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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【結】

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98/144

97話ー元気かー

 明かされた名前。


 その名前は誰もが知り、誰もが恐れた。


 対してその種は湧き上がる。全世界が揺らいだ事象となった。


ー東京本部ー


 デュロル・サールイス。


 その言葉は、確実にあの男が発した。


 人種デュロルの後に、サールイスという名前を言った可能性もある。


 しかし、"デュロル"という言葉自体に意味が存在しない。昔から根強くその言葉だけが伝わってきた。意味は無いにしても、それを聞けば、人智を超えた骨と筋肉の人種であると、誰もが理解"は"出来たのだ。


 その"デュロル"が、何処で誰が名付けたのかすら、疑問に思わずに。それ程まで世間に定着していた。


 人智を超えたデュロル全体に、その"声"を届かせる者。


 目の前で感じた、異次元な圧。


 そして、"デュロル・サールイス"と名乗ったこと。


 人種と同じ名前を持つ者……。


 しかし、見た目は若かった。この長い人種間の戦いを生き抜いた年齢ではまるで無い。


 もしくは、年齢すら超越した存在とでも言うのか。


 千歳(おれ)は目の前でデュロル……ややこしい。サールイスの名前を聞いた時、細胞の全てが怯えた。


 こいつが、デュロルの元凶なのか?とか、こいつと俺は戦うのか?とか、色んな思考が頭を巡った。


 心の奥底で、ヒョーゾーも怯えていた。


 それが俺の身体に伝って、立つ力すら失ってしまった。


 久美(くみ)に背負われてなかったら、俺は……。


 でももう大丈夫だ。俺にはみんなが付いてる。


 殺されてしまったあの兵士も、見知らぬ筈の俺を頼ってくれた。希望に成れていたんだ。


 想いの拠り所として、俺は立ち上がる。


「あの兵士の記録は、全世界のエキポナが見た。皆、怯えてなどいない。俺らには千歳(ちとせ)が付いてると、俺らが千歳を支えるぞと、皆で力を合わせるぞと、士気は上がったんだ。それも、千歳が今まで成し遂げだことが影響してるだろう。千歳1人に戦わせたりしない。皆で戦うんだ」


 俺が膝を着いた夜のことを堀(ほり)さんに話した。堀さんは、俺の肩を持って、俺の眼を見てそう言ってくれた。


 俺の脳裏に、みんなの笑顔が浮かんだ。


 誰一人として失いたくない。


 みんながみんな、そう思ってる筈。


 肩組んで想いの輪を作った俺らなら、成し遂げられる。絶対的な自信がある。


 久美はズカズカと俺の前に立ち、片手で頬を握る。俺の唇はタコみたいになった。その顔が、久美の瞳に反射する。


「もう二度と、情けない顔見せんなよ」


「わかっぱ」


 久美は吹き出して笑った。俺はその笑顔を見て安心する。


「みんなを守る」





 デュロル・サールイスを記録した兵士の映像は、全世界のエキポナが見ていた。


 それは、デュロルの世界でも同じである。


「こうして"方角"4人だけで会うのは久々だね」


「事が事だもん。仕方ないよ」


「……」


「まったく、自由なお方です」


「サールイスさんはさぁ、僕らの努力を一瞬で蹴散らしちゃったよね!どれだけあの人の存在を隠すのに動いてきたことか!」


「まあね〜確かにね〜あの人自分から名乗っちゃったもんね〜うふふっ」


 ゴスロリドレスの袖で口元を隠して笑う。


「笑い事ではないですよ!今世界は混乱してます。我々も今こうやって、焦って集まっているではありませんか」


 キッチリとグレースーツを着こなし、堀の深い顔によく似合っている。


「これじゃ、エキポナ動いちゃうじゃん」


「それな〜。でもあの人、このままカウントダウン始めるつもりなんでしょ?」


「そうらしいね」


「デュロル様がカウントダウンを終えるか、エキポナが攻めてきて遅れるか、ですね」


「うん。エキポナは全勢力を上げて攻めてくると思う」


「それを、私たちを筆頭に守るって感じ?」


「そうなるね。エキポナが全勢力で来るなら、こっちも全勢力で対応しなきゃ」


「エキポナ相手に全勢力使う必要ありますか?」


「あるある。最近のエキポナ、ナメちゃいけないよ。千歳を筆頭に、猛者揃いだよマジで」


「まあね〜ルータス和(かず)ノ信(しん)亀戸(かめいど)が負けるなんて思わなかったもんね〜」


「……そうですね」


「それにさ、千歳って流斗(るうと)の幼馴染でしょ?殺しちゃっていいの?」


「君たちに相手はさせないよ。僕がやる」


「誰が千歳か分からず、殺してしまうかもしれませんよ?」


「ははは。あまり調子に乗るなよ」


「うー怖い怖い」


「何故流斗さんみたいな人が"方角"に成れたのか、まるで理解できません」


「いやマジで。エキポナだからって油断してると、ルータスみたいになる」


「はいはい、私わかったからもう行っていいかな?みんなに声掛けなきゃ」


「うん、いいよ。詳しいことはまた連絡する。トマスも良いね?」


「……わかりましたよ。デュロル様を御守りすれば良いのですね。その為であれば、尽くしましょう」


「君ももう行っていいよ」


「……」


「っふう。歴史動いちゃうじゃん。全面戦争になったら、これは第三次デュロル世界大戦になるのかな」


 外の空気を吸う。


「綺麗な空気も、しばらくは吸えないかな。血の匂いって苦手なんだよね」


「お疲れ様です、組長(オヤジ)」


「まずはみんなを集めよっか。そっから配置は決める」


「配置?」


「今日本のチームエル・ソルは全世界に分かれてる。誰が何処に居るのかまでは分からないけどね」


「それも……?」


「うん、拠点は全部トマスが掴んでる。エキポナは全力で千歳を援護する筈で、どういったルートで来るのかは予想しなくちゃ」


「予想できるポイントに、鬼を配置すると……」


「そうだね。お前にも役立ってもらわなきゃ」


「仰せのままに」





ー開戦まで3日ー


 全世界のエキポナの精鋭達の全軍出撃までの3日で、想の訓練も終盤に差し掛かる。訓練以外は、それぞれの大切な人との時間を過ごす。


 日本に帰国できないみんなも、ビデオ通話で顔を合わせる。


「千歳くーん!元気そうで良かったよ!何だか、近くに千歳くんの居ない生活が不思議でね、静かすぎて変な感じ!ついつい千歳くんの名前呼んじゃうんだ!私"も"変な目で見られちゃう」


 高千穂(たかちほ)は相変わらず元気の塊だな。俺も元気貰えた。


「うい千歳!聞いたぞ!お前怖気付いたんだってな!膝から崩れ落ちたんだって!?目の前で見たかったぜ。あでも、もうそんな千歳見せんなよ」


 畑山(はたけやま)のテンションの高さは何だ。美女でも近くに居んのか?


「千歳さん!僕は元気ですよ!何かしらあると千歳さんは僕を心配しますからね。先に言っておきました!みんなにも上手く教えれてますし!意外と仲良いんですよ!」


 正直、滝原(たきはら)のことは心配してた。弟みたいなもんだし。エル・ソルの中で一番年下だし。元気そうで安心した。


「千歳。俺は今、お前らに追い付くのに必死だ。重三(じゅうぞう)さんの訓練を受けたお前らは、先を行き過ぎた。楔丸(くさびまる)も鍛錬してる」


「こいつ必死すぎて足ツったんだよ」


「言うな楔丸」


 これでもかと冷静な川崎(かわさき)さんの可愛い一面を見た気がする。


「チトッセオ!チトッセオの顔が見れて安心したよおお!みんな向上心の塊でね!みんなチトッセオを尊敬してるんだよ!それ見て僕、自分のことのように嬉しくなっちゃって!」


 俺の名前がチトッセオで通らないことを祈るばかりだ。里道(さとみち)、お前の笑顔に元気もらってるぜ。


「千歳くん元気〜?こっちはちょっと寒いかな。寒さに弱い俺は風邪ひかないように頑張ってるよ」


 体調管理にストイックな山谷(やまたに)さん、やっぱり落ち着いてて凄いや。


「千歳、離れてからお前の凄さが染み染みと伝わってくる。ここに居る皆は真面目だ。真面目すぎて空気が硬い。バカは必須なんだなと感じたよ」


 そこですか……。一緒に訓練してから、やたらと由紀(ゆき)さんにイジられる俺。にしても、メガネ取った由紀さんて、こんなに美人だったの。メガネしてても美人だけども。


「ういー千歳!お前の顔が懐かしく思うぜ!こっち来てさ!嬉しいことがあったんよ!なんと!俺を尊敬してくれる人が居た!凄いよな!俺嬉しくなって嬉しいって叫んじまった」


 藤長(ふじなが)は本当いい笑顔すんだよな。お前も凄い奴なんだよ。見てくれる人には、それが伝わってるって証拠だな。


「やほー千歳くん!こうやって面と向かって話すの久々だね!訓練の時に教わったコツとか覚えててね、私今スパルタやってます!」


 キリッとした瀬川(せがわ)はマジで頼れる時の瀬川。ストイックすぎる瀬川のスパルタ受けてる人達……ご愁傷様です。


「千歳っち!特に話すことも無いっちゃけん!あ、そうそう!ウチ3キロ痩せたんよ!凄ない?千歳っちも痩せとう?そんなことない?」


 鹿子木(かのこぎ)の瞳はいつもキラキラしてんだよな。人の体重聞く時にもキラキラさせるの凄いと思う、うん。


「千歳くんこんばんは〜。あれ、そっちはこんにちは?こうして会話しとっても、昼と夜違うの面白いっちゃね。そうだ!セロリ食えんの驚かれたやろ?やけん、努力したばい!」


 名前がセロリなのにセロリ食えないの!?ってめっちゃ大声で叫んだの、アレ結構反省してます。めちゃ失礼なこと言ったなって。


「千歳!俺は今スゲー感動してる。飯がめっちゃ美味え!!やる気しか出ねえよな。お前もちゃんと食えよ。千歳らしさ足んねえんじゃね」


 室瀬(むろせ)。こいつは俺の変化に直ぐ気付く。小学校の時からそうだったな。気遣いありがとう。俺もやる気しか出ねえ!


「千歳くん。ついさっきも弟から電話あってな、千歳くんに飯食うように言えって言われて来ちゃった。飯は、千歳くんの身体を構成する上で、とんでもなく大事な行為っ!天井に届くくらいの山盛り、また食べてよ!」


 正人(まさと)さんにも根回ししてるとは、中々やりよるな室瀬よ。だんだん食える量も復活してきた。いやむしろ前より食ってるぜ。


「お師匠!うっす!千歳メニュー継続してるよ!あとね、眉間を蚊に刺されて第3の目開眼した。なまら痒くて、掻かずに指で抑えてたら仇名がピッコロになっちゃった。日本の文化ですねってイジられるのどうにかしてよ師匠ー!!」


 訓練以降俺を師匠って呼んでくる丘(おか)。師匠に似てバカになってきたな!笑った笑った。


「千歳。ここは治安が悪い。だが、吸収も早い。俺も、鼻が高い。気分、爽快。寿司、食うかい」


 真顔で言われるとボケてるのかわからん。権三(ゴンゾー)節が炸裂してやがる。


「努(つとむ)やほやほ!訓練の合間に観光してるんだけどね、そのお陰か、やる気がもーっと出てきた!この綺麗な街並みを、この手で守りたいって。温かな人の優しさを守りたい」


 伊歳野(いとしの)にはめちゃ助けてもらった。武器やら防具やら、天才の閃きで発明してくれた。その伊歳野が、自分の手で守りたいと。お前の閃きなら、絶対に守れる。


「千歳くん。こうして会話するのは初めてだね!私にもこんな日が来るなんて!私は千歳くんの他に、唯一のデュロルでありエキポナだからさ、困ったことあったら何でも言ってね!亜百合(あゆり)から色々話聞いてるんだ!」


 ハキハキと明るい口調。銀城(ぎんじょう)、お前も心の支えだ。俺と同じ境遇で、同じくらい努力してる。


 みんなと話して、マジで元気出た。


 みんなとのビデオ通話が終わって、俺の肩に手が触れる。その手は、今はもう俺より小さくなったけど、握り慣れた手。


「お父さんとお母さんの墓参り、行こ」





ー開戦まで2日ー


 姉ちゃんと2人で墓参り行くの久しぶりだな。


 俺がJEAに入隊する時っきりか?そう考えると最近だな……。


「努(つとむ)が小さい頃はさ、私の手を絶対に離さなかったんだよ。怖いからとかじゃなくて、俺が姉ちゃんを守るって言って。どんだけ良い奴なんだこいつはって思ったよ私は」


「それ今言う必要ある!?何から守るんだよ恥ずかしい」


「そこが可愛いとこじゃ〜ん!」


 俺の髪を掻き乱す。


 墓石を洗い、周囲の草をむしる。


 花を添えて、線香を炊く。


 俺と姉ちゃんは、静かに手を合わせた。


 "努が戦いに行きます。私は戦場には行けません。なので、見守ってやってください。手助けはしなくていいかな。努、世界で一番強いから。"


 心の声がダダ漏れだっつの。


 これでもかってくらい最高の姉だよ。母ちゃんに似たんかもな。怒ると怖いところも……。


 頭を叩かれたような風が吹く。


 俺はこれから、無茶なことをするんだと思う。手の届かない人すら守ろうとしてる。この戦いが終われば、もしかしたらさ、デュロルの居ない世界が来るのかもしれない。


 そしたら、俺らエキポナも用は無くなるし。


 そこでやっと、"人間"だけの世界になって、でもまだそこから問題は山積みで。


 そこは"人間"の力でどうにかなると思う。その問題に"デュロル"の悩みは無くなって欲しい。


 その為なら俺は人生を懸けます。


 この身体で生まれたこと。


 この思考で生まれたこと。


 この時代に生まれたこと。


 健史(けんし)と輪子(わこ)の子に生まれたこと。


 奏(かなで)の弟として生まれたこと。


 親友達(みんな)に出会えたこと。


 全身全霊でぶつかって来ます。


 それで死んでも仕方ないと思うけど、まだそっちには逝きたくないな!


 ドデカイ土産話持ってくにゃ、まだ若いからさ。


「ふう。途中努だけに突風吹かなかった?」


「おう、母ちゃんに頭叩かれた!」


「変なこと言ったんだな」


「まあね!なっはっは!」


 俺と姉ちゃんは立ち上がる。


「父ちゃん母ちゃん、行って来ます」


 "おう行って来い!"


 "行ってらっしゃい。情けない姿見せたら、また引っ叩くから。"


 空に拳を差し出して、踵を返す。


「みんな家に居るからさ、カレー、食べてってよ」


「おお!カレー!懐かしい!姉ちゃんが作る……の?」


「何?不満?食わない?」


「いえ、食べます。食べさせてください」


 姉ちゃんのカレーは、少し苦くて、しょっぱくて、大好きな味。





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