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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【結】

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92/144

91話ー再会ー

 父の健史と、母の輪子が繋いだ命。


 刀は峯岡へ。


 努はこうして、今を生きる。


ーJEA東京本部ー


 誰かの……記憶を見た気がする。


 鮮明で、苦しい。


 残酷な記憶。


 誰かが側に居る。みんなかな。


 徐々に陽の光が、瞼を透いて届く。


 目を開けた。


 全身が重くなる。血が流れてると、身体の細胞が教えてくれるような。


 俺を見た高千穂(たかちほ)が、急いで部屋から出て行った。


 畑山(はたけやま)と滝原(たきはら)が俺に呼びかけてるらしい。でもまだ、ボンヤリしてて聞き取れない。


 やがて、ゾロゾロと部屋に入ってくる。チームエル・ソルのみんなだ。


 徐々に耳は聞こえだした。みんながそれぞれ言いたい事言ってるから、内容が頭に入ってこない。


 俺はみんなを見回した。


「みんな……無事……だったか……」


 みんなは口を窄ませた。


 何かを言いたそうで、気遣うように。


 徐々に意識はハッキリとしだす。


「あれ?峯岡(みねおか)のおっちゃんは?」


 みんな何て言い出せば良いのか、迷ってるみたいだ。


 堀さんが顔を上げた。


「峯岡の活躍により、我々は無事に帰還することが出来た。勇ましい最期だった」


 俺はその言葉を理解するまで少しかかった。


「え……」


 俺はその続きを希望した。今聞くべきではないって言われたけど、俺の強い要望を聞いてくれた。


 俺が意識を失ってからの出来事を、事細かく教えてもらった。


 俺は、何故か受け入れた。


 悔しくて悲しさは爆発してるけど、峯岡のおっちゃんが選んだことなら、納得できた。


 "見た"記憶の中に居た峯岡のおっちゃんは、父ちゃんに憧れてて、何度も何度も、自分の力で守りたいと口にしていた。


 叶ったんだねって、安心すらしてしまった。


 何も成し遂げずにただ命を落とすことの方が、峯岡のおっちゃんにとって怖い事だったと思う。


 でも……目から溢れ出る感情(なみだ)が止まんねえよ。


「千歳(チトッセオ)が起きた時に言った、みんな無事だったかって言葉さ。峯岡(みねおか)さんの最期の言葉なんだよね」


 里道(さとみち)は悔しさを噛み締めるような、苦しい表情をしていた。


「峯岡のおっちゃんさ、最期さ、笑ってなかった?」


 俺の言葉に、由紀(ゆき)さんは声を漏らして口を塞いだ。


「峯岡のおっちゃんが死んじまったことは辛すぎる。けどさ、峯岡のおっちゃんはさ、俺らがこんなに悔しくて悲しい顔してるの望んでないはずなんだよね」


 鼻を啜る音は絶えない。


 声にするのがやっとだけど、これだけは言わなければいけない。


「きっと俺らには、"笑ってろ"って……言いそうじゃん?」


 峯岡のおっちゃんの笑顔を重ねて、ぐしゃぐしゃの笑顔を作る。


 不安も吹き飛ぶような、輝く笑顔を思い浮かべて。


 俺はそのまま崩れ落ちた。


 掛け布団を掴み、喉が千切れるくらい。


 落ち着いてから、堀さんは骨壷の峯岡のおっちゃんを連れて来てくれた。


 火葬は済んだって。


 峯岡のおっちゃんを抱きしめる。


 俺が起きたらお墓に納めるってことだったから、無理言って連れてってもらった。車椅子を、高千穂が押してくれてる。


 あの戦いで命を落とした人達の墓参りもした。峯岡のおっちゃんと一緒に。


 片桐(かたぎり) 瑛太(えいた)と楓太(ふうた)。


 生きてずっと一緒に居たかったよな。


 でも、離れ離れじゃねえぞ。


 同じ墓の下で、これからずっと一緒だ。


 峯岡家と彫られた墓石の前で、ご両親と奥さん、2人の子供が迎えてくれた。


 互いに深く頭を下げて、骨壷を手渡す。


「ありがとうございました。卓(すぐる)も、みんなに会えて嬉しがってましたよ」


 堀さんに続いて、再度頭を下げる。


 墓石に立て掛けてある愛刀を、奥さんが持ち上げようとする。しかし、重すぎてビクともしない。それを見たご両親が手を差し伸べる。


 なんとか持ち上がった愛刀を、俺へと差し出した。


「え……?」


 戸惑う俺に、奥さんは続ける。


「この太刀は、卓の宝物でした。最期まで、握力が無くなるまで手放さなかったようで……。由紀さんが見つけてくれました。これも、元は貴方のお父さん、健史(けんし)さんの宝物でした。卓は、この太刀を見せる度に口にしていたことがあります」


 奥さんの目から涙は溢れる。


「この太刀は、努(つとむ)に受け継がなきゃいけないものだって。タイミングを見失ってるみたいだったけど、今だからこそ、受け取ってはくれませんか」


 爺ちゃんから父ちゃんへ。


 父ちゃんから峯岡のおっちゃんへ。


 大切な人が想いを込めた太刀。


 そして、峯岡のおっちゃんから俺へと。


 手にした太刀は、想いが詰まりすぎてて熱いよ。


「少し、離れててください」


 俺は鞘から引き抜く。


 刀身に想を込めると、薄紫色の綺麗な炎が浮かび上がる。


 そして、徐々に彩度は無くなり、純白の炎へと変わる。


 刀身で優しく弧を描く。


 真っ青な空に透けて消えてしまいそうで、雲と一体化しそうな綺麗な炎は、嬉しそうに舞っていた。


「この太刀に貴方達の想いも感じる。継がれた想いは、俺が一生手放さない」


 青すぎる空が、俺達を見守ってくれてる。





 千歳(ちとせ)が目覚めたこの日、対の世界でも得体の知れない何かが目覚めた。


 世界は動き出す___。





 渦巻くような重圧は、世界に違和感を与えた。


 心臓が跳ねるように。しかし、握られるように。


 鬼と呼ばれるデュロルには、その声に覚えがある。


 惹き寄せられる。


 魅力。


 絶対的な服従。


 驚異的な憧れ。


 鬼は歓喜に満ちた。


 永劫有り続けた氷にヒビが入った。


 ただ、それだけで。


 氷が砕けるまでに1ヶ月。


 目覚めるまで2週間。


 千歳が目覚めたと同時に、目覚める。


 その瞬間は、全てのデュロルに刻まれた。


 デュロルではないただの人にでさえ、重圧を感じさせる。


 1000年に及ぶ眠りから覚めた直後に、自らの脚で地に降り立つ。


 仮死状態の細胞を叩き起こし、この世界の空気を吸う。


「錆臭い世界になったものだ」


 世界中のデュロルは、その方のいる方角へ頭を垂れる。頭が割れようが、地面に食い込もうが、ただ只管に。


 崇拝。


「その想い、命を賭して俺に証明しろ」


 その一言に、士気は震え上がる。


 男は嗤った。


 大きな口を開け、踏み潰すように。


 男は掴み取るように右腕を上げる。


 1000年の眠りから覚めた男は若く、過去のままの姿に血は通う。





ーJEA東京本部 重圧から4日後ー


 世界デュロル保護機構が壊滅してから、デュロル側の動きが鈍くなるどころか、活性化してきた。


 裏社会を牛耳っていた保護機構が無くなり、半ば無法地帯となっているんだと。


 圧をかけられていたヤクザやマフィアもそれぞれ動き出し、それぞれの組織でデュロルを所有するようになった。いや、"隠さなくなった"。


 保護機構はデュロルの生きやすい世界を目指していた。デュロルが騒ぎを起こしたら、その事後処理を完璧に熟していたんだ。捕食する人間も提供し、"デュロルとしての飢え"を抑えていた。


 今ややりたい放題。その均衡を壊した。


 それに乗じて、保護機構に属さなかった強敵が顔を出し始める。


 俺はまだリハビリ中で任務に出してもらえないけど、デュロルと交戦したみんなから聞くのは___。


 "デュロルが全体的に強くなってる。身体的にも、メンタル的にも。"


 あの重圧からだ。


 あれから、変わり始めたんだ。


 俺にも聞こえた声。


 嘲笑ってやがった。


 クソ!早く動けるようになんねえと!


「ふぇい〜!努!久しぶりだね!元気してた?」


 扉からひょこっと顔を出したのは、思いの外懐かしい顔だった。


「流斗(るうと)!?おま!懐かしいな!!」


 華奢な体躯に、パッチリ二重の童顔。桃色の髪を目に掛からないように避ける。


 弾ける笑顔は俺を捉えた。


 流斗はリハビリしてる俺の横の椅子に腰掛ける。


 そして、廊下を爆走して来る音……。


「流斗(るうと)!!許さねえ!久々に会って"よっ久美(くみ)元気してた?"だけで通り過ぎやがって!連絡も寄越さねえし!はぁ!?」


 扉をバシーッと叩いて肩で息をする久美だ。


「ごめんてば!努に会いに来たら久美が居てさ、予想外の登場にしては落ち着いた対応でしょ?」


 努に会うだけで申請いくつ通せば気が済むのここはと呆れて言った後、大きく伸びをした。


「相変わらず、自由だな流斗!なっはっは!」


「笑ってる場合じゃないでしょ!流斗だよ?あの!突然居なくなった!あの!」


「俺からしたら久美もほぼ変わらんよ!?お前の方が先にどっか行ったぜ!?」


「それは……!色々あるの!!」


「まあまあ、久美も座りなよ。久しぶりにさ、幼馴染3人で話そうよ」


 小学校6年間一緒だった。


 家が近い上に性格が馬鹿な俺たちは意気投合した。互いに夢を語って、夜遅くなって武雄(たけお)くんによく怒られたよ。


 中学に上がってから流斗は姿を現さなくなった。何も情報が無かった。家に行っても人が居る気配すらしなかった。


 久美はその前、小学6年の時に姿を消した。


 2時間くらい話したけど、姿を消したことについては2人とも口を伏せていた。


 途中で室瀬(むろせ)と里道(さとみち)も顔を出した。同じ小学校で、俺ら3人の関係を理解している。だからこそ驚いてた。


 室瀬と里道はほんの数分足らずで部屋を出て行った。チームエル・ソルは忙しいからな。


 チームエル・ソルのみんなはまだ東京本部に居るみたい。少ししたら世界各地の支部へ異動になるんだって。寂しくなるなあ。


 大阪チームエル・ソルのルナ枠には、東京本部から川崎(かわさき)さんと狼の楔丸(くさびまる)が抜擢された。


 里道によれば、川崎さんは冷静を極めてて峯岡(ミネール)さんと正反対だよと笑っていた。楔丸もモフモフしてて可愛いって。


 流斗と久美も、楽しそうだった。


 流斗は今何しているんだろう。質問しても、何も答えてくれない。上手く流されてしまう。


「喋った〜!やっぱ久々の親友との再会は熱が入るね!おっと、もうこんな時間か!僕もう行くね!またどっかで会おう!じゃあね!」


 俺と久美の呼び掛けに手を振って反応し、そそくさと帰ってしまった。


「何だよあいつ!急に来たと思ったら急に帰りやがって!」


「まあ、それが流斗じゃん?努に会いたかったって、可愛いやつじゃんね」


「そこも流斗(あいつ)らしいよな」


 久美はアタシも寮に戻ると立ち上がって出て行こうとした。


 ンパシッと腕を掴み食い止める。


「おい久美、2人だけなんだから教えろよ。なんで小6ん時、急に居なくなった」


 久美は小さくおおぉ〜と漏らし、顔を背けた。


「俺心配だったんだぞ。沖縄で会うまで、死んじまったかと思ってた。教えてくれよ」


「わかったから……。手ぇ……放せ……」


「お、わりい」


 久美は再度腰を下ろした。


 久美は深呼吸して、俺の目を見た。


「あの日、アタシはデュロルを殺した」





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