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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
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45話ー世代交代ー

 この日、時代は動く。


 想いは継がれる。


 その想いは絶える事なく募る。


ーDeep Swanp壊滅から2ヶ月と数日ー


 この日、前代未聞となる、チームエル・ソルの総入れ替えが行われた。


 大阪チームエル・ソルと北海道チームエル・ソルを除く他2チームは全メンバーの入れ替えとなる。


 JEA設立前の特殊部隊から数え、主力部隊の総入れ替えは初であり、時代の節目としては良い時期だろう。





ーJEA 福岡支部ー


 福岡チームエル・ソルの指令塔であり、俺らの良き理解者である久留米(くるめ)さんから呼び出される。今日も直視できないほどお綺麗だ。


 チームエル・ソルの継承はひっそりと短時間で行われる。激務のチームエル・ソルが故の継承だ。


 俺らが部屋に入ると、既に整列された威厳あるメンバーに出迎えられた。


 左から志木(しき)さん、高坂(たかさか)さん、坂戸(さかど)さん、鶴ヶ島さんと並ぶ。志木さんから見て右斜め前に、手を前に添えた久留米さんが立っていた。


 俺らは急いで現チームエル・ソルの対になるように整列した。


「お集まり頂き、誠に有難う御座います」


 麗しく冷静な久留米さんは俺らを交互に見やり、優しく微笑んだ。


「早速ではありますが、称号の継承をお願いします」


 その言葉に続いて、対に並ぶ4人は深く一礼し、大きく3歩前に出る。4人はそれぞれ自身の左肩に嵌められている、チームエル・ソルのチームシンボルである"太陽のマーク"が刻まれたバッジを取り外した。


「このバッジを受け取るからには、国を、命を背負う覚悟があるとお見受けする。己の選択に間違いは無いか」


「ありません!微塵も!」


 志木さんは俺の目の奥を見つめ続けた。


 やがて安堵の表情に変わり、笑顔を見せた。


「お前なら、安心して引き継ぐことができる。先代から引き継がれ続けたバッジの重さは、受け取った者にしかわからない。負けるな、進め!進み続けろ!」


「はい!必ずやり遂げてみせます!」


 志木さんは頷いて俺の左肩の窪みにバッジを嵌め込むと、俺の後頭部を掴んで抱き寄せた。


「ありがとう……!」


 志木さんの髪が優しく香る。


 代々継承されてきたバッジには、その分人の想いが込められている。絶やすことなく、今、俺へと引き継がれた。


 続いて、緑髪の高坂さんが瀬川(せがわ)の左肩にバッチを嵌め込む。


「君の射的センスなら大丈夫だよ。多くの人を支えることができるし、守ることだってできる。自信に満ちたその表情、忘れずにね」


「はい!高坂さんの想い、私が受け取りました!」


 2人が熱い握手を交わすのを見届けてから、坂戸さんは鹿子木(かのこぎ)の左肩にバッチを嵌める。


「すのちゃんの熱い想いはきっと、助けを求める人の想いを温めるよ!」


「ありがとうございます!坂戸先輩の後継として!頑張るばい!」


「先輩だなんて……可愛いのぉ!」


 2人は熱く抱き合う。これまでも仲良かったんじゃないかと思う程、意気投合している気がする。


松尾(まつお)!!お前達はすげえ!ワシらが勝てんかった櫻木(さくらぎ)に勝ちよる!!自信持てな!大切にせぇ!」


「嬉しい言葉たい!鶴ヶ島さんからの言葉も絶対に!忘れたりせん!!」


 手を突き出した鶴ヶ島さんを見たセロリは、一拍置いてから抱きついた。ぐわぁ、やめんかと恥ずかしそうに叫ぶ鶴ヶ島さんにお構い無しにセロリは続ける。困った時に両手でリーゼントを抑える癖があると聞いていたから、今の鶴ヶ島さんは可愛く見える。


 バッジを受け取ったことで、福岡チームエル・ソルは俺らへと継承された。


 千歳達と輪を組んだあの日から3年と数ヶ月。長くて厳しい日々だった。けど、その全ての瞬間は俺とこの仲間で乗り越えて来たこと。エル・ソルになったからといって何ら変わることは無い。このバッジに込められた想いは、俺たちを更に強くする。


 父さん、母さん、あかり、みんな、なったよ。俺。チームエル・ソルに。





ーJEA 北海道支部ー


 俺ら3人は急遽、安久利(あぐり)さんに呼び出された。特にこれと言って予定を聞かされていたわけではない。俺何かしたか?


 指定された部屋に入ると、そこには既に整列した北海道チームエル・ソルが居た。


「兄貴!!」


 そう、北海道チームエル・ソルには俺の兄貴が居る。北海道支部に来たはいいものの、激務の兄貴には今日この日まで会えなかった。


(れん)!久々だなあ!!まさかお前らが呼び出されるなんてな!」


 兄貴も俺らが来るとは思ってなかったらしい。


「感動の再会だな」


 兄貴の隣の嵐山(あらしやま)さんが腕を組みながら言うと、"わや"と東松(とうまつ)さんが続けた。


「あれ?これで全員?1人足りなくない?」


 兄貴は俺ら3人を不思議そうに見渡す。


 水戸部が命を落としてから、何人も入れ替わっていた。全員が俺らに着いて行けない、心が折れたなどの理由だった。確かに、自分でも頭おかしい程訓練してると思う。それに加えて正面からぶつかっちまう俺の性格に適合できる人の方が少ないんだろう。そう考えると、俺の隣に居るおかーさんと、ゴンゾーは凄いんだな。こいつらも頭おかしいもんな。


嵐山(あらしやま)森林(もりばやし)東松(とうまつ)、話した通り前に出てくれ」


 安久利さんがそう言うと、指名された3人は3歩前に進む。それぞれが自身の左肩のバッジを取り外した。


 嵐山さんは右手に持ったバッジを、おかーさんの左肩に勢いよく嵌めた。若干よろけるおかーさんに向かって、真っ直ぐな表情で告げる。


(おか)!俺の後はお前に任せた!!」


 嵐山さんらしい、とてもシンプルな一言。だが、その言葉だからこそ、おかーさんの心奥深くまで刺さるんだ。おかーさんが一番求めて、一番言われたかった言葉だろう。


 おかーさんは待ち切れなかった涙を流して、目の前に出された手を力強く握った。それを見守りつつ、森林さんは左肩を出してと指で合図する。


 左肩を前に突き出し、森林さんはバッジを丁寧に嵌め込んだ。


正人(まさと)くんの弟なら、尚更安心です。貴方達は立派なチームです。どんな強大な敵が現れようと、貴方達ならやり遂げます」


 丁寧でいて優しい声。全てが包まれるようだった。


「はい!俺らは負けません。誰も死なせない!」


 森林さんはにっこりと笑って強く頷き、突き出される拳に合わせた。


 東松さんは恥ずかしそうに体をクネクネ動かしている。


「こんなアタシより、宮武(みやたけ)くんの方が何倍もしっかりしてるし、何せ似合ってると思うんだ!」


 日本を背負うチームの一員としてのギャップのある性格に驚いた。消極的であり自己否定型の彼女だが、俺たちはそんな彼女達の底力を知っている。俺が知っている"東松さん"以上に彼女は努力し、自分を理解した人だからこそ言えることなのだろう。


「アタシでは持ってない物を、宮武くんなら補える。他の子をしっかりと守ってね!」


 力士並みに巨大になったゴンゾーは開いた脚の両膝に手を置き、腰から上を前に倒し、深く頭を下げる。


「有難き。ですが、僕に持ってない物も、貴女はお持ちです。僕に出来ないことも、貴女だからこそやり遂げることができる、強いお方です。尊敬しております」


 ゴンゾーの一言一句は重みがあり、晴れた言葉は皆を安心させる。


 東松さんは安堵した表情を見せ、やがて笑顔で右手をゴンゾーへ向け、はいたっち!と元気よく言った。


 ゴンゾーは嬉しそうに一礼し、優しく添えるようなハイタッチをした。


 その際、兄貴はあっけらかんな表情で他3人と安久利さんを交互に見やる。


「ちょ、どうゆうこと?俺は?何?え?」


室瀬(むろせ) 正人(まさと)。お前はまだチームエル・ソルに残ってもらう。弟の(れん)達と共にしてくれ」


「いや、聞いてねっすよ!?俺は、この仲間と共にするって……」


 嵐山さんは兄貴の左肩に手を置き、優しく言葉を添える。


「何も知らせなかったのは、悪かった。けど、お前がチームエル・ソルを抜けるのは勿体ない。お前は優秀で、何しろまだ若い。俺らみたく年寄りじゃないしな」


「年寄り……」


 東松さんはがっくしと首を前に倒す。


「弟と居るべきだ。守り、守られるべきだ!もう逃げる理由なんて無いんだよ。こうして強くなって、目の前に立っていることがその証明だ!」


 兄貴は静かに俺を見つめる。嵐山さんが俺の方を見て、だよな?と笑顔で言う。


「もちろんだ!!兄貴!俺ら4人で、俺らにしか出来ねえこと、やろうぜ!!」


 兄貴は少し考えるように下を見る。しばらくして顔を上げて嵐山さんと向き合う。拳を突き出し、勢いよくぶつけ合う。


 言葉の無いその行為は、互いの心を交わす。


 ここに、JEA初となる、兄弟のチームエル・ソルが誕生した。





ーJEA 大阪支部ー


 それは突然やって来た。


 ダッダッダッダッ!!


里道(さとみち)いぃいいぃいぃ!!」


 突如走り寄って来て、首元をガッチリと固定される。


「ひょ、ひへーふはん!ふふひひへふ」


「あ?何だ!?ちゃんと物を言え!がっはっは!!」


 ミネールさんは素早く離れると直ぐ様、腕立て伏せを始める。


峯岡(ミネール)さん苦しいですって言ったんです!」


「そんなことよりな!!大事な知らせだ!!」


「ちょっと(すぐる)、そんなに急がなくてもいいじゃん」


 山谷(ヤマターニ)さんと由紀(ユキーマ)さんは呆れた様子で歩いて来る。


「どうしたんですか?」


「大事な知らせってのは合っててね、実は、浩貴(ひろき)くんの大阪チームエル・ソルへの正式加入が決定したんだ」


 喉の奥を突かれたように言葉が出なくなる。


 大阪チームエル・ソルの穴埋めとして、僕はこの凄まじい人達と居させてもらって3年と数ヶ月。やっと、同じ土俵に立つことを許された。


 まだこの人達と肩を並べるには時間が足りなすぎるけど、正式に仲間になれたことは、とっても、とっても嬉しい!!


「やったよ!お婆ちゃん!!」


 やっとの思いで絞り出た言葉は、自然と選ばれた。


「改めて、宜しくね!浩貴くん」


「里道!仲間んなったってこたぁ、俺の背中はお前が守るんだぞ!!お前の背中は俺が守る!!」


「ああ。(すぐる)の言っていることは正しい。今までは気を使うことが多々あっただろう。だが、もう正式に仲間だ。もう対等の立場だよ」


 僕の考えがお見通しかと思えるほど、優しい言葉をくれた。


「嬉しいです!でも、僕が加入したってことは、片桐(かたぎり)さんは……?」


 大阪チームエル・ソルのチームアグア枠に前任していた片桐(かたぎり) 瑛太(えいた)さん。彼は3年と数ヶ月前の戦闘で重傷を負った。その代わりに、チームアグアの中でトップの成績だった僕が補助として仮加入することになった。


 片桐さんが復活するまでを務める筈だったが、1年ほど前から大阪支部を抜け出し、単独行動してたみたい。


 そして半月前、片桐さんは大阪支部にバッジを届けた。チームエル・ソルである証を。


 念願のチームに入れたことは誇るべきことだった。でも、何かモヤモヤが残る。





ーJEA 東京本部ー


 俺らは堀さんに"会議室に来い"と急かされ、駆け足で向かった。任務か、説教か、勉強か、訓練か、堀さんの子供の成長具合の報告か、有り得る様々なことを考えながら。


 会議室を目前に、速足ながら堀さんに呼びかけた。


「堀さーーーん!!来たぞーーー!!!」


「ちょっと千歳くん!(静かにー!)」


 高千穂(たかちほ)に背中を引っ叩かれながら会議室の扉の手形認証に手を重ねる。


 会議室に入ると、手を後ろで組んだ堀さんが正面の大画面モニターの下に立っている。


「早かったなお前たち」


 少し嬉しそうに出迎える堀さんは、その一言で機嫌が良いんだなと感じさせた。


 娘さんの運動会の写真とか見せてくれんのかな?


 俺らは堀さんの正面に整列する。


「安心しろ、今日は良い話だ。かなりな」


 いつも無表情な堀さんにしては、話し始めからはにかみ笑顔で、声のトーンも若干高い。


「娘さん逆上がりできるようになったんですか?」


 高千穂はウキウキに質問する。


「あ……いや違う……逆上がりもできるようになったんだが……」


 堀さんは気まずそうに頭を掻き、咳払いをして続けた。



「お前らは今日から、東京チームエル・ソルだ」



 一瞬、俺らの表情は固まり、事態を飲み込むまで数秒かかる。


 堀さんは思わぬ沈黙に、珍しくたじたじとしている。


「……今、俺らが東京チームエル・ソルだって言った??」


「ああ、言った」


「え?艶絵世右寺(つやえぜうじ)さん達ではなく??」


「ああ、そうだ。あいつらはバッジをお前らに託した」


「あの……僕も……ですか?」


「ああ、滝原(たきはら)に関しては、歴代チームエル・ソルの中で最年少だな」


「俺の聞き間違いではないですか?」


「ああ、畑山(はたけやま)の耳は正常に機能している」


 俺らはそれぞれの顔を交互に見回した。


 やがて込み上げた感情は、不出来な言葉となる。


「よっ……」

「やっ……」


「……しゃああああぁあぁああ!!!!」

「……たあああぁあぁ!」


 俺らは4人で抱き合い、喜びを露わにしていた。それを誇らしげに見守る堀さんの表情は、良い笑顔だった。


 いてもたってもいられなくなった堀さんは、俺らに混ざって喜びを共にした。


 6年ほど戦力外として、チームエル・ソルとして数えられなかった東京本部。それも今日で終わりだ。俺らが変えてやる。日本一と呼ばれるチームになってやる。





 こうして、東京、大阪、福岡、北海道の4ヶ所の主戦力であるチームエル・ソルは入れ替わった。


 時代は変わって行く。世代交代を経て、かつての超新星と呼ばれた7人はそれぞれの場所で登り詰め、日本を代表する4チームとなる。


 7人全員で肩を組み、鬼神(アラハバキ)壊滅及び生き残るという約束を果たし、同時にチームエル・ソルとなった。


 チームエル・ソルにはならずとも、同等の成果を挙げる兵士は幾多も居る。楔丸(くさびまる)を連れた川崎(かわさき)、阿吽の呼吸と呼ばれる雪崎(ゆきざき)山木(やまき)。想を使いこなしてきたデュロルの黒潮(くろしお)山辺(やまべ)菅岡(すがおか)


 活躍する場所は違えど、皆同じ想いを胸に宿し、新たな仲間を加えて16人の誇り高き兵士と優秀な仲間達は、待ち受ける大戦争で大いに活躍することとなる。





ーニューヨーク支部前 新市街ー


 突如、巨漢のデュロルは道行く車を塞いだ。


「俺らは国に認められたデュロルの保護組織だ」


 英語だ。急いで翻訳機器をオンにする。


「君たちの行いは正しい」


 そのデュロルは余裕綽々と両手を広げて話す。


「共にデュロルを保護しよう」


 その声量は地を響かせる程だった。


「ただ、俺らに歯向かえば容赦はしない」


 もちろん、デュロルと手を組むなんて選択をする筈もなく、巨漢デュロルに向かって弓を構え出すエキポナ達。


 俺らの出した返答に、巨漢デュロルは敵意を剥き出しにする。


「やはりエキポナは邪魔だ。デュロルを保護できるのは、同人種であるデュロルだけだ」


 目の前の迫力に手は震える。


「我々と手を組まないのであれば、エキポナの一切の介入を許さない」


 怯まずに弓を引き、威嚇する。


「これ以上、デュロルの保護を邪魔するのであれば、エキポナを排除する」


 弓を引いて構えていた1人の兵士が、手の震えで矢を射ってしまう。


 その巨漢からは想像できない程の速さで矢を避ける。


「ならば受けて立とう。この名を聞き、絶望するがいい。何を敵に回したのか、死を持って自覚するがいい。この______」


 世界に隠されていたその名は、誰しも口にしなかった。恐れているからなのか。調べれば調べる程、第二次デュロル世界大戦へと繋がる。公にはされず、隠される訳がある。


 その名こそ……。



「______世界デュロル保護機構が相手となろう」





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