11話 レイフの苦悩、救いとなった光
「菓子はまだある。遠慮せずに食べてほしい」
「う、うん……」
彼に見つめられながら、私はお菓子を咀嚼した。
胸の奥からむずむずするような気持ちが、全身を忙しなく駆け巡る。
「……甘い菓子を頬張る君は可愛いな。その幸せそうな顔ごと独占したくなる」
二枚目の味など、もはや認識できなかった。
お菓子の甘さ以上に、彼の向けてくれる優しさの熱量が高すぎるのだ。
この胸の音が彼に届いてしまう前に、何とか話題を変えようと試みる。
「そ、それにしても、公爵家の跡取りで聖騎士団長なんて、レイフは本当に凄いわね! きっと、人並み外れた研鑽を積んできたのでしょう? 私も聖女として見習わなきゃ……」
そう問いかけた途端、菓子を運ぶ彼の動きがぴたりと止まった。
「公爵家の嫡男、そして聖騎士団長……。周囲からは、名誉と目される立場なのが分かっている」
彼の表情にわずかな陰りが差し、視線が下へと向けられる。
「……だが、私にとってはただの枷でしかなかった」
「レイフ……?」
彼は、過去の記憶を辿るように夜空を見上げた。
「近づいてくるのは、家柄目当ての下心を隠そうともしない連中ばかり。剣の腕を磨き、実力で団長の座に就いても、公爵家の権勢を利用したのだと嫉妬を向けられるのは常だった」
彼は苦痛を耐えるように、まぶたを閉じた。
これまでの葛藤を、胸の奥へと押し込めるかのように。
「……頼れるのは、己の力だけだ。だからこそ、私は常に己を厳格に律し、配下にも徹底した指導を課してきた」
彼はゆっくりと目を開けた。
夜の暗がりのなかでも、その青い瞳は熱い光を放っている。
そして焦がれるような熱をたたえて、彼は私を見つめた。
「だから、君との出会いは私にとっての救いだった。自分を犠牲にしてでも誰かを救おうとするエリシアは……私にとって光そのものだ」
張り詰めていた表情を柔らかく和らげ、月光のように淡い微笑みをレイフは浮かべた。
その姿があまりに高潔で美しく、私は思わず視線をさまよわせてしまう。
「前にも伝えたけれど、私はレイフが思い描くほど高尚な人間ではないわ。少し評価が高すぎるのよ……」
「いいや、君の魅力は私の想像を遥かに超えていく。……言葉を交わすたびに、君への情愛が募っていくのを感じるんだ」
彼は私の髪をひとすくい持ち上げると、そこへ愛おしむように唇を寄せた。
慈しむようなその仕草に、私の心臓の音がさらに早くなっていく。
孤独をにじませたかと思えば、これほどまでの熱情を向けてくる。
その姿に、どこか庇護欲を掻き立てられるような愛おしさを覚えてしまう。
(って、私ったら何を考えているの……!)
私は頭を振って、邪念とも言えるその気持ちを追い払った。
「どうした、エリシア?」
「ううん、何でもないわ! 少し疲れが出てしまったのかもしれないわ。今日はもう戻りましょうか」
私は胸の内に芽生え始めた感情に困惑し、話を強引に締めくくった。
「そうだな。夜風が冷えてきた。君の身に障る前に、早く屋敷へ戻ろう」
彼は身にまとっていた上着を脱ぐと、私の肩へと優しく掛けた。
レイフの体温と、彼特有の香り。
それらが私を包み込み、今までにない奇妙な高鳴りを覚えるのだった。




