No.4:『大勢の参加者』
「……え、なにこれ?」
No.132の爽やかな青年の声に、全員の視線が集まる。
彼が見つめていたのは、部屋の隅に置かれた一つの机だった。
その上には、一枚の紙が裏返された状態で置かれている。
「なんだろうね、これ」
No.132の爽やかな青年が紙を手に取り、表へひっくり返す。
そこには、文字が並んでいた。
【みなさま、あいさつが遅れました。こんにちは】
「……?」
誰も何も言わない。
すると、No.132の爽やかな青年が全員に見えるように紙を差し出した。
「とりあえず、みんなで読んでみようか」
俺たちは机の周りに集まり、書かれている文章を読み進めていく。
【わたしは、このとうの管理をしています。ZEROと申します】
「ゼロ……」
誰かが小さく呟いた。
【このとうのルールをご説明いたします】
ルール。
その言葉を見た瞬間、さっきまでの緊張感がさらに増した気がした。
【みなさまには、とあるゲームをしてもらいます。階によって様々ですので、みんなで力を合わせてクリアを目指してください】
「ゲーム……?」
No.3の清潔感がない男が眉をひそめる。
「な、なんだ、ゲームって。遊びか?」
「知らんわ、わしに聞くな」
No.7の中年男が呆れたように返す。
「な、なんだって!?」
また始まった。
俺は二人を横目に見ながら、紙へ視線を戻す。
【クリアいたしますと、次の階に登れます】
「次の階に……?」
俺が呟くと、No.900の女子高校生が答えた。
「ここまで来るとき、エレベーターがあったらよね。あれのことじゃないーー?」
「ああ……なるほど」
あのエレベーターを使って、上の階へ進んでいく。
つまり、この塔を登っていくということか。
【クリアの難度により、登れる階数が決まっております】
「登れる階数……?」
どういう意味なのか。
俺にはまだ理解できなかった。
そして、次の文章を見た瞬間。
背筋がぞくりとした。
【もし、クリアならなかったら、こちらから指名で一人、退場してもらいます】
「退場って……」
思わず声が漏れる。
隣にいた陸を見る。
「なあ、陸。これって……」
「深く考えるな」
陸は紙から目を離さずに言った。
「まだ、何もわからん」
確かに、その通りだった。
『退場』という言葉が何を意味するのか。
今の俺たちには、まだわからない。
ただ――。
嫌な言葉だということだけは、はっきりとわかった。
【最後に、このとうの最上階にとうちゃくしたものにつきましては、帰るけんりがあたえられます】
「……え?」
帰る。
その言葉に、俺は思わず紙を見つめ直した。
「帰るって……」
もしかして。
「元の世界に……?」
「おお!」
No.7の中年男が声を上げる。
「帰れるんかよ!」
「ほ、本当か!」
No.3の清潔感がない男も嬉しそうに声を上げる。
さっきまで言い争っていた二人が、初めて同じことで喜んでいた。
けど、俺は素直に喜べなかった。
帰れる。
その言葉が意味するのは――やっぱり、ここは俺たちがいた世界ではないということなのだろうか。
「……なあ」
No.900の女子高校生が、紙をじっと見つめている。
「どうした?」
「いや……」
No.900の女子高校生が指差した。
「これ、ひらがなじゃないか?」
「……ほんと」
言われてみればそうだった。
難しそうな言葉まで、すべてひらがなで書かれている。
「まあ、読みやすくしてくれてるだけやろ」
No.7の中年男があっさり言った。
「気にするな、そんなもん」
「……そうかな」
No.900の女子高校生は少し引っかかっているようだった。
俺も気にはなった。
でも、今はそれ以上考える余裕なんてなかった。
「まあ、とりあえずゲームが始まるまで待つしかないね」
No.132の爽やかな青年がそう言って、机から少し離れる。
「それならさ!」
No.900の女子高校生――いや、サクラが声を上げた。
「ゲーム始まるまで時間あるんだし、自己紹介しない?」
「自己紹介?」
「だって、せっかく同じ場所にいるんだよ? 名前くらい知っておきたいじゃん!」
そう言われ、俺たちは顔を見合わせた。
……確かに。
ここまで一緒に行動してきたのに、ほとんど名前すら知らない。
「じゃあ、私からね!」
サクラが一歩前に出る。
「私はサクラ。よろしくしてー!」
続いて、No.132の爽やかな青年が笑顔で言った。
「僕はタイヨウ。よろしくねーー」
「わしは、テツヨシだ。よろしく頼む」
No.7中年男――テツヨシが腕を組む。
「……おいらは、ダイスケ……よろしく」
No.3清潔感のない男――ダイスケが小さく頭を下げる。
そして、陸。
「俺は陸だ。よろ!」
最後に、俺の番が来る。
「俺の名前は……夢馬だ。よろしくお願いします」
すると、サクラが笑った。
「そんな堅苦しい。もう友達でしょーー」
「友達……?」
その言葉に、少しだけ戸惑う。
こんな状況なのに。
いや――こんな状況だからこそ、なのかもしれない。
気づけば、さっきまで張り詰めていた空気が少しだけ和らいでいた。
「じゃあ、夢馬! よろしくね!」
「……ああ。よろしく」
俺も自然と笑っていた。
このときはまだ。
これから始まるゲームが、俺たちの関係を大きく変えることになるなんて、知る由もなかった。
――そのとき。
ピピッ。
部屋に電子音が響いた。
全員が一斉にモニターを見る。
そこには、新しい文字が表示されていた。
【ゲーム開始まで、残り5分】
「……あと5分?」
サクラの声が小さくなる。
俺たちは黙ってモニターを見つめる。
すると、続けて新しい文字が表示された。
【現在の塔の参加者数――100億名】
「…………は?」
誰も声を出せなかった。
100億。
その数字の意味を理解するまで、少し時間がかかった。
「100億って……」
タイヨウが呟く。
「俺たちが見たのって……せいぜい数百人くらいじゃなかった?」
そうだ。
ここへ来るまで、俺たち以外にも何人か見かけた。
でも、そんな人数は到底いなかった。
じゃあ――。
残りの人たちは、一体どこにいる?
そんな疑問が頭をよぎる。
だが。
さらにモニターへ文字が浮かび上がった。
【現在位置――2階】
そして――。
【次のゲーム、リアル人狼】
「…………」
さっきまで笑っていたサクラの顔から、笑顔が消えた。
誰も何も言わない。
ただ、モニターに表示された5文字を見つめている。
「……リアル、人狼?」
誰かが呟いた。
俺もその言葉を頭の中で繰り返す。
リアル人狼。
それが一体、何を意味するのか。
このときの俺たちは――まだ知らなかった。




