21話 次の遠征場所、魔獣の気配がする場所へ
私は各地の被害状況を正確に把握するためにも、再び執務室の扉を開いた。
「聖女エリシア様……それにレイフ団長! また来てくださったのですね」
「はい。ぜひまたお手伝いをさせてください」
私とレイフが二人そろって動く姿は、周囲にとってすでにお馴染みの光景となったようだ。
まだ少し遠慮は見られるものの、執務室の面々も自然に受け入れつつあった。
「聖女エリシア様、もしよろしければこちらの書類の処理もお願いできないでしょうか?」
「もちろんです!」
遠慮がちではあったが、こうして私を頼って仕事をもたらしてくれる程度には打ち解けられていた。
私は笑顔で書類を受け取り、早速手元で処理に取り掛かる。
回されてきたのは、各地に派遣された聖騎士団からの報告書だった。
私はそれらにくまなく目を通し、人員の損耗や被害の状況を一覧へとまとめていく。
「各地で魔獣による被害が相次いでいるのね……。レイフ、聖騎士団は大丈夫なの?」
「現状は、聖騎士団の各部隊がそれぞれ個別に撃破できている。だが、出現する数そのものが増加傾向にある。数で押し切られる日が来るのも遠くはないかもしれない」
「私の『聖域』の権能を使えば、魔獣の力を削ぐことができるかもしれないわ。そうすれば、最前線で戦ってくださっている聖騎士団の助けになると思うのだけど」
しかし、私の提案を聞いたレイフは即座に首を横に振った。
「エリシア、君はその力を発現させた直後に昏倒したばかりだ。不用意に用いるべきではない」
「心配してくれてありがとう、レイフ。……あなたの言う通りね。また周囲に心配をかけるわけにはいかない。それなら……」
私は手元の書類の中から、一枚の報告書を抜き取ってレイフへと差し出した。
「こちらの地方都市の視察に行くのはどうかしら? そこまで被害規模も拡大していないし、新しく授かるかもしれない『治癒』の力を試すには最適だと思うの」
それは、以前に赴いた土地とは異なる毛色の地方都市だった。
魔獣による被害こそ報告されているものの損耗は軽微であり、街自体にもまだ活気があるようだ。
「その規模であれば……前回ほど呪毒が蔓延していた場所ほどではないだろう。ただし、決して無理をしないと約束するならだ」
「もう、分かっているわ。無理も無茶もしないから。行きましょう、レイフ」
レイフは私の差し出した書類を受け取りつつ、小さく息を漏らした。
「エリシア、君は……私が君の願いを拒めないと理解していて言っているだろう」
「……ふふ、ばれちゃった? でも何か起きても、レイフがいてくれれば大丈夫だと信じているからよ。一緒に頑張りましょうね」
私が微笑みながら言葉を紡ぐと、彼は少し困ったように、けれどどこか嬉しさを隠せない様子で口元を緩めた。
平穏に進むと思われた、二度目の地方遠征。
それが、まさか私自身が逃げ出したくなるほどの試練を孕んでいるとは。
この時の私はもちろん、レイフでさえも知る由はなかった。




