表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【転】
81/144

80話ー海上戦線ー

 里道、山木、雪崎の手によって、リチャルダンは敗れた。


 リチャルダンの走馬灯は、彼を後悔させる。


 落ちた"しおり"は血に濡れる。


ー太平洋 沖合 夜ー


 【移動要塞 海壁丸(かいへきまる)


 高波や襲撃から街を守る為の高壁。それが移動要塞であることを何故知っている……。どうせ千歳(ちとせ)らが目を光らせて言ったんだろうな。


 海壁丸(かいへきまる)を沖合まで移動させる。


 "ルータスは絶対に太平洋側から攻める!東京本部のみを狙うから!他の邪魔が入らずに襲撃できる場所はそこしか無い……のでは?"


 あまり根拠の無い理由だが、何故かこの赤メッシュの女性の言葉には信憑性がある。


 "それに、太平洋を渡れるだけの力があるから。"


 この言葉に賭けてみようと思えた。


 海壁丸1隻、水上600メートル、水中500メートル、半径350メートルの円柱型となる。それが数百隻連なっている。


 迎撃地点で海壁丸の水上部は展開し、地上と見間違う程に足場は広がる。足場として展開した海壁丸の後方に、未展開の海壁丸が連結する。壁面の数カ所が開き、そこから大砲が顔を出す。


 迎撃態勢を整えてから、しばらく経った。


 何処から来る。海中か、海上か、空か。ここではない別の場所か……。


 本当に来るのだろうか……。


 これが全てルータスによる誘導だとしたら、俺らはまんまとハメられた。


 この女性を信じた。ただそれだけで海壁丸まで沖に出してしまった。


 どの判断が正しかったんだ……。


 後悔とまでは言わないが、不安が頭の中を泳ぎまくる。


 不安に駆られる動悸に被さるように、周囲の空気は揺れ動いた。


「構え!!!」


 チームアグアの兵士は空に矢尻を向ける。海壁丸の大砲も狙いを空へと定めた。


 空を埋め尽くした幾つもの"岩"らしき物体は無回転で飛翔する。その上に幾人もの人影が目視できた。


「放て!!!」


 空に向かって矢は昇っていく。耳を(つんざ)く音を響かせ、大砲も火を吹いた。"岩"は砕かれ、破片と共にデュロル達は降下する。破片の合間に混じる数滴の血が、海壁丸の地面に弾かれる。


 降下するデュロルに合わせて、海壁丸に乗る"こちら側"のデュロルも姿を変える。味方のデュロルは見分け易いように、腰に赤い布を巻いている。赤い布のデュロル達を俺らで援護しながら、降下するデュロル達と刃を交える。


「海の中に数体!!」


 海壁丸に着地せず海に潜ったデュロルが、海中から海壁丸を攻撃して大きく揺らす。海壁丸上でも様々な場所で交戦し、能力のぶつかり合いによって大きく揺れた。


 俺の前に降りてきたデュロルと交戦する。強酸性の液体を噴出する能力。決して弱い能力では無いし、戦闘の基礎は身に付いている。降下したデュロル全員の戦闘能力が同じなら、かなり厄介な事になる。


 視界の端でも、殺されていく兵士と赤い布のデュロルが映る。それに対して、こちら側も負けずと倒していく。


 すまない。その命、無駄にはしない。


 この中に特に目立ったデュロルは居ない。ゾディアッククラスは姿を隠しているか、そもそもこの場所に居ないか。


 赤メッシュの女性は隠れている。ルータスを討つ時を待っている。


 隠れている場所から、哀の感情が流れた。今にも出てきて戦いたいだろう。目の前で仲間が殺されるこの瞬間は、どうしようもなく辛いだろう。


 しかし、そうでもしない限り勝てない相手が来る。


 国を騒がすデュロル組織を数多く傘下に入れ、その全てから恐れられる。反対に、デュロルの為ならば手段を選ばない。故に、崇拝するデュロルすら居る。


 多くの国を認めさせ、世界で初めて公認されたデュロルの組織。


 世界デュロル保護機構。


 12人のゾディアックを軸に世界中をまとめ上げる。そして自身を含めたゾディアック12人の中心となり、世界を我が手にしてきた。


 "旧"最重要警戒デュロルであり、【鬼】。


 どれだけの者が、この1人の男を倒そうとしたことか。


 たったそれだけが成せずまま、今を迎える理由……。



 圧倒的な強さ。



 たったそれだけだ。


 誰も勝てなかった。


 誰も逆らえなかった。


 誰も挑まなかった。


 その名前だけが世界に木霊していた。


 恐怖の象徴として、デュロルの守護者として。


 ただ在り続けた男。



 【ルータス・マーダ・ヨムルドルフ】



 この男の為に、この女性は抗った。


 千歳と同年代であろう女性が。


 デュロルという人種の、その枠を超えた人。


 その女性が、グッと息を潜めた。


 交戦中にも拘らず、皆は上を向いた。


 固唾を飲む。


 赤く熱された大岩が、空気に摩擦しながら空を覆う。もはや隕石だろ……。


 雲を弾きながら、周囲の温度を底上げする。


「海壁丸展開!!」


 号令に合わせて、足場に展開されていない数隻の海壁丸は形を変える。


 天へと突き上げた巨大砲台の数25。


「装填!」


 その全てにエネルギーを溜め始める。砲身は青白く発光し、光の粒を溢していく。


「目標は隕石!海壁丸電磁加速空気砲!撃て!!」


 号令に合わせて、右奥から順に砲撃する。放たれた威力により、海壁丸は反射的に沈む。沈んだ際に発生する波が隣に到達する前に、次が砲撃していく。


 空気を砲弾型に超圧縮させ、電磁気により加速し砲撃する。射程にして5キロメートル。空気弾にしては長距離の超高級品だ。


 発射された空気弾は隕石の表面を砕き、合計25発によって粉々に分散した。


 砲撃の波で足場になっている海壁丸も揺れ、パラパラと隕石の破片が落ちる。


 その中を、血眼になりながら探す。人影が無いか……。


 破片に紛れる3人のデュロルと、2人の還暦超えの男。


 隠れていた女性は姿を現し、デュロルへと変身する。


 【大想(たいそう) 黒点(こくてん)


 女性は上空へと右手を伸ばして、開いた指へ力を入れる。すると、落下中の破片が1箇所に収束し始める。集まっていく周辺の空気は歪む。その歪みは徐々に広がりを見せる。


 落下中のデュロル1人が歪みに触れると、収束する中心部へと引き寄せられた。身体の面とは逆方向へと四肢は畝り、中心部へ近付く程に身体は折り曲がっていた。


 中心部へと辿り着いた時には、そのデュロルは丸黒い点となる。


「ありゃーよ!久美(くみ)の能力だぜルータス!」


 還暦超えの男の1人が、軍服を着た男の顔を見た。


 軍服の男は歯を食いしばるように笑顔を見せた。


 軍服へと伝えた男は、左腕のみをデュロル化させる。


「ガッちゃんこおお!!」


 男が拳を突き出した瞬間、歪みの範囲外の破片が一斉に歪みへと集まった。その塊にデュロル化された手を置き、下へと押し出した。


 久美と呼ばれた女性は、焦ったように腕を引っ込める。


「みんなごめん!避けてええ!!」


 塊は海壁丸を大きく傾けた。生じた波に周囲も揺られる。


 落下した塊は素直に崩れる。久美は咄嗟に技を消したんだ。俺達に被害が出ることを防いだ。


「みんな逃げて……空中でさえ、あいつに傷を与えられなかった……」


 久美の言葉の後に、肌を刺す程に気温は上昇した。


 砂煙の中に白い蒸気が混じる。その蒸気は、海壁丸へと着地した軍服の男から出ていた。


 世界デュロル保護機構側のデュロル達は距離を取っていた。数隻離れた場所で、エキポナと交戦している。今俺が居る海壁丸に敵は、この軍服の男しか居ない。


 他の海壁丸での戦闘が激しくなる。


 そして駆け寄って来たのは、先程腕だけをデュロル化した男だった。


「久美……お前が居るとは思わなかったな」


 首を掴まれるような重圧。


「……」


「そうか。望んだ俺がバカだった。あいつの代わりになど成れやしないか」


「あーあ。もっと訓練したかったよ久美ちゃん」


「千歳を殺しに来たんだがな。裏切りは死に値する」


 軍服の男の皮膚から発火した。その火は全身を包む。


 息をすると喉が裂けそうな程に気温は上がる。俺の肌が近付くなと言ってるようだ。


 そして、火が収まる。


 赤い装甲に、左右非対称の2本ツノ。


 筋肉組織の流れに添い、溶岩のような筋が見える。


 顔の装甲は、剥き出しの牙で笑う表情をしている。


 昔に見た、あのデュロルそのものだ。


 【赤鬼(あかおに)


 周囲の海から湯気が立つ。


「やっぱ生身だと熱いな!」


 隣に居た男も、デュロルへと変身する。その姿を見て言葉を無くした。右二の腕の装甲に猿の模様があった。こいつもゾディアックだ。


 【円重(エンヴィティ)


 久美は右掌を突き出して円を描いた。


 すると、ルータスと猿のゾディアックは後方へと大きく吹き飛んだ。まるで落ちるように遠ざかる。ルータスが通った海からは蒸気が噴き上がった。


 【四重(クアトロヴィティ)


 久美は右掌を下に向けて、押し込むように腕を下げた。


 遠ざかる2体は、直角に海中へと沈んだ。その場所から大量の蒸気が発生する。海中からはブクブクと音を立てて泡が浮き上がっていた。次第にその泡は激しさを増し、空気に還った泡からは蒸気が滲み出る。やがてその蒸気は黒色へと変わった。


 久美は苦しい声を上げ、必死に右腕を押さえ付けた。


「ま……まずい……抜ける!!」


 海中から巨大な物が突き上がった。黒い大岩だ。その大岩は空中で停止した。上に乗るのは猿の模様のゾディアックだ。


 そのゾディアックは大岩の上で胡座をかき、頬杖をついていた。


「まあ俺らに窒息死は無理だわな」


 呆れたように言った。


「アタシがルータスを抑えれるのももう少しかも……。あの岩の上の奴、"旧"最重要警戒デュロルの"無名"だから、気を付けて……!」


 俺の足は震えた。


 あの大戦争を揺るがした、最悪のペアがここに居るんだぞ……。


 ダメだ。ここで引いても答えは同じだ。


 どうせ死ぬのであれば、この身尽くして抗ってやろうじゃないか。


 【蛇刀(だとう) 成龍損(じょうりゅうそん)


 成り損なった蛇は、抗う程に凶暴だぞ。


 抜刀した刀身は千切りされたように分解され、それをワイヤーで繋ぎ止める。鞭のように(しな)る刃を泳がせ、浮く大岩へと波打たせた。


 切先が大岩に当たるように長さを調節した。【成龍損(じょうりゅうそん)】の(しな)る威力が全て切先へと集まる。無名はギリギリで飛んで避けてしまったが、大岩を真っ二つに斬った。


 大岩の内側から溶岩が流れ出た……。


 溶岩を海水で固めた即席の大岩だと。斬っても尚浮かび続けるのはどっちの能力だ。


 伸びた刀身を引き寄せる。戻ってくる勢いを利用して回転し、そのまま再度刀身を伸ばした。


 鞭は使用者によって音速を超える。それに近しい速度で且つ、伸縮自在の刀身に避ける判断を鈍らせる。刀身は無名の首を捉える。


 しかし、刀身は首の手前で弾かれた。真っ二つに斬った大岩の、無名が乗ってない方の大岩が収縮され、首元へ移動して守った。


「おっそろしい攻撃すんねえ(あん)ちゃん。もうちょっと待ちなよ。そろそろ完成すっからさ」


 無名は海中を見下ろした。


「待って……ヤバイかも!浮かんでくる!!」


 海中を覗くと、そこは真っ黒い何かで埋め尽くされていた。


 海水の蒸発する音と共に、黒い何かは空気に触れた。それは地平線を埋め尽くした。黒く、グツグツと泡立てる地面。焼けるような熱気。


 やがて黒い地面の中央から、人程の大きさの盛り上がりが出来る。そこが弾けると、中から真紅の溶岩が飛び散った。


 目の前に着地する、真っ赤なデュロル。


「海底火山と繋がった」


 重圧の言葉を発するデュロルの背で、開いた穴から溶岩が湧き出る。湧き出た溶岩の勢いは止まらず、海壁丸に触れるまで広がった。数隻の上に、溶岩はのし上がる。


 辺りの悲痛な叫びが遠のく程に、呼吸は荒くなっていた。


 溶岩の海に足首を突っ込んで立つルータスに、心の底から絶望した。


 勝ち筋が見えない……。


 俺の横で久美は【円重(エンヴィティ)】と叫んでいるが、ルータスは上半身を揺らすだけでびくともしない。脚を溶岩で固定してるんだ。


 それを上から眺める無名。


 まだ殺しに来ないだけで、奴ら2体がその気になったら……一瞬だぞ。


「ん?」


 ルータスと無名は俺らの後ろを見上げた。


「何だありゃあああ!!マグマじゃねえか!!」


 俺は、枯渇した心が潤わされたのを感じ取った。


 これほど頼もしい声があるだろうか。


 ルータスは口を開き、大きく息を吐いた。


 その瞬間、目に見える程の熱気が衝撃波となって襲い掛かった。


 肌を掠めるように焼き、エキポナの装甲までも赤くさせた。


「ルータス……テメェをぶっ飛ばしに来た!!」


 久美もその声に反応して振り返る。


「千歳ええ!!テメェから現れるとはなああ!!度胸だけは認めてやろう!!」


 より一層熱気は増し、自然と距離を取らざる得なかった。


「お前を燃やし尽くして灰にしてやる!!」


 毎度すまない。


 お前に頼りっぱなしだな。


 俺はお前を死なせない。


「援護する!全力で行け!!」


 東京チームエル・ソルは全員揃って"おう!"とだけ言った。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ