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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【結】
94/144

93話ー声ー

 ある場所で起こった怪事件。


 その事件が、強大な何かが居ることを示唆する。


 豪壮寺の説教により、エキポナ側も動く。


ーエジプト砂漠遺体発見から僅か13時間後ー


 リハビリ中、突如脳内を掻き乱すような耳鳴りがした。


 驚いて床に倒れる俺を心配して伊歳野(いとしの)は駆け寄る。


「まだ休んでた方が良いんじゃないの?無理してるって絶対!」


「いや……違うん___」


 再度耳鳴りはした。


 "集え。禁域に立ち入ることを許可する。"


 またあの声だ。日本語じゃないことは確かだけど、何を言ってるのかは理解できた。


 その声の後、脳裏にモヤがかった風景が浮かび上がった。


 広大な森。木の根元には、以前人が居たであろう家屋がある。家屋は木の根に侵食され、手入れされていない遺跡のような姿だった。


 そして何より、森の中央に聳え立つ大木。300メートルはあると思う。


「___ぇ!ねえ!おい!聞こえてるか??」


「おお!わりい……!」


「変だぞ!?いつもの(つとむ)じゃない!さっき目も泳いでたし!何があったの!?」


 伊歳野は俺の肩を掴んで、揺らしに揺らしていた。


「またあの声が___」


 "ああ、後。錆びた匂いの種族が邪魔だな"


 耳鳴りは無くなった。


「声!?声ってまさか……」


 俺は額に汗を流しながら頷いた。


ジジッ

「堀さん。声が……聞こえました」





ーEAグループ 世界同時会議 JEA東京本部会議室ー


 俺ら4チームエル・ソルは会議室へと集められた。


 その場にはお偉いさん達が各々意見を口にしている。まだモニターは準備画面で、世界とは繋がっていない。


 伊歳野に車椅子に縛り付けられた所為で、どうにも落ち着かない。


 俺らの他に、一部始終を見ていた伊歳野を含め、銀城(ぎんじょう)と呼ばれた銀髪の同い年くらいの女性と、東京本部に所属してる黒潮(くろしお)らデュロル4人も出席している。


 デュロルである彼らにも、あの"声"は聞こえたらしい。


 銀城と高千穂(たかちほ)は互いに抱きしめ合って、甲高い声で会話していた。


 そして、高千穂は俺の方へと歩き寄って来た。高千穂の後ろで銀城はモジモジしながら、高千穂を盾に覗き込むようにして俺を見ていた。


「よっ!話は聞いてっぞ!こうやって会うんは初めてだよな!よろしく!」


 銀城は高千穂の盾からバッと顔を出し、鼻から大きく息を吸った。


「初めまして千歳(ちとせ)さん!!銀城 朱梨(しゅり)です!あの!大ファンです!憧れてます!髪の毛も!銀髪にしちゃいました!言えた!えへへ!」


「お……おお!憧れ……てるのか!そうか!良かったな!!」


 予想すらしなかったテンションで来られて、少し動揺してしまった。ん?良かったな?って高千穂の声が聞こえた気がする。


 銀城は俺らが居ない間、チームエル・ソルとして活躍してくれた。実力もある。それに、デュロル且つエキポナなのは、日本で俺と銀城のみ。そこんとこも含めて"憧れてる"と言ってくれたんかな。


「銀城の活躍も知っててよ、憧れって言ってもらえたことが、嬉しくってよ!後でゆっくり話そうぜ!なっはっは!」


「うん!話したいことたくさんあるの!千歳さん忙しくってそんな時間無いと思うけど!亜百合(あゆり)ちゃんとも話したいことあるのに〜どうしたらいいの〜」


 銀城は楽しそうだった。銀城は挨拶してから高千穂と歩いて行った。


 正直、本気で嬉しかった。


 人間であり、デュロルであり、エキポナであり。同じ苦労を知る人が居ること自体心躍るのに、強い心を持ってくれてる。俺を見て、少しでも心の支えになったなら、もっと嬉しい。


 そこに、久美(くみ)が会議室に遅れて入って来た。


 久美は真っ直ぐ俺の横の椅子に座る。


 脚を組み、すぐさまテーブルに頬杖を突く。


「人の頭に勝手に語りかけんなよな気持ち悪い」


 不貞腐れたようにボソリと呟く。


「やっぱ久美にも聞こえたんか」


「うん。不気味だし、怖い」


「それ、めちゃわかる」


「今までのデュロルとはさ、エグい程レベル違うのわかるよね」


「ああ。存在がデカすぎる」


「何が起きたのかすら理解できないなんてことある?」


「正直、これが1人のデュロルであって欲しくない。マジで怖え」


「……」


「俺らがこれから戦わなきゃならない相手なんだぜ」


「……そうだね」


「敵を知る前から、弱気になっちまってる」


「それじゃ思う壺じゃん」


「……確かに」


「初めっから弱気な努初めて見た。少っしもムカつかないわけ?」


「……ムカつく」


「アタシはちょームカつく。それにこのデカさ、デュロルって人種の何か握ってそうじゃない?コイツの声が聞こえてからデュロル全体が活発化したし、力も増したって聞く。あと、デュロルにしか声が聞こえてないってところ」


「……ふぅ」


 それを聞いてから、俺の心は落ち着いた。自然と深呼吸して、"いつも"を取り戻した。


 久美は冷静だなあ。怖い感情を、怒りに変換してる。いつもの俺なら出来たことだろ。


 チャンスじゃねえか。この"声"の正体を探ることが、夢に繋がるんじゃねえか。


 それを、掴み損ねた。久美の他愛無い愚痴みたいな会話で、それを引き戻してくれた。


「努の目つきに戻った」


「ありがとうな。マジで。おかげで思い出せた」


 全デュロルに語りかけるなんてこと、そんな簡単に出来てたまるかってな。


「俺の夢を叶えるには、この元凶をぶっ飛ばさねえとな」


「少しは夢に近付くかもね」


 360度に配置されるモニターは、それぞれの国の会議室の様子を映した。


 豪壮寺(ごうそうじ)元帥が話し始める。


「結論から言う!世界のエキポナで協力する!」


 発された一言に、モニター越しのお偉い方はザワザワしだす。


 世界同時会議が始まる。


 エキポナが動くと同時に、デュロルも動き出していた……。





ー世界同時会議開始から僅か1時間と7分後ー


 異変は1つのモニターの中から始まった。


 その国のチームエル・ソル全員が出席する場所に、デュロルは急襲を仕掛けた。


 モニターの中は黒い何かで覆われた後、通信が途切れた。


 場の空気は揺れた。


 現状を整理する間もなく、別のモニターの中にもデュロルは現れた。


 そして次も。


 "声"は聞こえてない。違う国のデュロルが、どうしてこうも連携を取れる。


 建物を揺らす衝撃音。


 東京本部(ここ)もか。


 衝撃音は徐々に近付いてる。


 俺もチームエル・ソルのみんなも、武装してない。ここに来られると___。


 壁は壊れ、モニターを押し倒し、数え切れないデュロルが流れ込んで来た。


「目標は千歳(ちとせ)だぞ〜。他殺すんはちょっとだけにしろよ〜」


「うっす!!」


 俺目当てか!?


 デュロル達は一目散にお偉いを狙った。


 チームエル・ソルのみんなは、それを防ぐ。


 ……数え切れないデュロルの中を、悠々と歩く鬼が3人。


 そのうちの1人が俺へと歩き寄った。


 車椅子から立ち上がろうとした俺を伊歳野が抑える。


「ダメ!努を狙ってる!その身体でどうするつもり!?」


 目の前の鬼は立ち止まった。


 俺を見ろと言わんばかりに、自身の胸部を叩いた。


 その鬼が居た場所に、伊歳野は居た。


「は〜い殺し終わり〜。これ以上殺すと組長(おやじ)に怒られるで〜」


 その声は、俺の真後ろからだった。


「うっす!!」


 デュロル達は一斉に手を止め、入って来た壁から出て行った。


 皆が俺に駆け寄ってくる。


 瞬きしたら、景色は変わっていた。


 肌に当たる風、コンクリートの匂い。


 東京本部の目の前だ。


 俺の前には、綺麗に整列した柄の悪い男達が居て、スーツの後ろで手を組んで俺を見ていた。


 俺は立ち上がろうとするも、肩に手を置かれて押し込まれる。


「まあまあ、座っててよ努」


 この声……聞き覚えしかない……。


「お疲れ様です!!」


 目の前に整列していた男達は、一斉に膝に手を乗せて、頭を深々下げた。


流斗(るうと)!?何であんたが……!」


 後ろから久美の声がした。


「やっほー2人とも」


「流斗……」


 ああそうかと、納得しちまった。


「お前、こうなるなら何であの時俺の前に姿現した!」


「"こうなっちゃうから"かな」


「"声"が掛かったからか?」


「うん、そうだね」


 久美は呼吸を乱してる。


 整列する男達の前に、さっき居た3人の鬼が着地する。


 その鬼達はデュロル姿を解除して、他同様に頭を下げた。


「そろそろ行きやしょう。組長(おやじ)


 俺の後ろに居る、流斗に向けて頭は下げられてる。


「うん、もうちょっと待ってて」


「お前……」


「言ってなかったけど、僕、ヤクザ」


「は!?」


 久美は声を張り上げた。


水月(すいげつ)組の組長やってる」


「水月って……」


「"元"最重要警戒デュロル。知ってる?水月 春五郎(はるごろう)。僕は努を倒さないといけないんだ。でも、こんな状態の努は倒せないから、治ったら僕のとこに来て」


「それはデュロルとしてか……?流斗としてか……?」


「うーん、どうかなあ」


 流斗は車椅子から手を離して、列へと歩き寄る。


「行かせるか___!!」


 俺は勢いよく立ち上がり、流斗の脚を掴もうと倒れ込む。


 俺の右肩は踏まれた。


組長(おやじ)に触れるなよ。今のお前にその権利は無いね」


 翻訳が機能してる。日本語じゃない。


「シン。踏むのやめろ」


 俺の肩を踏んだのは鬼の1人だ。わかったよと返事はするも、脚を退かすまで数秒はかかった。


「動けね〜なら大人しくしてな!あんま意地張るなよ千歳ちゃん」


 シンと呼ばれた鬼は元居た位置へ戻る。


「あ、それと。"声"掛かっちゃったからさ、今世界中の鬼が動き出してると思うんだ」


 振り向いた流斗は、目尻に強いシワを作り、八重歯を剥き出しにして笑った。


 見慣れた笑顔の筈が、狂気へと変わった。


 久美に肩で支えられて立ち上がる。


「忙しくなると思うけど、頑張ってね!」


 まったね〜!と明るい声と共に、そこに居た全員は姿を消した。


「久美……俺、何だか覚悟決まったわ」


「……みんなんとこに戻ろ」


 事が起きた会議室へ戻る。重傷者こそ居るものの、死者は居なかった。不幸中の幸いだ。チームエル・ソルのみんなが注意を引いてくれたから。


 連れ去られた先での出来事をみんなに話した。


 忙しく飛び交う話し声が、俺ら全員の不安を掻き乱していた。


「世界中の鬼は、俺らの見たあの場所に向かってる!其処に、"声"の元凶の手掛かりがあるはずだ!」


「でも、見た情報は森と巨大な樹ってことだけ。世界中を探さないといけない」


「それを世界に言おうとしてるんに、全く危機感持って聞いてくれんくてねえ」


 豪壮寺元帥は下唇を突き出した。


「この感じからして、世界中の本部が襲撃されてる。否応にも、協力する他ないじゃろて」


 元帥は顎に手を当てて唸った後、電球が飛び出たように目と口を開いた。


重三(じゅうぞう)を呼ぶかっ!」


「爺ちゃん!?」


「あいつは頭がキレる!」


「いやあ、爺ちゃんでもこの状況は何ともならん気が……」


「ええい!旧友に会って安心したいだけだー!」


 元帥がこんなだから、重い空気が軽くなった気がする。


「取り敢えず!今出来ることから!ケガ人の介護!はい!取り掛かれいエル・ソル共!!」


 元帥はゴンゾーの腹をポンポンと叩いてケガ人を担ぎ上げた。


「おしゃ!!俺らでぶっ飛ばすぞ!!まだ得体知れん奴だけど!必ずぶっ飛ばす!!」


「そうだね!」


「おうよ!」


「それでこそ千歳だな」


「ホォレ!!エル・ソル!!士気高めんのも良いけども!後でやれ!!まだ攻めてくるやもしれんだろ!」


 みんなの顔に、さっきみたいな不安色は無い。


 ___これから人種間最大の戦いが始まる。





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