をダッシュで戻り始める。しかしそれを見越していたかのように後ろの脇道からもゾロゾロと不良集団が湧き出してきて、前の集団と合わせて王牙たちを挟み込んできた。

 これは明らかに狙われていたな。王牙は二人を放っておいて集団の先頭に立つ男に目を向ける。


「オラァ! 俺は関東四天王が一席、千葉県千羽高番長の大石大吾だ! テメェが小黒ぶっ殺した我道とかいうやつだな!?」

「ほくろ? 誰だそりゃ?」

「小黒だよ小黒! 宮城県紫雲高校の番長、関東四天王の小黒鉄平! 一ヶ月前にお前喧嘩してただろ!?」

「小黒……ああ、そういえば缶蹴りサッカーやってた時に犠牲になったやつだっけ……」


 思い出した。たしか先月宮城県から舎弟連れてわざわざやってきた人だ。交通費とか全員払ってるんだったら舎弟の人は可哀想だなという印象しか残っていないので今まで忘れていた。


「空き缶を口にぶち込まれたままゴミ箱にインした時は笑ったね」

「笑ってる場合かよ!?」

「あの時一番笑ってたのお前だった気がするんだが……」


 おまけに気絶してるのをいいことにしょんべんかけてたぞ。やっぱこいつカスだろ。


「ハッ。小黒は四天王の中じゃ最弱だ。ちょっと勝ったからってイキってんじゃねえぞああん!?」

「すごいな。俺あの言葉現実で初めて聞いたぞ」

「あれ言って強かったためしってないんだよね。なんなら最初の四天王って派手に苦戦するパターンが多いから二番目が一番影が薄いまである」


 倉伏と好き勝手四天王談義を語り合っていたら、謎のヤンキーの顔が茹でだこのように真っ赤に染まっていく。青筋なんかも三つほど浮き出ており、とても不機嫌そうだ。


「どうした? 腹でも減ったのか?」

「あ、じゃあ僕リンゴ持ってるからあげるよ。ちょうど顔がそっくりだしね」


 倉伏は彼そっくりの真っ赤なリンゴをポケットから取り出すと、雑にそれを捨てた。そして間髪入れずに王牙がそれを踏み潰す。もはや阿吽の呼吸とも言うべきコンビネーションであった。二人はにやにやしながらリンゴの残骸を彼らの顔に向かって蹴り飛ばす。


「ほら食えよ。共食いだ。身内でしょっちゅう殴り合うお前らにはお似合いだろ?」

「……殺す」

「やれるもんならやってみろよコラ。言っとくが今の俺はキレている。テメェらのせいで遅刻が確定したんだからなぁ!」


 牛丸の説教が朝から確定したとあって、今の王牙は最高に激怒していた。昨日のテケテケ戦に勝るとも劣らない怒りだ。それほど彼はキレていた。


「上等だコラ! こっちは五十人いんだぞ! 半殺しにしてその皮剥いでやらぁ!」

『おおおおっ!!』

「あ、じゃあ僕先に学校行ってるね。僕なんも関係ないし」

「じゃなー。お前はせいぜい牛丸に説教されてろバーカ」


 かくして、不良同士の喧嘩が始まった。

 とはいえ勝敗など初めからわかりきっている。王牙の身体能力は能力なしで妖怪に匹敵する。その気になれば車よりも早く走れるし、電柱だって引っこ抜くこともできる。人数と武器が揃っているとはいえ、彼らに勝機があるはずはなかった。

 実際、十分後には彼らは数を半分以下にまで減らしていた。辺りの地面や壁には飛び散った血が付着しており、折れ曲がったバットやスタンガンなどの武器が散らばっている。

 そんな中で番長と名乗った大石は饅頭のように顔を腫らしながらも、なんとか生き残っていた。


「ハァッ……ハァッ……化け物が……!」

「こんなもん、俺に効くわけねえだろ。俺に傷負わせたかったら最低限ミサイルでも用意しておくべきだったな」


 王牙は不良の一人から取り上げたスタンガンの電源を入れると、それを自らの首に突き刺した。しかし火花が飛び散り、電流が明らかに流れているにも関わらず、彼の表情が変わることはない。素の身体能力で妖怪と対峙できるのは伊達じゃないのだ。

 パフォーマンスを終えたスタンガンはそのまま片手で握り潰され、その生涯を終えた。


「……だが、まだ手は残っている。こいつはどうかなぁ!?」


 大石は親指と人差し指を擦り合わせ、それを勢いよく弾いた。だが音が鳴ることはない。

 無言が周囲を支配する。

 しばらくのフリーズのあと、彼は何事もなかったかのように再度同じ行為を行い、三回目になってようやく音を鳴らした。

 そして空気を読んで彼の舎弟たちが物陰から姿を現す。その腕の中には……。


「ぎゃぁぁぁぁ!? なんで!? なんで俺たちなのぉ!?」

「はぁ……毎回そうだけど、今回も逃げれなかったか。あ、殴るのなら隣の下竹君か諸悪の根源の王牙君にしてください。こいつらいい音鳴るんですよ?」


 なんと、下竹と倉伏が羽交い締めで拘束され、スタンガンを首元に突きつけられていた。

 その瞬間、王牙の心配する気持ちは一気に失せた。白けたような、どうでもよさそうな目線を彼らに向ける。

 それに気づかず、大石は得意げな顔をしている。


「どーだ!? 仲間が大事なら大人しくしておくんだな! さもなきゃ……」

「あ、いっす」

「はい?」


 ポカーンとしたような表情を大石は浮かべる。


「いやだから、そいつらは別に煮るなり焼くなり好きにしていいぞ。どーせ助ける義理も意味もねえし」

「やっぱこうなるかー。死ねよクズ」

「テメェらが死ね。ほら不良さんやっちゃってー」

「お前らに人の心とかないのか?」


 あまりの外道っぷりに大石たちはドン引きしていた。

 しかし言い訳をさせてもらうとするなら、あいつらが悪い。王牙は普段彼らの犯罪スレスレの行為に巻き込まれている。言わば被害者なのだ。何度無関係な事件で生徒指導室や警察のお世話になったことか……。

 だからこの喧嘩の場というのは彼にとって合法的に仕返しができる舞台でもあるのだ。ゆえに王牙は助けない。むしろほどよくボコボコにされることを願っている。因果応報というやつだ。


「盗っ人猛々しいとはまさにこのことだな」

「な、なんのことやら……」


 あくまでしらばっくれるつもりか。王牙は呆れながら先週起こった出来事を陳列していく。


「……先週。俺んちにしかけてあった侵入者撃退用のトラップが多数作動していた。玄関のドアには犯人が慌てて逃げたせいで抜き忘れただろう鍵が差さっていたそうだ」

「そ、それで?」


 王牙の家は夜美が来たことで魔改造されていた。至るところに術がかけられており、夜不用意に立ち入ると起動して侵入者を迎撃するのだ。

 倉伏の顔に冷や汗が流れ始める。下竹に至っては顔面蒼白になっている。


「そういえば、お前らが見舞いに来たのも先週だったよなぁ?」

「そ、そうだね」

「あの日からどういうわけか俺が持ってた鍵が消えてるんだよなぁ。おかしいよなぁこれ」

「……てへっ。やっちゃったぜ⭐︎」

「やっぱりか! お前らが俺の見舞いに来るなんてどうもおかしいと思ってたんだ! テメェら最初から俺がいない間に家で好き勝手するつもりだったんだろ!」

「だって僕たちの家じゃ親がうるさいんだもん! その点君んちは親はいないし、広いし、ゲームも菓子も酒もたんまりある。夜に騒ぎまくるなら最適だと思ったんだ!」

「なのにテメェ! 家に地雷しかけるとか正気か!? おかげで俺たちの一張羅が黒焦げになったんだぞ! 謝れ! 俺たちに謝れ! そして弁償しろ!」


 なんてやつだ。ここまで清々しい逆ギレは初めて見た。あまりの勢いとドスの効いた顔芸に一瞬こっちが悪いのではないかと疑ってしまったほどだ。


「てなわけで、そいつらはお好きなようにどーぞ」

「ああやっぱ待って! せめて俺だけでも助けて王牙! 俺たち友だちだろ!?」

「今日一番にお前と出会った時、お前が俺に言った言葉をもう一回言ってみろよ」

「『おぇぇぇっ! 俺とお前が友達だなんて、気持ち悪いこと言うなよ! 朝のジャムトーストが逆流したらどうすんだ!』……ほら言ったぞ!」

「お疲れ様。やっぱりテメェは死ね」

「なんで!?」


 当たり前である。今さっき友情を否定した人間がどの口で言うのか。


「てなわけで、全員皆殺しだ。ただで帰れると思うなよ」

「……あのー、その皆殺しの中に僕たちって含まれていますか?」

「……」

「無言の返答がすごい怖い!」

「くそっ、こうなったらそこのクズどもも手を貸せ! このままじゃ全滅だ!」

「へっ? いや俺たち敵じゃ……」


 二人は拘束を外されると、あれよあれよという間にバットを手渡され、不良集団のトレードマークらしい赤ハチマキを巻かれた。そして宇宙猫のような顔をしたまま場面は流れていく。


「いくぞ、突撃ぃぃ!! 関東四天王バンザァァァァイ!!」

『関東四天王バンザァァァァイ!!』


 そうして決死の覚悟を決めた玉砕特攻が決行され……十分後、あっさり全滅させられた。

 死屍累々。王牙は積み重なった不良たちの山の上に座り、遠い目をしていた。

 ――授業開始まであと一分。終わった……。

 それは虚しい勝利であった。


「な、なんで俺たちまで……」

「お、重いぃぃ……!」

「関東四天王は……不滅……なり……がくっ」


 なおその山の最下部には例の二人組とおまけで一人が埋まっていたのだが、王牙はそれを無視するのであった。

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