18話 妹ルアナとの話し合い、たどり着いたお互いの真実
対話の場として用意されたのは、聖教会の一角にある見晴らしの良いテラス席だった。
ルアナが周囲を気にせず胸中を明かせるよう、護衛は遠くで見守ってもらい、二人きりの空間にしてもらった。
「……それで、聖女様がわざわざ私に何の御用よ」
ルアナは不機嫌そうに眉をひそめ、給仕された茶菓子には一切触れようともせず私を睨みつけてくる。
彼女の立場からすれば、現在の私の躍進は不満以外の何物でもないのだろう。
「神殿での労働奉仕を終えた後の、今後の話をしたいの。あなたに男爵家の家督を継承してもらいたいのだけれど、受け入れてもらえるかしら?」
「……何言ってるのよ」
ルアナは理解が追いつかないといった様子で、私に不可解そうな視線を向けた。
「あなた一人で家門を支えるのは困難かもしれないわ。けれど、私もできる限りの協力を惜しまないつもりだから……」
「そうじゃないわよ! 今なら、あんたが男爵家を我が物にする絶好の好機じゃないの。お父様もお母様も失脚して、私は神殿から身動きが取れない。それなのに、どうして私に権利を譲ろうとするのよ!」
「私には聖女としての務めがあるわ。それに……男爵家の未来は、ルアナ、あなたに託したいと心から思っているの」
私は円卓の向こう側に座る彼女の瞳を見据えた。
彼女に少しでも本心を理解してほしくて、言葉を重ねていく。
「あなたは私とは違い、特別に愛されるべき存在よ。いずれ素晴らしい殿方と巡り合い……幸福な人生を歩んでほしいと願っているわ」
「聖女より特別? 嫌味のつもり!? そうやって、私を哀れむような視線を向けてくるのが本当に忌々しかったわ……!」
ルアナが手元のテーブルクロスを強く握りしめる。
うつむいた彼女の横顔には、葛藤に満ちた苦渋の色が滲んでいた。
「そうよ、私は特別であるはずなの。それなのに、あなたはどうして……私に優しくしたのよ。両親に理不尽に虐げられても平然と受け流して、私のわがままを全て聞き入れて。まるで、私なんかよりもはるかに……」
「ルアナ……?」
ルアナの吐露に、私は奇妙な違和感を覚えた。
彼女は何度も『特別』という表現を使っている。
この物語の結末を知る私からすれば至極当然のことだが、彼女の声音には異なる意図が潜んでいるように感じられた。
「別に聖女の座なんてどうでもよかったわ。私には無関係の役職だもの。ただ……あまりにも、あなたの存在が特別すぎて、私はずっと怖かったのよ……」
ルアナは、テーブルの上で固く結んだ手を見つめ続けた。
「私の手にするはずだった幸福を、未来を、全て奪い去られるのではないかって」
私は沈黙を守ったまま、彼女の顔を見つめた。
これまでは、私が彼女を甘やかしすぎたせいがために、その性格を歪めてしまったのだと思い込んでいた。
けれど、真相は全く異なるのかもしれない。
私は、的外れかもしれないという懸念を抱きつつも、胸に浮かんだ推測を言葉にした。
「ルアナ……もしかしてあなたにも、前世の記憶が存在するの?」




