15話 純白の世界からの声、レイフへの告白
まるで夢のなかに迷い込んだかのような、純白の世界。
その彼方から、白いヴェールを頭上からまとった女性が姿を現した。
『聖女の力を手に入れたのですね。……ごめんなさい』
その女性の容貌は判然としなかったが、声には悲痛な苦しみの色が刻まれていた。
『どうかあなたの代で……』
問いかけようと言葉を探すものの、声にならない。
もがけばもがくほど視界は遠のき、やがて闇の底へと意識が沈んでいった。
「ん……」
重いまぶたを押し上げると、そこは見慣れた王都の神殿にある寝室だった。
全身に倦怠感が残っているものの、どうにか体を動かそうと身をよじる。
「エリシア!」
叫びにも似た声が響くと同時に、私の手が強く握り締められた。
枕に頭を沈めたまま視線を傍らへと向けると、そこには白銀の髪を乱したレイフがベッドサイドの椅子に腰掛けていた。
「レイフ……。一体何が……私、いつの間に帰ってきていたの?」
「聖域の権能を発現させた直後、君は意識を失ったのだ。……あれから三日が経っている」
「み、三日……!?」
あまりにも長い空白の時間に驚き、私は寝台から勢いよく身を起こそうとした。
しかし酷いめまいが視界を襲い、そのまま上体が崩れそうになる。
レイフは取り乱した様子で、私の体を受け止めてくれた。
「エリシア、無理をしないでくれ。君が倒れてからというもの、私は心休まる暇もなかった。……目覚めてくれて本当に良かった」
レイフの胸元に体を預けながら、私は息を整える。
彼の体温と、清涼とした香りが鼻腔をくすぐり、疲労が和らいでいく。
「……聖女の権能がこれほど体力を奪うものだとは思わなかったわ。少しずつ順応していかなくちゃね……」
毎回こうして昏倒していては、今後に支障をきたすだろう。
私は息を吐き出しながら、自身の指先を見つめる。
「でも、聖女の力、ようやく一つ目を手に入れられたわ。クラヴィスの話では、まだ二つの試練が残っているのよね。がんばらなくちゃ!」
指先を握り締めると、私を抱きしめていたレイフの腕の力が一層増す。
「私は……。このような負担が続くのであれば、聖女の力など君に宿らなければ良かったとすら思っている」
密着した体を通じて、熱とともに彼の心臓が刻む早鐘のような鼓動までが聞こえてくる。
不安に震える喉の響きすら、肌に伝わるかのようだった。
「エリシアの命が何よりも最優先だ。……この国よりも、世界の誰よりも」
「レイフ……。ごめんなさい、あなたにこれほどの心配をかけてしまって。けれど、私はここで止まるつもりはないの」
私は覚悟を決めて、彼の背中へと腕を回した。
「私にしか果たせない役目がある。……それで多くの民が救われるのなら、私は多少の無理をしてでも前に進みたい」
「エリシア……だが……」
「それなら……もし、また倒れそうになった時は、レイフに支えてほしい。他の誰でもなく、あなたがいいの。レイフがそばにいてくれるなら、私、もっと強くなれる気がする……」
気恥ずかしさに胸を焦がされながらも、彼の背に回した手へ力を込める。
とても広くて頼もしい背中。
私を慈しみ、護ろうとしてくれる体。
その全てが、愛おしくてたまらない。
「そんな風に言われてしまっては……。私は首を縦に振るほかない。どうか、自身を何よりも大切にしてくれ……」
彼は胸の痛みを絞り出すように、悲痛な声でささやいた。
彼には心労ばかりをかけてしまっている。
それでも、彼が注いでくれる優しさや、その身から伝わる温もりは、私にとって何よりも心強い拠り所だった。
「レイフ……話したいことがあるの」
レイフの胸元から静かに身を引きながら、私は彼の澄んだ青い瞳を見つめた。
憂いを帯びたその眼差しを目にするたび、胸の奥が締め付けられるような切なさを覚える。
だからこそ、胸の内で育ち始めたこの感情を、少しでも言葉にして届けたかった。
「私と……恋人になってくれませんか?」




