23話 療養中の団員、恐怖の聖騎士団長
宿舎の内部は、独特な消毒液と薬品の匂いに満ちていた。
整然と並ぶ数十台の寝台の上では、包帯を巻いた聖騎士団員たちが体を休めている。
私達の気配を察したのか、入口に最も近い寝台で横になっていた団員が、勢いよく身を起こした。
「こ、これはレイフ聖騎士団長! それにお隣にいらっしゃるのは……聖女エリシア様では……!?」
「はい、皆様初めまして。これからしばらくの間、お世話になりますね。お怪我の具合はいかがですか?」
声をかけてくれた聖騎士団員の様子を窺うと、腕と頭部に包帯が巻かれているのが見えた。
その状態から深刻な重傷ではないと推測できたが、体を動かすたびに痛みに耐えるように顔をしかめている。
「この通りです。怪我さえ癒えれば、すぐにでも前線に復帰できるのですが……」
「貴様、名は?」
聖騎士団員を冷ややかに見下ろしながら、レイフが感情を交えずに問いかけた。
その圧倒的な威圧感に、怪我をした団員は身をすくませる。
「ト、トビーと申します……」
「トビー。貴様は日頃の鍛錬が足りていないようだな。怪我が完治し次第、私が直々に鍛え直してやる」
「せ、聖騎士団長自らが……!?」
「貴様も含め、ここにいる全員だ。聖騎士団が聖女を護るためにも、全体の戦力を底上げする必要がある。この程度の負傷で戦線を離脱されては話にならない」
凍てつくような凄みを帯びた言葉に、トビー以外の聖騎士団員たちにも戦慄が走った。
怪我の療養が明けた先には、間違いなくレイフによる過酷な特訓が待ち受けているのだろう。
彼らの境遇が少し気の毒になり、私はレイフをなだめるように声をかけた。
「まだ皆さん怪我を負われているのですから、今は優しくしてあげて。体調に障ってしまっては大変でしょう?」
「君の安全を確保することにも繋がる。手を抜くわけにはいかない」
「心配してくれるのは嬉しいのだけれど……。私にはレイフがいてくれるでしょう? あなたがいてくれれば、どんな危険も恐れる必要はないわ。だから今は、聖騎士団員の方々に労いの言葉をかけてあげて」
「……エリシアが、そう言うのなら」
私から視線を外し、彼は周囲の聖騎士団員達へ目を走らせた。
室内に張り詰めた緊張感が漂うなか、レイフは気にする風もなく口を開いた。
「これまで最前線を維持し、持ち堪えてくれたこと、聖騎士団長として誇りに思う。療養を終えた後も、職務に励むといい」
その言葉を耳にした聖騎士団員たちは、いっせいに互いの顔を見合わせた。
「団長が……私達を労う言葉を口にされた!?」
「初めて聞いたぞ……いつも叱責されるか、冷たく突き放されるかのどちらかだったのに……」
「もしや、聖女様の影響なのか……?」
恐れの対象であるレイフからの予想外のねぎらいに、宿舎には逆に困惑が広がってしまう。
けれども、それは決して悪い傾向ではなく、むしろ前向きな変化の兆しであるような気がした。
(レイフは誰も信用できないと言っていたけれど、これを機会に団員の皆さんと信頼を深められるといいわね……)
戸惑いの波が広がるなかでも、平然とした面持ちを崩さないレイフ。
その横顔を見つめながら、私は彼と団員たちの架け橋になれるよう尽力しようと、静かに決意をしたのだった。




