49話 邪神へ挑む覚悟
「————!?」
突如として身を踊り出させた私に驚愕し、レイフは咄嗟に振り下ろした剣の軌道を逸らした。
衣の端をかすめながらも、銀色の閃光は何も切り裂くことなく、空を切って地面へと叩きつけられる。
彼らは私を困惑に顔を蒼白にさせながら、私を見つめた。
「エリシア……!」
「エリシア様……。あまりに無謀な真似はお控えください。一歩間違えれば、あなたの御身が……」
「……あなた達がこのまま刃を交え続けるというのなら、私は命を賭してその争いを止めます。私が大切だと言うのなら、二人とも今すぐに武器を収めてください!」
レイフは葛藤するように私とクラヴィスを交互に見やった後、諦めたように刃を鞘へと収めた。
それに応じるように、クラヴィスも掲げていた手を静かに下ろす。
「レイフ、クラヴィス、私の話を聞いてほしいの。……この国を本当の意味で救うための方法を」
「この国を……? エリシア様、それは一体どういう意味でしょうか」
クラヴィスは疑念を混じえながら眉をひそめた。
レイフもまた戸惑いを隠しきれないまま、私の次の言葉を静かに待っている。
「私が自らの魂を捧げたところで、邪神が滅び去るわけではないわ。……それなら……」
私は肺いっぱいに息を吸い込み、決意と共に宣言した。
「私は自らの手で、邪神を討ち倒したい。もう二度と誰も悲しませたくない。この永久に繰り返される連鎖を、私の代で断ち切りたいの……!」
私の予想外の言葉に、二人は息を呑んで目を見張った。
「エリシア!? 邪神は、最も強大な力を持っていたとされる初代聖女すら倒すことの叶わなかった存在だ! そのような存在と君が直接対峙するなど……!」
「私は先代聖女の従者として、かつて邪神の姿をこの目で見届けております。……あれは人の身で立ち向かえる存在ではありません。討滅するなど……不可能です」
予想していた通り、二人は私の提示した道を即座に拒絶した。
「……私に、勝算があると言ったら?」
これは決して命を軽んじた暴挙などではない。
私は二人の眼差しを正面から受け止め、自らの望みを押し通す、揺るぎない覚悟を固めた。
「クラヴィス、なぜ先代の聖女様は私……他の誰よりも強い聖女の力を備えた存在を、異世界から引き寄せたのだと思うの?」
「それは……私には分かりかねます」
「私はこう思っているの。彼女はこの不条理な螺旋を止めてほしいと願い、邪神を倒せる力を求めたのではないかしら。……きっと、歴史に名を残してきた歴代の聖女様全員が、同じ救いを祈り続けていたはずよ」
クラヴィスは苦悩するように視線を彷徨わせた。
彼は胸の内で葛藤しながらも、愛した先代聖女への願いに合点がいったのだろう。
「レイフ、私はもう逃げたりしないわ。たとえあなたが攫おうとも、私はこの地へ戻ってくる。だから……私に力を貸してほしいの。誰よりも強くて、頼もしいあなたにしか頼めないことなの」
「エリシア……。君はなぜ、そうまでして自らを犠牲にしようとするんだ……!」
白銀の髪を掻きむしり、レイフは苦悶に顔を歪めた。
彼の心を傷つけている事実に胸が痛むが、ここで引き下がることはできない。
「……一つ、条件がございます。もしも討伐が不可能であると判断した瞬間、封印の権能を行使してください。それを受け入れてくださるのなら……あなたが邪神に挑むことを、私はこれ以上制止いたしません」
「クラヴィス!? 正気か……!?」
「……もしもこれがネリスの真の願いであったのだとすれば、私がそれを拒む理由はありません。私が今この場所にいる理由は、全て彼女の望みを果たすためなのですから……」
「ありがとう、クラヴィス……。先代聖女様が命を賭して繋いでくださった希望、決して無駄にはしないわ」
私はクラヴィスから、レイフへと向き直った。
彼はなおも、私の選択を拒絶するように顔を伏せている。
「……わかった。だが、私にも条件がある。君が必ず生きて私の元へと帰ること。……それを約束してくれないのなら、私は君の意思に反しようとも、この世界の果てに連れ去る」
「必ず生きて戻ると誓うわ。全力を尽くして挑むけれど……絶対に、あなたの待つ場所へ帰ってくる」
私は少しでも彼の不安を和らげたくて、その震える両手をそっと取り、温めるように包み込んだ。
いつもは頼もしいその手が、今この瞬間だけは、驚くほど儚く繊細なものに思えた。
「私たちで、この惨劇の全てを終わらせましょう。もう二度と、誰にも、こんな運命を背負わせないために……!」
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