24話 『治癒』を得るための模索
話が一段落したところで、私はトビーと名乗った団員へと向き直った。
彼の腕に巻かれた包帯へと目を落とす。
「失礼でなければ、怪我をされたところに触れてもよろしいですか?」
「は、はい……、もちろんです……!」
私は許可を得てから、ゆっくりとトビーの腕へと触れた。
その包帯には、わずかに血が滲んでおり、負傷の度合いを物語っていた。
(神様……彼の傷を癒やしてはいただけないでしょうか……?)
胸の内で強く願うものの、奇跡が起きる気配はない。
トビーは少し困惑した様子で、包帯に重ねられた私の手を見つめている。
「ごめんなさい。聖女と呼ばれている身でありながら、私はまだ半人前で……。傷を癒やすことができないのです」
彼の腕から手を離しながら、私は申し訳なさで胸が締めつけられる。
できることなら私の力で皆の苦痛を取り除きたいのに、指先に光が宿ることはなかった。
『聖域』の時のように、何かの契機さえあればすぐにでも力を発現できそうな気がするのに、もどかしさが体の奥で燻る。
「そ、そんな、聖女様! お気になさらないでください! こうして手を差し伸べてくださるだけで、俺には十分すぎます……!」
トビーは顔を赤潮に染めつつ、俯いて感謝の言葉を口にしてくれた。
きっと彼は、根が誠実な人なのだろう。
彼の気遣いに感謝しつつ、私は手を引いた。
「一刻も早く皆さんを救えるように、精一杯励みますね。それまではどうか、ゆっくり体を休めていてください」
「聖女様のようなお美しい方に触れていただけたのは、生まれて初めてです……。もう、それだけで胸がいっぱいで!」
赤面しながらトビーが熱弁を振るった瞬間、私の背後から凍てつくような気配が立ち上った。
振り返ると、そこにはかつてないほど険悪な表情を浮かべたレイフが、冷徹な視線でこちらを見下ろしている。
「貴様……。エリシアの慈悲を都合よく勘違いするな。彼女に不埒な想いを抱くというのなら、この私が直々に……」
「レ、レイフ! 落ち着いて! トビーさん、また改めて伺いますので、その時は私の修練に付き合ってくださいね」
「はい! 私でよければ……っ」
そう言うと、トビーは恥ずかしそうに頷いた。
聖騎士団の面々は、あまり異性との交流に慣れていないのだろうか。
私は少し微笑ましい気持ちで彼を見守った。
「怪我が完治する前に、私がこいつらを一掃してやろうか……」
背後から聞こえてきた物騒な呟きを聞こえないふりで受け流し、私は少しでも『治癒』の力を引き出すための手がかりを模索し続けた。
「レイフ、私が聖域を展開した時、何か感じたことはなかった? 私が倒れた後のことでも、何でもいいのだけれど」
私の問いに、レイフは少し困ったように眉を寄せた。
「すまない。君が祈りを捧げた後、大地が浄化されたことしか分からなかった。ただ、そうだな……」
彼は考えるように、顎に手を当てた。
そして私の瞳を、そして指先まで模索するように見つめる。
「君のまとう雰囲気が変わったように感じた。人間とは違う……神聖さを宿した神の御使いのようだった」
「御使い……? それが大聖女に近づくということかしら……」
私は、聖域を会得した瞬間のことを思い出す。
苦しむ民のことを想い、全てを捧げて祈った。
もしかしたら、その強い一念が、聖女の力を獲得した契機になっているのかもしれない。
「まだ確信は持てないけれど、神の御許に近づけるように祈りを捧げてみるわ。見守っていてね、レイフ」
「もちろんだ。どんな試練が降りかかろうと、私が君を支え続ける」
彼は私の肩に優しく腕を回した。
すると、周囲の団員たちの密やかな声が耳に届いた。
「なあ、やっぱり聖女様と団長って……」
「これは確定だろ……」
周囲の視線と囁きに、頬が赤く染まっていくのを抑えられない。
それでも私は、次なる新たな力を得ようと、前を向いて奮闘するのだった。




