70話ー三姉妹ー
福岡支部を襲撃したゾディアック橘花。
そこに駆け付けたのは藤長達だった。
4人の抱える想い。
福岡支部の三姉妹。
コードネーム チョウジョ。
血の繋がりはないけど、私達は姉妹。
ー瀬川 彩奈 9歳ー
私達3人は、突然出会った。
世の中が鬼神騒ぎで子供の誘拐事件を気にかけてた時だった。
いつも通りに登校して授業を受け、友達と遊びの約束をして下校する。帰り道の途中には、防犯のため交番のエキポナが立ってくれている。言葉通りの、いつもの生活だった。
ある日、家には誰も居なくなった。
お母さんはフリーのデザイナーだから、家で仕事していた。だから、何の音沙汰もなく家に居ないなんてこと無かった。
最初は、いつもの伝え忘れかなとか思ったけど。しばらくしてエキポナと警察が家に押し寄せて来たあたりから、酷く動揺したのを覚えてる。
その日から孤児院で暮らすことになった。
そこで、全く同じ境遇の2人と出会う。
何が何だかわからない状況だったけど、私達は息が合うなって感じ取った。
「どこでそない標準語覚えとー?」
弾けるような性格でムードメーカーな次女 鹿子木 すの。
「私標準語に嫌われとるんよ……標準語怖いぃ……」
少し天然で、9歳にしてグラマラスな身体の三女 松尾 セロリ。
この3人だからこそ、この状況でも耐えて来れた。例え嫌なことを考えても……。
「そんなら、ウチらでボッコボコにしちゃるけん!ね!」
すのの言葉に救われて来たんだから。
「いいねえ!もしボッコボコにするなら、エキポナにならんと出来んね?」
「それだぁ!!ウチらエキポナになろお!ウチらのチームプレイなら、どんなデュロルにだって勝てるばい!」
下校の時のこの会話から、私達は本気でエキポナを目指すようになる。
「エキポナて勉強もせんといかんのぉ!?」
「聞いとらんけぇ〜」
勉強が不得意なセロリとすのに、私お得意のスパルタ教育でメキメキ成長させた。
「鬼教官ばい」
そして見事、全員で筆記試験を突破した。
私達は元々身体能力に恵まれてたから、基礎体力の試験も無事に突破する。
3人でエキポナになって、様々な任務を遂行する。やがて三姉妹の名前は知れ渡っていき、ついに大支部の福岡支部への着任が決定した。
志の高い兵士ばかりが集まる大支部で功績を残すのは難易度が高い。でも、私達3人の力を合わせたから、早い段階で功績を残すことができた。
4人1小隊の編成だったから、私達以外の1人は抜けては代わってを繰り返した。
そして、世の中が再び鬼神で騒ぎ出した時、鬼神対策本部が設立された。私達は鬼神対策福岡支部に選ばれ、1人東京本部から来ると聞かされた。
大支部より激戦区の本部から、鬼神対策本部に選ばれた人が来るとなって、私達は興奮した。
「どんな人が来るんかな?」
「優しくて強い人がええね!」
期待を背負い、藤長 陸を迎えることとなる。
赤毛が逆立っていて、吊り目で背も高い。頼りになる人の印象そのまんまだった。
でも、性格はその見た目とは逆で女の子に対しての耐性が皆無だった。
滲み出てくるアホ感も好感あるけど、貫く信念と、仲間を護ろうとする意思は人一倍だった。
鬼神に属していた天狗デュロルの中林と交戦した時、私達は全員それを感じた。
陸に付いて行こう。
行動を共にしてるうちに、陸は私達に慣れていった。距離を縮めたり、顔を近づけたり目を合わせたりしたら失神しちゃうけどね……。
Deep Swampの櫻木の時の陸は忘れられない。陸の過去を知ったのもその時。
あかりさんへの想いが私達3人にも伝わって来た時、三姉妹と同じ空気を感じた。
兄のようだけど、また兄とは違う感覚。
そしてまさかの、私達がチームエル・ソルになっちゃったの。日本に4部隊しか居ない精鋭チームに……。
その後から、私達は世界デュロル保護機構のゾディアック 橘花 現成について調べ始めた。
機をうかがうように他のゾディアック達は活動を開始した。
私達もゾディアックという言葉に敏感に反応する。
様々な場所でゾディアックの出現が報告され、その都度対処するも、その全部が野良のデュロルで何も掴めずにいた。
そして、話に聞いていた千歳くんがデュロルに連れ去られたと聞く。
血眼になった陸を止めるのは大変だった。その陸を抑えたのは1人のデュロルだった。
「みんなも努のとこ来て」
圧倒的な想に押し付けられ、私達が冷静になるまで彼女は語り続けた。
「千歳からも聞いたことねえぞそんな話!」
「そりゃ、努はそうゆうこと言わんしな。努とアタシ"達"は幼馴染だよ。藤長より付き合いは長いよ」
「信じる証拠が無え!けど千歳に会えるってのは迷っちまう……」
「信じられないのもわかるけどさぁ、アタシ他の支部にも行かなきゃなんだから早く決めてよ」
「1つ聞かせろ。何でお前は保護機構に居るんだ」
「それは言わない。誰にも言ってないからさ。この人を除いてね」
彼女は手下げバッグの中から携帯端末を取り出して、指先だけを人間に戻して器用に操作する。
どこかへ電話をかけ始め、出た出たと言って画面を見せる。
そこには輝く笑顔のお爺さんが手を振ってるのが映っていた。
「これ、努の爺ちゃん」
「おい!人を"これ"って呼ぶんじゃねえ!」
私達はそれが千歳くんのお爺ちゃんって確証は持てなかったけど、陸が"千歳に見せてもらった写真と同じだぜ"って言うから信じた。
私達は彼女の凄まじい力によって沖縄へと飛んで行った。落ちて行った……の方が正しいかな。
豪邸の庭に着地し、手厚く受け入れてもらった。そこに他のチームエル・ソルの皆も連れて来られて、気絶してる千歳くんも居た。
千歳くんのお爺さん、重三さんから一通りの説明を受ける。
千歳くんが目を覚ましたからお話したけど、彼の人間性には惹き寄せられるものがあった。
底の見えない包容感と、やっぱり否めないバカ感……。あの陸が敬意を示す人だから気になってたけど、一瞬で……しかも強制的に納得させられたような気がしました。うん。
しばらく経って、訓練の成果が出始めた頃。
私達をここに運んだ彼女は千歳邸に姿を現した。
千歳くんと長時間に渡って激しい喧嘩……戦いをしてた。互角だった。
私達は一瞬で彼女に捻じ伏せられたのに、千歳くんは捻じ伏せられるどころか、互角に戦ってるなんて……。私はその瞬間にも格の違いを見せつけられた。
しばらくして互いに笑顔で帰って来た。
なんか……2人にしか理解できないことなんだと思う……凄いとしか言えない。
冷静になった彼女……久美ちゃんから衝撃の話をされた。
ゾディアック全員の役割だった。
その内容は残酷を極めていた……。
「私が居る組織、世界デュロル保護機構はデュロルの為なら手段を問わない。デュロルこそ真の人間と考える組織。デュロルが生きやすい世界を作るんだってさ。数ヵ国から認められた機構だから、表向きは良いことしてる風を見せてるの。貿易会社、電力会社、精神科特化病院とか様々な事業を幅広く仕切ってた。認めてる国も、かつて世界を騒がせた"旧"最重要警戒デュロル相手に反対もできず、半ば独裁国家になってた。あくまで、"表向き"はね」
そこから声色は変わり、より一層深刻な内容になっていく。
「ここからは"裏"。善の為に表向きで活動していたこと全てが、デュロルの為に繋がっているの。まずバーラ・グリティネロ。彼女は違法売春店パラダイスの責任者となり、"夢見花"を使ってデュロルを生み出したり、"餌"と呼ばれる想高濃度の人を生み出していた。彼女の生み出した"餌"は世界各地のデュロルに買われ、飢餓問題を改善していた」
その話に、亜百合ちゃんは下を向いた。
「"夢見花"は中国の山岳地帯に造られた工場で栽培されていた。表向きは年間雨量の多い地域の水質調査となってた。そこの責任者は李 強王。保護機構相手に内部調査なんて出来るわけもなく、中国は見て見ぬフリするしか無かった」
東京チームは顔を上げて反応を見せる。
「バーラによって生み出された"餌"は、マイケルソン・ハンプソンが任される貿易会社から、世界へと出荷されていた。船は次世代電気船として知られていた。影で"人"を運んでるとも知らずに」
みんなの眼差しが鋭くなるのを感じる。
「マイケルソンの電気船の電力は、吉岡 和ノ信が任される電力会社から供給されていた。和ノ信が直に発する電力で、地球2周分までは余裕で航海できた」
息が詰まりそう……。
「スクイマ・デルトリッヒは精神科特化病院を世界中に持ってた。患者を診察すると見せて、自身の能力で人をデュロルへと変化させていた。デュロル人口の増加が目的ね」
畑山くんは息を漏らすように唸る。
「"餌"としての効力が無くなった者や、規約を破ったデュロル組織などを埋葬する為に、亀戸 修二郎は世界を飛び回っていた。亀戸は水の中を自在に動き回り、数時間もあれば日本とアメリカを行き来していた。埋葬として、亀戸の能力で海底へ沈めていた…….」
室瀬くんの顔は険しさを増した。
「無名のデュロルが居て、そいつルータスと同じで"旧"最重要警戒デュロルなんだけど、一番厄介かも。こいつが保護機構全体の戦闘力を底上げしてる張本人。ルータスと同じ元軍人であの大戦争を経験してて、その経験をスパルタに叩き込んでる。会議とかには姿を現さないんだけど、それは常にデュロルを鍛えてるからなんだよ」
背筋が凍るって言葉を実感したのは初めてかもしれない。私だけじゃない。みんなが感じてた。
「ダルディエゴ・ジオゲインは人体の部位を売買してた。結構自由に動いてたかな。アタシは能力が買われて席を貰ってるだけだから自由に動いてるんだけど、一応デュロル増加の為に世界を飛び交ってるって設定。そんで次なんだけど……」
久美ちゃんは言葉を詰まらせた。言葉を探ってる感じだった。
「橘花 現成、こいつは臓器林って完全に裏の組織を任されてて、人身売買を主にしてた。誰彼構わずに人身売買してたわけじゃないの。これが質悪くてさ、保護機構に加入したデュロル組織が起こした事件や騒動に関係した人達を狙ってるの」
その言葉に私達と陸は反応する。
「日本だとクレイター、青、リブレイク、鬼神、混沌、他にも色々……。中でも橘花が1番力入れてたのが鬼神らしい。関わった人どころか、その親戚にまで影響は及び……数え切れない人が行方不明になった」
私の脳裏に、家族の会話が過ぎる。
"ねえ彩奈、従兄弟のこっちゃん居るじゃない?今騒ぎの誘拐にあったっぽいのよ。本当物騒。親戚が被害に遭うと変に実感しちゃうね。"
孤児院に居た時、まさかと思った最悪の出来事が現実だったなんて。
今でも心のどこかで、家族は生きていて、何らかの理由があるから会えないんだろうって思ってた。そう思わないと……何かに喰われそうだった。
それはすのも、セロリも同じだと思う。
"人身売買"。家族は、私の知らないところで拐われて、訳分かんない場所に連れてかれて、怖い人達に囲まれて、抵抗もできず、助けを呼ぶことすら叶わず……。怖かったよね。
バコン!
誰かが私の背中を叩く。
「ちょームカつく!ウチら強くなったんやし、ボッコボコにしちゃろ!」
長女が凌げてどうすんのと言わんばかりに、すのは私の目を見つめる。すの、あんたも同じ気持ちなのに……昔っから強いよ本当。
セロリも、涙目を必死に堪えてる。強がっちゃってる。
「辛くて考えたくなかった。でも、嫌と言うほど考えさせられた。考えれば考える程、今言われた事実が脳裏にチラついてた。逃げてたんだ私。認めたくないって」
すのは大きく首を縦に振り、うんうんと相槌する。
「でももう、何も出来なかったあの頃の私達じゃない。すのの言う通り、強くなった」
「今は俺も居るし、仲間もここに居る。叶わなかった人たちの想いを、叶えることができる」
照れ臭そうで、でも裏の無い言葉。
覚悟、決まった。
「アタシがここに来た理由、この話の他にもあるの。ゾディアックが大支部を襲撃する計画が立ってる。実行日はまだ未定。努を無理にでも引っ張り出そうとしてるけど、まだ保護機構の体制が整ってないから2ヶ月先くらいだと思ってる。そこで、保護機構が動きを見せた時、みんなをここから各支部に飛ばす。ドンピシャの方角に飛ばすことは出来ないけど、近いところに着地させることはできるから、その練習をしたい」
「動き始めようとしてるのか」
畑山くんはボソッと呟く。
「アタシは東京本部の襲撃を任された。もちろん、襲撃なんてしない。努の活躍を見て、反・世界デュロル保護機構のデュロル達を集めるつもり」
久美ちゃんも大きく息を吸い込み、覚悟を決める。
「そしてアタシは、ルータスを討つ」




