26話 流行りのお菓子、思わぬ落とし穴
お茶を口に含み、ゆっくりと喉を鳴らす。
お気に入りの茶葉の香り、渋みのないすっきとした味わいが舌の上を転がる。
(うん、やっぱりいつもと変わらない味わいだわ。この茶葉にして良かった)
安堵して胸を撫で下ろし、私はお茶菓子の詰め合わせが入った箱へと目を移した。
見るからに美味しそうなものばかりで、どれにしようか迷ってしまう。
「私がすべての味を保証しよう。心惹かれたものから食べてくれ」
「ん……それじゃあこれにしようかしら」
箱の一番隅にあった茶菓子の一つ、狐色に焼き上げられた柔らかな菓子を手に取る。
そして、それを口へと運んだ。
「……!」
しっとりとした食感とともに、控えめな甘さが口いっぱいに広がる。
これまでに経験したことのない上質な味わいに、私は両頬に手を添えて幸福感に浸った。
「美味しい……! こんなに美味しいものが、この世に存在していたなんて……!」
「ここの茶菓子には、公爵家の領地で収穫された素材が使われているんだ。エリシア、気に入ってくれたか?」
「ええ! 素朴でありながら、とても奥行きのある味わいで……どれも魅力的だから、次にどれをいただこうか迷ってしまうわ」
私が楽しそうに菓子に目移りしていると、レイフは微かに笑い、こちらを愛おしげに見つめていた。
夕暮れの心地よい風に吹かれ、彼の白銀の髪が美しく煌めきながら揺れている。
橙色の光を映す青い瞳を細め、慈しむような眼差しをこちらへ向けていた。
背景の湖など霞んでしまうほどの端麗な容姿に、私は次の菓子を選ぶ思考を奪われてしまう。
「そ、そうだわ。公爵家御用達のお店なら、レイフもここのお菓子を食べたことあるのでしょう? どれがおすすめかしら?」
突然話を振られ、彼は私から茶菓子へと視線を移した。
「そうだな……私はこれが好みだな」
それは白い粉糖のようなものが塗された、見るからに食欲をそそる焼き菓子だった。
一口大の大きさで、とても食べやすそうだ。
「そうなのね。それなら、次はこれをいただくわ」
私は手を伸ばし、その菓子を口へと運んだ。
「……いや、待ってくれ。それは……」
彼の制止の言葉が届くより早く、私はその菓子を口に含んでいた。
「……!?」
噛み締めた瞬間、予想外の強烈な塩気が舌の上に広がった。
甘くない。
むしろ塩辛い。
予想外の味に、思わずむせ返りそうになる。
「エリシア……! すまない、それはソルトクッキーなんだ……」
「ん! な、なるほど……。甘いものだと思い込んでいたから驚いてしまったわ」
「先に伝えるべきだったな……。紅茶を飲んで、一度口を潤してくれ」
私は勧められるままに紅茶を含んで口直しし、今しがた口にしたソルトクッキーの並ぶ区画を見つめた。
表面の白い粉は塩だったのだろう。
外見だけでは砂糖と区別がつかない。
「これは少し苦手かもしれないわ……。次は甘いものをいただこうかしら……」
私は少し照れながら苦笑し、残りの菓子に目を向けた。
レイフは申し訳なさそうな表情を浮かべ、私に向けて小さく頭を下げた。
「その箱の中で、塩気のある菓子はそれだけだ。他は安心して口にしてくれ」
「ふふ、よかった。それなら安心ね」
ソルトクッキーは彼が引き取り、私はそれ以外の甘い菓子を中心に堪能した。
穏やかな茶会を楽しんでいるうちに、手元が見えづらくなるほどに陽が沈んでいく。
流石に、もうバルコニーで過ごす時間は終わりだろう。
「そろそろお開きにしましょうか。完全に闇に包まれる前に、片付けを済ませてしまいましょう」
私は立ち上がり、ティーポットをお盆の上へと戻した。
「エリシア、私がやろう。暗がりでの片付けは危ない」
彼も椅子から腰を上げ、夕闇に染まりつつあるティーカップへと手を伸ばした。
その刹那。
彼の手と私の手が不意に重なり合った。




