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ファンタズム・ファンタジア  作者: 日差丸
第一章『夢幻祭編』

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第13話 破壊魔神

 飛び込んだ先は、見覚えのある参道だった。というかまんま、先ほど通った参道だ。

 周囲を見渡しても何も景色に変わった様子がない。唯一違和感があるとしたら、王牙たちは参道を下って鳥居を通過した。ならば鳥居を抜けた先には麓の屋台が見えるはず。

 なのに王牙たちの目の前に見えるのは、上り階段となっている参道だった。


「通ってみたはいいが、なんも変わっている気がしねえな。本当にここは異界なのか?」

「……ここは間違いない異界よ。後ろをよく見なさい。町が消えているわ」

「へっ?」


 慌てて王牙は後ろを振り返った。先ほども言った通り、現実だったら背後の鳥居の先には屋台があるはず。

 しかしそれは見当たらない。いや、屋台どころか道路、それどころか大地そのものが消えていた。

 鳥居の先にあるのはただの黒の空間のみ。まるでこの山だけ切り取って、暗黒の世界に貼り付けたようだ。


「異界といっても、広範囲を作り出すには膨大なリソースが必要よ。だから必要最低限、この山しか再現されていないというわけね」

「ああそうか。実感させてくれてありがとよ。おかげで気合いが入ったぜ」


 王牙は世界の果てにある暗黒を見て、緩みかけていた覚悟を固め直す。

 ここは紛れもなく自分にとっての異界、本物の戦場だ。そんな中でいちいち未知に驚いていたらキリがない。

 余計なことは考えるな。それは隣のお嬢様がやってくれるはずだ。王牙はただ敵を殴ればいい。それだけでいい。

 そう意識を切り替え、二人は同時に階段を駆け上がり始めた。その速度は一般人とは比べ物にならないほど速い。

 術師は霊力を全身に行き渡らせることによって体を活性化させ、身体能力を強化できる。その強化度合いは霊力量とそれをコントロールする力に比例する。夜美はもちろん、王牙はこれを彼女と出会う前から不完全ながらも無意識的に習得していた。彼の身体能力が能力なしで化け物じみているのは、そのためだ。

 余談だが、王牙の能力『駆動心音マキシマムハート』はこの霊力強化込みで体がさらに強化される。ゆえに彼の身体能力は人外極まる術師界の中でも滅多に見られないほど高いものとなっていた。

 ともかく、そんな一般人よりもはるかに多い霊力を持つ二人が本気で走り出せば、車より速く走るなどたやすいことだった。

 


「敵、どこにいるかわかるか?」

「おそらくは境内でしょうね。ただ、道中の奇襲にも気をつけなさい」


 しかし進めども進めども、王牙たちを襲う敵はいなかった。敵どころかトラップすら用意されていない。

 ということは結局敵は単独犯なのだろうか。それともただ潜伏してこちらが隙を晒すのを待っているだけ? その答えは出ぬまま、結局二人は閉ざされた夢幻神社の門前になんの障害もなくたどり着いてしまった。

 これには夜美も予想外だったらしく、門が前にあるにも関わらず、何かを熟考している。


「……妙ね。異界を作り出せるほどの人数がいるのなら、部下に時間稼ぎをさせて戦闘の準備を整えるのが最善のはずよ。じゃあやっぱり単独犯? でも、そんなのって……」

「あれこれ考えても仕方がないだろ。結局俺たちにできることは――」


 王牙は左手で右の手首を二度捻る。

 ――『駆動心音(マキシマムハート)』、ダブルアクセル。

 そうしてエンジン音を響かせながら桃紫色のオーラを身に纏うと、弓の如く拳を引きしぼる。そして霊力を注ぎ込み、限界まで引き戻された拳を解放した。

 瞬間、門が木っ端微塵に砕け散り、砂煙が辺りを埋め尽くした。


「――これしかないだろ?」

「強引ね。だけど正論でもあるわ。ここで全員退治すれば全部解決なのだから」


 王牙たちはとうとう神社の境内に踏み入った。

 だが、いくら待っても誰かが襲撃してくる気配はない。訝しげに思っていると、ようやく砂煙が晴れてきた。

 そこで王牙は、境内の真ん中に奇妙な建築物があるのを発見する。


「なんだありゃ……和風版ミニチュアコロッセオかなんかか?」

「あれは……幻想召喚の儀式陣!?」


 夜美の言葉を聞いて、王牙は再度その建築物を眺める。たしかに、よく見れば何かの儀式場のようにも見えなくはない。

 地面には巨大な五芒星(セーマン)が描かれ、その中心には何かを捧げるための祭壇が置かれている。そして王牙の目を一番引いたのは、その五芒星を取り囲むように作られた鳥居のような何かだ。鳥居は五芒星の角の上にそれぞれ一つずつ、計五個建てられている。

 鳥居のような、という表現をしたのは、その鳥居が王牙が知っているものではなかったからだ。その五つの鳥居は、なんと全てが連結しており、円形の儀式場を作り上げていたのだ。イギリスのストーンヘンジを想像すればわかりやすいだろうか。五芒星の角の上に建てられた五つの鳥居が、その端を伸ばしてつながっていたのだ。

 だが夜美は何よりも、その中央の祭壇に捧げられていた物体に目がいったようだ。

 それは生々しいピンク色をした肉塊だった。王牙にはそれが何であるか判別できなかったが、彼女にはわかったようだ。それを見て、これまで見たことないほど鋭い殺気を見せる。


「私の……心臓……!」

「え、あれが!?」


 それは奪われたはずの彼女の心臓だった。彼女はすぐさまそれに駆け寄り、祭壇から奪い取ろうとするが、手を近づけた途端に透明な壁に弾かれてしまう。


「っ、結界……!」

「さすがに放置したままなわけなかったか。でもなんでこんなところにあるんだ?」

「……それはおそらく幻想召喚のための触媒にするためでしょうね」

「触媒?」


 幻想召喚。

 ありとあらゆるものを呼べるらしい禁術。

 目の前の夜美もそれによって呼ばれた存在であり、それは幻想召喚が死者すらも呼べてしまうことを証明している。

 その発動にはいくつかの条件があるのだが、あいにくと彼の記憶力はいい方ではない。頭を絞り出しても何も浮かび上がることはなかった。


「言ったでしょ? 幻想召喚に必要なものは膨大な霊力と触媒、そして強固なイメージだって。触媒には基本的に召喚したい存在と縁のある物が選ばれるわ。例えば私だったら兎ね」


 そう、人間だった夜美にうさ耳が生えているのはそういう理由だ。彼女はツクヨミと大国主の巫女であり、その二つに関連する動物として兎が召喚の触媒に選ばれた。


「でも、私ほどの巫女の心臓ならどんな存在にも適合できる万能素材になるでしょうね。神道の巫女は神降ろしを得意としているから、その心臓は幻想召喚の触媒には最適ってわけ。霊力に関しても、こんな異界を作れる時点でリソースは確保できているはず。そして最後の一つ、イメージについては心当たりがあるわ」


 夜美が幻想召喚について改めて解説する。だがやはり、王牙の脳ではそれを完全に理解するには足りなかった。

 彼はその術についてさらなる質問をする。


「……うーん。その、最後のイメージってやつがよくわからねえな。要するに幻想召喚する時に、召喚するやつを想像していればいいのか?」

「簡単に言えばそうね。ただ、そこらの木端妖怪ならまだしも、神霊を呼ぶとなると人間一人じゃ到底足りないわ。たぶん千とか万単位の人間が必要になる」

「万って……。そんな数の人間に同じ存在を想像させるなんて、全員が同じ組織でもなきゃ無理だろ」

「いいえ。できるわ。今やっている夢幻祭なら、ね」

「あっ……」


 そこまで言われて、ようやく王牙にもその素材となるイメージがどこにあるか、なんとなく理解した。理解してしまった。そしてそれを想像した時、ゾワッという最大限の悪寒が背中を這い回る。


「この夢幻祭には、現在数万の人間が参加しているわ。たとえ知識がなかったとしても宗教の祭りに参加している以上、参加者は無意識的にこの神社の神を想像してしまっている。元凶はそれら全てと参加者の命を束ねて、素材にするつもりよ。夢幻神社に異界を作ったのも、祭りの近くに儀式陣を作るためだったんでしょうね」

「なんだと……!?」


 あの祭りには桜たちもいるんだぞ!?

 夜美によって語られた最悪のシナリオ。その結末を思い浮かべて王牙は歯軋りをするほどの怒りを見せる。


「じゃ、じゃあ召喚しようとしているのは夢幻大神ってことか?」

「いいえ。あなたと私の夢幻大神に対するイメージの違いから違和感を感じて調査したのだけれど、この祭りの参加者全員が精神操作の術によって誤った夢幻大神のイメージを持たせられていることがわかったわ。そしてあなたが語った特徴と一致する存在を、私は知っている」


 そういえば王牙はいつのまにか夢幻神社に祀られている神は白髪の男だという知識を持っていた。それは今日この祭に来た全員と一致している。真面目な形見だったら知っていてもおかしくはないが、知り合いが少ない王牙やまだ町に来て二年の桜までもがこんなマイナーな神のことを知っているというのはおかしな話だ。しかもあの場にいた全員がその話の出どころを覚えていないというのは、今考えてみれば違和感しかないだろう。


「ようやく理解できた。奪われた心臓。改竄された夢幻大神のイメージ。そして幻想召喚の陣。敵の目的はおそらく――」


「――幻想召喚を使って私の本体を降臨させること。さすがは出雲の巫女、正解だ」

『っ……!?』


 その声は、突如上から聞こえてきた。なんの気配も感じさせずに、それはゆっくりと空中から降りてきた。――濃厚な死の気配を纏って。

 それを認識した途端、心臓が止まったかと錯覚し、体が上から押さえつけられているかのように重く感じた。


「ぐっ……!」

「くっ……この馬鹿げた霊力は……!」


 なんとか首を横に動かすと、夜美も同じような状況になっているらしい。重圧に顔を歪めながら、膝をついてしまっている。

 王牙たちの前に立っていたのは、一人の男だった。

 年齢はおそらく二十代前半ほど。

 彼を一言で表すなら「白」だった。髪も眉毛も服すらも全てが白い。

 前髪は触覚にも翼にも見えるような形で、特徴的にはね上がっている。後ろ髪は歌舞伎役者がつけるカツラのように太く、そして蛇のように恐ろしく長い。服は黒シャツの上に白のレザージャケットをマントのように羽織っており、両手をポケットに入れていた。

 さらに顔立ちはテレビで見る俳優など比にもならないほど整っており、人間とは思えない神々しさを漂わせていた。ただ、その血のように紅い瞳は蛇を思わせる縦長の瞳孔となっており、それだけは寒気で動けなくなるほどの禍々しさを感じた。

 それは奇しくも、王牙が想像していた夢幻大神のイメージとそっくりだった。


「フッ。哀れだな。そのような惨めな姿になってまで私を追いかけてくるとは。どんな気分なんだ? 最も人間の見本足らんとしてきた貴様が人外になったというのは」

「っ……!」

「テメェ……! 笑ってんじゃ……ねえぞォォォッ!!」


 その一言は夜美にとってどんな一撃よりも重く突き刺さったのか、夜美は顔を俯かせて唇を噛んだ。その表情は悲しみと悔しさで歪んでしまっている。

 無理もない。夜美は陰陽師として高いプライドを持った少女だ。それが人間を辞めさせられ、今では誇りを持って所属していた組織に討伐命令を出されてしまっている。彼女にとってこれほどの屈辱はないだろう。

 その不幸を嘲笑う姿を見て、王牙の中で何かがブチギレた。

 彼は血管が浮き出るほど体中に力を込めると、重圧を振り切って無理やり立ち上がる。そして射抜くような殺気で男を睨みつける。


「ほう……まあいいだろう。このまま身動き取れない状態で殺すのもつまらない。今日が世界最期の日なのだから、少しは楽しまなくてはな」


 その嘲るような言葉の後に、王牙たちを襲っていた謎の重圧が消えた。彼らは限界ギリギリで水中から抜け出したかのように深呼吸を繰り返す。それは側から見ればとても滑稽なものだっただろう。敵もそれを見て嘲笑を深めていた。


「ハァッ……ハァッ……! なんだったんだ今のは……?」

「……あれはただ霊力を垂れ流しにしていただけ。それだけで私たちの体がその膨大な量の霊力に耐えきれなくなって、潰れかけてしまったのよ……」

「なんだと……!」


 今は引っ込んでしまっているが、それが本当なら男の霊力は王牙たちの数百、いや数千倍あってもおかしくはない。少なくとも王牙にはそれだけの差を感じられた。


「初対面の者もいるようだから、改めて名乗らせてもらおう。私はジェネシス。創世の名を冠する神。浮世では破壊魔神とも呼ばれているな」


 この男が破壊神……! そして夜美を殺した男……!

 「神」と最初に聞いた時は半信半疑だったが、今なら納得できる。この非人間的な神秘性と対峙しているだけで潰されてしまいそうな重圧感は、たしかに神と呼ぶに相応しいものだった。


「……ハッ。その破壊魔神様がなんだって幻想召喚なんか使おうとしてるんだよ?」

「言っただろう? 私の本体を降臨させるためだと」

「まるでお前が偽物みたいな言い方だな」

「当たらずとも遠からず、と言ったところだ。私は分霊、本体から意識だけを切り離された断片に過ぎない」

「この霊力で断片だと……!?」


 その衝撃の事実に王牙は信じきれず、夜美の方を見るが、彼女の真剣な顔がその残酷な事実を物語っていた。

 

「お前が知っているかは知らないが、私はかつて旧世界の神々が消え去った後、新世界によって生み出された唯一の神だった」


 唐突に、詩でも歌うように、ジェネシスは自らの来歴を語り出す。


「だが、永遠に等しい時間でより良い世界を作り出すために創造と破壊を繰り返した結果、私たちは創造神と破壊神に分裂した。そうして今ある世界「地球」を残さんとする創造神と、破壊せんとする私で意見は対立し、争いが巻き起こった。結果は忌々しいことに創造神の勝ちだった。そうして私の本体はこの星の裏世界、旧世界の神々が移り住んだ『幻想楽土ファンタズム・ファンタジア』に封印されたのだ」


 ジェネシスが語ったのは、王牙には壮大すぎる神話だった。

 正直言って彼にはその半分も理解することはできなかった。だがなんとか彼の本体がその『幻想楽土』という場所に封印されていることだけは理解する。


「だが、私も手をこまねくばかりではなかった。数千年の時をかけて、私は封印に少しのほころびを生み出し、そこを通してこの浮世に本体から分離された分霊を送り込んだ。それが私というわけだ」


 謎に包まれていたジェネシスの正体が明かされた。しかしそれはこの状況を打破するようなものではない。だからこそ彼は余興のつもりで語ったのだろう。


「私の目的はただ一つ。幻想召喚によって生み出される偽りの本体との共鳴により、封印を破壊する。そしてかの創造神を吸収し、創造と破壊の神へと戻ることだ」

「戻ってどうすんだよ?」

「決まっている。世界を滅ぼし、生み出す。そのサイクルによって望みの世界を創り、満足すればまた壊して新たに望みの世界を創り出す。そうやって私は私の欲望を満たそう」

「はっ……?」


 発せられる言葉は日本語であるはずなのに、まるで理解することができない。


「何を……言ってるんだ……テメェ……?」

「私は別に人間が嫌いなわけではない。むしろその矮小さが生み出す可能性に感嘆すらしている。ゆえに見てみたいのだ。お前たち人間の可能性を」

「待てよ……待てって……!」

「もし宇宙戦争すら引き起こせるほど発達した技術を持てば人間はどうなる? 逆に争いによって文明が一度滅び、それでも人間が生き延びていたら? はたまた現代が突如剣と魔法のゲーム世界に置き換わったら? 私はお前たち人間がありとあらゆる環境でもがき、這い上がり、輝きを放つ瞬間を何度も何度も見たいのだ」

「だから……テメェは何を言ってんだよ!?」


 ここでようやく、王牙は夜美が語った神に関する話を心の底から理解することができた。

 まさに理不尽。生きる災厄。

 同じ人型なのに、価値観が天と地ほども違う。

 そのあまりのおぞましさに、王牙は怒りすら通り越して寒気すら感じた。


「そんなもの……! そんなもののために私は……!」


 だが王牙が冷静さを保てたのは、彼女のおかげだろう。

 夜美はこれまで見たこともないほどの怒りを露わにしていた。それによって彼女の体から立ち昇った嵐のような霊力が王牙の思考を凍らせ、頭を冷やさせた。


「だが、より頑丈な体となって蘇れたのだろう? おまけにどうやったかは知らないが、精神汚染も起きていない。殺したのは私だが、素直に祝福しよう。よかったな」

「ぁ……ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」


 その一言で、全てが決壊した。

 夜美は叫びながら大鎌を振りかぶり、そのままジェネシスに向かって飛び出そうと――。



「――『王牙会心撃』!」


 ――する前に、桃紫色の衝撃破が放たれた。

 ジェネシスの姿はその衝撃破の光に包まれ、見えなくなる。夜美は思わず立ち止まり、唖然とした顔を向ける。

 そこには拳を振り抜いた姿のままの王牙の姿があった。


「へっ、どうだよ……? 少しは人の痛みってのがわかったかこのクソ野郎」

「……ごめんなさい王牙。冷静さを欠いていたわ」

「気にすんな。俺の方がお前よりもキレて手が先に出た。そんだけだ」


 嘘だ。あれは頭に血が上りすぎた夜美のために撃ってくれたのだ。わざわざ先に危険を犯して先制攻撃をしかけることで、出鼻をくじき、無防備に突っ込もうとした彼女を引き止めてくれた。夜美にはそれがわかっていた。

 情けない。あれだけ日ごろから冷徹を装っているくせに、まんまと敵の挑発に乗ってしまうなんて。

 嘘を憎んでいるにも関わらず、嘘をついたのも彼女を心配させないためだろう。「他人のためなら嘘をついてもいい」という抜け道を用意してはいるものの、彼に自らの禁忌を犯させてしまったことに夜美は罪悪感と、自分を救ってくれたことへの感謝を感じる。


「――ほお。大した威力だ。これなら相当な格上すらも当たれば食えるだろうな」

「……なっ……!?」

「だが私には通じない。私と貴様たちの間の壁はそれほど隔たっている」

「バカな……無傷だと……!?」


 光が止んだ後、煙を引き裂いてジェネシスは現れた。そこには傷どころか服に汚れすらついていない。

 予想もしていなかった展開に、今度は王牙が唖然と口を開ける。


「退きなさい!」

「っ……! おう!」


 だが攻撃は終わらない。入れ替わるように夜美は王牙の前に飛び出ると、大鎌を投擲した。だが、残念ながらそれはジェネシスに当たった途端、まるで分厚い壁にぶつかったように、逆にへし折れてしまう。

 しかしそれは囮だ。彼女はすぐさま貴重な護符を数枚袖口から取り出し、天高く飛び上がると、術を発動する。


「――水行終式『鏡月(かがみつき)』!」


 彼女がそう叫ぶと、辺り一帯が大きな影に覆われる。何事かと王牙が空を見上げると、そこには隕石を思わせるほど巨大な氷塊があった。

 その冷たい色は、まるでもう一つの満月を思わせる。

 それが尾を引きながら、地上に落下してくる。


「げぇっ!? 『駆動心音(マキシマムハート)』、トリプルアクセル!」


 このままじゃ巻き込まれる!

 王牙は慌てて身体能力を引き上げると、元来た道を戻り、境内の外へ退避しようとする。

 そして門を超えた次の瞬間――轟音とともに、境内が氷河で包まれ、氷の世界が誕生した。


「おいおいおい……やりすぎだろあいつ! 今逃げてなかったら絶対死んでたぞ!」


 間一髪。

 脱出に成功した王牙は彼女に抗議の声をあげる。

 いくら偽物とはいえやり過ぎだ。神社をぶっ壊すなんて、あれは本当に巫女なのだろうか。なんてツッコミを心の中で入れる。

 見上げると、巨大な氷の柱がいくつも門を飛び越えて突き出ていた。あの様子じゃ中は例外なく氷漬けだろう。

 だが、その予感は外れてしまった。

 どうやって中に戻ろうかと思考していた時に、突如境内の中の氷が全て砕け散ったのだ。そして王牙はその中で、白くたなびく長髪を見た。


「――惜しかったな。今のはいい一撃だった。もし私がそこらの神や大妖怪であったのなら、今ので致命傷を与えられたかもしれない」

「っ……くっ……!」

「マジかよ……!」

「だがやはり、私には通じない」


 ジェネシスは、変わらず無傷であった。

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