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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【転】

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81話ー紅い海ー

 遂に相対したルータス。


 圧倒的な力の前に、堀達は成す術がない。


 世界デュロル保護機構との決戦が幕を開ける。


ー太平洋 沖合 夜ー


「おいしょ!」


 千歳(おれ)らは堀さん達の居る海壁丸(かいへきまる)へと着地する。


「うおおおおおい努(つとむ)うううぅおらあぁあ!!」


「やっべ!久美(くみ)だ!!」


「久美だ!じゃねえーよ!どーせ努(つとむ)のことだから東京空から見るのすげーとか思ってたんだろ?降り損ねたんだろ?おい!!」


「えへへ……悪い!申し訳ねええええ!!」


「許すまじ!こっちゃ命張ってんだぞ!!」


「いやマジで仰る通りっす」


「久美ちゃんごめんね、高千穂(わたし)達も言ったの。言ったんだけど、千歳(ちとせ)くんが気付く頃にはもう東京抜けてて……」


 "アレ?やけに緑多くなってきたな。23区の近くにも大自然ってあるんだな〜……ん?さっき俺のこと呼んでた??"


「くぁ〜思い出すだけで俺の馬鹿さ加減が滲み出るわ〜」


「努が馬鹿なのはみんな知ってるって。それより……」


 目の前に居るこいつが……。


「お前がルータスだな!」


「……危機感の無い男だ。この風景を目の当たりにしておいて、悠長に会話な___」


「暑ぃなぁ〜!マグマに囲まれて大変だ〜。堀さん、仲間をなるべく遠ざけて治療優先してくれ。あの2人は俺らと久美で何とかする」


 ルータスは無言で俺を見据えている。油断してるわけじゃない。常に俺を警戒してる。


 "ルータスは自分の能力に過信しない。常に現状を把握して、その環境に適応する。"


 久美の言葉の通り、立ち姿でさえそう理解できる。


「おいルータスよ。あいつら救助優先しやがったぜ?あの銀髪の千歳(ちとせ)っぽい奴らだけで、俺らを倒せるって見込んだのか?」


「ああ、そうだろうな。舐めた野郎だ」


「ふぅん、気分悪いね。邪魔するわ」


 ルータス後方のマグマが数粒浮き上がる。


「ピョーン!!」


 浮く岩に乗るゾディアックが大声を出した。それと同時に、浮かび上がったマグマの粒数滴が、無造作に飛翔する。


 【雷盾(らいたて) 迅(じん)】


 畑山(はたけやま)の両腕から出力された雷の歪な網によって、マグマの弾丸は消滅した。


「おぉ!防いだ!」


 そのゾディアックは前のめりになって興味を示す。


「あの浮いてるのが"無名"。名前が無くて、保護機構の戦闘訓練最高指導者。周りからは"大猿(おおざる)"って呼ばれてる。手強さは逸品物ね」


「能力は……」


 滝原(たきはら)がそう言いかけた。


 無名は岩の上で立ち上がり、肩を回して準備運動する素振りを見せた。


「おっしゃ!いっちょ行ったるか!ルータス!行くぜ!」


「いつでもいい」


 ルータスは腰を落とした。それと同時に、海と化したマグマは畝り始める。ルータスの右後ろのマグマが円柱状に突き上がり、大剣の刀身を模した。俺らはその切先を見上げて構える。


 そのマグマの刀身はゆっくりと海壁丸へ倒れ始める。


 【迅(じん) 電網線引(でんもうせんび)】


 畑山は極限まで細くした雷で網を作り、その刀身を防ぐ為に俺達の前に張る。


 上に気を取られていると、海壁丸の縁を掴む無名が見えた。


「あーらしょい!!」


 無名は掴んだ右手で海壁丸を傾かせ、無名を軸に持ち上げた。海中から持ち上げられた海水がマグマに触れて激しく唸る。俺らを乗せた1隻の海壁丸は急激に高度を上げていく。俺達は海壁丸にしがみつく。


 物体浮遊の能力か?


「まずは降りてこいよ!!」


 無名は俺達の乗る面を下に向け、海壁丸を投げ飛ばした。


 下にはマグマが……。いや、唯のマグマじゃない。そこには、先程ルータスが作り出した刀身が辺り一面に敷き詰められていた。


 その切先は、海壁丸の距離に合わせて伸びてくる。


 俺は海壁丸を蹴り、下に向かって飛び出す。


 刀身を避けて降下し、体勢を整えた。


 【飛斬(ひざん) 滲波紋転(むはもんてん)】


 身体を捻って抜刀し、その勢いのまま回転する。想(そう)を込めた斬撃は波紋のように拡がる。


 全てのマグマの刀身を斬った。それと同時に久美は動く。


 【広範囲指定型八十重(オーケスティビティ)】


 斬り離された刀身は、真下へ急速落下する。


 【磁槌(じつい) 嘉弦(かげん)】


 滝原は大槌の面を海壁丸へと付けて力を加える。海壁丸は次第に傾く。


「あんたにお返しするよ!」


 滝原は海壁丸の側面を、浮く岩に乗る無名に叩き付けた。そのまま海壁丸で海を殴り、マグマへ大波を被せた。しかし、マグマは硬化せず、むしろ活性化した。


「クソ!ダメか!」


 俺達はそのままマグマの上に落下した。


 ルータスは驚くように顔を上げる。


「凄え!ちょい熱いけど大丈夫だ!」


 俺達はその場で立ち上がる。マグマは足首程度の深さで、下には硬い足場があった。



 【対溶岩超耐熱特殊装甲】



ー1週間前 沖縄県 千歳邸ー


「長ぇ〜難ぃな〜何それ?」


「伊歳野(いとしの)に頼んでおいたもんだ!」


「私特製!対ルータス用の装甲だよ!あいつの記録とか久美チーから聞いてる限り、能力は溶岩だからさ」


「凄え!!ありがとう!!それ着ると熱くなくなんのか?」


「絶対に熱くない!多分!」


「多分!?!?」



ー現在ー


「何故立っていられる……」


「俺の仲間が作ってくれたんだ!」


「なるほどな、俺対策をしてきたわけか」


 その瞬間、足元のマグマがガッチリ固まった気がした。


「だが、誰かさんは勘違いをしているらしい」


 足元に絡み付いて硬化したマグマから足を引っこ抜く。片足抜くのでさえかなりの筋力が必要なうえに、ルータスは既に目の前まで間合いを詰めていた。


 ルータスが構えた拳に、周囲のマグマが浮かんで纏わり付く。紅々としていたマグマは、構えた俺の刀に触れる寸前で紅黒く硬化した。


 【迅(じん) 雷包___】


 畑山の盾より先に、上半身を覆う程の拳が俺に届いた。俺を打ち付けた瞬間、マグマの拳はルータスから離れ、周囲のマグマに後押しされる形で勢いを継続させる。


 俺はかなり吹き飛んだ。その途中でも、ルータスによって生成された針の壁が何重にもなってたし、それ全部背中で砕いちゃうくらいの勢いだし。それにメチャクチャ痛え!!硬化されたマグマの硬さが思ったよりもヤバい。


 拳の勢いがほんの少し落ちたのを見逃さず、脚をマグマに突き刺し、重心を移動させて拳の軌道から抜け出した。


 俺はみんなに近付こうと走ろうとした。しかし、俺の脚が足場を捉えることは無く、マグマの中に肩まで沈んだ。顔には耐熱の装甲は無いから、意地でも浸かるもんかと耐える。


 すると、マグマが俺を覆おうとした。


「あー!さすがにマズい!!久美ー!!」


 俺の叫びに久美は反応してくれた。俺の身体は浮かび上がり、久美の近くに着地する。


「足の裏こっち向けて!」


 俺は言われるがままに足の裏を久美に向けた。久美は足の裏に指先で触れる。"早く反対!"って若干怒られた気もする……。


 けど、久美が触れてから俺の脚がマグマに沈むことは無くなった。


「足の裏が物体に触れたら、そこから身体の芯に向かって体重と同じ力が加わるようにした!」


 俺は大袈裟に膝を交互に上げて足踏みしてみた。確かに!沈まん!!


「いやマジで久美には感謝してもしきれん!ありがとう!!」


「力貸してんだから、勝つぞ。今日!」


「ああ!俺もそのつもりだ!」


 俺は久美に向けて拳を突き出した。


 久美は装甲に覆われた顔で拳を見る。


「ほら行くよ!仲間がこの間を繋いでくれてるんだから」


「あいつらなら大丈夫だ!行くけども!!」


 走り出した俺の後ろで、久美は"変わったね努(つとむ)"と小さく呟いた。


 俺らが走り出したと同時に、遠くの海から飛沫を上げて無名が飛び出すのが見えた。ブハー苦しかったって聞こえた。無名まで合流したらキツいぞ。


「久美!まずは___」


「無名を遠ざけること!!」


「俺が言おうとした……」


 無名は新たな岩を浮かせて飛翔する。


 まだ2人の明確な能力が解ってない状態だぞ。あいつらを合流させたら危険すぎる。


 俺は無名に身体の正面を向け、刀を思い切り振るった。


 想の込もった斬撃は無名の乗る岩を斬り裂いた。無名は体勢を崩してマグマへと落下する。


 無名は直ぐに立ち上がり、川に落ちた時に濡れた服を見る感覚で自身の身体を見ていた。


 無名の周囲のマグマが浮き上がると、幾つかの塊を作った。その塊は捻れ、先端を尖らせる。その後にマグマは紅黒く硬化し、地面と繋がっていたマグマは途切れる。


 捻れた塊の後方では既に新たな生成が始まっていた。そして、前方の捻れた塊は俺と久美に向かって飛翔する。


 俺はその塊に向かって想を込めた斬撃を飛ばす。しかし、円錐状に捻れる塊に斬撃は流される。


 久美は掌を上に向けながら腕を振り上げた。それに応えるように塊の切先は上を向く。無名は下からマグマを突き上げて塊に接着させ、軌道を無理矢理に修正した。


 俺と久美は何とか避けるも、塊がマグマに入り込んだ波で足を取られる。その波は俺達の脚を掬おうと迫る。


 俺は今の現状に腹が立った。


 全っ然!近付けねえ!!


 ルータスは勿論だし無名にすら近付けねえ!


 あいつら2人に有利なフィールドすぎるんだ。


 ルータスを食い止めてくれてる3人も、いつまで保つかわかんねえ。俺と久美でさえ無名に一方的に押されたら体力の限界は来る。


 この流れを打開する何かをしなきゃ、勝ち筋は遠すぎる。


 俺ら周辺のマグマが動いて襲ってきてる。これがルータスの能力なのか、無名の浮遊能力(仮)で動かされてるのかもわかんねぇ……。


 もしルータスの能力なら、あいつら3人を相手にしながら俺らの動きを把握してピンポイントで狙ってきてる訳だ。うん、バケモン。間違いねえ。


 もし無名の能力なら、それはそれで迷惑!鬱陶しい!なんだよ浮遊能力(仮)って!どうやって想(そう)操ってんだ。頭パンクすんぞ。


 無名がルータスのマグマを借りてるとしたら、単純にルータス2人みたいなもんで。無名とルータスが力合わせちまったら、無名のサポートでルータスが更に動き易くなって攻撃の幅が広がる。


 せめて、このフィールドをどうにか出来れば。


 遠く離れた海壁丸の上で、味方のデュロル&エキポナが保護機構のデュロルと必死に戦ってくれてる。あっちにも行かせちゃダメだ。


 ダメだ!!あーダメだ!頭から煙出ちまう!


 ……。


 煙??


 視界の端から先程までとは違う種類の煙が上がった。


 そして、俺の身体にそれは落ちた。


 俺と久美は空を見上げた。


「……雨?」


 次第に雨は強さを増し、敷かれるマグマを騒がせた。


 突如降り出した大雨の中、1人の人物が歩き寄る。その姿には見覚えがあった。


「片桐(かたぎり)……」


「楓太(ふうた)さん!!」


 遠くの方で高千穂(たかちほ)は叫んだ。


 ここに来る途中、片桐(かたぎり) 瑛太(えいた)の訃報を聞いた。


 俺らは何も言葉を発せなかった。誰も何も言えなかった。悔しかったから。


 瑛太は自ら命を断たないと知っていたから、尚更悔しかった。


 一番悔しくて、哀しくて、辛かったのは高千穂だろう。


 高千穂にエキポナとしての目標を託してくれた人であり、共に戦った仲間でもある。


 高千穂は堪えていたんだ。


 亡くなった命は戻って来ない。いくら言い聞かせても、拭えない悔しさや喪失感は付き纏う。


 それを押し殺していた。その感情が、楓太を見た瞬間に溢れ出たんだ。


 楓太は雨を降らしてしまうデュロル。


 青空が観たいと願った青年で、精神的に負った心の雨を具現化してしまう。


 しかしそれは、兄である瑛太に再会したことによって解消され、雨は止んだ。


 青空の下を歩けていた。


 俺達の身体を強く打ち付ける大粒の雨。


 これが楓太の心を表していることを、俺達が一番知ってる。


 高千穂の心にも深く刺さった。表情を崩して泣く声は、マグマに溶ける大雨によって掻き消された。


 楓太は雨粒を踏み上げて宙を登っていく。踏まれた雨粒は、楓太の脚を撫でるように登っていく。


 楓太は装甲に隠れた顔で、優しく俺達を見渡した。


 大粒の雨は俺達それぞれに集中して当たり、それぞれを雨粒のような膜で覆った。


「みんなその中に居て欲しい。その方が安全だから」


 心とは裏腹の優しい声で。


 ルータスと無名は無言で楓太を見やる。


 雨粒の膜から見える楓太の額から、ツノが生え出す。


 頭部に弾かれた雨粒が、文字を象ったように想えた。



 【涙鬼(るいき)】





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