94話ー崩壊ー
世界中のデュロルに聞こえた"声"。
世界同時会議が開かれる中
その時を狙うようにして襲撃される。
ー東京本部襲撃から2時間後ー
「おいおい、凄えやられ様だな」
健史と峯岡の墓参りした後、武雄達の顔を見に行った。夏美も奏も元気になりつつある。珍しく冬絵も付いてきて、賑やかな空間を過ごした。
千歳の家系は騒がしくないとな。
だが、世の中はそうもいかない。
東京本部に鬼の襲撃。向かう途中、世界各国で同じ事件が起きたとニュースで知る。
仕事が早え。
この事件が、民間人にどう影響を与えるのか考えて欲しいがな。
デュロル側には吉報だろうよ。
お陰で高速道路も上りは空いてる。下りは、まあそうだろうな。
東京本部から立ち上る煙を見ちゃあそうなる。
「あの!豪壮寺元帥!止めたんですが!会わせろと聞かず……!」
「泰介ぇ、まだ元帥なんて呼び方強制してんのか!」
瓦礫を持ち上げた泰介が俺を睨んだ。目を合わせた瞬間、泰介の表情は晴れ上がった。
「重三!!おま……え!?久々だなあおい!!」
「相変わらず声のボリュームがデケェ!!でーっはっはっは!」
辺りで作業していた兵士らが何だ何だと顔を向ける。
「重三見てっと昔を思い出すなあ!懐かしいな!」
「懐かしすぎて老けちまったい!」
辺りはザワザワしだす。
「正直、重三の手を借りたいと思っていた。来てくれてありがとう」
「そんな事と思ったぜ。俺はあくまで手を貸すだけだ。この事件は、みんなの力が必要だからな」
「わぁってる」
「チームエル・ソルは何処だ?」
「あぁ、あいつらなら……」
遠くから叫び声とタイヤの擦れる音が聞こえる。
「……ん!!……いちゃあああん!!爺ちゃああああああん!!」
キキーッと車椅子でドリフトして来たのは、我が孫の努だ。
「ちょっと!はぁはぁ。暴走すんなバカ!!」
後から追い掛けて来たのは久美だった。
「千歳の爺ちゃんやっほ!来てたんだね!」
「随分騒がしい登場だな!努!久美!お前ら良くやった!!世界デュロル保護機構をぶっ飛ばしてくれた!」
メッセージのやり取りはしたが、やはり実際に会って言いたかった。
「おう!ありがとう!!そんでよ爺ちゃん!さっきさ!さっきさ!」
「落ち着け努!ゆっくり喋れ!」
興奮してる努は何を言ってるのか聞き取れない傾向がある。
「流斗がヤクザで、鬼のデュロルに慕われてて、水月組って言ってた」
「……ん?」
聞き取れたはずだ。何故聞き返した。だーかーらーと前置きされ、ゆっくりと同じ言葉を聞かされて尚、聞き返そうとしてしまう。
「流斗……」
その名前には覚えがある。努が小学生の頃、久美といつも3人で居た奴だ。
それがヤクザで。鬼のデュロルに慕われてて。水月組の……。
水月か。
"元"最重要警戒デュロルに指定された水月 春五郎の意思は、根も葉もない噂と共に世へと浸透した。
春五郎は無差別に人を殺めて食ったと。鍋を囲んだ同士だけは見逃したと。
理性を失って尚、義理人情を貫く姿勢が、ヤクザには響いたのか。水月の苗字を組の名前にしたんだろうな。
「努……覚悟、出来てんのか?」
努の目は思いの外真っ直ぐだった。
「ああ!出来てる!俺の手で、俺の手で止めなきゃ!」
「例え、もう遅かろうともか?」
「止めたい。流斗は多分デュロルで鬼なんだと思う。鬼達に慕われる程の。遅くても、これ以上……流斗に人の命は奪わせたくない」
「……そうか」
俺に似やがって。
「それに、流斗に聞きたい」
努の後ろで、久美も同じ目をしていた。
3人の間にしか無い記憶。
「流斗に行き着けるかは、こっからの働きに掛かるな」
世界の主要な国々の本部は急襲された。それでも壊滅までは至らず、災害対策環境で機能していた。主要チームエル・ソルの無事も確認されている。
豪壮寺の呼び掛けで世界のチームエル・ソルは協力体制を取ることになったものの、具体的な案や策は出されず。協力的な国もあれば、非協力的な国もそこそこあった。
「我が国は我が国で捜査します。日本の力を借りずとも、我が国の兵士だけで事足りますし。情報共有はするので、そちらも情報共有お忘れなく」
情報共有も大切だろうが、今置かれてる状況的にそうじゃねえだろ。と、声に出したい気持ちを抑える。ここ大人ね。
まだ騒ぎが起きてから時間も浅い。非協力的な国が居ても致し方ない部分はある。
しかし今日の事件みたく、また世界各国で同時に襲撃があった場合、対応しきれるのだろうか。
俺が育てた日本のチームエル・ソルは、ぶっちゃけ世界レベルだと思ってる。
想の使い方をマスターしてるし、1人1人が各国のチームエル・ソルに伝授した方が良いに決まってる。
努が人に教えるところは想像できないけどな。
どうしたものか……。
ー非協力的な国の1つ サリドヒエラ共和国 世界同時襲撃から2日後ー
「今ここには!国中からチームエル・ソルが集まっている!この国の精鋭達だ!互いを高め合うには丁度いい機会だろ!限界を超えろ!掴め!デュロルを返り討ちにしろ!!」
キツい……!上はバカなのか!?
日本の力借りた方が良いに決まってるだろ。
まあ、サリドヒエラのチームエル・ソルも世界トップレベルだし大丈夫だろうとも思ってる。
あいや、むしろ日本の力借りなくてもイケんだろ。
ただ訓練の量がバカ増えるのは納得出来ない。
ただでさえ世界トップレベルの俺達だぞ!?
オーバーワークは皆嫌いなんだ。
金が出るから皆頑張ってるにすぎない。まあ実際、金が出るなら良いやとは思ったし、いっか。
「良いか!お前らは国の顔だ!お前らがどうしようも無いんじゃあ国の恥だ!!徹底的にやり込め!!」
「イエッサー!!」
しばらくデュロルの活動は収まるだろ。まあ、何かあっても俺なら直ぐに片付けるけどな。
……っ!
建物全体が大きく揺れた。崩落音の合間に響く警報が、俺らの脳裏を掻き乱す。
あの日と一緒だ。
崩壊音は徐々に近付く。
教官が音の方を見やった。
右手奥の天井に、正方形の線が連なって浮かび上がる。線の隙間から砂埃が噴き出る。
そして1つの正方形が下に動くと同時に、他の正方形達も連動し、天井は崩れた。
「構えろ!!来るぞ!!」
教官は叫びながら俺らの後方へと撤退する。
心拍数が焦りを表してる。
只者じゃない何かが、ここへ来ている。
今俺らが居る場所は、施設の地下23階だぞ。ここまで、兵士達の防衛を突破したと言うのか。
崩れ落ちた天井から、何かが降ってきて着地した。立ち込める砂埃の中、2本のツノを確認できる。
砂埃の中の影は、自身の身長より長い何かを振るった。砂埃は細かな正方形に分けられ、空気に溶けるようにして消える。
そのデュロルは、今までのデュロルと明らかに違っていた。
2本のツノがあることはもちろん、腰に何かを巻き付けてる。日本の神社仏閣で見たことある……注連縄か?それを前で結んでる。
その鬼が肩に担いでるのは、2メートルはある棍棒だ。
オーラが違う……この前襲ってきたデュロルの中に鬼は居なかった。鬼を初めて見る。こんなにも、存在が重いのか。
俺らは武器を構える。死ぬわけにはいかない。
世界に名を馳せるチームとして、魅せなければならない!
「強そうだ」
心臓を掴まれるような声。
その声を合図に、スヴィア地方チームエル・ソルが駆け寄る。あのチームは近距離に特化してる。大武器相手には部が良い。
ナナの弓で鬼の足元を泡で滑らせ、踏み込み辛くさせる。そこに、他3人で一気に詰める。
それに、クイムの刺突剣を避けれるデュロルはまず居ないからな。
鬼は棍棒を振り上げる。それじゃクイムの剣速には間に合わないだろうな。行けクイ……ム……。
クイム……!?
鬼が左拳をクイムに突き出した瞬間、クイムは正方形の肉片となり崩れた。目でそれを理解した。しかし、棍棒は振られる。
棘の付いた棍棒はまずフリンの脇腹へと入り込む。瞬間、フリンはクイム同様に崩れた。
「やめろ……」
絞り出した声は、非情な鬼への乞いにしかならない。
フリンの血を纏ったまま、棍棒はテトムスをも崩した。
たった一振りしただけで、チームエル・ソルの3人を殺した。
棍棒を振り切った風圧に、フリンとテトムスの血飛沫が乗って来る。生暖かな匂いが、この室内に充満した。
「最初の突きは速かった。避けるのが遅ければ当たっていた」
あの鬼は何なんだ。全ての動きを見ていたのか。
鬼は足元に重心を落とした。すると、鬼周辺の床に正方形の線が入り、その線は瞬く間に広まった。
俺らはその線に触れぬように飛ぶ。線は俺らの下を通り過ぎ、端へと到達する。
下に意識が向いてしまった。そう気付いた時既に、ナナが崩れた風圧が届いていた。
鬼は壁を蹴り、教官を崩した。
俺らは床に足を着ける。俺らに着地した感覚は無く、そのまま階下へと落ちていく。
階下に叩きつけられ、直ぐに立ち上がる。鬼が着地した音がした。その直後、俺の隣に居た相棒の影が下に消えた。
「まずい!片脚が!」
相棒の片脚は不自然に出来た正方形の穴に嵌っていた。
こっちに来る!
身構えた。しかし、鬼は正反対へと駆ける。
「今のうちに……!」
【崩肉】
鬼は棍棒の先端を相棒へ向けた。そのまま柄先を掌でポンと押した。
俺の目の前で、相棒の頭が正方形に崩れた。
……遠距離も……だと。
何故俺は、遠距離は無いと思い込んだ?
鬼って存在は、俺らの予想出来ない程に強いのか?
日本は、その鬼を3体も葬ったのか!?
俺は涙を流していた。涙の横に、ヨダレも垂れる。
共に切磋琢磨した仲間が、言葉通り一瞬にして死んでいく。
俺らのチームは世界のトップクラスなんだろ?
無敗なんだぞ?
ズルいだろこんな強さ。
「そうだ、日本が……」
気付けば、もう俺だけになっていた。
「どうした。お前だけだぞ。そうやって地面に乞うても、地面は助けちゃくれない」
「日本に……日本が……!日本が、貴方達の邪魔をしようとしている!!日本が首謀国なんだ!貴方程の強いデュロルなら、日本を壊滅できます!!」
「俺は弱い。あの方から【崩鬼】の名を授かってはいるものの、この身に余る名誉だ。その弱い俺に、乞うてどうする」
この国のチームエル・ソル全員を相手にして、無傷。
「貴方程の強さなら……!!」
俺は……何て……なんて……。
「格好の悪いことよ」
恥を知れと聞こえた。全身は等間隔で熱くなる。
俺の思う、最高に格好悪い最期だよ。
「日本か。管轄外だが、行くべきだな」
ーサリドヒエラ共和国チームエル・ソル壊滅から5分後 東京本部ー
「サリドヒエラ共和国から、チームエル・ソル壊滅との報告が……」
うーん……。
「サリドヒエラの実力は確かだった。想の扱いに長けてはいなかったが、それでも壊滅しちまうのか」
豪壮寺は顎に指を添えた。
サリドヒエラから送られてきた視界記録は、残酷なものだった。
「鬼……やはり強いな」
「重三から見てもそう思うか」
触れるだけでエル・ソル程のエキポナを殺せるデュロルが、一体どこに潜んでいたんだ。
あの"声"がしてから、強力な鬼が一気に姿を現した。
どれほどの力が制御して、鬼達を抑えていた?
鬼程の力を持てば、今までのデュロルみたく、自身の欲を満たそうとする気も強くなるだろ。
この鬼に欲があるとは思えなかった。
サリドヒエラ共和国本部への単体襲撃は指示か?
「重三、焦りが顔に出てるぞ」
「ああ、正直焦ってる」
最後の兵士の言葉で、奴が日本に来るかはわからない。
努は戦線に立てる程に回復した。
しかし、この鬼との戦闘に駆り出させるわけには……。
「重三。これだけは言っておく。保守的になるなよ。そうなった時点で、負けを考え始めてる」
俺は泰介を見た。肩が軽くなった気すらした。
「お前、たまには良い事言うんだな!でっはっは!」




