44話ー緊急招集ー
北海道チームエル・ソルを押し退けた流水に勝利した千歳。
流水は流水なりに、想いがあった。
それを千歳は感じ取ったように応える。
その事について千歳は想う……。
ー福島県 某所ー
生い茂っていた竹林は、流水までを一直線に結ぶように倒れる。開かれたこの場所に、太陽の光は眩しく反射する。
俺自身、こんなに力が出るとは思いもしなかった。その力はやがて体の奥底へと収まり、全身から白い蒸気が吹き出し、痛みが全身にジワジワと滲み出す。
俺が流水を斬る一瞬、あいつから感情が流れてきた。いつもとは違う、濃い感情が。
「ハァハァ……ツトム……皆の前で、それを使うのは……危険じゃ……」
先程まで白く屈強な姿になっていたヒョーゾーは、いつも通りに柴犬の姿になって舌を出し、小川の水をペロペロしている。
「押し出されるところだったんじゃぞ」
ヒョーゾーは座り直して俺を見上げる。
「ち、千歳くん!大丈夫??」
俺から滲み出る蒸気を掻き分け、高千穂と畑山と滝原は顔を覗かせる。
「相変わらず、とんでもねえパワーしてんな」
「す、凄すぎて……凄すぎますよ!!」
俺は激しい息切れをしながら、皆を見渡した。
「ど、どうしたの??」
「最後に斬る前……あいつから……やけに鮮明な感情が流れ込んできた……」
高千穂は俺の言葉を受け止めるように頷く。
「俺……今まで……色んな奴を斬ってきた。あいつらが人の命を奪ったことは許されることじゃないから、後悔はしてない。けど、デュロルは救われねぇのかなって。デュロルになっちまったら、もう終わりなのかな。無実の命を奪わないといけない人生になっちまうのかな。色んな奴とぶつかる度に、そいつらの少なからずの感情が俺に流れてくんだ。鬼神の黒谷も、市中も。流水だってそうだ。皆、最後には俺に助けを求めた。デュロルのこの先を託されたんだ」
「皆、人間だもんね。目の前に現れた光には、つい自分を託したくなるものなのよ」
「デュロルは、一番の被害者なのかもな。もちろん、命を奪うことは許されないことだが。あの時の頂も、俺に何か言いたかったのかもな……」
「きっと、畑山さんも光に見えていたはずです。表には出しませんが、それが人間なのかもしれません」
「ああ。人間より、人間臭いのがデュロルだ」
俺は流水から流れ込んできた感情の中で、一際大きな文字が気になっていた。
「なぁ、ゾディアックって何だ?」
ーDeep Swamp壊滅から1ヶ月ー
覇道、櫻木、流水を倒した9人と1匹の傷は順調に回復している。千歳に関しては3日でリハビリ訓練を開始した。
福岡チームエル・ソルの4人は未だ治療に励んでいる。北海道チームエル・ソルは、室瀬 正人の働きによって、福岡ほどの重症にならずに戻ることができた。東京チームエル・ソルは千歳らが運んで来た。艶絵世右寺の腕は治らず、義手の開発が進められている。
この3チームは、今回の戦いを以てチームエル・ソルから降板すると宣言した。
北海道チームエル・ソルの嵐山と森林はこの言葉を残した。
「俺らはもう、旧世代なんだよ。ピークを過ぎた年寄りはもういいんだ。若え世代に受け渡すのが先輩としての務めだぜ。大阪の峯岡のおっちゃんは相変わらずバケモンだがな」
「実際、僕達が敵わなかったデュロルに勝ってるし、去り際には相応しい舞台だと思うよ」
福岡チームエル・ソルの志木と鶴ヶ島も言葉を残している。
「チームエル・ソルとしては不甲斐ない結果になってしまったけど、私らを継ぐ子たちが居てくれて安心してるのも事実ね。正直、【鉛刀 漆娘】でさえ歯が立たなかったのは悔しいわ。チームエル・ソルを受け渡すからと言って、諦めたわけじゃないわよ。これまで以上に鍛錬に勤むわ!」
「あいつら!気合と根性あるばい!よく勝った!他に言うことは無い!」
そして、JEAに莫大な資金を提供してくれている艶絵世右寺大財閥の会長からも御言葉を頂いている。例の如く、癖の強すぎる内容を俺が要約する。
「またも日本を脅かすデュロルの排除、ありがとう。息子の命も、ありがとう。JEAには変わらず、資金を提供する。ありがとう」
多言語を翻訳する程の脳を使った気がするが、お褒めの言葉を頂いたわけだ。ここは誇りに思おう。
だが、それとは反対に、犠牲となってしまった兵士達も数多くいる。世間からの目は、あからさまには良いものとは言えない。
それに加え、覇道が殺害される場面の動画はSNSに載せられていたお陰で、我々も迅速に見つけ出すことができ、調査までそう時間はかからなかった。しかし反対に、世間一般にも爆発的に広まった。現代の動画編集技術は昔に比べて遥かに向上している。デマやコラが充満していた。動画の画は編集されても、音声だけは色濃く世間に浸透していった。
それこそ、"世界デュロル保護機構"と"ゾディアック"と"亀戸"の言葉は、世間を揺るがせた。
"世界デュロル保護機構"。これは、いくつかの国に認められた巨大デュロル組織。もはや組織の格を超えているのも事実で、国規模でのやり取りが行われている。奴らは名前の通り、デュロルを保護すると謳っている。実際に"E(ekeypona)A(army)グループ"の活躍の他で、デュロルが保護されている。我々と同様に、保護されたデュロルの安全は確保されているらしい。
ここまで話したことはあくまで表向きのこと。"世界デュロル保護機構"の創設者である"ルータス"の名で知られる男は、旧世代の"最重要警戒デュロル"の1人だ。
"最重要警戒デュロル"。その時代に生きる、最も凶悪で、最も警戒するべきデュロルが指定される。現在は4人が指定されているが、数十年以上前に指定されていた6人のうちの1人が"ルータス"である。
推測の話になるが、"ゾディアック"とは恐らく"世界デュロル保護機構"の重要人物、或いは、位であると。
その"ゾディアック"が、日本にいる。覇道に接触している。そして、今では全国へとそれが拡散されている。
嫌な予感しかしないのは……俺だけなのか……。
ー世界デュロル保護機構 緊急招集ー
北欧の地、離島。
ここに呼ばれると言うことは、誰かが秩序を乱したか、ゾディアックの入れ替わりか。あまり良い話ではないのは確かなんだよ。
レベル5の緊急招集だから、ゾディアックとその側近しか立ち入ることは許されない。
下手したら、誰か殺されるかな?
人の居ない莫大な敷地のど真ん中に、頑丈なセキュリティに囲まれて聳え立つのは、世界デュロル保護機構の本拠地であり、ルータス様の豪邸である。洋風な造り。左右対象。視界の端まで広がる大豪邸。もう既に、恐怖のオーラ満載なんですけど。
豪邸正面の大門を潜り抜け、デュロルが祈りを捧げる銅像が、脇にズラッと並ぶ道を進んでいく。庭は繊細に整えられており、庭園を思わせる。
豪邸の中に入ると、案内人である人間の奴隷が部屋まで案内してくれる。ゾディアックには一人一人に部屋が与えられており、指令があるまでそこで待機する。
やけに落ち着く造りの部屋とは裏腹に、緊張感は身の底を揺さぶる。
「ねえねえ、ちょっと緊張和らげる話でもしてよ」
ボクチャンの側近であるコジャンボ・サトリオールに話しかける。国籍は南アフリカ。だが、エキポナの唯一優秀な開発物である翻訳機によって、会話は難なく行えるのだ。
「では今朝の貴方の寝言について一言。あの野郎を懲らしめちゃって痛い目に合わせちゃってもうそんくらい強くなりたいな、と仰っておりました」
「ちょっと待ってよ、それってここで言っちゃまずい話だし寝言じゃないし!全然緊張和らげてないしむしろ増したんだけど!?」
「寝言では無かったのですか!?これは失礼致しました」
「本当だよね!本当失礼極まりないよね!まったく、聞こえてたらどうす……」
トントン。
「ひえーーー!!!誰!ですか!聞いてましたか!!」
部屋の扉は開き、怯えた様子の奴隷は一礼した。
「お呼びですので、いらしてください」
心臓が張り裂けるようだった。聞かれてはないにしても、まだ心の準備が整っていないのだ。
側近のコジャンボを部屋に残し、奴隷の後を追う。
暫く進むと、奴隷は立ち止まって振り返る。
「人間はこの先、許されておりませんので」
礼儀だけは正しい。宜しい。ボクチャンに食べられることを誇りに思え。
奴隷は静かに服を脱ぎ始め、全ての衣服を綺麗に畳んだ横で正座する。
「泣くんじゃないよ、肌が塩っぽくなっちゃうのボクチャン嫌いなんだよ」
毎度、案内に仕えた奴隷は、役目を終えた後に、ゾディアックに捕食される名誉が与えられる。ゾディアックの中でも優遇される僕ちんに食べられることは、人間にとって本望だろうね。
人間は静かに頭を垂らし、食べて下さいの合図をした。
「良し!いい子だ!!」
奴隷の頭だけを捕食し、若干の想を得たところで、奥に見える扉へと進む。
ボクチャンの想に反応し、重厚な扉は開く。
天井が高く、かなり広い部屋の真ん中に、大きく構える円形の机。そこに、時計で言う数字の位置に椅子とモニターが設置されており、12時の位置と、4時の位置、9時の位置、1時の位置の椅子が空席になっている。他の椅子には既に他のゾディアックが着席していた。
ボクチャンの席は1時の場所。ボクチャンの足音を響かせながらそこまで歩いていき、重厚な音と共に椅子を引いて着席する。
ここに居るのは9人。ルータスさんの到着を待つ。全12の称号中、今は1つだけ空席となる。
「さてさて、今回は誰が何をやらかしたんだろうね」
「私語を慎め。もう直ぐルータス様が到着する」
「堅いこと言うなって和ノ信。予め議題に触れておくのは良いことだと思うんだけど?」
「議題ねぇ」
「おっ、マイケルソン、何か知ったような口ぶりじゃないの」
「やめときなよそこら辺で」
「おっ、いいねいいねそういうところも可愛くて好きだよク……」
「貴様が原因かと存じておりますが」
「え?ボクチャン?」
そして重厚な扉は開かれる。
モスグリーンの軍服を身に纏い、胸元には数え切れないほどの勲章を付ける。それが細かく触れ合う音と、高級な革靴の、品の高い足音は重く、全身を包む言葉と共に歩み寄る。
「亀戸、貴様を処刑する」
実年齢とは程遠い容姿、人間体でありながら屈強なその身体からは、溢れ出んばかりの威圧感を醸し出す。
「ちょちょちょ!待ってくださいよルータスさん!どういうことですか!」
府に落ちないまま突き返したその言葉を受け流すように、ルータスさんは着席した。
「よく集まってくれた、8人のゾディアック」
えぇ、ボクチャン居ないことになってる。
「何故今日集められたか、理解できる奴はこの中にいるか」
肘を机に立てて、顔の前で手遊びをしながらも、鋭い眼光でゾディアック達を見渡す。
「亀戸でしょ?あいつ今拡散されまくって大人気だもんね」
ボクチャン?拡散?大人気?何のこと?
「その通りだダルディエゴ。ここにいる薄汚えツラの馬鹿野郎が拡散されまくっている」
「ちょっと待って!それはきっと何かの誤解じゃないかな?ボクチャンめちゃくちゃ気を使ってやってるし、拡散て、何かに撮られたかの……ようじゃ……」
思い出した!!あの時だ!覇道と会った時、動画撮ってる奴居たわ!!あいつ!スマホ壊す前にネットに載せてやがったのか……。
「気が付いたか薄鈍め。通常のゾディアックであれば処刑している。貴様は"あの名"を貰っているからな、厳重注意だ。指一本で抑えといてやる」
厳重注意で指一本……。
「こいつが拡散されたことによって、エキポナ達は我々の暗躍してきたことを調査することだろう。この活動が公になることは、我々にとって何ら美味しさのない話だ。活動がバレるくらいならば、エキポナへ攻撃を仕掛ける。世間の目には、我々は好戦的で危険な組織と映ることだろう。それでいい。エキポナ組織を再起不能にすることで調査活動はストップされる。我々の評判は落ちることだろう。それでいい。世間に最も勘付かせてはいけないことを守る方が重要なのだ」
な、何だか、凄い大事になってきた。
ボクチャンが拡散されたことによって、エキポナへの攻撃を仕掛けることになるなんて。今まで暗躍に、コソコソかつ繊細にやってきたことを、ぶち壊してしまうなんて。
ああ、乗り気じゃない。暴れられるのは良いんだけど、指一本無くなるのか……。
「まずエキポナの目を向かせる。マイケルソン、明日ニューヨーク支部を襲撃しろ」
「わかりました」
「始めようか。気付くのが先か、滅ぶのが先か」




