13話 呪毒の濃い場所をつきとめる
翌朝、 前日の曇天が嘘のように、どこまでも澄み渡った青空が広がっていた。
「このような陽気の良い日は久しぶりでございます。きっと天も、聖女様のご光臨を喜んでいるのでしょう」
朝の食事を終え、領主の執務室へと集まった私たちに向かって、領主は床に膝を突き、祈りを捧げるように両手を組んだ。
私は彼の寄せる期待の重さに不安を覚えながらも、机に広げられた書類へと視線を落とした。
「被害状況は……かなり広範囲に及んでいますね。西側の地域の方が、より荒廃の度合いが進んでいるのでしょうか」
書面には、どの土地の被害が著しいか、そして土地の荒廃が始まった時期に至るまで、細かく記録されていた。
最もひどい有様となっている西側の報告書の方が多く、目を通すだけでも時間がかかってしまう。
「あ……けれど、最初に異変が観測されたのは、東の方角なのですね」
書類の束の中から、最も日付の古い数枚の紙片へと視線を走らせる。
記録の量自体は少ないものの、東側の地域で最初の予兆が生じた事実は明記されていた。
現在の被害こそ軽微だが、全ての始まりはここにあるようだ。
「左様でございます。しかし、日を追うごとに西側の被害が深刻化していき……有効な対策も打てぬまま、領民は困窮を極めております」
報告される時期や場所が一様ではなく、どこから手を付ければ良いのか判断に迷ってしまう。
「全域を順番に見て回ることはできませんか?」
クラヴィスへと視線を向け、意見を求めてみる。
しかし、彼は難色を示すように左右に頭を振った。
「法則性なく視察を行うのは、エリシア様の身心が気がかりです。可能であれば、あらかじめ場所を特定して赴く方が、ご負担を軽減できるかと思います」
「私の体調を考える必要はないのだけど……。ん……?」
私は記載された数字に妙な違和感を覚え、書類と、机の上に広げられた地図とを交互に見比べた。
「少し、お借りしますね」
卓上に備え付けられていた細筆を取り、私は異変の生じた時期と場所を順番に線で繋いでいく。
「何かに気付いたのか、エリシア」
私の背後から覗き込むようにして、レイフがその筆先を追うように視線を走らせた。
「被害の著しい地点を印にして、線で結んでみたの。そうしたら……見て」
私は、幾重もの線が最も密集し、交差している一点を指差した。
「西側のこの場所に、全ての起点となる線が集中しているわ。ここが最も疑わしい気がするの」
「なるほど……。被害の出方に差異があるのは、聖女の結界ゆえかもしれませんね」
クラヴィスは考えるように顎に手を当て、地図を見ながら頷く。
「東側は王都の結界から最も遠く、影響が早期に表面化したのでしょう。しかし、呪毒の濃い西側の方が結界……加護の崩壊が早かったのかもしれません。さすがは、事務処理能力が高いエリシア様です」
「原因の推測ができるのであれば、何か対応できるかもしれないわ。すぐにでも向かいましょう」
私がレイフとクラヴィスへ向けて呼びかける。
レイフが確認するように、クラヴィスへと視線を巡らせた。
「呪毒の濃度が高い場所へ赴いて、エリシアの身の大丈夫なのか?」
「聖女の身であれば、その神聖力が守りとなってくれるでしょう。ただ、聖女は邪神の力に対して人一倍敏感です。一時的に体の重さを覚えることはある可能性はあります」
「それくらい、何てことないわ。それよりも、同行する聖騎士団の皆様にとって呪毒は大丈夫なの?」
「現段階では、この呪毒は大地に留まっているため、人間への影響は軽微です。もっとも、これ以上に汚染が拡大すれば、人体に害をなす恐れもありますが……」
大地を死に追いやる毒素が、いずれ人々の命をも脅かすかもしれない。
残された時間は少ないだろう。
私は覚悟を決めて、大きく息を吸い込んだ。
「行きましょう……。呪毒の中心点に!」




