40話ーあかりー
"デュロルを狙うデュロル"櫻木に接触した藤長達。
チームエル・ソルをも圧倒したデュロルへ、期待の新人達は挑む。
ー現在 福岡県 某所ー
今感じる恐怖は、圧倒的な力の差による恐怖じゃない。4人全員が、同じ強い気持ちを抱き、デュロルであるはずの俺を恐れずに立ち向かってくることに対しての恐怖だ。
何故俺を恐れない?まだ俺を強いと認めてないからか??
だったら、認めさせてやるよ。圧倒的な強さを見せて捩じ伏せてやろう。
俺は炎粉を大量に放出し、それを俺の背後に集める。
集まった炎粉は巨大な虎を模す形となり、4人を威嚇する。
【炎虎鳴動】
巨大な虎となった炎粉に、さぞ恐怖に怯えていることだろう。
「大丈夫だ!ただの火の粉に過ぎない!」
何故だ!!何故あの青年はこの虎の姿を見て恐怖しない!!
……あの青年は冷静だ。動きを変えることなく俺に立ち向かって来る。
炎虎の右前脚を天に振りかざし、あの青年へと叩きつける。地面を打った炎虎の右前脚の炎粉は、弾けて大爆発を起こす。
だが、あの青年は避けていた。
他の女も同じようにして避ける。少しの動揺も見せないのか!
「散らばっていると危ない!俺の後ろに着いてくれ!」
「わかった!」
「うん!」
他3人は青年の元へと走り寄って固まった。
「的が集まって、当てやすくなったな」
炎虎の尻尾で4人を囲み、炎虎は天に右前脚を突き上げながら、後脚で立って背を伸ばした。
「試作品だけど、使った方が良さげばい」あの小柄で巨乳な女は確かにそう言った。
俺は遠く離れた場所に移動し、炎虎全身を見渡す。大きく振りかぶった炎虎は、尻尾で囲んだ4人に向かって全身で覆い被さり、衝撃波を放つほどの大爆発を起こした。
50メートル程、かなりの高さまで届いた爆炎は、何て爽快なんだろう。
いつになっても爆発音は嫌いだ。あの夜を思い出す。
水面に反射したこの景色は、絶好の観光スポットだな。
ん?あの煙の中に違和感がある。まさか、まだ生きているのか?
4人の居た場所に、爆発していない数百個の炎粉がある。全ての炎粉を爆発させた筈なのに!
煙が退くと、小柄巨乳の女が両手を上げて立ち、他3人がそいつの足元にしゃがんでる姿があった。
「良かった、上手く起動しとるけん」
小柄巨乳女の上部には、フワフワと浮かぶ炎粉があった。浮かぶだけじゃない。少し上に引っ張られるように浮いていた。小柄巨乳女の両腕の機械の溝は薄緑色に光っていて、上に向かって波状に歪む"何か"が出ている。
「じゃけん、ウチも少し浮いとう!」
小柄巨乳女はその力を扱い慣れておらず、そいつ自身も若干浮いている。
なんだ、あの能力は。機械か?それとも、チームエル・ソルの女が使っていた形状を成さない刀と同等の何かか?
それに、フワフワと浮く炎粉との想が断ち切られた。一切動かす事が出来ないだと?
双小槌を持つ目力の鋭い女は、フワフワと浮く炎粉に小槌で触れる。すると、炎粉は小槌に吸い込まれるように消えていった。
「やっぱり!この火の粉も火やけん吸い込めるばい!!こんなに小さな火なんに、密度が濃い!」
炎粉を吸い込んだ小槌は赤く光り出し、見るからに高熱を帯びてるであろう双小槌となる。
「あっち!あっち!耐熱装備しとってもこんなん熱くなるんね」
鋭い目つき女に気を取られていた隙に、髪ロング女は矢筒から矢を抜き、弓を構えていた。すぐさま俺は避ける体勢を整える。だが、髪ロング女は左横の遠く離れた塩山に向けて矢を放った。
ここに立つ人間が、大きく的を外れる塩山なんかに矢を放つわけがない。俺は髪ロング女の動向と、塩山に突き刺さる矢をチラチラと見やる。髪ロング女は続けて弓を引く。
髪ロング女は俺のいる方向より大幅に右側へと矢を放った。
2本の矢をここまで外すのか?と思うが、その放たれた矢に違和感があり、目で追いかける。
すると、放たれた矢の矢筈はオレンジ色に光りだした。その瞬間に放たれた矢の光る矢筈と、塩山に突き刺さる矢の矢筈はオレンジ色の光で一直線に繋がった。
塩山に突き刺さる矢を軸に、オレンジ色の線は俺へと迫り寄る。俺は咄嗟に屈んで避けるも、その間に髪ロング女は次の矢を構えていた。
まずい、この体勢からだと避ける為の力を入れ辛い。
だが、次に放たれた矢筈と線が繋がったのは、つい先ほど塩山の矢と繋がっていた、大きく右側に逸れた矢だった。
「しまった!間違えた!!」
先のオレンジ色の線が俺の真上を通過した時、若干の想らしきものを感じた。恐らくだが、小柄巨乳女の出す波状の"何か"と、目つきの鋭い女が炎粉を吸収して小槌に留めるそれと、矢と矢の矢筈を結ぶオレンジ色の線は想に似た何か、或いは想そのものなのだろう。
だが、矢筈と矢筈を繋ぎ間違えたところや、自身も浮いてしまうところ、熱に驚くところを見ると、まだその能力を使いこなせてないか、実戦で初めて使用したかに違いない。
まずは今一番動揺してる髪ロング女から狙うべきと判断し、俺は一気に距離を詰め、炎粉を放った。
しかし、俺の動きを察知した目つきの鋭い女は、俺と髪ロング女の間に入り込む。双小槌で炎粉を打ちながら、右手に持つ小槌が俺に触れた。
一瞬触れただけでも装甲が焼ける熱さだと察し、俺は目つきの鋭い女を踏み台にして後ろに飛び、炎粉をその女へと集中させて爆発させる。
目つきの鋭い女は、その爆発さえも小槌で吸収した……。
俺はその瞬間、どうしたらいいのか迷い止まった。俺の後ろに距離を詰める青年に気付かずに。
その一瞬の殺気を感じ取れたお陰で、青年の振るった切先を避けることができた。
その抜刀された刀の軌道に沿って氷が発生し、俺と青年の周りを氷の刺が囲んだ。俺の背中も凍っている。斬られたわけではないが、染み入るような冷たさに筋肉が硬直していくのがわかる。
俺は距離を取って振り向きざまに炎粉を青年へと集中させるも、青年が前方へ刀を数回振るって発生した氷の壁によって炎粉は遮られた。氷の壁に炎粉がぶつかると、その部分は勢いよく溶けていった。
溶けてできた氷の壁の穴から覗いて見えるのは、刀を持つ両手には若干の霜が付き、そこから白い冷気を発して立つ、俺をガッシリと見据えた青年の姿だった。
その鋭い眼光から放たれた言葉は、真っ直ぐに俺へと突き刺さる。
「どんな理由があろうと、お前が人の命を奪っていい権利はない!!」
その眼光は、俺の記憶を刺激した。
「貴様、あの時の……」
"4年も探した"
その言葉の意味をようやく理解した。倒れた女性エキポナにしがみ付いていた、藤長と呼ばれた青年の振り返った目を思い出した。
「俺は目的を果たすためならば、手段を選ばない」
「お前の身勝手な目的の為に、奪われてもいい命なんてない!!」
「そんなもの、とうの昔に知っている。俺の家族を、全てを奪った橘花を殺すまでは、諦めることはない」
「その橘花を殺す為に、何故他のデュロルを殺す必要がある!!」
「デュロルを殺さねば、出てこないからだ!奴らはデュロルを保護すると掲げる組織。その組織のゾディアックに位置する橘花を誘き出す為には、デュロルを殺す他ないからだ!!」
「その目的があるとして、命を奪っていい理由にはならない!」
「貴様も同じ境遇なら、きっと同じ事をする」
「俺は!命を無駄になんてしない!!」
その一瞬に見せた藤長の悲痛な叫びが、過去の青年と融合する。
エキポナの女にしがみ付いていた、あの青年へと。
「あの時の女を殺したのが、橘花でもか……」
その言葉に俺は、言葉を詰まらせた。
俺は直感的に、櫻木の放ったその言葉が嘘ではないと感じ取った。
笑顔の装甲の裏に見える表情が、哀しさを物語っていたから。
「俺が……橘花を殺す……」
仇の対象が櫻木ではなくなった。だが、人の命を奪った以上、心の底から悲しむ櫻木を止めなければならない。
「これ以上、お前は人の命を奪ってはならない!復讐ならば、亡くなった人の悲しまないように……」
……。
俺はこのまま橘花に復讐したところで、あかりは悲しまないだろうか。
いや、悲しむに決まっている。
俺は途端に自信を無くした。
思考は過去へと吸い込まれ、弱かった頃の自分が重なる。
「りっくん!!」
「陸くん!!」
「陸!!」
3人の声は、過去へと吸い込まれた俺を引き戻した。目の前に迫り寄る炎粉を間一髪で避ける。
俺は右手を振り上げ、それに合わせて氷が発生する。俺が刀を振るった直後に、櫻木も同じ角度で炎粉を放ち、刀の軌道に発生した氷を打ち消した。
櫻木は、俺が近付いているからなのか、一向に炎粉を爆発させない。自身も爆発に巻き込まれるとダメージを負うのだろうか。
それからは一定の距離を置かれ、中々近づけずにいた。
背後から迫り寄る炎粉に気付かず、俺は炎粉に巻かれた。咄嗟に櫻木の位置を確認し、距離が離れていることから、この炎粉は爆発すると察した。少しでも威力を緩和する為に、出来る限りの氷を発生させて炎粉を打ち消した。
だが、全ての炎粉を打ち消せたわけではなく、残った炎粉は正面に集まり一斉に爆発する。目の前が真っ白になり、鼓膜が破れそうなほど震えた後、耳鳴りと同時に水面を揺らしながら転がる。
立ち上がろうと手をつく。その手から滲み出る黒煙。福岡チームエル・ソルをも打ち砕いたであろう炎粉の威力は絶大で、立ち上がろうにも腕と脚が震えている。
人工筋肉の皮膚が爆発で削がれ、連続する爆発によって傷口が焦げている。腕と脚を動かしたことにより、焦げた傷口にヒビが入り血が滲み出る。塩湖に浸かる部分の傷口に滲みて、劈くような痛みが走った。
痛い……もう、動けないんじゃないか?
この弱りきった気持ちを察したかのように、瀬川は俺の名前を呼んで続けた。
「復讐云々の話じゃないよ!」
瀬川は櫻木を囲むように放った何本もの矢を想いながらそう言った。
【双弓 繋】
「伝わって!」
瀬川はその言葉と同時に目を瞠った。すると、塩湖に突き刺さった全ての矢の矢筈はオレンジ色に発光し、複雑に光は交差して櫻木の行く手を塞いだ。
その姿を見た俺の目は、何かに気付くように見開く。
瀬川のレーザーに気を取られてる間に、鹿子木はすかさず右手の小槌を構える。
【双小槌 深炎】
「陸くんは、復讐て言葉が意味を成さん程に!たくさんの人の!大切な命を守っとる!!」
鹿子木は構えた小槌を櫻木目掛けて放り投げる。
櫻木は自身に飛翔する小槌に向けて炎粉を放出する。小槌に当たった炎粉は吸い込まれ、それを見た櫻木は指を鳴らし、櫻木に近い炎粉を爆発させて小槌の勢いを落とそうとするも、小槌はその爆発さえも吸収し、勢いを止めることなく櫻木へと向かって行く。
櫻木は咄嗟に左右を見るも、瀬川のレーザーがある為に身動きできず、真上に飛び上がった。
櫻木の居た位置を通り過ぎた小槌は鹿子木の右手元に戻って行く。
飛び上がったのを見た瀬川が息を長く吐き出すと、複雑に行き交っていたレーザーは消える。
その連携を見た俺は自然と全身に力が入る。
吹き飛ばされた際に首後ろにあるPEの栓が開き、全身に流れ達していた。
セロリはすかさず櫻木の真下へと入り込む。
「ウチがあかりちゃんなら、りっくんが復讐しとるなんて悲しいけん!!きっと今までだって、誰かを守ろうと頑張ってきとう!あかりちゃんにその姿見せるばい!!」
セロリは両腕を力一杯上に伸ばし、両腕の装備が起動して薄緑色に発光する。セロリから波打つ波動が上へ向かって広がる。セロリの足元の水も重力を忘れ、遊ぶように浮かび上がる。
【反重盾 浮与羽】
櫻木は波打つ波動に飲まれ、飛び上がった高さのままふわふわと浮かぶ。
みんなの姿と、みんなからの言葉のお陰で気付くことができた。
今までだって復讐の為に戦い続けてきたわけじゃない。誰かを守る為、デュロルのせいで誰かの命が奪われることの無いように。それと、あかりに悲しい顔してほしくなかったから頑張ってきた。復讐の為に動く俺のことなんて、あかりが望むはずない。
あかりを奪われたことは凄く悲しいし寂しい。けど、あかりは自分が死んだせいで俺が復讐に走ることを一番嫌うはず。
ふと、あの時のあかりの顔が脳裏に蘇った。
「あかり!しっかりしろ!あかり!!」
「私……守れなかった……」
あかりは細い涙を零しながら、肩を抱える俺の手に、震える手で触れた。
辺りに響く爆音は2人には届かない。
「俺が……俺が……」
この先に続く言葉を言い出せなかった俺の顔を見たあかりは、静かに首を振った。
「陸は……強い……から……大丈夫……」
仇を取る為に動くような人じゃないと、言葉には出さずとも、優しい目は語っていた。
あかりを包む優しい明かりは強さを増す。
俺の全身は蒼白く発光し、全身に白い冷気を纏う。塩湖に触れる足元が八方へ凍っていく。
俺は凍った足元を思い切り蹴る。砕かれた氷の破片と水飛沫が、激しく揺れる水面に乱反射する。
櫻木は、俺が地面を蹴る直前に危険を察知すると、両手を前に突き出し、手の平をくっつけず指に力を入れる形で牙を模す。
再び、炎虎鳴動と呼ばれた巨大な虎を創り出した。
瀬川はその瞬間に2本の矢を引き、放った瞬間に2つの矢筈をオレンジ色の光で結ぶ。空に広がるように飛ぶ矢をレーザーが繋ぎ、炎虎の首を切る。
セロリは鼻血を出しながら波動の出力を上げ、切られた炎虎の頭を上へと持ち上げるように飛ばした。
切断された面を覆おうとする場所に、鹿子木は両小槌を放り投げ、櫻木の前でその2つをガチンとぶつけて勢いを殺し、覆おうとしていた炎粉を吸収する。
3人の連携は瞬き一つの出来事だった。3人が作り出してくれたその一瞬の隙間に、俺は全身で突っ込む。
2口の刀を前で交差させて突き出し、櫻木に届いた刀身は櫻木の首を挟む。
あかりは俺の頬に手を添え、震える手で徐々に触れていく。
その手は眩しく、優しく光る暖かい明かりに包まれていく。
優しすぎるその両目は、俺の目を絶えず捉えた。
優しさの中に強さを感じるその目は、昔から見慣れて尚、直視できなかった瞳。
優しい笑顔から放たれた言葉は、俺の全てを包んでいた。
「陸を愛せた人生で良かった……」
俺の心の中でもがいていた感情が溢れ出した。
あかりとの、この瞬間までの記憶が遡るようにして飛び交う。
あかりの頬に触れ、暖かさは手の平を介して俺へと伝う。
「俺もだっつーの……」
あかりの前だと最期まで意地を張ってしまう。
あかりの前だからこそ、強くあろうと思う。
そんなことお見通しだと言わんばかりに、あかりはニッコリと笑って俺の髪を今にも消えそうな力でくしゃっと掴む。
小刻みに震える唇から声が溢れることは無かったが、あかりの伝えたかった言葉はしっかりと受け取った。
あかり、見てるか?
俺はあの日より強くなれたかな?
【氷天双刀 凛花乃雪】
交差した刀の温度は急速に下がり、突っ込んだ勢いのままに辺りの空間を凍らせる。
広範囲に5方向へと延びた氷は、凛花を思わせた。
強い想いは櫻木を包む氷として花開く。
凍った水面に反射する2輪の花。それは最期に、"見守る"と伝えた、あかりの想いが応えるように咲いたのだろう。




