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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【転】
72/144

71話ー檻籠ー

 福岡支部の三姉妹。


 彼女らの過去も、凄惨なものだった。


 そして明かされた、世界デュロル保護機構の悪事。


ーJEA福岡支部ー


 既に原型を留めていない福岡支部の開いた天井から、この姿を見よと言わんばかりに陽は差し込む。強制的に照らされたこの場所に、橘花(たちばな)の造り出した鉄は張り巡る。そこに乱反射した光が眩しさと憤りを感じさせた。


 橘花という男が居なければ、どれだけ多くの人が犠牲にならずに済んだことか。


 そんな取り返しもつかない悔しさに駆られていた。


 刃を交えたDeep Swampの櫻木(さくらぎ)の声が蘇る。


「貴方達は何故、糞の他人なんかの為に自らの命を燃やせるのでしょう。訳分かりませんね」


 多分橘花は何を言っても聞く耳を持たない。


「全て自分の為に動くものでしょう?人間なんて自分さえ良ければそれで完結する生き物でしょう」


 橘花からは何の悪気も感じない。本当に"そう"思っているから。奴からしたら藤長(おれ)らが間違った思考なんだろうよ。


「お前は、誰の為にこんなことをやってんだ」


「そんなの(わたくし)の為ですよ愚図」


 橘花は即答した。予め用意されていたかのように。


「私の身を護る為です。"真の人間"という生き辛くて、でも無限の可能性の人種のお利口な生き方だと思います。強大な力の下で、私を匿う為であればどんなことだってします」


「お前は!誰かにやれって言われたから人の人生を奪ったのかよ……!もっとお前なりの強い意志とか有ったんじゃねえのかよ!!」


 橘花は顎に指を添え、少し考える"フリ"をしたんだ。


「いいえ、そこに自分の意思など御座いませんが。有ってたまるかって話ですよ。そもそも"餌"に人生なんて要らないのでは?」



 ああ……。何を言ってもダメなんだ……。



 櫻木みてえに、自分の意思があるのかと思った。人間じみた部分が、多少なりあるんだと思った。


「そう……なっちまうんだな……」


 【氷天双刀(ひょうてんそうとう) 凛花乃雪(りんかのゆき)


 冷気は漂い、鋭い陽の光に当てられる。


 空気を察したのか、美少女3人も武器を構えた。


「ありがとう。容赦なく討てる」





 (りく)の双刀の刃は、一瞬にして橘花の首へと届いた。


 助走無しの一蹴りで十数メートル離れた奴の元へと体勢を崩すことなく近寄り、的確に刀を振るって挟んでいる。


 訓練通りの落ち着き……。感情に任せた動きを押し込めて、"いつも通り"を実戦で発揮する。本人は何も考えてないかもしれないから、身体に染み付いてるんだね。


 でも、橘花はそれに反応した。首元から火花が散って数歩下がる。


 橘花の足が触れた鉄が、奴の身体へと纏い、やがて全身を覆う。


 装甲部分だけを鉄で補強した、鎧に似た姿へと変貌する。


「その姿……あの時と同じ姿だ」


 陸はボソッと呟いて体勢を整える。


 橘花の今の姿は、陸の記憶の中だけにあるものと重なってるはず。私達からすれば、ゾディアックの見た目が強化されたように映るだけ。この姿を、家族のみんなも見たのかな……。絶対に敵わない相手がこんな姿になったら、絶望しちゃうよね。


 私だったら___。


 私の横を通り過ぎ、すのは小槌を振り払った。


 激しく火花を散らし、小槌で打たれた橘花の胸部は、元の白い装甲が剥き出しになっていた。その白い装甲に若干のヒビが入っている。


 すのの勢いは止まらず、絶えず双小槌を振るう。橘花は慌てずに指先を動かした。それに応えるように、地面の鉄が柱となって突き上がる。


 それをすのは、読んでいたかのように蹴って避けた。


 すのは、涙目になっていた。


 今まで瀬川(わたし)とセロリを励ます側に居たムードメーカーが、奴を目の前にして初めて涙を見せた。


 辛かったのは、彼女も一緒。


 耐えてきた彼女の心の糸が、プツリと切れた。


 地面から突き上がった鉄は、角度を変えて壁に向かって突き進む。鉄は壁に当たると吸い込まれるように同化し、辺りを波打たせた。同時に地面から切り離し、後を追い流れるように壁へと消えた。


 今、橘花(たちばな)は何処からでも攻撃できる状況。奴にとって最良の戦闘場所。視界も良好。奴の方が有利に見える戦況だけど、意外と追い込まれてるのは向こうかもね。


 すのの与えた鋼鉄の鎧の傷は、即座に足元の鉄で補強された。自慢の鎧が"小柄な女の子に簡単に溶かされること"を知った今、精神的に迷ってるはず。


 ある程度私達の能力は知られてるんだろうけど、強くなった私達は知らないでしょ?


 【鋼鉄・針地獄です!!】


 橘花の声と共に、地面に敷かれる鉄から、数え切れないほどの針が山となって突き上がり埋め尽くす。


 針が突き上がる寸前で、セロリの盾が起動する。


 【反重盾(はんじゅうのたて) 浮与羽(うきよのはね)


 浮き上がった私達の足元を氷が覆った。陸の【凛花乃雪(りんかのゆき)】で針の貫通を抑えてもらう。


 氷に着地し、私は矢を2本構える。


 【双弓(そうきゅう) (けい)


 放った矢は前左右に分かれ、その矢筈(やはず)同士を熱線で結ぶ。鉄を貫いて進むにつれて熱線の距離は伸びていき、広範囲を一刀両断する。溶かされた鉄が修復される前に、陸は断面を凍らせる。


 セロリは、両腕に装着している【浮与羽(うきよのはね)】で切り離された鉄に触れる。触れた部分から黄緑色の想が波紋に広がり染み入るように消えた。針山の上部分は浮き上がり、氷で覆われた断面が頭上に来ると、陸とすのは飛び出した。


 横から新たな鉄が迫っているが、突っ走る2人は容易く払い除ける。橘花の足に氷が噛み付いており、奴は上半身のみを動かして氷を砕いた。直ぐに鉄の壁で行手を遮られる。


「逃した!」


 すのは小槌を振り上げ、浮いてる針山上部を一瞬にして消滅させる。詳しく言えば、橘花の(そう)で造られた鉄を、すのの小槌が吸収した。


 すのの小槌は緋色に発光する。


 すのは目を瞑りながら発光する小槌を構える。


()る!!」


 目を開けたと同時に迷いなく小槌を放り投げる。鉄の壁に触れた瞬間、壁は小槌を避けるように溶けて、小槌は反対側へと消えた。


 すのは放り投げた勢いを利用して前進し、溶けて開いた穴にもう片方の小槌を押し当てた。壁は縦に溶けて道になる。陸が即座に溶けた部分を凍らせる。激しい蒸気の中から、尖った鉄が突き出てきた。


 陸はすのをセロリへと投げ飛ばし、鉄を正面から受ける。受ける直前、双刀の握り方を変えた刀身で挟んだ。双刀が触れた部分から霜が伝染していき、やがて鉄は勢いを無くした。


「気配が無ぇ!」


 すのは手元に小槌を引き戻す。


「鉄でニセモン造っとったけん、位置わからんくなった」


 私達を囲む鉄の壁の奥で、多方向から音を鳴らされる。鉄が触れ合う音……。どれが橘花の足音なのか判断できない。


「ちょっとウチから距離取って。見やすうなるまで吸い取ったるけん」


「無茶ばい!すのでも耐えれんで!」


「大丈夫。ウチ、強くなったんよ」


 【双小槌(そうこづち) 深炎(しんえん)


「しゃがんどって!」


 すのは両腕を広げ、小槌を両手に持ちながら一回転して放す。


 双小槌はすのを軸に旋回し、周囲の鉄を溶かしながら距離を延ばしていく。


 小槌はいつもより輝きを増して、緋色に発光する。そして双小槌は同じく旋回し、再びすのの手元へと戻った。


 すのが柄を掴んだ瞬間、激しい火花が散る。


 すのの身体は、手から胴体にかけて熱が伝うように発光し、光度の違いこそあれど全身が緋色に輝いた。


 すのが息を吐くと同時に、全身から蒸気が噴出する。それは直ぐに収まるものの、すのの周囲の空気は歪み、まるで陽炎を思わせた。



 "お前の能力は強い。だがそれは身を削る力だ。諸刃の剣と思えよ。"



深炎(しんえん)モード。PEを使わんくても、ウチの力で輝いちゃる」


 すの……使いこなすようになってる。


 最初にその力使った時は大変だったよね。熱を制御できなくて、みんなで慌てて放水したの。


 でも、今の彼女の眼はあの時とは違う。もう大丈夫って言ってる。


「すの、その力使うとる時動きにくそうやけん。私の力貸しちゃる」


 セロリはすのに両手を向ける。


 【浮与羽(うきよのはね) 半重羽(はんじゅうのはね)


 セロリの手から波紋のような空気の球が放出され、すのの身体に当たると同時に染み入るように消えた。


「軽量化ばい!」


 おぉ〜!と言いながら、すのは飛び跳ねてみる。


「セロリ凄いよ!軽い!」


 すのは身軽そうに飛び跳ねてから腰を落とし、息を整えて双小槌を構える。


「橘花を引き摺り出してくるけん。ちょっと待っとってな」


 すのは大きく息を吸い込み、火花を散らすと共に地面を蹴る。壁際に押し固まった鉄の裏のどこかに、橘花は隠れてる。すのの小槌でかなり削り取れたにしろ、まだまだ鉄は残ってる。


 すのの手にかかれば、想で出来た鉄なんて一瞬で消滅しちゃうよ。


 私の予想通りに、すのは凄まじい勢いで鉄を吸収していき、隠れる場所が無くなった橘花は姿を現した。


 橘花は、残る鉄ですのに反撃する。しかし、少量の鉄の柱は小槌に弾かれただけで溶けてしまう。


 今彼女の体温はどれくらいなんだろう。私達のとこまで熱が伝わってくる。


 しかし橘花は、焦る素振りを見せず、すのへ淡々と鉄の柱を向けていた。


 小槌は橘花本体へは当たらず、奴の鉄はすのの身体へと追突して火花を散らしていた。


 橘花の攻撃は徐々に速くなっていく。鉄の柱を直進させ、時に垂直に曲がり、死角からすのへと迫る。


 私の放った矢を当てて鉄の進行方向を変える。矢は"福岡支部だった壁"に突き刺さった。


 それを数回繰り返してすのの体勢を整える援護をする。


 しかし、橘花の攻撃回数が衰えることはない。そして、大きな鉄の柱は幾度も直角に曲がり、すのの死角へと回り込む。


 すのは振り向いて小槌を振るう。


 鉄の、"直線にしか伸びない"と錯覚させてからの畝り。


 すのは鉄に押されて鉄壁に叩き付けられる。


 すのは自身に纏わり付いた鉄を吸収した。若干息が荒くなってる……。


 橘花の手数が多い故に、私達は援護にまわる他無かった。


 それでもすのは、次々と鉄を吸収していった。


 場の気温も上昇していく。


 液体のように自在に行き交う鉄が硬化した瞬間に狙いを定めて矢を放つ。


 矢の本数が少なくなってきた……。


 すのの小槌は更に輝きを増している。


 振り絞って漏れる声がここまで聞こえてくる。


 怒涛の鉄の攻撃に、辛い時にこそ手を伸ばしてしまいそうな()が生まれた。


 すのからすれば、絶好の隙……。


 握り締めるようにその隙を突きに行く。


 ()からの、鉄の多方向一斉攻撃。


 本数にして57。その全ての鋭利な先端は、あらゆる方向からすのへと突き進む。


 【鉄の檻籠(おりかご)です】


 すのはその殆どを避ける。数本の鉄を吸収するも、背部への衝突に体勢は崩れる。踏み止まる為に出した脚に力入らず、数歩よろけて膝を着いた。


 すのへ触れた鉄は吸収されていく。


「なるほどですね」


 橘花は気付いてしまった。


 その直後から、鉄はすのへ吸収されることを目的とした動きに変化する。


 私達の声は届かず、すのは只管に鉄を吸収する。


 直視できない程輝きは増していく。


 そしてすのは1歩さえ動けず、立ち上がろうと踠くシルエットだけが見える。


「満腹ですかね。この瞬間を待っていましたよ」


 鋭利で巨大な宙を這う鉄は、私達の攻撃を潜り抜けて緋色の光源へと向かった。


 





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