12話 他愛のない時間、レイフとクラヴィスの関係
屋敷へと引き返す道すがらも、彼は私に寄り添い、歩幅を合わせて歩いてくれた。
「エリシア様……!」
正門まで辿り着くと、そこには私たちの帰りを待っていたかのようにクラヴィスが姿を現した。
私たちの姿を認めると、彼は安堵の色を表情に浮かべ、小さく息を漏らした。
「何も告げずに姿を消されたので案じましたよ。無事のご帰還に安心いたしました」
「ごめんなさい。レイフに伴ってもらい、聖女としての感覚を掴めないか試行錯誤していたの」
「そうでしたか……。てっきり重責に耐えかねて逃亡されたのではないかと、少々肝を冷やしましたよ」
その言葉を耳にした瞬間、レイフは不快感を隠そうともせず表情を険しくした。
「エリシアがそのような不誠実な真似をするはずがない。責任感のある彼女が、自らの役目を投げ出すわけがないだろう」
「それは言いすぎだと思うのだけれど……。クラヴィス、私は逃げたりしないわ。ただ、あまりに神聖な力を引き出せる気配がなくて焦ってしまったの……」
私は自身の手を、何も生み出さない指先を握りしめる。
クラヴィスは首を振って、私を安心させるように微笑んだ。
「焦燥に身を焦がす必要はありません。明日は呪毒の濃度が高い場所を特定する予定です。日々を……大切に重ねていきましょう」
クラヴィスはレイフに対して、どこか悪戯めいた眼差しを向けた。
「それにしても、レイフ。短時間のうちにエリシア様と随分と親密になれたようですね。彼女と時を重ねるごとに……あなたの心が柔らかくなっているように見えますよ」
まるで子どもを見守る父親のように、クラヴィスはレイフを優しい眼差しを向けた。
レイフは少し顔をしかめながら、その視線をかわすようにそっぽを向く。
「クラヴィス、お前が口を挟むことではない。それに、私の恋慕の情はまだわずかも伝えきれていない」
「え、あれで……!?」
怒涛のような求愛の数々を思い返し、これ以上の攻勢が控えているのかとめまいを覚えそうになる。
私たちのやり取りを見守っていたクラヴィスは、穏やかな笑みを浮かべた。
「どのような結末を迎えようとも、私は……その行く末に寄り添います。幼少期から見守ってきた、レイフのためにも」
「幼少期……? レイフとクラヴィスは、昔からの仲なの?」
聖騎士団長と枢機卿。
それぞれの組織の頂点に戴く者同士だからこそ、対等の立場として接しているのかと思っていた。
けれど、二人の間に漂う空気は、公的な繋がりよりも、身内のような親密な響きを帯びている。
「ええ、幼少期の彼はもっと感情を顔に出して笑う子供だったのですよ。……だからこそ、現在の変化は私にとっても非常に喜ばしいものなのです」
「小さい頃の、レイフ……」
私は隣に佇む彼を見上げる。
今では優れた体格を持ち、聖騎士団長となった彼にも、当然ながら子供時代が存在したのだ。
当たり前の事実ではあるものの、その時分の彼の姿を覗いてみたいという好奇心が胸に芽生える。
「エリシア様が興味をお持ちでしたら、彼の幼少期の逸話をお聞かせいたしましょうか?」
「ええ、ぜひ!」
「エリシア、それはいささか……気恥ずかしい。それにきっと君にとっては、退屈な話だろう」
言葉で強く拒絶することはしなかったものの、彼の横顔には「勘弁してほしい」という心情がありありと浮かんでいた。
決まり悪そうに視線を逸らす彼の後ろには、夜空を彩る星々が美しく瞬いていた。
聖女としての権能が目覚めない焦燥やもどかしさを、この穏やかな談笑のひとときだけは、胸の奥から消し去ってくれた。




