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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【結】
97/144

96話ー名前ー

 サリドヒエラを壊滅させた鬼の襲撃。


 千歳はその鬼を討伐。


 鬼の不穏な動きは激しさを増していく。


ーグリンドリン撃破の翌日 東京本部ー


 世界各国から、協力要請が届き始める。


 サリドヒエラチームエル・ソルを壊滅させた鬼を、東京チームエル・ソルが討伐したこと。これが主な理由である。


 サリドヒエラのエキポナは優秀だった。傲慢ではあったが、能力の高さから来るものだろう。世界でもそれは認められており、チームの壊滅は世界にショックを与えた。


 その鬼を倒したことは、世界に更に衝撃を与える。


 重三(おれ)の希望により、日本チームエル・ソル16人をそれぞれ遠征させ、1人に何ヵ国かのチームエル・ソルを訓練させることとなった。


 日本チームは一旦バラバラになるものの、世界のトップクラスの兵士達が(そう)を扱い熟すようになれば、鬼にも屈しないようになる。


 日本チームエル・ソルは大きな円陣を組み、互いの肩で肩を支え合う。


 (つとむ)は、メンバーが離れ離れになる前に、必ずこれをやる。想いが巡るらしい。


「次いつ会えるかわかんねえけど、俺はまたみんなに会えることを確信してる!俺はみんなを想ってる!!」


 全員いい顔しやがる。立派になりやがって。


 努と久美(くみ)は東京本部に残った。近隣の国からチームエル・ソルが集まり、努の稽古が始まるわけだが……。


「えっとな!ここの肘を!コウ!!見た?この角度から、腰をこうやって使って、コウ!!こうするとね、力あんま使わなくても強く振れんの!そんでね」


 誰に似たんだか、説明が訳分からんな。


「おい努!!そんな説明じゃダメだ!!」


 思わず割って入ってしまった。


「爺ちゃん!!爺ちゃんじゃ___」


「コウ!!ココのアレをコウやってコウ!!努より分かりやすいだろ!?アレをソウしないとな、力は上手く伝わんねえから、ソコをドガっとやってグイッとしてバッ!コウだあ!!」


 努は頭を抱えた。





ー訓練終了後 東京本部 寮ー


 爺ちゃんの訓練は散々だった……。


 俺がやった方がもうちっとマシだったな。


 にしても、みんなが居ないと静かだなあ。


 チームエル・ソル大集結してたし、誰かしら騒いでるし。久美ってゆう騒がしいのが居るから良いけどさ。


 コーラを飲みながら、澄んだ夜空を見上げる。


 木々がのびのび生える庭を見て、優雅にコーラを飲む。なんてシャレオツだこと。


 しかし、それは突然起こった。


 見慣れた庭から、突如異様な空気を感じる。


 "何かが来た。"


 俺は手すりを乗り越え、4階から着地する。


 この敷地に居る誰でもない雰囲気が漂ってる。


「やけに想が集まってるな。お前がその元凶か」


 木の影から聞こえた。それはやがて、月の光が当たる場所まで歩いて来る。


「そんなに身構えるな。挨拶だ。今お前と殺り合うつもりも無い」


 俺は無意識に身構えていた。


 デュロルでもない、俺と同年代の男に対して。


 前髪は目にかかる程度。髪色は白と黒が乱雑に生えている。襟足は首元から外に跳ねてる。


 目は白銀色。俺に似てる……。


 声は、俺が聞いたあの"声"だ。


 若い見た目に反し、喋り方と立ち振る舞いに貫禄がある。


 そいつは抑えてるつもりだろうが、重圧が溢れ出てんだよ。濃すぎる、ドス黒い想もな。


「わざわざ足を運んでやったんだ。愛想くらい振り撒いたらどうだ?」


 そいつは両手を広げる。


「そんなに殺意を向けるな。俺を怖がってるのがダダ漏れだぞ。聞こえすぎて五月蝿(うるさ)いくらいだ」


 そいつの放った"五月蝿い"の言葉が、俺の心臓に触れた気がした。そんな重圧を一瞬見せた。


 人は得体の知れないものを前にすると、恐怖を直に感じる。こいつが一連の事件の犯人だと分かった訳じゃない。なのに、本能で感じる恐怖。


 細胞の一つ一つが、俺に声を発するなと強く命令する。


「安心しろ。今の俺はお前に勝てない」


「……それを言いに来たのか?違うだろ」


 そいつは「おっ!」と喜ばしい表情をした。


「やっと話したか。いいぞ、その調子だ」


「なぜ俺んとこに来た」


「まあ焦るな。俺はお前を高く評価してる。グリンドリンを殺したのには大いに驚かされた」


 グリンドリン……。分解する能力の鬼のことか?


「匂いを辿って来たのだがな。お前を前にすると、どうも体が痒い」


 瞬き1つの間に、そいつは俺の目の前に立っていた。そいつは指で俺の顎に触れる。




「お前は本当にエキポナか?」




 目の奥を見据えられた。入り込まれるように。


 黒い薔薇が咲くようなイメージが脳内で再生される。


「……エキポナであり、デュロルであり、人だ」


 そいつは指を離し、数歩下がる。


「名を聞いておこう。聞く価値はある」


 そいつは俺の目から視線を外さない。


 視線を外すか、答えずにいれば殺される。それが肌で感じ取れた。


 隙がない……。


「JEA東京本部 東京チームエル・ソル 千歳(ちとせ) (つとむ)だ」


 そいつは顎に指を添える。


「ほう。千歳か」


「あんたは……」


「ん?声を張ったらどうだ」


「あんたの名前は」


「知りたいか千歳!っは。教える価値はある」


 そいつは踵を返して歩き出す。


 暗闇に身を潜り、顔だけを俺に向ける。


 白銀の眼だけが俺を捉えて離さない。


「___だ」


 そいつが名を語った途端、風は吹き荒れた。


 その風を浴びた庭の草木は、そいつが居なくなると同時に枯れ果てる。


 その光景が俺の心を表してるようで、瞠った瞳孔でただ眺めていた。


 しばらく呼吸を忘れていた。吸った空気が体に入る感覚が無い。そのまま空気の通り道になるようだった。


 俺はその場で膝を付いて放心状態になっていた。堀さんに身体を揺さぶられるまで、きっと俺はそこに居たと思う。


 久美も駆け付け、俺は久美に背負われる。


 俺は久美の髪の毛に顔を埋め、身体を預けた。


 身体は酷く震えていた。





 千歳の様子が明らかにおかしい。


 久美と2人きりにさせると、千歳の震えは治った。しばらく、久美に様子を見てもらう。


 近隣チームエル・ソルの訓練は重三(じゅうぞう)さんが引き受ける。


 世界のEAグループは総動員で禁域の場所を探した。


 "見た"とされる場所の候補は幾つか発見されるも、久美は違うと言う。


 探し回ること3週間。


 千歳も回復し、近隣チームエル・ソルの訓練も問題なくこなせるようになった。しかし、まだ久美を近くに居させておく必要があった。


 そしてついに、ルジェのエキポナ兵士が発見する。


 千歳と久美も、首を揃えてココだと声を荒げる。


 ルジェの兵士の視界を中継する。そこは、かなりの年数が過ぎたであろう草木が生い茂るも、かつて人が暮らしていたことが理解出来る程に、村の家屋が残っていた。


 家屋に木の幹が纏わり付き、それが村を守るように見えた。


 同じ景色が限りなく続き、その先に一際目立つ巨大樹が構えていた。


 歩いても歩いても近付く気配はない。広大すぎる土地だ。


 その異様な雰囲気の中を、兵士は警戒しながら進んでいる。4人小隊だ。


 いつどこからデュロルが現れても良いように、臨戦態勢を崩さない。


 しかし、デュロルどころか、虫や動物さえも発見出来ない。


「何も……無い……?」


 デュロルだけが見えた禁域に生命一つ無いとなると、調査は振り出しに戻る。


 それか、禁域の巨大樹に何か隠されているのか?


 禁域の全域を調査する必要はあるな。


 見つけ出せたことだけで万々歳だろう。


 デュロルに纏わる情報が在るかもしれないしな。


ジジッ

「そのまま調査を続けてくれ。調査部隊を応援に送る」


ジジッ

「オーケーだ」


「観光は済んだか?」


 兵士の後方から、声がした。


 千歳は大机に上半身を乗り出した。


「あいつ……!!」


 兵士は振り向く。そこには、若い男が映っていた。綺麗な白髪に、疎らに黒が混じる。


「良い場所だろ。人の子らが足を踏み入れる場所では無いがな」


ジジッ

「逃げろ!!!」


 千歳は喉が張り裂ける勢いで叫んだ。この場にいる皆がザワつく。千歳の声に、兵士はビクッと視界を揺らした。


「お前らが入った所為か、どうも錆臭くてたまらん。此処が汚れる」


 千歳は泣いていた。その理由を、今ここで聞けるような状況ではない。


「お前は……誰だ」


 震える兵士の声。その緊張は、今世界中のエキポナが見ている。


「名乗る気は無い。それにしても錆臭い。不愉快だ」


ジジッ

「今すぐにその場から離れろ!!そいつが例のヤツだ!!"声"の 主だ!!」


 兵士の呼吸が乱れた。


ジジッ

「お願いだ!!」


 兵士は周りの仲間を見回し、離れていくように手で合図する。


 背中を向けた女性兵士の背中に、例の男は掌底打ちした。一瞬だった。女性兵士の前面から、肉片が飛び散る。その風圧で、前方の草木は激しく音を立てた。女性兵士はその場で膝を着き、正座の状態で動かなくなった。


 人の姿のまま……エキポナの身体を破壊した。


「片付けるのが億劫だな」


 兵士は抜刀する。構える刀身は小刻みに震えてる。


「同族でない種が、何故想を扱える」


 兵士は刀身に氷を纏っていた。


「同族にしか許した覚えは無いのだが。人の進化とは恐ろしいものだな」


 男は他に逃げる兵士の元へ一蹴りで行く。


 兵士の男性は振り向いて大口を開けて叫ぶ。その口に男は右手を突っ込み、身体を捻って兵士を持ち上げる。


 そのまま別方向に逃げる兵士へと放り投げる。投げられた兵士の歯が幾つか転がる。


 そして、投げられた兵士が逃げる兵士にぶつかる。一瞬だった。金属の衝突音と、骨の砕ける音が不気味に響く。


 武器を構える画面の兵士は、動き回る男に技が出せずにいた。それとも、目の前で次々と殺されていく仲間に動揺してるのか。いくら精神トレーニングしてようが、圧倒的強者の前では、それも無力に等しい。


「敵を前に背を向けるのは論外だ」


 男は兵士に歩き寄る。


「打ってみろ。想をどれだけ理解してるのか見てやる」


 兵士はかなりの速度で斬り、男の後方に氷の威力は飛んでいく。その風圧に当てられた草は凍りつく。


 想は使えてる。それに申し分無い威力。手練れの兵士……。その兵士が、指示だとしても背中を見せて逃げる相手。


 兵士は呼吸を荒くし、刀身を見下ろした。


 動いた視界に映ったのは、折れた刀身だった。


 折れた切先は兵士の左脇腹に突き刺さっている。


 見えなかった……。あの一瞬で、刀身を折り、切先を兵士に突き刺したのか。


「まるで理解してない。想とは何なのかを」


 男は兵士に突き刺さる刀身を、ゆっくり掌で押し込む。


 兵士の悲痛な叫びがこの場を埋め尽くした。


「錆臭い種がどんなものかと興味を持っていたんだが、失せた」


 兵士は折れた刀を振り上げようとする。しかし、先に男が脚で、兵士の右腕を蹴った。蹴られた箇所から腕は曲がる。


「千歳はこんなものじゃないのだろ。期待して生かしてるんだ」


 男の口から千歳の名前が出た。


 やはり千歳が精神的ダメージを受けた日、この男と何か接触があったのだな。


「ち……千歳は、お前より強い……圧倒的に」


 男は兵士の頬を掴むと、強引に顔へと向けた。


 男は目を見開き、整った顔を崩して嗤った。


「あいつが!?俺より!?」


 男は無表情を取り戻した。


「お前は、千歳には勝てない……!」


 兵士と千歳の関わりは無いはず。それでも兵士は、信じるように強い口調で言った。


「千歳は……!俺たちを背負(しょ)って立つ男だ!」


 それを聞いて、千歳はハッとした表情を見せた。


「千歳は、俺の名前を聞いただけで戦意喪失した。お前の言うその自信は、何処から来る」


「お前の名前が何だ!関係ない!千歳はお前の首を斬る!」


「この人も死ぬ……」


 千歳はボソッと呟いた。


「度胸だけは有るな。そこは褒めてやろう」


 千歳は白銀の眼差しを、画面の中の白銀の目を捉えて離さない。


「俺の名を聞いていたな。気分が良い、教えてやろう」


 男が息を吸うと同時に、千歳も息を吸う。


 男と千歳は、同時にその名を口にした。




「___デュロル・サールイスだ」




 言い終えたと同時に、通信は切れる。


 この場に居る者は、言葉を何一つ発せなかった。


 暗くなった画面をひたすら眺める。


 その名前は、誰もが聞き慣れたもので、誰もが思考を遠ざけた。





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