No.3:『雲より高くそびえる、巨大な塔』
それは、雲よりも高くまで続く、巨大な塔だった——。
「……本当に夢なのかも……」
「俺もそう思えてきた。なにせ、ここに来るまでに俺ら以外に人がいなかったし、動物の気配すらなかったもんなーー」
ここが元の世界ではない。
夢馬は、その事実を初めて身をもって感じた。
皆も同じだったらしい。事前に薄々感じていたはずなのに、目の前の光景を見て驚きを隠せずにいる。
心のどこかで、ここは日本だと。
自分たちの故郷だと、信じていたのだろう。
だが、そんなことをゆっくりと考えている暇はなかった。
次の瞬間——。
ゴロンッ。
塔の中から、何かが動くような音が響いた。
その音を聞いた瞬間、辺りに漂っていた空気が一変する。
不気味な雰囲気が、皆にも伝わっていく。
——あの中には、何があるんだ?
まるで、「塔の中に入れ」と、俺たちを誘っているかのようだった。
それを皆も察したのか、目の前にそびえ立つ塔に急かされるように、一歩を踏み出す。
だが——。
塔の中にあったのは、階段ではなかった。
そこにあったのは——エレベーターだった。
「「「エ、エレベーター?」」」
全員が、同じ言葉を口にした。
まさか、中世を思わせる巨大な建造物の中に、階段ではなくエレベーターがあるなんて。
俺だって、想像していなかった。
「ロマンがねぇよな」
隣で余裕そうな態度をとっている陸が言った。
実際、俺も同じことを思ってしまった。
俺は陸に、半ば強制的に映画鑑賞へ付き合わされることがある。
最初は興味のない映画ばかりで、正直、飽き飽きしていた。
だが、多くの映画を一緒に見ているうちに、少しずつ映画の良さというものに気づき始めた。
その中でも、中世ヨーロッパを舞台にした映画は、俺たちも何本も見てきた。
だからこそ——。
中世を思わせる巨大な建造物を目の前にして、そこに「ロマン」を期待してしまったのは、否定しようのない事実だった。
すると、俺たちを認知したのか——。
エレベーターの扉が、ゆっくりと開いた。
「電気は通ってるんだな……」
「ああ、どうやらそうらしいな……ところで、一体誰が先に入るんだ?」
皆の間に沈黙が走る。
ここには大勢の人がいる。
歩きながらざっくり数えてみたところ、500人前後といったところだろうか。
ほとんどの人が着ている白い服には、数字が書かれている。
ナンバーだ。
だが、そこに規則性は見られなかった。
3、7、53、92、99、132、900。
500を超えるナンバーまで存在している。
ということは——。
ここにいるのが全員ではない。
他の場所にも、人がいるのかもしれない。
そんな期待を抱きながら、記憶を整理していると——。
「お前らがいけよ!!」
大声が響き、俺は目の前の状況へ引き戻された。
声の主は、No.3の白服を着た、年齢のわからない清潔感のない男だった。
「……あぁ?なんだ、お前?」
No.7の白服を着た、キレ気味の中年男が言い返す。
「お、お前こそなんなんだよーー!! こんな……場所に連れてこられてよーー! 教えてくれよ!!」
「知るわけないだろ!!」
No.7の中年男が、何倍もの声量で怒鳴り返した。
「……あの、すみません」
そこへ、No.53の白服を着た30歳くらいの女性が割って入った。
「「なに?」」
「あと少しで、扉が閉まりそうです……」
その言葉を聞いて、皆が一斉に振り返る。
エレベーターの現在階を示しているモニター。
そこには——。
『1階』
そして、その右側には——。
『カウントダウン40秒』
と表示されていた。
「……嘘だろ?」
思わず声が漏れた。
皆、騒がしい喧嘩に気を取られていたのだ。
「おい、夢馬。どうする? 行かないどくか?」
陸が俺を見る。
「……いや、行くべきだ」
「そうだと思ったぜ!」
俺と陸は、その勢いのままエレベーターへ飛び込んだ。
——カウントダウン15秒。
「私もーー!」
「僕も!」
No.900の女子高校生と、No.132の爽やかな青年が、慌ててエレベーターへ乗り込んできた。
——カウントダウン5秒。
4秒。
3秒。
2秒。
1秒——。
0秒。
扉が閉まり始めた、その瞬間だった。
「ギャーーーー!!」
大きな叫び声が、こちらへ飛んできた。
「な、何すんだ!このやろ!」
「仲良くしような、不潔やろう」
声のした方を見る。
そこには、No.3の清潔感のない男が倒れていた。
そして、その上には——No.7の中年男が立っている。
「な、何押してくれてんだ! おかげで、どこに行くかもわからないエレベーターに乗っちまった……」
「よかったな、それは。俺は元々興味があったんだ。付き合ってくれてありがとよ」
「キィーーーー!!」
また喧嘩が始まりそうだ。
——頼むから、やめてくれ。
内心でそう思った。
しかし、二人が本格的に喧嘩を始めるより先に、エレベーターが停止した。
チン——。
モニターには、
『2階』
と表示されている。
扉が開く。
その先に広がっていたのは、小さな空間だった。
そこには、モニターらしきものと、一台の机が置かれているだけ。
「なんなんですか、この空間……」
No.900の女子高校生が呟いた。
皆、何が起こるのかわからず、思い切って動くことができない。
そんな中——。
No.132の爽やかな青年が、皆を先導するように、ゆっくりと机へ歩いていった。
そして、机の前で足を止める。
「……え、なにこれ?」




