39話ー櫻木 冬樹ー
別の場所で北海道チームエル・ソルも出撃する。
またもや劣勢。
謎のデュロル達の実力は底知れなかった。
ー同日 茨城県 某所 15時12分ー
覇道と保護したデュロル、頑張ってくれたJEAの兵士4名、楔丸と、手足が痺れるけどやっと動けるようになった俺を乗せた装甲ヘリは、JEA茨城支部へ向かっていた。
みな覇道が目覚めないかと多少の警戒はするものの、羽を伸ばして疲労を癒していた。
「今別の場所で出現している覇道と同組織の奴らはどんな状況なんだ」
腹に力が入らずにか細い声が出てしまったが、俺の問いに、楔丸は丸める体から頭だけをムクッと上げて反応する。
「先程、福岡・北海道チームエル・ソルの両チームが敗れたと報告があったようだ。両チーム共に命は無事だが、かなり重症のようだな」
俺は目を瞠った。
チームエル・ソルは現日本を代表する4(3)チームだぞ。そのチームでさえ勝てない強敵なのか?
最も強いチームと言っても過言ではない人達が……重症……。
全身に不安が駆け巡る。
「チームエル・ソルが負けた……??」
覇道をここまで誘導してくれたチームの1人がそう嘆いた。
その言葉の後、それは唐突に起こった。
ガコン!!
装甲ヘリは強い衝撃の後に、左右に激しく揺れた。
「何だ!!何があった!!」
「わかりません!!何かが、当たったようで……!!」
強い衝撃は次々と重なる。やがて開閉口が凹みだす。
他の者が外にいるのか?
いや、違う。
それに気付いた時には、既に開閉口は内側へ吹き飛び、覇道は勢いよく外へ飛び出していた。
「しまった!!」
急いで後を追おうとするも、身体が思うように動かない。
楔丸が外に飛び出ようとした瞬間に、装甲ヘリは大きく傾き、楔丸は底に叩きつけられるようにして阻まれる。
装甲ヘリは落ち着きを取り戻すまで幾度か左右に傾き、墜落こそしないものの、木々の先端が掠るほど低空飛行していた。
楔丸は外を見渡し、「クソっ!逃げられた!」と喉を唸らせる。
完全に油断した。俺としたことが……。
ー同日 福岡県 某所 17時20分ー
陽が傾きはじめ、空が頬を染める頃。
俺の心はこの景色に溶け込んでいた。
薄く張った塩湖の水面に、夕を感じる空が反射する。
この景色の中に、散りばめられた火の粉が輝く。水面に反射したそれは、星空のように見せた。
塩湖の真ん中で蹲るデュロルを見て、想いを固める。このデュロルの周りに火の粉を多く漂わせているから、こいつは逃げれない。エキポナの前でこいつを殺さなければ意味がない。
「けど、こんなとこに居たら格好つけたくもなるよなぁ」
ついつい黄昏てしまうこの景色には似つかわしくない4つの足音が近づいて来る。バシャバシャと水面に波紋を立て、蹲るデュロルを挟んで対になる位置で止まった。
4人は横並びになってそれぞれが武器を構え出す。
一番左の女は、かなり童顔の女だな。年は下に思える。アシメの前髪でボブにまとまった髪型。そしてその鋭い目付き、悪くない。武器は2つの小槌か、珍しい。
その隣、ウェーブのかかった茶色の長髪で、前髪をかき上げて横に流している。何だアレは、サイトが2つもある。2本の矢を放つのか?それに、かなり大きな矢筒を背負っている。警戒が必要だな。
その隣、逆立ってツンツンしてる短髪野郎。ヤンチャしてそうな顔つきだな。お、2口の刀を扱うのか。器用な奴だ。
そして一番右の女、あの小さな体に溢れるほどの胸、素晴らしい。恐らくだが、こいつが盾の役割だろう。だが盾を持っていない。あの両腕に着いてる機械が何らかの効果をもたらすのか?
何にせよ、皆若い。だからと言って、油断はしない。
あの短髪の青年の眼差し……。
俺はこの眼差しに見覚えがあった。頭のどこかで俺の記憶として確かにある。どこだ?どこの記憶だ?
「俺はあんたを、4年探した」
確かな記憶ではない。だが、あの青年はそんなことを言い放った。記憶を模索する俺を突き刺すように。
「4年前、神奈川の港で俺の大切な人がお前に殺された。俺はその時から、お前のそのふざけた顔を覚えてんだ」
4年前の神奈川の港。それは俺にとっても根強く残る記憶。俺の人生が狂わされたあの日のことか。
「お前のことは調べさせてもらった。鬼神に拉致された天狗デュロル、中林 花男の従兄弟。そしてその事実に絶望したお前はデュロルになり家を放火する。その放火により家族は死亡。そして、俺の大切な人をお前が殺したんだ、櫻木 冬樹!」
青年の放ったその台詞に、俺は言葉を失った。
「何を言っているのかわからない」
全然違う。違う、違いすぎる。
どうして俺の情報をそんなにも知っているのか、そこはどうだっていい。俺の顔の装甲は特徴がある。俺の能力から過去に起きた事件を絞り、出現した時期、場所を考えれば特定されても可笑しな話ではない。だが、そこはどうだっていい。
主張したい。全てを知ってほしい。俺は可哀想だと。
その想いが頭を塞いだ。
塞いだ瞬間、脳裏に奴の顔が浮かび上がる。人を見下したあの表情は今でも覚えている。
"貴方が糞命を奪ったんだよ、櫻木ぃ"
脳裏に響いたその声に抗うように。
「違う!何もかもが!!」
俺の叫び声に反応した火の粉は蹲るデュロルに勢いよく集い、衝撃波を放ちながら15メートルを超えるほどの爆発を起こした。辺りを少しの間漂った煙が退くと、そこに居たデュロルの上半身は跡形も無く、傷口も焼け焦げていた。
「てめえ!!この人は関係無かっただろ!!」
青年達は勢いよく飛沫を上げ、俺に向かってくる。4人の中で断トツに早く間合いを詰める青年は2口の刀を構えて同時に振るう。
速い。詰め寄ってから刀を振るうまでがこれまでのエキポナと違って速い。だが、振るうのも早かった。切っ先を避けれる位置で振るった為に、俺は余裕に避けることができた。
!?
この青年、刀を振ってから次の一振りまでが速い。徐々に距離が詰められ、避けるための筋力を多く使ってしまう。
この青年に集中してしまった。弓使いの女も警戒しなければ。
……どこだ。辺りを見回す暇がない。
すると、一瞬だけ矢が放たれる音が聞こえる。
後ろか……背後に突き刺さった矢に一瞬気を取られ、青年に気を戻した瞬間、俺の目の前には小槌と思わしき物があった。いや、飛んできている。
後ろに避けようと、重心を後ろに倒そうとするも、背後から物理的ではない何らかの力が加わり、上手く重心を移動できない。寧ろ後ろから押されている。
俺は顔面からその小槌を受ける。小槌の割に何だこの重さは。危うく首が持っていかれるところだった。俺は辺りに散りばめた火の粉を小爆発させ、一旦距離を取った。小爆発は彼らに当たった感触がある。だが、彼らは勢いを止めずに向かってくる。
油断していた。頭では油断しないと思ってはいるが、その容姿の偏見によって油断を作り出してしまっていた。
チームエル・ソルと戦ったが、明らかに違うものがある。若いんだ。若いが故の勢いと勘の鋭さ。自然な連携が厄介極まりない。
"炎粉"にするべきだな。
俺は手のひらに込める想の量を増やした。紅く光った火の粉が青年らに向かう。
チームエル・ソルを倒した炎粉だ。情報は展開されているだろう。この恐ろしさに勢いは劣るはずだ。
だが、4人は炎粉を本能で避け、恐れずに真っ直ぐ俺を見据えている。
何故だ。怖くないのか?
強力な力と知って尚、立ち向かえる心があるのか?
4人のうち、誰か1人に近づいた炎粉をいくつも爆発させる。だが、決まってその爆煙から勢いを止めずに突き抜けてくる。
俺は、あの時の恐怖と似たものを感じてしまった。
橘花 現成の恐怖を。
ー4年前 神奈川県ー
仕事中、家族からの通知に携帯は震えた。
内容は「家に警察の人が来た」とだけ。心当たりはあった。約5年ほど前、従兄弟が鬼神と呼ばれるデュロルの組織に拉致されたかもしれないとのことで、その時期にも引っ切り無しに警察やらマスコミが家に押し寄せた。
今になって何故?
仕事を早めに切り上げて帰宅途中、「絶対に出ちゃダメだ!」とメッセージを送る。
「でも、安全な場所に避難しないとって言ってるし……」
「すぐに行くから!絶対にそのままでいてよ!」
それからは返信が無く、ますます不安を感じさせる。
最寄駅に着き、駅に停めてある車に乗って家へ向かう。家へと続く車通りの少ない道に入ると、黒いバンとすれ違った。
若干の違和感を覚えながらも家に近づく。すると、家の方向が赤く不気味に光ってるのに気付いた。
心臓にトクンと衝撃が走る。
声に出るほど深いようで浅い呼吸をしながら家の前に着く。
燃える家を前にして、俺の勘はすぐさま黒いバンだと言い張り、すぐさま引き返した。
一切の疑いを持たずひたすらに追いかけた。
ひょっとしたら乱暴な運転をしているかもしれない。普段の俺なら絶対にそう思うはずだ。だが、そんなことはどうでもいい。俺さえ追いつけば。
少し進むと、黒いバンが目に入った。まるで俺が追いつくのを待っていたかのように、鈍く走っていた。俺が黒いバンの後ろに着くと、急にスピードを上げる。
そのまま港方面へと向かっていく。
港に着くと、黒いバンから父親と母親、それに加えて意識を失っている女性のエキポナが出て来た。頭の装備は無く、顔には痣がいくつもあった。
「待ってくれ!!」
俺は車から飛び出しながら叫んだ。集団の前に飛び出して両手を広げる。
その時、スーツ姿にタバコを加えていた男こそ、橘花 現成である。
俺は迷うことなく土下座し、両親を返してくれと懇願した。
「貴方に、糞ほどの興味も御座いませんので、お引き取りください」
そのふざけた言葉遣いに、土下座までした自分が馬鹿に思えてきた。
俺は余りに理不尽なこの場に腹が立ち、顔を上げて殴りかかろうとした。だがその気持ちは、顔を上げた瞬間に香ったガソリンの匂いに打ち消された。
両親はガソリンで浸され、下を向いて咳き込んでいる。
「冬樹……逃げなさい……」
橘花は加えるタバコを指で摘み「商品が台無しに御座います」と言い放つと、タバコを父の元へ投げ捨てた。
父は自らタバコに当たりに行き、全身を火だるまにしながら橘花へと突進した。父に引火した際の火の粉で母にも引火する。母はもがきながらも、転がってるガソリンの入ったドラム缶に近寄り、蓋を開け始める。
最期に母は俺を見て、大きな口で"逃げて"と言い放った。その声はドラム缶が吹き飛ぶ爆発音に遮られる。近くにいた手下と思われる2、3人を吹き飛ばした。
その音と、その光景が脳裏に焼き付いた俺は、心の中で独り置き去りにされた感覚に陥る。
橘花は突進した父を、デュロルの姿になって軽く投げ飛ばした。
そのタイミングで女性のエキポナは目を覚まし、橘花へと立ち向かっていく。
刀を抜いた女性エキポナの攻撃を、橘花は次々に避けていく。女性エキポナは泣きながら立ち向かう。
俺は心の中で独りになった時、現実と頭の中の区別がつかなくなった。現実で目の前に漂ってきた火の粉を、頭の中の俺は手に包む。その火の粉は、両親から流れ出たもの。両親の一部だ。そう思うことで、現実から逃げ出したい俺は安堵していた。
その火の粉を俺の胸へと押し当てる。
やがて視界は現実だけになり、立ち上がった俺の体は既にデュロルになっていた。
女性エキポナの頭を鷲掴みにする橘花に向かっていく自分。体が勝手に動く。使命も何もない。だが、そうしろと言われてるような感覚。いや、そうしなければならないという感覚。
橘花は女性エキポナを放り投げ、俺はそれを避ける。今までと違い、一蹴りで進む距離が長くなり、違和感を覚えながら向かっていく。
橘花の目の前に入り込み、全身を使った殴り蹴りをするも、微動だにしなかった。そんな橘花は一度だけ足を突き出す。その蹴りは俺の顎を打ち抜き、俺の体は宙に浮いていた。その威力と速さに恐怖を覚えるも、見渡せば倒れる両親が嫌でも目に入る。
悲しい、悔しいと想えば想うほどに、手のひらから火の粉は出てくる。まるで自分を慰めるように、包み込むようにして。
火の粉は、悲しみ、悔しさ、怒りを向けた方向に飛んでいく。火の粉は橘花の周りに漂っていた。
それを橘花は虫のように手で振り払う。
ふと脳裏に爆発したような瞬間的なイメージが浮かんで見える。
爆発してくれ、今!あいつの周りで!
そう強く想うと、火の粉はその想いに反応して光が増し出す。
だが、目の前を1人のエキポナの青年が横切った。
「お前危ないぞ!避けろ!!」
ふと出たその言葉は青年には届かずに、火の粉は大爆発する。
橘花は両膝をつき、全身から煙を吐き出して唖然としている。
爆発に巻き込まれた青年は他のエキポナの青年に担がれて運ばれていく。
気が付くと、応援に来たエキポナに囲まれていた。
助かった!そう思った矢先、デュロルになった自分の手が横目に入る。
ふと日常的に目や耳に入ってきたデュロルというワードが頭によぎる。
「酷いやつらだよな、人を襲って食っちゃうなんてさ」
「どうして産まれるんだろうね?デュロルなんてさ」
「デュロルなんかになっちゃう人は心が弱いんだろうな」
……。
自分は今デュロルなんだ。
こんなの、現実だなんて思いたくもない。
非難していた側の人になったのか。
目の前には、先の大爆発をもろともしない橘花が、重い音と共に立ち上がる。
「素晴らしい糞能力です」
その言葉を言い放った瞬間に、全身を鋼鉄感のある、斑らに棘の生やした装甲へと姿を変えた。
重みのある足音と、その外見の迫力に、これまでに感じたことのない恐怖が全身を包む。
圧倒的な力の差を前に、俺は震えていた。




