41話ー金ポコ集団ー
櫻木の猛攻を受け止め、藤長達は連携して追い詰める。
能力の使い方こそ幼いものの、皆の想いは根太い。
藤長の想いは櫻木の首へと届いた……。
ー福岡県 某所ー
咲いた氷の花の中でしばらく静止する。
ピキッ。
その音から始まり、櫻木の上半身付近の氷は砕かれる。櫻木はそのまま蒼白く光る俺の首を掴んだ。
「俺を見逃せ、そうすれば俺と貴様は死ぬことはない。無駄にするな」
「見逃すわけないだろ、人を殺めた罪から逃れることはできない!」
「そうかよ」
首に若干入り込んだ両刀により体温が急速に奪われていく櫻木は早期決着、もとい共に命を絶つ選択をした。
櫻木は深く息を整え、首を掴んだ握力を強める。
【大想 炎粉大帝】
その技は炎粉を身に纏い、威厳を持つ大帝の如く赤く燃え、自身の命と引き換えに最大威力の爆発を引き起こすもの。
対するは、ここで死ぬわけにはいかない藤長に、瀬川、鹿子木、セロリたちの強い想いが重なり、藤長の全身は薄藤色に発光する。
お互いの想はぶつかり合う。
その決着は一瞬だった。
互いが見えぬ目を合わせた瞬間、辺りを鋭い光が包む。
誰もが目をそらし、誰もが鼓膜を揺さぶられるその威力に、耐えうる者は居なかった。
陸地に吹き飛ばされた3人はそれぞれ起き上がり、白い蒸気で満たされる塩湖の中にある藤長の姿を探す。
先まで漂っていた火の粉は消え去っており、沈み行く夕陽に照らされた陰はその姿を映した。
地面に立つ氷の破片に下半身が埋まった藤長は両刀を前に突き出した状態で居た。だが、その前身はボロボロで、全身には血が滴っていた。
心配して近寄る3人に、目だけを動かした藤長はこう言った。
「俺……生きてんの……?」
3人はホッと胸をなでおろす。
「りっくん……」
「あの……助けて……どこも動かない……」
そう言うと藤長の下半身を支える氷は砕け、彫刻のようにコロコロと転がり落ち、塩湖の水が溜まった氷柱の根元に落ちる。
全身に染みる水は藤長を白眼にさせ、気を失わせるほどの激痛を与えた。
「陸くん!!!」
一般人死傷者21名、デュロル死者22名、エキポナ負傷者 36名。
組織名「Deep Swamp」 櫻木 冬樹 絶命。
ー翌日 東京某所 12時46分ー
最近日本はデュロルデュロルってうるさいな。見たこともないっつーの。
会社の喫煙所もこのデュロルがなんちゃらって話で持ちきりだし、こんなビルとビルの間のジメッとした所まで来ないと気持ち良く吸えないしよ。
まったく。
俺はタバコに火を付けようとした時、いつもとは違う悪臭を感じる。
鼻をツンと突く匂いに、思わずタバコを挟む指の力が緩む。
不審がりながら奥へ進むと、腹部から大量の血を流した"デュロル"と思わしきものが、ビルの壁に肩を預けた状態でもたれかかっている。地面に伸ばした足は重力に任せるようにして広げていた。
あれが……デュロル……。
俺は迷わずポケットからスマホを取り出してカメラアプリを起動する。音が出る穴を指で覆い、動画を撮り始める。
すると反対側から……別のデュロルが歩いて来た……。
そのデュロルは倒れるデュロルの前で足を止めて見下ろした。
「未加盟グループ"Deep Swamp"様がよくもやってくれたね、さすがにルータスさんも怒ってたよ」
「世界デュロル保護機構のゾディアック様が何でこんなところに居るんかね」
「君たちを排除しに来たんだよ。ボクチャン面倒なこと嫌いだし、何年か前に新しく来た子のとこから離れたくないんだけどさ、ルータスさんの言いつけだし守らないと殺されちゃうなって思ったからここに居るんだよ」
「随分お喋りなことで、名前なんだっけあんた」
「まだ分からないの?ゾディアックよ?いい加減覚えたかと思ったけど全然覚えてないんだね。言うけども、教えてあげるけども!てか君に教えたことあったっけ?亀戸だけども!!」
「亀戸か。で、俺らを排除ってことは、殺しに来たんだろ?」
「うん、大分核心についた言い方をするとね。やっぱり君たちはデュロルを殺しすぎちゃったみたいだね」
「俺はリーダーの意向に従ってただけ。それと、リーダーはゾディアックになりたがってるけど?」
「無理無理、ルータスさん怒っちゃったし。あの人今度何やるか見当もつかないし。リーダーの居場所はわかるん?それ聞きに来たんだけど」
「知らないね、俺だってエキポナにやられて逃げて来たところだから」
「ふーん、下手でも君たちを傷つけるエキポナが居たんだね、ちょっと甘くみてたかな。それはそうと、リーダーの居場所知らないなら君にはもう用は無いんだよね」
すると、立っていたデュロルは屈んだ。
「まあ、大々的にデュロルを殺しまくるってことは、ボクチャン達に喧嘩売ってるってことになるし、苦しくなる最期を想像できてたってことだもんね?」
タスッ!!
一瞬だけ、しゃがんだデュロルの腕がブレるのが見えた。
傷だらけのデュロルは首元を抑え、脚をバタつかせて、踠き苦しんだ後、パタリと動かなくなった。
そこで、俺のスマホから録画を終了する音が鳴る。
突然響いた音に心臓が張り裂けそうになり、震える手で画面を見やると容量が足りないとのメッセージが出ている。
「誰かそこに居るの??」
俺は室外機の陰に隠れる。急いでSNSアプリを起動して先程の動画をアップロードする。
投稿ボタンを押そうとしたところでデュロルは俺の真横に立ち止まり、俺の胸ぐらを掴んで持ち上げた。
指先で投稿ボタンのあるだろう場所を連打し、横目で何とか投稿中である表示を確認し、スマホの電源を切る。
SNSにさえ載せれば、誰かが拾って広めてくれる。
「さっきの音って、動画録り終えた時の音だよね?それ、消してくれたら重症で記憶喪失くらいの傷で済ましてあげるけど?」
話そうにも、ネクタイで首が絞まって上手く言葉が出てこない。
「そう、わかった苦しんで死んでね」
その後、その場所で覇道と一般男性の遺体が発見される。
2人の遺体に共通する点として、首元に刺し傷があり、窒息死していること。
一般男性が残した動画は拡散され、JEAの元へと届くことになる。
世界に隠されたデュロルの巨大組織が尻尾を見せた瞬間である。
組織名「Deep Swamp」 覇道 アステルターニ 絶命。
ー覇道絶命 同日 13時 福島県某所ー
まだ福島県か。
俺は東京まで南下している。交通機関を使わずに自分の足で。
お陰で山ばかりを越えて時間かかって仕方ない。まあ、これで体力が上がれば万々歳だぜ。
先、丁度よく登山中の人間が居て良かった。しばらく想の補給もできなそうだしな。想も全快!
東京まであと少しだろうとウキウキしていたところに、視線の奥で不自然な金色を捉えた。
竹林に金色とは似つかわしい。しかし、その金色の塊は明らかに動いている。
ちょろちょろと流れる小川に足を浸けながら俺は立ち止まり、微かに聞こえる会話に耳を傾けた。
「歩道を大幅にズレましたね。これもこの付近を奴が通ると予測しての判断で御座いますね!さすがです!」
「ま、まあな!ぼ、僕ちんの勘に間違いはないからな!」
「それにしても北海道チームエル・ソルが敗れた相手となると、無茶な気がしてならないのですが」
「な、な!!何を無礼者!!僕ちんが勝てないとでも思っているのか??」
「い、いえ!!滅相もございません!失礼致しました!」
「わかればよろしい……」
「え、えと、そこを左に曲がってしまうと、元来た道に戻ってしまうのでは??」
「は?お、お前の方向感覚がおかしいんだろ!」
「ひょっとして、ひょっとしますが、お迷いでいられます?」
「……こ、この僕ちんが??ま、よ、う??今、本当にそう言ったのか??」
「い、いえ!!迷うだなんて!失言にも程がありますよアハハハ!そのような無礼な発言をするような私では御座いませんよアハハハ!」
「……」
茶番か?
「よお!そこの金ポコ集団!ピクニックでもしに来てんのか??」
「ん?ひいいいい!!」
「やはりデュロル!さすが艶絵世右寺様!勘がお鋭う御座いますね!!」
周りの金ポコ達は手をこねくり回して中央の男に縋っている。
興味はなかったが知っているなこの男。
艶絵世右寺と呼ばれた。そんな苗字は1人しかいないな。大財閥の御曹司ってところか。
奴の親父はJEAに兆を超える程、金を収める大富豪。その御曹司となりゃ、チームエル・ソルに置いておく他ないってわけか。
つまらんなぁ。
強ければ興味あるのによ。
「お子ちゃまは帰んな、怪我するぜ」
「僕ちんに向かってお子ちゃまだって?軽い口叩けるのも今のうちだ!!」
「さすが艶絵世右寺様!!かのデュロルに向かってその強気!!さすがでございますな!!」
「おいチミ達!何ボソッとしてんの!早く!武器構えないと!!」
「……私たちが……ですか?」
「そうだとも!僕ちんが戦ったら一瞬でケリついちゃうでしょう!!」
ああ。このやり取り聞いておく必要もないな。時間の無駄。この言葉がよく似合う。
俺は柔めの骨刀を右手に生成する。
「おおおおおお!ほら!!ほら!!武器!構えて!早く!!」
構える必要もないよ。
「ぎゃあああ!!」
艶絵世右寺以外の金ポコに、骨刀の柄で鳩尾を突いた。それだけで意識を失ってしまった。
これが東京のチームエル・ソルか。本部のエル・ソルの兵士が赤子程度とは。敵の俺が情けなくなる。
艶絵世右寺は独り、その場に立ち尽くしている……と思ったら、どうやら刀を抜いて俺に切先を向けているらしい。
全身が金と宝石に包まれ、抜いた刀身でさえ金ポコ祭り。
「周りが居なくなって、やっと自分を出せる。周りは如何なる時でも僕ちんに付き纏うから」
「その台詞を吐くには、力を隠し持っていなくちゃ似合わねえぜ?」
「ふーん、そうか。じゃあ試してみるんだな」
俺は骨刀を地面に落として両手を広げる。
艶絵世右寺は刀を両手で持つ。
「やーー!!!」
細く捻られた声を吐きながら、俺に向かって刀を振り上げる。隙しかない。今にでも斬りたい。
しかし、もし仮にこの一振りが強力なものだったらと期待した。
期待した刃は俺の胸元を擦り、滑り落ちるように足元の小川をチャポンと鳴かした。
「……これだけか?」
艶絵世右寺は刀を振り下ろした体勢を続け、視線は流れる小川へ向いている。
艶絵世右寺を見下ろしていた俺は胸元に違和感を覚えた。奴の刀が掠った箇所が、段々と金色になっていく。
「へへっ、僕ちんの扱う金はただの金じゃない。デュロルの装甲のみを蝕む金だ!!どうだ!参ったか!!」
確かに蝕まれている。刀身が掠っただけで、今は深く斬られた傷らしくなってきた。だがこの金は、継続して蝕むわけではなさそうだ。勢いは衰え、今は蝕まれていない。
しかし厄介なことに、蝕まれた箇所の補強ができない。装甲は想を込めれば込めるほど硬度が増していく。他の箇所の装甲はいつも通り硬度は増すようだ。胸元にこんなに分かりやすい弱点を作ってくれるとは……。
スリル満点で楽しいじゃねえか!!
「全身に引っ付いてる金箔も、デュロルに対する防御ってことか。臆病なやつだ」
刃についた少量の金でここまで蝕まれるとなると、奴の身体の金に触れたら、その腕の装甲は機能しなくなりそうだ。
「お、臆病なんかじゃない!僕ちんは……」
俺は右腕を振り上げ、想を込めた骨刀を艶絵世右寺の左腕へと振り下ろす。
当然、奴は腕を前に出して身を守る体勢を取る。その突き出された腕に俺の骨刀は触れる。すると、奴の金ピカな腕に触れた瞬間に、骨刀は弾けるように砕かれ、骨刀を伝って蝕みは手の方へと侵攻する。
それは一瞬の出来事で、反射的に刀を離して居なかったら、今頃俺の右手の装甲は機能していなかった。
なるほど。ここまで徹底的にデュロルから身を守るか。斬る力が無くとも、この日まで生きて来られるわけだ。
厄介な金を作り出してくれたもんだ。ただどんな奴にも弱点はある。艶絵世右寺の場合は金の部位に触れなければ良い。金の部位は装甲の装備のところだけ。つまり弱点は関節と首、後頭部が該当する。
俺が両手から骨刀を生やしたのを見た艶絵世右寺は、刀身を横にして前に突き出し、身を守る体勢をとった。
俺は左手で平行に斬り込むフリをした。艶絵世右寺は身を守る為に刀身を左側へと移動させる。その際、奴の左腕は体の正面にある。奴の左肘の関節を、右に持つ骨刀で斬り落とした。
艶絵世右寺は金ポコの刀を放り投げて、小川へ落ちる前の左腕を掴み、顔面をくしゃくしゃにしながら、後方へとよろけて行く。
艶絵世右寺の左腕から吹き出す血は流れる小川を滲ませる。絞り出した聞き心地の悪い叫びに包まれた。
俺は一歩一歩、近付いていく。
小川に膝立ちをして必死に左腕を右腕で抱きしめる艶絵世右寺は、目を瞠りながら瞳孔を縮めていた。
「ぼ、僕ちんは……負けることが許されない……んだ!僕ちんのおパパ様は、いつも、僕ちんに……満面の笑みで期待するんだ!"強くなったんだろうなぁ要ぇ、これだけ強化してぇ、開発してぇ、なぁ?強くなってないとなぁ?"って!その満面の笑みに、僕ちんは嘘の笑顔で毎回!答えるんだ!怖いんだ!おパパ様を失望させるわけにはいかないんだ!!」
こいつは何を言っているんだ。
敵を前にして、命乞いではなく、自身が生き残る前提で話を進めている。
たかが腕を一本斬り落とされただけで戦意喪失し、同情を誘い、更には自身が殺されるなど微塵も思っていない。
しまいには……。
「だから……許してあげるよ……」
俺はその言葉の意味を少し考えてしまった。
考えれば考えるほど、艶絵世右寺が惨めで笑えてきてしまう。
「おパパ様に……いいとこ見せたいんだ……」
「そうかよ、じゃあ"良い姿"見せてあげないとな」
艶絵世右寺は顔を上げ、半透明の金の頭の装備越しに若干の笑みを見せた。
俺は想を込めた骨刀を顔面の装備に打ち付ける。奴の装備に触れた瞬間に骨刀は砕ける。それと同時に骨刀からは手を離し、また新たな骨刀を生成する。それを何度も繰り返していくうちに艶絵世右寺の顔面の装備は砕けた。砕けた直後は骨刀を棒状に変化させ、奴の顔をひたすらに殴り続けた。
吐血し、頬がヒビ割れ、目は閉じるほど腫れている。
「や……め!ろ!!やめて……くれ!!」
「その顔になっても!その"おパパ様"に良い姿見せるつもりか!?」
「うん……!おパパ様に!!良いとこ見せるまで……!僕ちんは……諦めない!!」
その理不尽で無謀な真っ直ぐな顔に自分を重ねた俺は腹が立った。骨刀を棒状から刀状に戻して振り下ろす。
俺の振り下ろした骨刀は艶絵世右寺を刻むことなく小川へと切先を潜らせる。
次の瞬間に、言葉通り目の前に切先が見えた。予想すらしてなかったその切先を避けるのに遅れ、右太ももの装甲に浅い傷を付けられる。
俺が後退して体勢を整えて前を向いたそこには、筋肉隆々で頬にヒビ割れた傷跡のある男が艶絵世右寺を担いでる姿と、金髪で蒼目の弓を構えた女と、小柄ながらに独特な形をした大槌を両手で構える男の子と、刀を振り下ろした体勢の、俺の捜し求めていた銀髪の男がいた。
「お前には充分、良いとこを見せてもらったぜ!」
やっと……やっと来たか……。
「千歳えええぇぇええぇ!」




