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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【結】

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93/144

92話ー説教ー

 峯岡の刀は千歳に継がれた。


 得体の知れない何かが目覚める。


 世界は、動き出す。


ー守下(もりした) 久美(くみ) 12歳ー


 アタシの父と母は、蛇の模様が入ったデュロルに殺された。しかも目の前で。


 2人とも地面に押し込まれるように動かなかった。


 でも何故か悲しくなかった。元々好きじゃなかったからかな。


 度々家の玄関を叩いたヤクザに対して、2人ともペコペコしてたし、居なくなれば文句を只管言ってた。


 アタシがムカついて、そのヤクザに対して反抗した時がある。父と母はヤクザ並みにアタシに暴力を振るった。


 は?でしょ。そんな父と母を見ていたお陰で、良い反面教師になった。気持ちで負けちゃダメだって。


 いつものようにヤクザが玄関を叩いたある日、騒音は止まり、外で大きな声で挨拶してるのが聞こえた。


 その瞬間、玄関の扉は蹴り破られる。


 蛇の模様が右肩に入ったデュロルだった。


 逃げようとした父と母は急に床に這いずり、命乞いをして踏みつけられて死んだ。


 さすがに身の危険を感じたアタシは部屋の奥へ逃げようとした。そしたら、全身が有り得ない程重くなって、アタシも床に顔を付けた。


「栗枝(くりえだ)さん。その子結構可愛いし、高く売れるんじゃないすかねぇ」


 栗枝と呼ばれたデュロルは屈み、抗おうとするアタシに顔を近付けた。


「嬢ちゃん、抵抗したって無駄だよぉん。俺ぁね、重力操っちゃうから。誰も俺には逆らえないの。わかった?」


「ご丁寧にどうも」


 重力を操る?だから逆らえない?甘えてんじゃねえよ。そんな大層な能力持ってんなら、明らかに自分より弱いやつに使って満足なんてしてんじゃねえよ。


「弱いですね。君」


 栗枝はあ?と低い声を出した。


 アタシだったらその能力をもっと上手く使える。もっと世の中の為に使える。こんな心が弱っちい奴には勿体ない。


 何なら、デュロルになってもいい。自信がある。アタシなら、きっと何かを変えられる。


 重力に抗い続けるアタシの腕に、ビシッと衝撃が走る。心臓は鼓動を変え、脳裏に殺された父と母が映る。


 アタシをヤクザから守る為に怒ってくれたのは知ってるよ。そこはありがとう。


 アタシは、強く生きるよ。


 腕は装甲を纏う。押し込まれていた身体は軽く持ち上がり、栗枝を見下ろした。


「重力操るのって、こうやってやるの?」


 栗枝にかかる重力を測り、向きを変える感覚を作る。変えたい方向に腕を振ることで、より一層イメージを強める。振るった腕が、やけに重かった。歯を噛み締め、重い腕を振り切る。


 それと同時に、栗枝は部屋の窓を突き破って外へと"落ちて行く"。


 栗枝の後を追い外へ飛び出す。栗枝は向かいのマンションの壁に張り付いていた。栗枝の重力を下に向け、叩き付けるイメージを強めた。


 栗枝は5階から一瞬で、地面のコンクリートへ減り込んだ。栗枝は立ち上がろうと腕を動かした。しかし、その腕はピクリとしか動かない。


 全身を覆う重圧に抗おうと、呻き声を上げる。


 割れたコンクリートに這い蹲る栗枝の頭上に立ち、先程とは反対の位置となる。


 栗枝はアタシの重力を強めたけど、栗枝への重力を更に増したことで解除された。


「アンタより、アタシの方が上手く扱えるみたいだね。そんでさ、アンタを許しちゃいけないと思う。アタシの両親を殺したわけだし」


 栗枝が力むのがわかった。


 アタシは焦った。


 身の底を鷲掴むような重圧が空を覆った気がしたから。


 それより先に、栗枝を囲む重力を作った。


 一点に重力を集中させる。


 栗枝はビー玉の大きさになった。


 殺すつもりは無かった。


 って、思いたかったのかもしれない。


 それから数日経って、アタシの元にルータスが来た。


 翻訳機を渡されて、違和感の中で会話した。


 言ってる内容が、まるで理解できなかった。


 でも、家族も居なくなって、そして世間で最悪の印象のデュロルになっちゃった。


 利用するしかなかった。


 こいつの話を聞く限り、アタシはこいつを殺したいと思った。非人道を正当化しようとしてる。人を語りながら、自ら人の道を踏み外してる。そうゆう奴は、何を言っても無駄。


 栗枝ってやつは組織の中でも上位階級らしかった。ゾディアックだって。そいつを同能力で殺したアタシは見初められたわけ。


 怪しまれないように、ルータスを肯定することに全力を注いだ。


 悪事を手伝うことに抵抗はあった。でも、本気で殺したいと思ったから、仕方ない犠牲だと思い込んだ。今のアタシじゃ勝てないから、その時が来るまで、心を殺して待ち続けた。


 そして、アタシを一筋の光が照らした。


 その光は、やっぱり努(つとむ)だった。


 凄ええええ仲間を連れてね。


 この話を聞いて、努は顔を崩して泣いたんだよ。


 まず、人のことでそんなに泣ける??


 バカなの??


 あいや、努はバカです。ここに断言する。


「おんむぁえ、ズビビッ辛かったなぁ!!」


「うん、辛かった。はい!話したから!寮!戻るよ!」


 堪えるのに必死だった。


 後ろで待てよと叫ぶ声が聞こえるけど知らんぷり。


 本当、努はバカです。





ー峯岡(みねおか) 卓(すぐる) 墓前ー


 線香の匂いは好きじゃねえ。


 そこに、悲しさが無いことなんて無いからな。


 ここに居んのか、卓(すぐる)。


 聞いてんなら、そのまま聞いてろ。


「師匠より弟子が先に死んでどうするボゲアアア!!」


 線香の煙で咽せてしまった。


 話は聞いたよ。


 良かったじゃねえか。お前らしい最期で。


 健史(けんし)の野郎にも同じこと言ってやった。


 お前のその健史愛には負けるぜ。


 そんで、太刀は努に継いだんだってな。


「あいつは、やり遂げるよ」


 墓石をバチーン叩いて踵を返した。


「また来る」





ー男が目覚めてから2週間後 東京本部 堀ー


 不可解な大事件が起きた。


 その事実を、俺はただ聞いていた。


 場所はロシア北西某所。


 町の人間全てが液状化した遺体で発見される。


 2キロ離れた隣村の人間が第一発見者だ。


 全ての遺体は、脱げ捨てたような衣服から、骨諸共液状化した肉片が流れ出ていたそうだ。その場所は様々で、私生活の途中で現象が起きたと推測される。


 慌てる様子も無く、ただの日常の最中。


 遺体発見は死後1時間程だが、町には死臭が充満していたらしい。


 言葉通り一瞬で、多くの命が奪われた。遺体の判別も出来ないなんて。遺留品からしか個人の特定が出来ないのは辛すぎる。


 遺体の状態と町の情景からして、自分が死んだことさえ気付けていないだろう。


 ……クソ重い。


 得体の知れない……強大なデュロルがそこに居たんだろうな。


 そのデュロルは、躊躇なく人の命を奪った。


 命を命とも思ってない。


 なのに、何の手掛かりも無い。


 あの重圧と、何ら関係ない訳がない。


 デュロル史上、最悪の事件だ。





ー隣国 レイゼルブロッツ 某所ー


「どこの誰があんなことしたんだ!俺の兄弟もそこに居たんだぞ!」


「まあまあ、どうせデュロルの仕業だろ」


「だから!誰がそのデュロルの裏に居んだよ!」


「知らねえっての。俺ら唯のマフィアがどう騒いだって、デュロルの手無しじゃどうにも出来ねえよ」


「ダジボーグの"ボンブ"はまだ来ねえのか!あいつも鬼だろ!何か知ってるはずだろ!」


「おい!ダジボーグファミリーに聞かれたら死ぬぞ!」


「おいおい、あんまりデケェ声で話す内容じゃねえなあ」


 その声に空気はピリつく。


 天然アフロの、ダジボーグファミリーの"鬼"。


「お前ぇもファミリーのボスやってんだろ。小せえこと気にすんな」


 兄弟が死んだことが、小さなことだと!?


 心の中でしか反発できん。ボンブのヤバさは俺らファミリーが一番知ってるからな。


 ダジボーグファミリーに入ること自体がレイゼルブロッツマフィアとしての憧れだ。俺はその傘下のファミリーのボスをやってる。


 そのダジボーグファミリーのボスが頭を下げる程のデュロルがボンブだ。それにゃ列記とした理由はある。


 ボンブのあまりの強さに、レイゼルブロッツのエキポナが手を出さないと懇願した程だ。


 そんな手も付けられねえボンブが、俺らを睨み殺しながら言った。


「今後、あのお方のやる事に首突っ込むな。俺らマフィア如きが邪魔なんてしちゃあいけねんだよ」


 マフィアより過酷なデュロルの世界で生き抜き、そのデュロルの世界ですら成るのは一握りの"鬼"。それを維持するボンブが、ここまで言う"あの方"って……。


「いくらファミリーでも、首突っ込んだ奴は迷わず殺す」


 俺らには到底理解できない強さ。この力の前に、俺も、ファミリーのデュロルでさえも平伏すしかない。





ーロシア北西事件から3日後 エジプト 砂漠ー


「今日はやけに乾いてるねえ」


「こんな日でもパトロールは必要かい?俺は要らないと思うんだ」


「しょうがないだろ。ロシアであんな事件があったんだから」


「だとしてもよ、こんな砂漠の真ん中で何かあるかい?」


「日本からの依頼だぜ?恩は売っといた方が良いと思うぞ」


「確かにな。日本のチームエル・ソルは本物だ。世界デュロル保護機構を倒しちまうなんてな」


「誰も手を出せなかった相手だぜ?リスペクトだよな」


「それ聞くとさあ、俺らもチームエル・ソル目指したくなるな」


「そうだな……。ん……?何か、臭わねえか?」


「うおっ……!強烈すぎるだろ」


「どっからだ?」


「風向き的に南西!」


「うあっ!どんどん臭ってきやがる!」


「近付いてる証拠だ!」


「登った先だよな!?」


「多分な!!」


「うっ……」


「……」


「……おい……何か言えよ」


「……お前もな」


 エジプトの砂漠、市街から23キロメートルの場所に、大きな窪みが出来ていた。


 その窪みの中に、大凡(おおよそ)1000を超える遺体が発見される。


 死後推定10時間。


 既に身体は腐敗していたそうだ。


 砂漠に足跡は皆無。10時間もあれば痕跡は薄れるが、1000を超える人が移動したのであれば、歪な跡が残ってもおかしくない。車両での移動も考え難い。


 この怪事件が3日前を連想させる理由。


 砂漠の砂山の山頂に、不自然に窪みはあったのだ。


 遺体に付く砂は全て風により運ばれたもの。


 遺体山の中央から下部分には、微量な砂しか付いてなかった。


 1000を超える遺体は、何らかの形で運ばれて、一斉にその場へと叩き落とされたと。


 俺の予想は、お偉い方に悉(ことごと)く否定された。


 そんな奴が居てたまるかと、お偉い方は表情を殺していた。


 事実、起きてしまった怪事件だ。


 犠牲になってしまった者達の遺体は、想像も出来ない自体が起こってしまったことを、俺たちに告げている。


 お偉い方は、マフィアとエキポナの共犯にしたいらしい。マフィアとエキポナが手を組んで、遺体処理に及んだことにしたいと。


 緊急会議に途中参戦した豪壮寺(ごうそうじ)元帥は、それを聞いて大激怒していた。


「堀だけか!?腐ってねえのは!!人の命が奪われてる!これが事実だ!!何も調べねえで片付けようとすんなゴラア!!」


 さすがEAグループ創設者の1人だよ。


 尊敬してます。


「世界デュロル保護機構が無くなってから、世界は変になった。空気が悪い!これも、あの重圧と関係あると踏んでる。俺はな」


 俺は思わず目を瞠った。


「何か、嫌じゃねえか?この怪事件がどっかのデュロルの仕業だとしたらよ、思い通りにさせちまってる。何ら証拠も掴めずに見て見ぬフリは誰のタメになる?」


 俺の心を代弁してくださっている……。


「事件起こしたデュロルのタメにしかなんねえだろ。そんなん、俺は悔しい」


 エキポナの心。


 模範解答のような人だよ。


「世界中のエキポナと協力して暴き出す!!」


 その眼光は、心を背けた人を突き刺すようだった。


「お前ら!少しでも人の心が残ってるなら!デュロルの好きにさせちゃあムカつくよなあ!?」


 ざわめく空間に、豪快な笑いは響いた。





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