22話 湖畔の地方都市、デートの約束
その地方都市は、広大な湖のほとりに佇んでいた。
街と湖が美しく調和したような、息を呑むほどに綺麗な水の都市だ。
「すごい……。こんなに美しい場所がこの国にあったのね」
私が馬車から降り立つと、目の前に飛び込んできたのは穏やかに凪いだ湖面。
太陽の光を浴びて、まるで宝石を散りばめたかのようにきらきらと輝いている。
「もうすぐこの街では、湖の神に祈りを捧げる祝祭が執り行われるそうだ。水面に無数のランタンを浮かべるらしく、それは壮観な景色になると聞いている」
「だから皆さん、どこか忙しそうにしているのね。装飾も至るところに施されていて、見ているだけで心が弾んでしまうわ」
風に揺れる華やかな街飾りを見つめながら、私はまだ見ぬ祝祭に思いを馳せる。
生まれてこの方、祝祭の日であっても常に家の仕事を命じられていたため、お祭りというものがどのような賑わいを見せるのか、気になって仕方がなかった。
(私もお祭りに参加してみたい……)
私は隣に立つレイフをそっと見上げる。
私の視線に気づいたレイフは、優しく目元を緩めた。
「どうした? エリシア」
「ううん、何でも……」
聖女らしくない欲求に、首を振って誤魔化そうとしたけれど、私はそこで少し思いとどまった。
ルアナが言っていた、自分の欲に忠実になるということ。
その言葉に従って、もう少し自分の願いに素直になっても良いのかもしれないと、そう思い始めていた。
「あの、レイフ。祝祭を……あなたと一緒に巡りたいのだけれど、許可はおりないかしら? できれば、二人きりで……」
レイフは、私の言葉に意表を突かれたように目をぱちぱちとさせた。
聖女としての公務で赴いている身でありながら、そのような私情を口にして、呆れられてしまっただろうか。
私はやはり取り消そうと首を振りかけたが、その動作よりも早く、レイフの手が私の両肩を優しくつかんだ。
「もちろんだ、エリシア。……むしろ、私の方から誘うべきだったな。ぜひ私に、君をエスコートさせてくれ」
レイフは心底嬉しそうな笑みを浮かべ、私の髪を優しく撫でた。
触れられるたびに気恥ずかしくなる彼の仕草。
胸を高鳴らせつつも、私はほんの少し欲張ってみた自分を褒めてあげたくなった。
「ふふ、レイフ。これが、私たちの初めてのデートになるのかしら?」
「そういうことになるな。何とかして護衛達の目を盗み、二人きりの時間を作ろう」
普段の彼らしからぬ不真面目な提案を、大真面目な顔で告げてくる。
そんな彼の独占欲すら愛らしく感じながら、私は背後に建つ白い石造りの建物へと目を向けた。
「お祭りを楽しむためにも、まずは聖女としての務めを果たさなきゃね。確か、こちらの宿舎に怪我をされた方々が集められているのよね?」
「ああ。重傷者はいないと報告を受けている。気負わずに中へ入ろう」
私は彼に導かれるようにして、宿舎の入口へと歩みを進める。
「……そういえば、クラヴィスは後からの合流になる流れだったかしら?」
「ああ、聖教会の仕事が立て込んでいるらしい。まあ、あいつがいてもいなくても、私達のやるべきことは変わらないだろう」
「ふふ、そんなことないと思うけれど……」
彼の少し投げやりな物言いに苦笑しつつも、私は宿舎の扉をくぐっていった。




