46話ー脅威と連携ー
世界デュロル保護機構と名乗る巨漢デュロル。
その名を口にするだけの威圧。
ニューヨーク支部の不安は、武器を握り絞める音へ変わる。
ーUEA ニューヨーク支部前 新市街 14時18分ー
"世界デュロル保護機構"
第二次世界デュロル大戦の最中に誕生したその組織は、欧州の国々を中心に隠されてきた。18年前を境に、欧州はその組織の存在を公にする。
公になってからの世界デュロル保護機構は、EAグループ同様にデュロルの保護を中心に活動している。各地で暴れるデュロルを鎮めるのも組織の仕事であった。
どちらかと言えば、デュロルの保護を謳い、平和を願う組織に思えた。しかし、今こうしてその組織の名を語るデュロルが現れている。嘘か真かはわからない。これだけ人の集まる場所でその名前を口にすることは、組織が黙っていないだろう。
欧州の国々が認めた組織と言えど、人に危害を加える可能性があるならば、止めなければならない。国が動くかもしれない事態に居合わせた戦士達は皆、いつにも増して怯えていた。
しかし、怯えているだけでは解決しない。俺を含め、兵士達は力一杯弓を引く。
巨漢デュロルの的は大きく、一見隙だらけと思える。
そして、脳内に篭る合図と共に、一斉に矢は放たれた。だが、巨漢デュロルは自身の足元に"何か"を撃ち、煙に巻かれて姿を消した。
1人の戦士が、上空に飛び上がった巨漢デュロルを見つける。奴は右手を下方へと向ける。すると、その掌周辺が一瞬歪むのを視認できた。
そして、その掌から燃えるような光を放つ球体が射出された。その球体は空気を引っ掻いた音を立て、一瞬にして直線上に着弾する。それは着弾と同時に破裂し、球体の大きさには似つかわしい範囲のコンクリートを砕いて凹ませた。
着弾時の破裂による波動で付近の戦士達は、体勢を崩される。
この一連の流れを見ている間に、巨漢デュロルは音もなく地面に着地していた。そして奴は両手を前に突き出し、目にも止まらぬ速さで球体を連続して射出した。それは次々にビルと戦士達に着弾していく。ビルに着弾した球体は、付近諸共吹き飛ばす。戦士に着弾した球体は、装甲を凹ませて後方へと大きく吹き飛ばした。その光景が球体の威力を物語っている。
その騒ぎに駆けつけたニューヨーク(NY)支部のトップ2とトップ3の2チームで巨漢デュロルを支部から遠ざける。強引に巻き付けた拘束具は、緊急避難の完了した第二セントラルパークに移動したところで外れる。トップ2、3の他にも移動した戦士達が広範囲に囲んで隊を構えた。
NYチームエル・ソルの到着を待つ。それと同時に、日本から応援で現地入りしている2人も向かっているそうだ。
なるべく、ここに居る者達で何とか巨漢デュロルを抑える。仮に強敵であるならば、チームエル・ソルの到着までに体力や想を減らしておく。巨漢デュロルに負け、支部が落とされることは許されない。
その想いとは裏腹に、巨漢デュロルの猛攻は続く。手が震える。訓練で精神を研ぎ澄ましていたとしても、それを優に超える恐怖が全身を覆っていた。
全身に痛みを感じて奇跡的に目を覚ました。意識を飛ばす前の記憶にある、耳が千切れそうな轟音は嘘のように止んでいた。
パーク内全域からは黒煙が昇り、地面は抉れ、木は薙ぎ倒され、ほぼ全ての戦士が重傷を負って倒れている。それらの中心に立ち、まるでNYチームエル・ソルの到着を待っているように遠くを見ている。奴の身体は、支部襲撃直後の体の大きさに比べると、若干引き締まっていた。
奴の期待に応えるように、NYチームエル・ソルは到着する。到着を望んでいたデュロルは一早く気付いて戦闘態勢に移る。奴の両腕の黒い皮膚の合間が若干光りだす。そこから白煙を出して掌を対象へと向ける。
今まで奴の攻撃を避けることに必死で、奴の身体をまじまじ見れなかった。奴の左太腿の装甲に、青色の牛と思わせる形の模様がある。これは何を意味するモノなのだろう。組織の共通マークなのか、奴の趣味なのか、階級を表すモノなのか。
NYチームエル・ソルは奴を見つけ、最低限の武器の展開しかできないまま、奴の攻撃に備えなければならなかった。
デュロルは白煙を噴く腕を前に突き出して手を開くと、そこから白い熱線を放出した。その熱線には赤みがかった光が帯びていた。熱線が放出された途端、付近一帯の気温は上昇し、そこから熱風が吹き荒れた。
その熱線をかろうじて躱したNYチームエル・ソルの4人。熱線は後方のビルの側面に当たり、紙が焼かれるように脆く崩れた。奴は自身の熱線の威力によって重心を少し後ろに移していた。
4人に驚いている時間は無く、奴は既に次の一撃を準備していた。掌の向く直線上を一瞬で焼き切る。それは瞬きすら気を抜けない程の緊迫感を生み出していた。
そして奴の腕からは、常に白煙が噴き出している。それが見えているからには、針に糸を通す程の小さな隙を探す他ないだろう。
奴はこちらの状況などお構い無しに、熱線を次々に放出する。ただ乱雑に放っているわけではない。4人の動きを予測し、急所を射抜くよう的確に放っていた。彼らの武器を展開すれば状況は変わるのだろうが、それが分かっているかのように構えさせる隙を与えない。
奴は一定の場所を維持しつつ、数歩重心を移すだけの移動しかしていない。反対に、4人は全身を使っている。疲労度合いを比べたら、圧倒的に4人の方が上だと、見ているだけで理解できる。
青色短髪で中盾を手に持つ女性、アッシュ・ケイトが右脚の腱を焼き切られてしまう。アッシュが動けなくなったことを認識して仲間が助けに行く時間と、奴が掌を向けて熱線を放つまでの時間の差は明確であった。
アッシュは熱線の前に無意味だと理解していようとも、諦めずに盾を展開した。彼女の盾は魔法陣のような模様が入っている。展開が完了するかしないかの時に、空気を引っ掻く音は響いた。
熱線は放たれたのだ。
これから起こりうる状況に耐えきれず、思わず目を瞑った。
【鏡棍棒 棘久】
張り上げた声と共に、アッシュへと到達する筈だった熱線はあらぬ方向へと飛んでいた。
アッシュを庇うように、見慣れない青年2人が立っていた。透化モニターには"Toichi Yamaki"と"Rento Yukizaki"と記されていた。名前からして日本人だろう。ヤマキの手には辺りが反射して写される棍棒があり、ユキザキは日本刀を携えていた。彼らが応援で向かっているとされた2人だろう。
彼らが到着した瞬間は見れていなかったが、恐らくヤマキが熱線を跳ね返したのか。あの速さの熱線を跳ね返すなんて……。
「跳ね返すとはな、驚いた」
奴は伸ばしていた手を若干引っ込めて、多少の驚きを感じさせた。
2人の作り出した一瞬の隙は、NYチームエル・ソルの武器の展開に繋がり、万全の状態を迎える。
「君たち日本人かな?ありがとう、助かったよ」
弓のグリップ部分にトリガーが縦に3つ並び、上段トリガーの上部に銃口が取り付けられており、その銃口を奴へと向けるギャリー・スウィン。ポニーテールだ。彼女が上段トリガーを引くと、銃口から弾が発射される。
奴は銃弾を見切って躱していく。ギャリーは絶え間なく連射していく。弾が切れたらグリップの下部からリロードする。奴の意識を彼女へと集中させ、NYチームエル・ソルの他3人は死角へと回り込んで一気に距離を詰める。
3人の接近に気付いた奴は掌を向けて熱線を放とうとしている。3人は詰め寄るのを止め、回避へと専念する。その時には既に、奴の掌からは光が漏れていた。
その瞬間、奴は左肩を大きく前に突き出した。否、ギャリーが背方から奴の左肩を撃ち抜いたのだ。
「ナイスショット!」
着弾を確認すると3人は大きく後退し、乱れ放たれる熱線を避けることに徹底した。応援に来た2人も熱線を躱している。
それからというもの、3人は距離を縮める素振りを見せず、しかし武器は構えている。
魔法陣の模様の盾を持つアッシュが、ヤマキとユキザキの元へ駆け寄る。
「あなた達は少し離れてて、近くに居ると危ないわ」
微かにそう聞こえた。アッシュは黒い手袋をした左手でデュロルを指差した。
「よく見て、あのデュロルの左肩。あそこにコレと似た模様があるでしょ?私達の武器と、あの模様は繋がれたの。どこを狙っても、必ずあの模様の元へと届く能力よ」
アッシュは右手に持つ盾の模様をパシパシと叩いて見せた。彼女の盾の模様と、奴の左肩にある模様は確かに似ている。ギャリーの撃った弾にも模様の能力が込められていたのだろう。
「なるほど」
奴は低い声で唸ると左肩を覗き込み、掌から熱線を尖らせるように射出し、その模様へと押し当てた。しかし模様は消えない。奴は溜息を吐き出し、掌を彼らに向け直して熱線を放出した。
避ける6人を的確に狙って熱線は伸びる。
若干トゲトゲしたアフロヘアーで大鎌を構えるアルディン・グレコは、左腰に付けていた4つの小鎌を適当に放り投げる。放られた小鎌は回転しながら奴へと一直線に向かっていく。
奴は掌を小鎌へ向け、熱線を2つに当てるも、残る2つは奴へと突っ込んでいく。奴はその2つを、体勢を変えて躱す。通り過ぎた小鎌を目で追っている。熱線に弾かれた小鎌は、それでも尚奴へと向かって飛んでいく。奴はそれに気付いて屈んで躱す。
奴を通り過ぎた2つの小鎌は旋回して、再び奴へと向かおうとしていた。そこへ金髪で極短髪、メイス程の大きさで、打ち込む面に魔法陣の模様が刻まれた中槌を持ったルイス・バーンが入り込む。そして2つの小鎌を中槌で打つ。小鎌は勢いをつけて奴へと向かった。
その2つの小鎌は、奴が小鎌の存在に気付くと同時に、奴の背中へと突き刺さる。
奴はその勢いに体勢を崩した。浅く刺さったのは見ただけでわかる。しかし、次々に矢や小鎌や銃弾が飛んでいくお陰で、奴は避けることに専念している。それらに熱線を当てようが、直ぐに勢いを取り戻して奴へと向かっていく。奴の周囲を旋回し続けるその光景を、ヤマキとユキザキは口を開けて見ることしかできていなかった。
並のデュロルならば既に命を落としているだろうと感心すらした。このデュロルは"世界デュロル保護機構"の何者なのだろうか。並に当てはまらないデュロルを相手に、ここまでの連携を見せるNYチームエル・ソル。彼らの戦いをこの目で初めて見たが、圧巻だ。流石というべきだな。
奴の身体は先程よりも更に引き締まり、痩せ細っていると言ったほうが似合うだろう。
熱線を射出する際に、想か、何らかのエネルギーが働くのだろう。それに耐えうる為の脂肪か、脂肪を燃焼させることによる熱線なのかはわからない。どちらにせよ、危険なことに変わりないのだ。
しかし反対に、巨漢でさえ素早く動いてた奴は、更に素早さを増して余裕すら見せている。背中に突き刺さった2つの小鎌はいつの間にか外れていた。奴の周囲を旋回していた小鎌の1つを、奴へと向かった際に掴まれる。
掴んだ瞬間、待ち望んでいたかのように一方向へと逃げ、旋回していた武器等を一点に集めた。
奴は振り返り、両腕を力強く前に突き出す。
ほんの数秒の間が空き、両掌から、今までとは比べ物にならない程に勢いの強い熱線が広範囲へと放出された。
その熱線は飛んでいる武器諸共、6人を飲み込んだ。自分の居る場所へは届かないものの、熱風が傷口を焼くように浸みた。
辺りに充満する煙が退く頃、飛んでいた武器等は地面に転がっていた。
そして奴は姿を消した。
奴の居た場所には、左肩の付け根から左腕がごっそり斬り落とされて転がっていた。
落ちた腕から伸びる血は避難中の新市街方面へと向いている。点々と垂れた血は、聞こえる断末魔と共に焦りを与えた。




