↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大遅刻した悪役令嬢、聖女に選ばれる ~冷遇の中の努力を見ていた聖騎士団長が、重く求愛してきました~  作者: しのギドラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/21

3話 聖女誕生、騎士の誓い

 選定会の会場となったのは、王都のなかでもひときわ高い権威を誇る大聖堂だった。


 見上げるほどに高い天井と、色彩豊かなステンドグラスから差し込む光。


 そこに集う人々の多さを忘れさせるほど、厳粛な空気が堂内を満たしていた。


「どうして、私が選ばれないのよ!」


 大聖堂の正面扉をくぐった直後、荘厳な空間に響き渡ったのは、聞き馴染みのある妹の金切り声だった。


「聖女に選ばれる女性は、数十年に一度と言われております。どうかお心を鎮めてください」


 選定の儀に用いられる大水晶の前に佇む神官が、困惑したように淡い緑髪を揺らす。

 しかし、ルアナは到底納得がいかないようで、案内役の手を振り払わんばかりの勢いだった。


「何かの間違いに決まっているわ! だって、この私は特別なのよ!?」


「ルアナ殿、お下がりください。……おや?」


 緑髪の神官が、こちらへ気づいて視線を向けた。

 それと同時に、私の隣を歩んでいたレイフ様が一歩前へと進み出る。


「まだ選定会は終わっていないな」


「遅かったですね、聖騎士団長レイフ。ちょうど最後の一人の確認が終わったところです」


 最後と聞いた私は、慌てて一歩前に出て緑髪の神官に声を張り上げる。


「ま、まだです! 大遅刻してしまい、本当に申し訳ありません! ウィロー男爵家長女、エリシア・ウィロー、ただいま到着いたしました!」


 周囲に控えていた神官たちの視線が、一斉に私へと注がれる。

 礼装ドレスの裾は破れ、泥と苔にまみれた不審極まりない格好の女が紛れ込んできたのだ。

 怪訝に思わないはずがない。


「刻限の間であれば構いませんよ。それではエリシア・ウィロー、水晶の前へ」


 しかし、その緑髪の神官だけは、私の装いを気にする素振りも見せず、水晶へと促すように手のひらを上に向けて差し出した。


「な、なんであんたがここに……!?」


 すれ違いざま、ルアナの恨めしげな囁きが耳に届く。

 『せっかく邪魔をしてやったのに』という含みが透けて見えたけれど、今は気づかないふりで通すことにした。


(ともかくこれで、義務を果たせず罰せられることはなくなったわ。悪役令嬢として生きる私が、まさか聖女に選ばれるわけもないしね……)


 私はレイフ様へ視線で感謝を伝えてから、大水晶の前へと歩み寄った。

 胸の高鳴りを抑えながら、おそるおそる手のひらを冷たい石の表面へと近づけていく。


 ——その瞬間だった。


 大水晶の奥底から、視界を白一色に染め上げるほどの清廉な光が放たれた。

 ずっと待ちわびていたかのように、白銀の粒子が渦を巻き、まばゆい流れとなって大聖堂を埋め尽くしていく。


「え、え……っ!?」


「これは……何ということでしょう……!」


 緑髪の神官が、驚きのあまり言葉を失って目を見開いている。

 目を焼くような光の塊に恐れをなして、私は思わず数歩後ずさった。

 水晶との距離が開くと、あれほど吹き荒れていた純白の輝きは、嘘のように収まっていく。


「————」


 水を打ったような、長い沈黙。


「聖女様だ……」


「我が国に、とうとう聖女様が降臨なされた!」


 その言葉が引き金となったかのように、周囲の神官たちが一斉にひざまずく。

 彼らの瞳には、先ほどまでの疑念の影などなく、ただ熱烈な信仰の光だけが灯っていた。


「どういうこと……?」


 目の前で起きた事態が信じられず、私の思考は真っ白になって停止していた。

 隣にいるルアナも、現実を受け止めきれない様子で口をぱくぱくと開閉させている。


 その時、喧騒の中にあってもなお存在感のある足音が響き渡った。


「聖女エリシア……」


 聖騎士団長であり、公爵家の跡取りであるレイフ様が、私のすぐ目の前まで歩み寄ってくる。

 そして、白の外套を美しくひるがえし、私の前で片膝を突いた。


「今これより、私の命は君のものだ。……騎士として、生涯を賭けてエリシアを守り抜くと誓おう」


 彼は厳かな誓言とともに、私の指先を自身の手で包み込み、そこへ唇を落とした。


「へ? え……!?」


 触れた部分から熱が伝わってくるような感覚に、私の顔は一気に火照っていく。

 男性への免疫が皆無な私には、あまりにも刺激が強すぎる所作だ。


 この後、国を揺るがすほどの大騒動へと発展していくことなど露知らず、私はただ、己の顔が赤くなっていくのを誤魔化すことで必死だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。