92話ー説教ー
峯岡の刀は千歳に継がれた。
得体の知れない何かが目覚める。
世界は、動き出す。
ー守下 久美 12歳ー
アタシの父と母は、蛇の模様が入ったデュロルに殺された。しかも目の前で。
2人とも地面に押し込まれるように動かなかった。
でも何故か悲しくなかった。元々好きじゃなかったからかな。
度々家の玄関を叩いたヤクザに対して、2人ともペコペコしてたし、居なくなれば文句を只管言ってた。
アタシがムカついて、そのヤクザに対して反抗した時がある。父と母はヤクザ並みにアタシに暴力を振るった。
は?でしょ。そんな父と母を見ていたお陰で、良い反面教師になった。気持ちで負けちゃダメだって。
いつものようにヤクザが玄関を叩いたある日、騒音は止まり、外で大きな声で挨拶してるのが聞こえた。
その瞬間、玄関の扉は蹴り破られる。
蛇の模様が右肩に入ったデュロルだった。
逃げようとした父と母は急に床に這いずり、命乞いをして踏みつけられて死んだ。
さすがに身の危険を感じたアタシは部屋の奥へ逃げようとした。そしたら、全身が有り得ない程重くなって、アタシも床に顔を付けた。
「栗枝さん。その子結構可愛いし、高く売れるんじゃないすかねぇ」
栗枝と呼ばれたデュロルは屈み、抗おうとするアタシに顔を近付けた。
「嬢ちゃん、抵抗したって無駄だよぉん。俺ぁね、重力操っちゃうから。誰も俺には逆らえないの。わかった?」
「ご丁寧にどうも」
重力を操る?だから逆らえない?甘えてんじゃねえよ。そんな大層な能力持ってんなら、明らかに自分より弱いやつに使って満足なんてしてんじゃねえよ。
「弱いですね。君」
栗枝はあ?と低い声を出した。
アタシだったらその能力をもっと上手く使える。もっと世の中の為に使える。こんな心が弱っちい奴には勿体ない。
何なら、デュロルになってもいい。自信がある。アタシなら、きっと何かを変えられる。
重力に抗い続けるアタシの腕に、ビシッと衝撃が走る。心臓は鼓動を変え、脳裏に殺された父と母が映る。
アタシをヤクザから守る為に怒ってくれたのは知ってるよ。そこはありがとう。
アタシは、強く生きるよ。
腕は装甲を纏う。押し込まれていた身体は軽く持ち上がり、栗枝を見下ろした。
「重力操るのって、こうやってやるの?」
栗枝にかかる重力を測り、向きを変える感覚を作る。変えたい方向に腕を振ることで、より一層イメージを強める。振るった腕が、やけに重かった。歯を噛み締め、重い腕を振り切る。
それと同時に、栗枝は部屋の窓を突き破って外へと"落ちて行く"。
栗枝の後を追い外へ飛び出す。栗枝は向かいのマンションの壁に張り付いていた。栗枝の重力を下に向け、叩き付けるイメージを強めた。
栗枝は5階から一瞬で、地面のコンクリートへ減り込んだ。栗枝は立ち上がろうと腕を動かした。しかし、その腕はピクリとしか動かない。
全身を覆う重圧に抗おうと、呻き声を上げる。
割れたコンクリートに這い蹲る栗枝の頭上に立ち、先程とは反対の位置となる。
栗枝はアタシの重力を強めたけど、栗枝への重力を更に増したことで解除された。
「アンタより、アタシの方が上手く扱えるみたいだね。そんでさ、アンタを許しちゃいけないと思う。アタシの両親を殺したわけだし」
栗枝が力むのがわかった。
アタシは焦った。
身の底を鷲掴むような重圧が空を覆った気がしたから。
それより先に、栗枝を囲む重力を作った。
一点に重力を集中させる。
栗枝はビー玉の大きさになった。
殺すつもりは無かった。
って、思いたかったのかもしれない。
それから数日経って、アタシの元にルータスが来た。
翻訳機を渡されて、違和感の中で会話した。
言ってる内容が、まるで理解できなかった。
でも、家族も居なくなって、そして世間で最悪の印象のデュロルになっちゃった。
利用するしかなかった。
こいつの話を聞く限り、アタシはこいつを殺したいと思った。非人道を正当化しようとしてる。人を語りながら、自ら人の道を踏み外してる。そうゆう奴は、何を言っても無駄。
栗枝ってやつは組織の中でも上位階級らしかった。ゾディアックだって。そいつを同能力で殺したアタシは見初められたわけ。
怪しまれないように、ルータスを肯定することに全力を注いだ。
悪事を手伝うことに抵抗はあった。でも、本気で殺したいと思ったから、仕方ない犠牲だと思い込んだ。今のアタシじゃ勝てないから、その時が来るまで、心を殺して待ち続けた。
そして、アタシを一筋の光が照らした。
その光は、やっぱり努だった。
凄ええええ仲間を連れてね。
この話を聞いて、努は顔を崩して泣いたんだよ。
まず、人のことでそんなに泣ける??
バカなの??
あいや、努はバカです。ここに断言する。
「おんむぁえ、ズビビッ辛かったなぁ!!」
「うん、辛かった。はい!話したから!寮!戻るよ!」
堪えるのに必死だった。
後ろで待てよと叫ぶ声が聞こえるけど知らんぷり。
本当、努はバカです。
ー峯岡 卓 墓前ー
線香の匂いは好きじゃねえ。
そこに、悲しさが無いことなんて無いからな。
ここに居んのか、卓。
聞いてんなら、そのまま聞いてろ。
「師匠より弟子が先に死んでどうするボゲアアア!!」
線香の煙で咽せてしまった。
話は聞いたよ。
良かったじゃねえか。お前らしい最期で。
健史の野郎にも同じこと言ってやった。
お前のその健史愛には負けるぜ。
そんで、太刀は努に継いだんだってな。
「あいつは、やり遂げるよ」
墓石をバチーン叩いて踵を返した。
「また来る」
ー男が目覚めてから2週間後 東京本部 堀ー
不可解な大事件が起きた。
その事実を、俺はただ聞いていた。
場所はロシア北西某所。
町の人間全てが液状化した遺体で発見される。
2キロ離れた隣村の人間が第一発見者だ。
全ての遺体は、脱げ捨てたような衣服から、骨諸共液状化した肉片が流れ出ていたそうだ。その場所は様々で、私生活の途中で現象が起きたと推測される。
慌てる様子も無く、ただの日常の最中。
遺体発見は死後1時間程だが、町には死臭が充満していたらしい。
言葉通り一瞬で、多くの命が奪われた。遺体の判別も出来ないなんて。遺留品からしか個人の特定が出来ないのは辛すぎる。
遺体の状態と町の情景からして、自分が死んだことさえ気付けていないだろう。
……クソ重い。
得体の知れない……強大なデュロルがそこに居たんだろうな。
そのデュロルは、躊躇なく人の命を奪った。
命を命とも思ってない。
なのに、何の手掛かりも無い。
あの重圧と、何ら関係ない訳がない。
デュロル史上、最悪の事件だ。
ー隣国 レイゼルブロッツ 某所ー
「どこの誰があんなことしたんだ!俺の兄弟もそこに居たんだぞ!」
「まあまあ、どうせデュロルの仕業だろ」
「だから!誰がそのデュロルの裏に居んだよ!」
「知らねえっての。俺ら唯のマフィアがどう騒いだって、デュロルの手無しじゃどうにも出来ねえよ」
「ダジボーグの"ボンブ"はまだ来ねえのか!あいつも鬼だろ!何か知ってるはずだろ!」
「おい!ダジボーグファミリーに聞かれたら死ぬぞ!」
「おいおい、あんまりデケェ声で話す内容じゃねえなあ」
その声に空気はピリつく。
天然アフロの、ダジボーグファミリーの"鬼"。
「お前ぇもファミリーのボスやってんだろ。小せえこと気にすんな」
兄弟が死んだことが、小さなことだと!?
心の中でしか反発できん。ボンブのヤバさは俺らファミリーが一番知ってるからな。
ダジボーグファミリーに入ること自体がレイゼルブロッツマフィアとしての憧れだ。俺はその傘下のファミリーのボスをやってる。
そのダジボーグファミリーのボスが頭を下げる程のデュロルがボンブだ。それにゃ列記とした理由はある。
ボンブのあまりの強さに、レイゼルブロッツのエキポナが手を出さないと懇願した程だ。
そんな手も付けられねえボンブが、俺らを睨み殺しながら言った。
「今後、あのお方のやる事に首突っ込むな。俺らマフィア如きが邪魔なんてしちゃあいけねんだよ」
マフィアより過酷なデュロルの世界で生き抜き、そのデュロルの世界ですら成るのは一握りの"鬼"。それを維持するボンブが、ここまで言う"あの方"って……。
「いくらファミリーでも、首突っ込んだ奴は迷わず殺す」
俺らには到底理解できない強さ。この力の前に、俺も、ファミリーのデュロルでさえも平伏すしかない。
ーロシア北西事件から3日後 エジプト 砂漠ー
「今日はやけに乾いてるねえ」
「こんな日でもパトロールは必要かい?俺は要らないと思うんだ」
「しょうがないだろ。ロシアであんな事件があったんだから」
「だとしてもよ、こんな砂漠の真ん中で何かあるかい?」
「日本からの依頼だぜ?恩は売っといた方が良いと思うぞ」
「確かにな。日本のチームエル・ソルは本物だ。世界デュロル保護機構を倒しちまうなんてな」
「誰も手を出せなかった相手だぜ?リスペクトだよな」
「それ聞くとさあ、俺らもチームエル・ソル目指したくなるな」
「そうだな……。ん……?何か、臭わねえか?」
「うおっ……!強烈すぎるだろ」
「どっからだ?」
「風向き的に南西!」
「うあっ!どんどん臭ってきやがる!」
「近付いてる証拠だ!」
「登った先だよな!?」
「多分な!!」
「うっ……」
「……」
「……おい……何か言えよ」
「……お前もな」
エジプトの砂漠、市街から23キロメートルの場所に、大きな窪みが出来ていた。
その窪みの中に、大凡1000を超える遺体が発見される。
死後推定10時間。
既に身体は腐敗していたそうだ。
砂漠に足跡は皆無。10時間もあれば痕跡は薄れるが、1000を超える人が移動したのであれば、歪な跡が残ってもおかしくない。車両での移動も考え難い。
この怪事件が3日前を連想させる理由。
砂漠の砂山の山頂に、不自然に窪みはあったのだ。
遺体に付く砂は全て風により運ばれたもの。
遺体山の中央から下部分には、微量な砂しか付いてなかった。
1000を超える遺体は、何らかの形で運ばれて、一斉にその場へと叩き落とされたと。
俺の予想は、お偉い方に悉く否定された。
そんな奴が居てたまるかと、お偉い方は表情を殺していた。
事実、起きてしまった怪事件だ。
犠牲になってしまった者達の遺体は、想像も出来ない自体が起こってしまったことを、俺たちに告げている。
お偉い方は、マフィアとエキポナの共犯にしたいらしい。マフィアとエキポナが手を組んで、遺体処理に及んだことにしたいと。
緊急会議に途中参戦した豪壮寺元帥は、それを聞いて大激怒していた。
「堀だけか!?腐ってねえのは!!人の命が奪われてる!これが事実だ!!何も調べねえで片付けようとすんなゴラア!!」
さすがEAグループ創設者の1人だよ。
尊敬してます。
「世界デュロル保護機構が無くなってから、世界は変になった。空気が悪い!これも、あの重圧と関係あると踏んでる。俺はな」
俺は思わず目を瞠った。
「何か、嫌じゃねえか?この怪事件がどっかのデュロルの仕業だとしたらよ、思い通りにさせちまってる。何ら証拠も掴めずに見て見ぬフリは誰のタメになる?」
俺の心を代弁してくださっている……。
「事件起こしたデュロルのタメにしかなんねえだろ。そんなん、俺は悔しい」
エキポナの心。
模範解答のような人だよ。
「世界中のエキポナと協力して暴き出す!!」
その眼光は、心を背けた人を突き刺すようだった。
「お前ら!少しでも人の心が残ってるなら!デュロルの好きにさせちゃあムカつくよなあ!?」
ざわめく空間に、豪快な笑いは響いた。




